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角川春樹が激白「今の映画は冒険をしていない」

10/22 13:11 配信

東洋経済オンライン

映画『犬神家の一族』や『セーラー服と機関銃』をはじめ、1970年代から1980年代にかけて数々のヒット作を連発した革命的プロデューサー・角川春樹。製作者としてのみならず映画監督という顔も持つ御年78歳の角川春樹が、前作から約10年ぶり8本目の監督作にして「生涯最後の映画監督作」と銘打つ『みをつくし料理帖』(10月16日より公開中)を完成させた。
原作は累計発行部数400万部を突破した髙田郁によるベストセラー時代小説シリーズ。幼い頃に生き別れ、それぞれが違う道を歩むこととなった澪(松本穂香)と野江(奈緒)の友情が描かれる。原作を読んだ時から、その温もりに満ちた人情物語に惚れ込み、メガホンをとることになった角川春樹監督に、本作の裏側などを聞いた。

■監督をやらなければ意味が無い

 ――今日、角川監督が着ているTシャツは『ゴッドファーザー』ですよね。まさに角川さんにピッタリだなと思ったのですが。

 この間、宣伝チームと食事をした時に、この『ゴッドファーザー』のTシャツを見て、まさにピッタリだと言われた(笑)。ならば今日はこれを着てこようと思ったわけです。

 ――前作の『笑う警官』からおよそ10年ぶりの監督作となりますが、その間は映画監督をやろうという考えはなかったのでしょうか。

 そうです。私の思いと観客との乖離を感じていました。それが10年間辞めていた理由です。

 ――しかし今回、監督で復帰することとなりました。

 2年前、私の妻が子どもと一緒に京都の伏見稲荷の頂上まで行ったんですが、帰ってきてから突然、「『みをつくし料理帖』を映画化するなら、監督をやらなければ意味が無い」と言い出したんですよ。そんなことを言われるとは思ってなかったんで、何しろビックリしましたね。

 ――そこで企画が始動したということですか。

 記者会見はしなかったのですが、2年前の9月18日に、髙田郁さんの作家生活デビュー10周年を記念した会を大阪でやったんです。その会に出席したときに、『みをつくし料理帖』を角川春樹製作・監督でやりますと宣言したんです。ただ髙田さんが(黒木華主演の)NHKのドラマ版を気に入っていて。映画化をするなら脚本もキャストも同じメンバーでやってほしいという意向がありました。

 まずは黒木華さんのスケジュールを確認したんですが、舞台があるので、映画のための時間が取れないということがわかった。シナリオライターも時間がとれない。全部ダメだということで、1から仕切り直すことになった。では主演を誰にするか、あさひ太夫を誰にするかということを話し合いました。

 ――その結果、澪役に松本穂香さん、あさひ太夫役に奈緒さんという布陣となりました。

 去年の2月に松本穂香と奈緒をそれぞれ個別に呼んで、話をしたんです。それで去年の8月にクランクインして、9月にはクランクアップするという日程にしました。そこに合わせて往年の角川映画のスター、全員をそろえようとしたんですよ。

 ただ原田知世は、日本テレビのドラマ「あなたの番です」をやっていて彼女だけは呼ぶことができなかった。しかし薬師丸ひろ子、渡辺典子は出演することになりました。

■「マジック」で女優をブレークさせる

 ――角川監督といえば、女優の抜擢に定評があります。今回は松本穂香さんと奈緒さんを抜擢していますが、どういうところを見て、この人だと感じるのでしょうか。

 なかなか説明しづらいのですが、全部直感なんです。今まで(薬師丸)ひろ子、(原田)知世にしても、安達祐実、宮沢りえ、浅野温子にしても全員オーディションなんですよ。そこですべて決めています。だから特に女優の場合だと、より勘がさえるんですね。

 本作の配給が東映に決まった当時、営業部長から、主演の2人に関しては、特に奈緒さんに関してはまったくの新人ですということを言われました。でもその人と仕事をやるのは初めてだったので、私の「マジック」の力がわかっていなかった。まずは「間違いなく公開までに2人をブレークさせておくから心配ない」と言ったんですよ。

