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JR西「銀河」学生の“痛烈な一言”が開発の引き金

10/24 14:21 配信

東洋経済オンライン

鉄道ジャーナル社の協力を得て、『鉄道ジャーナル』2020年12月号「WEST EXPRESS 銀河 憧れを引き寄せ運転開始」を再構成した記事を掲載します。

 「WEST EXPRESS銀河」(以下、銀河)はJR西日本が、クルーズトレインや従来の新幹線でも昼行特急でもない「新たな長距離列車」と標榜して運転を開始した特急列車である。本来は5月8日に運転開始のはずだったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で運休が続き、GoToキャンペーンも始まり人々の動きもようやく許容されてきた9月、4カ月遅れでスタートとなった。

 車両は117系を大胆に改装した6両1編成だけのため、11月末までは京都~出雲市間を伯備線経由で週2回、京都発が月・金、出雲市発が水・土を基本とする夜行運転(上りは大阪行き)で、12月からは路線を変えて下関への昼行特急として来年3月までが予定されている。

 この列車はどのような考えから生まれたのか、今年1月に吹田総合車両センターで行われた報道公開時の聞き取り取材を振り返ってみる。

■車窓を眺めるゆったりした旅を提供

 この列車のキーワードは、「多様性」「カジュアル」「くつろぎ」と説明された。一人旅からグループ・家族、若者からシニア、そして男女とさまざまな層に向けた設備を用意する。そして新幹線や在来の特急のように画一的なスタイルでスピードを重視してきた旅行とは異なり、また高価格のぜいたくさを売る「瑞風」や、流行のレストラン列車でなくても、ゆったり眺める車窓が最高の味わいと考え、そのような長旅が選択肢としてあるのを示すことを目指した。

 カジュアル・気軽さを体現する施策の1つとして、JR西日本はネット予約システムを改修し、窓口販売でしか買えなかった個室を、サンライズを含めて「e5489」等のネット経由でも購入できるようにした。

 列車名の“銀河”は、西日本に点在する魅力ある土地の集まりを銀河になぞらえたもので、それらが流れる車窓、とくに夜景を楽しむ列車として命名された。こうしたコンセプトから、車体色には往年の寝台特急を連想させる青を現代風にアレンジしたという瑠璃紺に塗られている。

 各車とも京都方の乗降ドアが塞がれて客室スペースに充てられているので、元車両の骨組みの関係から窓のレイアウトが一様でないが、一方でスマートさを醸すために雨樋は屋根の肩へと持ち上げられて、見えなくなった。

 ゆったりと旅をする列車として、JR西日本にとっての最大マーケットである京阪神から少し距離があるエリア、山陰や山口・下関方面が考えられ、まずは2018年のデスティネーションキャンペーン(DC)で関係が築かれ、観光素材も整えられた山陰方面で幕を開ける。次いで2020年秋は広島せとうちDCが展開されることから、山陽方面への運転となった。夜行運転を前提にしたような名前や設備内容だが、山陽方面では観光拠点が倉敷から尾道、広島、岩国、山口と幅広くつながっているため、昼間に運転する。

■往年を思い出させる楽しい仕掛けのかずかず

 デザインについては、ブルネル賞に輝いた土佐くろしお鉄道中村駅のリノベーションをはじめ、これまでにえちごトキめき鉄道「雪月花」や一般車両のデザインを手掛けてきた建築家・デザイナー、ICHIBANSEN/nextstationsの川西康之氏が受け持った。

 特急のシンボルとして頭にライトを追加する一方、タイフォンカバーや尾灯を整理するなどの手を加えながら117系の基本的造形を活かしてヘッドマークを掲げ、いかにも夜行を彷彿とさせる塗装などの要点は、車内とともに高い前評判を呼んでいた。

 フリースペースごとに付けた名前は4号車の「遊星」は新規だが、3号車は「明星」、6号車は「彗星」と、忘れられない列車愛称であり、それぞれのシンボルマークをヘッドマークのデザインに仕立てたことや、4号車「遊星」の壁仕切りに往年の100系新幹線食堂車よろしく精緻な車両イラストを描いている。

 加えて今般、新型コロナのために設けた透明アクリル仕切りに、「距離」「マスク」の文字までヘッドマーク状の絵柄にして描き込んでおり、その鉄道に対するオマージュが大いに人々の目を楽しませていた。

 その川西氏に、「銀河」に込めたポイントを聞いた。

 そもそもJR西日本から伝えられた、「銀河」の構想の発端は、クルーズトレイン「瑞風」あってのこと。「豪華列車の客しか相手にしないのか」といった声に、リーズナブルに鉄道旅を楽しめるサービスも忘れていないと伝える必要があったからだ。

