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「野球独立リーグ」苦しいコロナ禍で挑む大変革

10/23 18:40 配信

東洋経済オンライン

 「四国アイランドリーグplus」(以下四国IL)は、2005年に創設されたわが国では最も古い野球の独立リーグだ。筆者は創設年から観戦している。例にもれずコロナ禍の影響を受けて大揺れに揺れたが、それでも希望を失っていない四国ILの「現在地」について紹介したい。

 四国IL は2005年に、西武、ダイエーのスター選手だった石毛宏典が立ち上げた。理念先行で経営基盤がしっかりしていなかったために発足直後に経営危機に陥り、地元企業や自治体などが支援して、新たな体制に生まれ変わった。創設時からの経営陣は全員入れ替わり、各球団は何度も経営危機に見舞われながらもここまでやってきた。

 筆者は緊急事態宣言前の3月と、リーグ戦が開幕した6月以降に数回にわたって四国を訪れ、球団の経営者に話を聞いた。

■NPBへ多数の「人材輩出」

 かつては、元広島の西田真二監督の率いる香川オリーブガイナーズが強かった。だが今、四国で「最強」と目されるのが、徳島インディゴソックスだ。徳島はここ3年で2度の総合優勝をはたした。

 独立リーグの大きな目標である「NPB(日本野球機構)への人材輩出」も順調で、過去5年間で四国ILからドラフト指名された15人のうち10人が徳島だ。その中には今季、俊足で売り出した巨人、増田大輝もいる。

 徳島のチーム強化を牽引してきたのが、2015年12月に運営会社「パブリック・ベースボールクラブ徳島」の社長に就任した南啓介だ。

 南は高校、大学などを回って積極的に選手に球団の説明をして、入団を説得している。独立リーグではトライアウトやテストは行っているが、積極的なスカウトはあまりしてこなかった。

 「これは、と思う選手がいれば、家まで行って説得もしたことがあります。いろんな事情で野球を断念している子でも才能があれば再起し、チャレンジしてもらいたいと思っています。勝負ごとですので勝たないと見てもらえないし、発言力もない。言葉に信憑性、重みもありませんから」(南氏)

 独立リーグからNPBにドラフト指名されると、選手の契約金、年俸の一部が独立リーグ球団に育成対価として戻してもらえる。「NPBへの選手輩出」は重要な仕事でありビジネスモデルでもあるのだ。

 独立リーグの主要な財源は、地域企業によるスポンサードだ。徳島は主催試合を丸ごと買い取ってもらう「冠試合」がメインだったために、コロナ禍の今季は苦戦している。助成金関係も申請するなど手は打ってきた。

 「強くなったことで関心、興味を持っていただき熱心に応援してくださる地元の方々も増えました。徳島は現時点では元NPB選手の獲得を積極的にしていません。あくまで徳島で発掘した、やる気がある若い素材の選手を成長させて勝ちに行きたいです。『強さ+若さ』は徳島の特徴です」(同)

■試合のオンライン中継を開始 

 愛媛マンダリンパイレーツの運営会社は「愛媛県民球団」。その名の通り愛媛県、松山市などの自治体、地元金融機関などが出資し、支援している。

 ほかにも「県民球団」を名乗る独立リーグ球団はあるが、地元全自治体が出資する県民球団は愛媛だけだ。運営は地元の信用が厚い広告代理店の星企画が担っている。

 球団統括マネージャーの田室和紀はこう語る。

 「3月28日が開幕でしたので、スポンサーさんにはそれまでにご入金いただきました。その後、開幕が延期になりましたが、大きなダメージはありませんでした。うちは、県、市、町といった自治体だけでなくスポンサー企業が多くて助かっています。もちろん来年以降は厳しくなるでしょうが」

 四国IL各球団はコロナ禍による自粛期間中、グラウンドの確保に苦労した。いつも使っている公立のグラウンドが使えなくなったからだ。しかし愛媛は株主である愛媛銀行のグラウンドを使用することができた。30人を3グループに分けて、密にならないように時間割を組んで練習したという。

 また、これまでやってこなかった試合のオンライン中継を開始。これが予想外の視聴者数を得て、新たなスポンサー営業ができるようになった。監督は巨人、西武、中日で活躍した河原純一。今季で4年目だ。昨年から巨人、中日でプレーした小田幸平がコーチに就任した。

 
「徳島に負けないように良い選手の獲得を目指しています。小田コーチは人脈が広くて、よい選手を紹介してくれました。勝利を目指そうと思ったら経験ある選手をそろえるのがいいですが、NPBへの輩出を目指すなら、若い子を起用しないと。そのジレンマの中で育成しながら勝つことを目指します」(田室氏)

■スポンサー企業に引退選手を紹介

 平成唯一の三冠王である松中信彦がGM兼総監督に就任して話題を呼んだのが、香川オリーブガイナーズだ。松中の推薦で入団した元阪神の歳内宏明が、抜群の成績を上げてシーズン中にヤクルトに入団したことも話題となった。こういう形で選手がNPBに移籍する場合も、移籍金が独立リーグ球団に入る。

 三野環(みの・たまき)は、運営会社である「香川オリーブガイナーズ球団」の社長を2017年から務める。監督にはチーム生え抜きの近藤智勝(こんどう・ともすぐ)が就任。

 松中GM兼総監督は大所高所に立ってチームに助言を与えている。「“育成契約でもいいからNPBに行きたい”という選手が多いが、もっと大きな目標を持ってほしい」と選手を叱咤激励した。