 ――確かに2人とも今年は、非常に多くのテレビ、映画に出演しています。

 それがわたしの「マジック」です。それは女優さんだけでなく天候から何まで、スタッフみんながマジックにかかった状態で仕事をしたんですよ。ずっと雨が1週間降り続いていた時も、わたしの力で全部晴れさせたりとかね。気象庁の予報よりも俺を信じろと(笑)。

 今回の町医者の源斉役で出演している小関裕太もブレーク中ですよね。2人の女優に関してはマジックをかけてブレークさせようと思っていたけど、彼のブレークは想定外でした(笑)。

 ――これが角川監督、最後の監督作とありますが、まだまだできるんじゃないですか。

 同じことをテリー伊藤さんにも言われました。彼は、過去の角川映画の中でもナンバーワンだと言ってくれた。実際、今回は多くの方から10年に一度の名作だと言われたんですよ。

 一方で戸惑いも感じています。私としてはこの映画を自分の代表作にしたいと思っていたけど、角川映画ナンバーワンになる映画を作ろうとは思っていなかったし、これまで映画は今作を含めて73本やっていますから、『蒲田行進曲』や『時をかける少女』などそれぞれが好きな作品というのはあるわけですよね。そこと張り合おうという気はなかったです。

 ――しかし結果として、出来上がった作品は手応えがあるものだったと。

 よく「スタッフ・キャスト一丸となって映画を作りました」というのがあるじゃないですか。あれはうそなんです。そんなことはない。でも今回、今まで73本やってきた中で、ほぼそれに近い形になったなと思います。

■スタッフ、キャストが120%の力を出した

 キャストもそうなんですけど、特にスタッフに関しては持っている能力を100とすると、120パーセントを出してきた。わたしは撮っている側ですから、今回のこのスタッフの能力がいかにすさまじいものなのか分かるわけです。

 キャストについてもそうで松本穂香、奈緒もそうですが、石坂(浩二)さんにしても(浅野)温子にしても、若村麻由美にしても、持っている以上の力が、私は120パーセントだと思っていますが、そういう力が出てきたなと。

 もちろん、本読みに参加できなかった中村獅童。そして窪塚洋介も、彼は本読みの時に結構駄目出しをしてしまいましたが、実際にクランクインしたらほぼ全員がNGなしだったんですよ。だから監督とは何だろうと思ったんですが、でもきっと監督というのは、スタッフやキャストの能力以上のものを引き出すのが仕事なんじゃないかと感じています。

 ――まさに角川監督の存在も大きかったのではないでしょうか。

 スタッフはカメラも美術も照明も初めて一緒にやる人が多かったですね。特にスタッフは、角川春樹最後の監督作品にぜひ参加したいと言って、手を挙げて参加した人ばかりだった。だから余計に力を発揮してくれたのかもしれません。この熱意がどんどん伝わってくるんですよ。

 ――それがパワーになったのでは? 

 なりましたね。特に舞台をやっている俳優たち、石坂さんにしても、浅野温子にしても、若村にしても、藤井隆にしてもそうでしたが、芝居をやっている人は、バックでもきちんと動いているんです。舞台は映画みたいにそこだけ切り取るわけではないからみんな動いてる。そういう演技ができるということは大きいですね。

 新人2人のバックで、みんながきちんと動いてくれている。彼らは映っているかどうかも分かっていないんですよ。もちろんカメラには映るんですが、映るための演技をやるのではなくて自然に動いてくれていて。それは映画の奥行きになりましたね。だから今までで一番楽しかった現場だった。73本の映画の打ち上げ写真があるんですが、社長室に飾ってあるのは今回だけですね。それぐらい今回の現場は楽しかった。

