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車いす利用者と新幹線に乗ってわかったこと

10/24 6:11 配信

東洋経済オンライン

 筆者は乗り物ライターだが、ホームヘルパー2級と視覚障害者ガイドヘルパーの資格を持ち、訪問介護の現場に長年従事した経験がある。ガイドヘルパーとして、バスへの乗降を介助したこともあり、公共交通のバリアフリー事情には関心があった。

 今回、NPO法人「車椅子社会を考える会」の理事長を務める篠原博美さんの協力を得て、車いす利用者に同行して鉄道を利用した。障害者手帳による割引制度や、「多目的室」「障害者向け座席」を実際に使用することで、車いす利用者の鉄道利用の実態を紹介したい。

■急行列車しか割り引かれない障害者割引制度

 篠原さんと打ち合わせした結果、新幹線に乗車して障害者対応施設や駅などのバリアフリーを確かめることにした。その後、篠原さんから「仕事で特急あずさに乗車することになったので、駅まで同行しませんか」と連絡があり、篠原氏と一緒に「みどりの窓口」に行き、新幹線の切符を買うことにした。特急あずさの切符は篠原さんが事前に購入済みという。

 電動車いすの篠原さんとは新宿駅で待ち合わせた。あずさが新宿駅を出発するのは11時30分。余裕を見て1時間前にみどりの窓口に向かった。

 窓口で障害者手帳を提示すると、障害者への割引制度が適用される。家族や介助者が手帳を出しても、障害者が旅行に同行する場合は、割引切符を発券してもらえる。割引制度だが、障害の程度により第1級、第2級に分かれており、介助者が必要となる第1級の場合は、介助者にも割引が適用される。割引対象は「乗車券」「普通急行券」が半額になるというものだが、JRでは割引されない特急(=特別急行)は多数走っているが、定期列車の「普通急行」は1本も走っていない。急行を割引制度の対象としている意味がない。特急料金や新幹線特急料金も割り引いてもいいのではないだろうか。

 筆者は、東海道新幹線の品川→新横浜駅間と新横浜→品川駅間について、行きを「多目的室」、帰りを「障害者対応座席」で発券するように依頼した。係員氏の物腰は丁寧だが、慣れていない様子で、マニュアルを見ながら作業している。そして「東海道新幹線だとJR東海なので、発券には相当の時間がかかります」と言われた。

 「何時ごろになりますか」と筆者が尋ねると「わかりません。切符ができたらお電話するということでよろしいでしょうか」とのこと。障害者対応の機会は少ないのだろうが、「いつになるかわからない」というのは、いかがなものかと思う。

■障害者手帳を出しても、対応席が案内されていない

 筆者の予定は空いているが、篠原さんは11時30分のあずさに乗車せねばならない。篠原さんは「改札横のインフォメーションに行き、列車に乗るためのスロープを出してもらうよう話をしたい」と言う。みどりの窓口から改札までは20mもないが、車いす利用者と同行すると、風景が違う。電動車いすは子どもの背丈ほどである。通行人からの発見はかなり遅くなり、ぎりぎりまで気づかない歩行者も多い。とくに歩きスマホをしている人はまず気づかないので、付き添うと恐怖を感じる。

 インフォメーションで、篠原さんが「乗車前にお手洗いに行きたい」と言う(障害のある人は簡単にトイレに行けない)ので、私が「列車内にも車いす対応トイレはありますよ」と答えると、篠原さんは「そんな設備があるのですか」と驚いた。インフォメーションで「あずさの車いす対応トイレは何号車ですか」と聞くと、係員は時刻表を片手に調べ始めた。その間、約5分。

 その間、篠原さんと話してみたら多目的室や車いす対応座席の存在も知らないとのことである。そこで篠原さんが、あずさの指定席特急券を出し「この切符で大丈夫ですか」と私に聞く。

 スマホであずさの座席表を見ると、2+2列の座席が並ぶ普通の席だ。これでは電動車いすを置いたら通路がふさがってしまう。篠原さんが切符を購入する際に障害者手帳を出したのに、障害者対応座席や多目的室の案内をしなかった駅の窓口(新宿駅ではない)の対応には、疑問が残る。

 インフォメーションで「車いす対応座席や多目的室が空いているかわかりますか」と聞くと「こちらではわかりませんので、お手数ですが改札外のみどりの窓口で聞いていただけますか」と、出場証を出してもらった。これは臨機応変な対応である。

 みどりの窓口に戻って乗車変更を交渉すると、係員氏は「車いす対応座席は埋まっています。多目的室は当日だと対応できません」とのこと。あずさの通路は電動車いすが置ける幅ではなく、困ったなと思いつつ、スロープを持ったスタッフとホームへ。車いす座席のことを話すと「少々お待ちを」と言い、車掌さんに話をしてくれる。車掌さんは「空いていますので、車いす対応座席に変更します」と言ってくれて、一安心。窓口で車いす対応座席が埋まっているという案内をされた理由はわからなかった。