 それともう1つのエピソード。JR西日本の役員が講義に出向いた大学で、学生から「旅行に新幹線は高いし、通学の満員電車では不快な思いもするし、私は電車なんて乗りません」と、聞かされたのだ。会社としては都市圏輸送も主要都市間輸送も充実させて、それなりに堅固な基盤が築けたとの自負を持っていたところなので、痛烈なパンチだったらしく、「ぜひ、彼女たちの心に響く列車を作ってほしい」という強い意思を伝えられたと言う。

 そこで川西氏は、だれもが心に持っている想いを汲み、「遠くへ行きたい、を叶える列車」のキャッチフレーズを提案、その考えに沿ってデザインしたと言う。

 9月11日の出発式のあいさつでも、「(新型コロナに見舞われた状況でも)人々は太古の昔・万葉の時代から遠くにいる恋人を想い、家族を想い、会いたい、行きたいという本能的な欲求を持ち合わせている。その想いを実現する電車がWEST EXPRESS銀河である」とメッセージを述べた。

■1つだけに縛らないための設備と工夫

 しかし、このような手探りのカスタムメイドの列車には新車を充てないのが常。117系6両編成が充てがわれ、リーズナブルな列車としてオール座席車、接客に携わる乗務員は基本的に車掌1人で車内販売等の要員はなし、というのが最初からの条件となった。

 117系は車齢40年に達して廃車も進んでいるが、国鉄時代の車両はすべてが頑丈に作られているので、大改造に耐えられる。車体構造の見直しが進んだJR世代の高性能気動車を差し置き、40系気動車改造の観光列車が各地に多いのもそのためだ。JR西日本ではすでに681系の廃車も出ており、それを転用して改造すれば金沢方面への運転もできるはずだが、そうならなかったのは車体の基本構造ゆえなのだろうか。

 さまざまな旅行者の構成、嗜好に応じられるよう多様な座席を設けること、1つの座席に縛らないことも、新幹線や在来の特急にない旅を提唱するフラッグシップとしての役割であった。そこで各種の座席や、いくつものフリースペースを設けることとした。長距離・長時間を前提とする列車として、足を伸ばして過ごせる席も欲しい。そこで、サンライズエクスプレス285系電車に連結された大部屋2段構造を念頭にノビノビ座席も設けることとなった。

 ところが、117系を利用する改造車ゆえの制約もそこにある。サンライズより長時間の乗車になることや117系の天井が一般の通勤・近郊電車より20cmも低い点が「ほぼ寝台」のクシェットへと導いた。

 つまり、昼間の乗車時間も長いのでサンライズのノビノビ座席より広いスペースが欲しかった。

 しかも荷棚を設けることが困難なので、代わる収納場所としても必要だった。そこから、床面にスペースを取った2段ベッドで挟む区画を設ける寝台車スタイルになり、さらに特徴的な姿に連鎖してゆく。

 上段の頭がつかえないようにするためには、下段の席を低くするしかなく、床面から15cmまで下げた。それに伴って下の席からも寝そべりながら外が見えるよう、窓の下辺を下げている。それが、通常より大きな窓が並ぶ部分となって、外観上でもアクセントになった。

 また、改造車両の宿命として、空調装置も車内の姿を左右している。元来が通勤用車両として1両全体に仕切りがない構造のため、空調ダクトもワンルーム構造に合わせて中央で吸気して前後へ送り出す形になっている。それを無理に仕切ると、著しい寒暖のムラを生じてしまう。天井の低さからダクトを改造することもできず、したがって空気を全体に対流させる構造は変えられず、クシェット区画も通路との目隠しの仕切りをルーバーにして空気が通り抜けるようにした。

■個室内でも自由な姿勢のくつろぎを

 クシェットにはカーテンも設けなかった。仕切ってしまうと、乗客は「銀河」の意図として最も大事にしている車窓に目をくれず、結果的に閉じこもってしまい、加えて空調のムラが快適さを損なう。そのため、グリーン個室とした6号車を除いてあえて個々を隠さず、全体を開放する方向で間違いなしと判断した。

 開放することや間接照明で適度に照らすことで人目が行き届き、治安的にもかえって担保できると考えられている。もちろん今どきの列車なので、車内に防犯カメラも新設された。

 こだわりの構造という点では、6号車個室にも最たるものが現れている。個室という閉ざされた空間で長時間を過ごす際、車窓を見るのも食事をするのも同じ座席、同じ角度では窮屈このうえない。そこで同じ面積でも台形に変形させると、長い辺の側なら足も伸ばせるし2人で並ぶこともできる。

 狭い辺を活用すれば、車窓をワイドに楽しむこともできれば2人で向き合うこともできる。2人で寝転がるにも余裕が生まれる。限られた空間で体勢の自由を確保するため、ぜひとも欲しかった構造であると言う。個室の外に出れば通路は“への字”になるので先が隠れ、奥行き感を出すのにも役立っている。

東洋経済オンライン

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最終更新:10/24(土) 14:21

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