 ――撮影が終わっても、現場から離れがたかったと聞きましたが。

 離れがたかったです。テリー伊藤さんなんかも、「みをつくし料理帖」というシリーズを、何年かに1回ずつでもずっと続けるべきだというんですよ。今回、試写室で観た人たちの意見も、原作者も含めてみんな続編をやってもらいたいと。それはしかし、今回の映画『みをつくし料理帖』で、自分が思っているような成果が出ないと、それはないですよと言ってきたんです。ただ自分が思っている以上の成果が出る可能性もあるわけですからね。

 ――当然、その成果を出すために動くということですね。

 この映画は早々に10月16日に公開すると決めていました。(角川映画第一弾作品となる1976年の)『犬神家の一族』の公開日も10月16日。偶然ですが、10月16日という日程だけは早い段階で決めたんですよ。試写会も本来は4月にやる予定だったんですが、それも伸ばしました。

 私の中ではいろいろなことが見えていたんですね。コロナもこの映画が公開する頃には、フルキャパで入れる状態になるだろうと言ってきたんですが、9月19日から一部の劇場ではフルキャパで入れるようになりました。その直前の9月17日に完成披露試写会をやったんですが、その日付も前から決めていた。

 これも「マジック」のひとつですね。次々に奇跡を起こしていくものだから、宣伝チームらも監督は本当にすごいと驚いていましたよ。

■今の映画は冒険をしなくなった

 ――ところでこの作品は、角川監督にとって初のデジタル撮影となったそうですが、何か変わったと感じたことはありますか。

 料理は、フィルムよりもデジタルのほうがよりリアルに見えるんです。だからこれは初めから4Kか5Kで撮りたいと思っていたんですよ。この10年映画をやっていない間に、世の中の流れが、カメラだけでなく映画館の上映自体もフィルムではなくなった。でもそういう変化は、現場に入ってすぐにわかったので、戸惑うこともなかったですね。

 ――とはいえ、映画界も1980年代とはだいぶ様変わりしたと思いますが。

 変わりましたね。先ほど言った、スタッフやキャストの力を引っ張りあげていくということが監督の役割であるとするならば、今の演出家はできてないなと。例えば澤井信一郎さんの2作目の監督作品が『Wの悲劇』だったわけです。スタッフやカメラも含めて、(2作目からそういうものがつくれるという)力が感じられないですね。

 企画もそうですよ。原作や企画の段階で、奈緒と穂香で映画をやろうというのは、私でなかったらできなかったでしょう。過去のデータや実績をもとにするのではなく、クリエーティブから私は出発していますから。

 世の中の流行に合わせたことは一度もないんですよ。自分が作る側にあるわけですから、そういった意味で言うと、企画も演出も劣化したんじゃないかと思いますね。冒険をしなくなったということですね。

 ――角川映画なんて冒険の塊でしたからね。

 安全パイだけを取りたがっている。そういうのはクリエーティブとは言えないわけですよね。

 ――製作委員会についてはどうお考えですか。 

 もともと製作委員会方式は、私が監督した『天と地と』から始まっているんですよ。今回の映画も製作委員会があって、そこでは活発に意見が出て、それぞれの企業が取り組んでくれている一番いい形での製作委員会なんですが、下手をすると、演出にまで口を出してくることもあります。

 キャスティングもしかり、仕上げもしかりということが出てくると、クリエーティブな作品づくりができなくなるんですね。製作委員会によって逆に手足を縛られるような形になることが多いのですが、その点で今回はいい形になった。

 例えば今回はトーハン、日販、楽天ブックスネットワークと、製作委員会に取次3社が参加してます。そこがライバル意識を持って出資をし、なおかつお互いに負けたくないという気持ちで動いてくれます。

 ほかにもレンタルビデオなどを展開しているゲオとTSUTAYAが参加してくれています。こちらもライバルですよね。ゲオがこれだけやるなら、こちらも負けられないと。これはすごいですよ。

 競争原理がうまく働いた製作委員会となっていて。これもまたマジックじゃないかと思っていますね。とにかくライバル企業同士が競う感じなんです。そしてその人たちが初号試写でこの映画を観て、これはいいとみんな納得してくれている。そして製作委員会でさらに活発な意見が出てくるんですよ。否定的な意見ではなくてね。