 いよいよ、東海道新幹線乗車日。篠原さんとは高輪ゲートウェイ駅で合流した。山手線で品川駅に移動しようとホームに降り、駅員さんに声かけをしようと思ったが誰もいない。篠原さんに待機してもらって、改札に行くが誰もいない。ややあって駅員さんが出てきたので「スロープをお願いします」と言ったら、すぐ動いてくれた。

 到着した列車の乗降口にスロープをかけてくれ筆者たちを乗せた列車が出発した。2分ほどで品川駅に着いたが、ホームでは誰も待機していない(帰路ではクルーが待機していたので、こちらがイレギュラーだと思われる)。このままでは列車が発車してしまうので、慎重にスロープなしでホームに降りる。駅員さんは、安全を期すなら品川駅に連絡が取れるまで、高輪ゲートウェイ駅で筆者たちを待機させたほうがよかったかもしれない。

 品川駅は乗降客が多く、緊張する。「スーツケースを引いて歩く人は、とくに怖いです」と篠原さんが言う。

■いよいよ新幹線「多目的室」へ

 JR東海の品川駅へ移動し、有人改札へ。「何分前に準備すればよろしいですか」と聞いてくれるのは好印象だ。東海道新幹線の障害者対応設備は11号車に集中しているので、ホーム上に11号車という表示がある場所で待機する。お願いした15分前に係員が現れ「少しご移動ください」と11号車のもう1つの扉位置に移動するよう指示された。ホーム上が空いていたので問題はないが、11号車の乗車位置には車いすマークを付けたほうがいい。

 11号車の乗降口はほかの車両より広く、乗降は楽である。女性のアテンダントも待機しており、目の前の個室にスムーズに移動できた。N700A新幹線の多目的室は1.5m×2.1mほどの広さで、車いすの待機スペースと2人掛けの固定式クロスシート、介助者用と思われる折りたたみいすがある。折りたたみいすは一般的な製品だが、モケットがN700系普通車と同じなのが面白い。

 篠原さんが「この広さなら、私より障害が重くても対応できそうですね」と話す。筆者も座席鉄として座らせていただいた。背もたれに角度はないが(リクライニング機能は備わる)、小さな枕とひじ掛けがあり、クッションが利いているのでなかなかの座り心地である。

 側窓にはロールカーテンも備わる。枕の上に「寝台にする方法」という記載があった。車内で急病人が発生した場合などにも、休める場所として使われるからだ。

 篠原さんが「せっかくだから寝台にしよう」と言い出す。私が「10分しかないのですが、間に合いますか」と聞くと、「大丈夫だよ」と言われる。篠原さんは電動車いすに移動し、個室外に出た。枕を外して、座面を引き出すという説明書きで枕を外していると、すぐに女性アテンダントが気づき、寝台への変換操作をしてくれた。

 寝台幅はかつての開放形A寝台に近い広さで、80~90cmくらいある。寝台長さが1.6m程度でやや短く見えるので、少し斜めに寝るのかもしれない。私たちが満足すると、アテンダントが迅速な操作で座席に戻してくれた。

 アテンダントは新横浜駅の下車扉を教えてくれ、到着すると男性スタッフが瞬時にスロープを展開する。そしてホーム上の倉庫にスロープを収納すると、11号車の前にある業務用エレベーターに私たちを案内する。すぐ近くが改札で、すばらしいサービスだ。改札では私が切符を見せると、帰りの予約もその場で確認してくれるなど、安心感がある。

■車いす対応座席を使用してみた

 帰路は車いす対応座席。ひじ掛けを跳ね上げられるので、介助者による車いすからの横移動が容易だ。N700Aでは、11号車で2+2列となっている区画の後列だけが車いす対応座席である。N700Sでは前列、後列どちらも対応座席になったが、なぜ後列だけなのか不思議に感じた。

 11号車に到着したが、品川駅のエレベーターは2号車付近にあるため、品川駅に着いてからエレベーターに乗るまでが非常に遠い。混雑時は業務用エレベーターへの案内も必要かもしれない。

 品川駅から新宿駅までは山手線である。JR東日本品川駅、新宿駅のスタッフはともに熟練しており、車いすを先導して買い物のお店の場所やトイレに最短ルートで案内してくれる。新宿駅の車いす対応トイレの前でクルーに話を聞いた。
 
「車いす対応トイレを一般の方が使うことが多く、15分くらいお待たせすることがあり、心苦しいときがあります」「スマホで音楽を聞いている方は『車いすの方が通ります』と声かけしても気づかないので、怖いですね」という言葉が印象的だった。

 新宿駅のクルーは改札から出て、京王電鉄新宿駅まで案内すると、京王の駅員に引き継ぎをしてくれた。丁寧な仕事ぶりに心から感心した。現場スタッフはみな丁寧に対応してくれていたと感じる。あとは窓口での設備案内や乗降駅への連絡の徹底、時代に合った運賃制度の実現といったソフト面での改善を進めば、車いす利用者もより安心して旅ができると思われる。

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最終更新:10/24(土) 6:11

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