 昨年10月1日に就任した松中GM兼総監督は、任期満了で9月30日に退任。ホームゲームでの勝率が上がったうえに、選手に与えた影響も大きかった。

 香川も高松市など地元企業のスポンサードが収入の柱だが、スポンサー企業に引退した選手をつなぐなど、人材紹介を大きな売りにしている。四国ILではシーズン中でも選手のアルバイトを認めているが、香川ではスポンサー企業に選手をアルバイトとして紹介している。また、企業とのつながりを考え、地元出身選手の採用を強化している。

 香川も本格的なオンライン配信はしてこなかったが、コロナ禍で観客動員が制限されたことから試合中継を実施した。

 「昨年のうちの観客動員は総計で2.5万人ほどでしたが、その比でないくらいにビューが伸びています。選手の売り込みもできますし、新たなスポンサー営業の可能性も出てきました。社長就任当初は、女性ということだけで注目されましたが、今、ようやく手応えを感じています」(三野氏)

 四国ILでも最もユニークな存在が、高知ファイティングドッグスだ。球団副社長の北古味潤は語る。

 「うちは高知県の山間部にある越知町に本拠地、宿舎があります。自粛期間中は、とにかく外を出歩くなと言いました。山村はお年寄りばかりです。まかり間違って感染拡大させたら大変なことになりますから」

 高知ファイティングドッグスが活動を再開したのは緊急事態宣言後のことだ。スポンサーは例年の3分の1程度にまで減った。

 「営業で会社を回れば、“お前、空気読んでるのか”という感じでした。球団も個人事業主である選手は持続化給付金を申請しました」(北古味氏)

■地域のスポーツ事業へ進出

 6月にチームの運営体制も大きく変わり、球団運営を新会社である「高知犬」が担うことになった。社長には武政重和が就任した。武政は2014年まで高知ファイティングドッグスの社長を務めたのちに、サッカー高知ユナイテッドSCの社長になった。

 「サッカー側の了承を得て、私がサッカーと野球、両運営会社の社長になりました。事務所も統合し、スタッフも両方の仕事をします。スポンサー、チケット、イベント、2つの会社では同じ言葉が飛び交っています。集約させることで相乗効果を生むのが私の役割です」(武政氏)

 北古味も引き続き経営陣の一人として、これまで培ってきた地域貢献や海外事業を手掛けている。今年になって、高知ファイティングドッグスは高知県が主催する「高知県パスウェイシステム事業『高知くろしおキッズ・高知くろしおジュニア』」を受託した。

 これは高知県から優秀なアスリートを輩出するため、子どものスポーツ教室を県内各地で行う事業だ。これまで県内各地、海外で野球教室、スポーツ教室を行ってきた実績が評価された。北古味は話す。

 「野球とサッカー、県を代表する2つのスポーツチームが子どもたちをバックアップします。こういう形でさらに地域貢献していきたいですね」

 高知は野球を核として、地域のスポーツ事業に進出することで活路を見出そうとしているのだ。

 昨年11月、リーグを運営するIBLJの社長に就任したのが馬郡健だ。馬郡は慶應義塾大から電通を経て、アメリカでインターネット関係の事業に携わる。その後、帰国し東京でIT企業を経営する。大学時代は競泳の選手として鳴らし、慶應義塾大学体育会水泳部(競泳部門)の監督も務めた。

 「就任したときの印象は、4球団が違う方向を向いているのでは、というものでした。そこで球団とリーグ、球団同士の情報のやり取りをひとつのプラットフォームに上げることにしました。球団間だけでなく、経営陣と現場の情報格差も感じたのですが、これも共有化しました。情報を丸出しにするから、みんなで考えてほしいと言いました」(馬郡氏)

■「より筋肉質」のリーグに

 IT事業の専門家だけに仕事は速い。いろいろな議論はあったが、リーグ全体が問題意識を共有するようになった。「もちろんシステムだけでは組織は動きません。コロナの前まで4球団の経営者と膝を突き合わせて話し合い、飲みにも行ってとことん話し合いました」という。

 その矢先にコロナ禍が四国を襲った。7月には高知ファイティングドッグスの選手が1人感染した。

 「このときも徹底的に情報共有しました。高知の感染者の状況も4球団にオンタイムで伝えました。各球団に持続化給付金の申請方法なども共有しました。私は日本独立リーグ野球機構(IPBL)の会長も務めていますが、会員であるルートインBCリーグの村山哲二代表や準会員の琉球ブルーオーシャンズとも情報共有し、独立リーグを挙げて感染対策をしました」(同)

 IBLJ自身も社有車を売却しカーシェアリングに切り替え、事務所もコワーキングスペースにするなど徹底的にスリム化。リモートでの業務を増やすなど、今後の経済危機に対応する体制に切り替えた。

 「これまで四国はオンライン中継には積極的ではありませんでしたが、4球団ともに実施し予想以上の手応えがありました。コロナ禍で、いろいろなものが変化すると思いますが、私はガラガラポンは決して悪いことだけではないと思います。

 四国ILは、何度も経営危機に見舞われながらここまでやってきました。"やせ我慢経営”には慣れていますが、コロナ禍を糧として、より筋肉質の経営になっていけばいいと思います」(同)

 四国アイランドリーグPlusは、10月24日にシーズンを閉幕する。今季は何とか運営できたが、むしろ来年こそが勝負の年と言えるだろう。

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最終更新:10/26(月) 15:17

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