■出版社みんなで盛り上げていく形にした

 ――角川監督は、「みをつくし料理帖」の書籍が出た際も、ご自身でゲラを持って、書店に営業されていたと聞きました。今回の製作委員会を立ち上げるうえでも、やはり企業をご自身でまわられたのでしょうか。

 今回も、映画公開にあわせて髙田郁さんのフェアをやっているんですが、それは実は髙田さんの本を出しているすべての出版社に参加してもらっています。全社を挙げて、髙田郁さんのフェアをやろうと話をしました。

 ――かつて角川映画で行われていた著者フェアは、角川文庫を売るために行われていたと思うのですが、今回はそれを出版社全体に広げたということですね。

 今はそういう時代で、出版社はライバル同士ではなくなっている。ライバル企業ではなく、みんなで盛り上げていこうということですね。

 ――でもそれができるのは、やはり真ん中に角川さんという柱があるからこそですよね。

 良くも悪くも、最年長なんですよね。長老扱いされるのはちょっと迷惑なんですが(笑)。

 ――角川監督というとメディアミックスの戦略で一世を風靡しました。今のネット時代においてはどのような戦略を考えておられるのでしょうか。

 この映画はターゲットを30代、40代の女性を中心に設定しました。もちろん出演している松本穂香や奈緒は20代前半ですから、彼女たちの世代にも観てほしいというのはあります。

 年齢によって宣伝方法は違っていて、10代、20代はSNSが軸になっている。一方、30代、40代になると、今度はテレビが軸になる。その上の50代、60代の宣伝の中心は活字になる。

■作品を海外にも出していきたい

 今回は角川映画のファンも動員したいということになると、わたしが出ているのはほとんどが活字ですね。新聞広告を含めて雑誌媒体などからのインタビュー依頼も多いですね。インタビュアーはほとんどが角川映画世代なんですね。だからしゃべりやすい(笑)。

 ――若者に向けてはいかがでしょうか。

 私ははじめから、絶対に若者向けにしようとは思っていなかった。今言ったようにターゲットは30代、40代の女性ですから。

 もし若者向けに作ろうとするならば、むしろ私は『みをつくし料理帖』をアニメーションにしたほうがいいんじゃないかと思っていますね。当然、アニメ化というのも想定に入ってきますよね。これをやるなら10代、20代狙いになるでしょう。

 でも今回の映画に関してはそうは思っていない。SNSはかなり使っていますが、そこに特化してるわけではない。やっぱり30代、40代の女性を考えると、テレビが一番訴求力が高いと思っています。だからこそローカルのテレビ局にも製作委員会に参加してもらっているわけですよ。大阪の読売テレビ、KBC九州朝日放送、それから広島のRCC中国放送とかね。

 ――キー局ではなく、ローカル局ということですか。

 そうです。キー局に参加してもらうと、ほかのテレビ局のバックアップがなく、逆にターゲットを絞ってしまうことになる。今回は新しい事をやるというよりもむしろオーソドックスに、10年後も20年後も古くならないような映画を作りたいというのがあったんです。

 それからもう一つ、食というのは世界共通ですよね。特に日本食は。だからこの作品を日本だけではなく、海外にも出したいと思っているんです。だから時代考証から料理まで、料理の例えば包丁ひとつとってもこだわっています。澪は包丁を4本使っているんですが、実は全部、江戸時代の堺の包丁なんです。そういう、一見、よくわからない細かいところまでこだわっている。

 ――食は世界共通ですからね。

 この間も上海国際映画祭で上映されましたし、韓国や台湾、中国からも上映オファーがありました。これを広げていけば全世界のマーケットをとれるんじゃないかなと。それが狙いで作っているところもあって。意図的に「富士山」や「桜」を登場させていますからね。それから「芸者」も(笑)。とにかくこの日本文化を、世界に伝えたいと思っているんです。

 (一部敬称略)

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最終更新:10/22(木) 13:11

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