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アフターピルで「性が乱れる」と叫ぶ人の勘違い~女性側の事情を考慮しない「有識者」の言い分

10/20 13:11 配信

東洋経済オンライン

 若い人たちからは特に「アフターピル」と呼ばれ、認知度が高まりつつある緊急避妊薬。それを市販薬(OTC薬)とする方針が、10月8日報じられた。内閣府は8日、女性の社会参画に関する有識者会議で示した「第5次男女共同参画基本計画」案に、以下のように明記したという。

 「避妊をしなかった、または避妊手段が適切かつ十分でなかった結果、予期せぬ妊娠の可能性が生じた女性の求めに応じ、処方箋なしに緊急避妊薬を利用できるよう検討する」

■「アフターピル後進国」の日本

 アフターピルは、性交渉の後72時間以内に服用することで妊娠を高い確率で回避する。現在は原則として医師の処方箋なしには購入できない、いわゆる処方薬だ。一方、欧米やアジア諸国90カ国以上ではすでにOTC化されている。風邪薬や胃薬と同様、薬局に出向けば簡単に手に入るのだ。日本は完全に「アフターピル後進国」なのである。

 ナビタスクリニックではOTC化の早期実現は難しいと判断し、2018年からオンライン診療・処方を続けてきた。緊急性や必要性を考え、性交渉から120時間後まで効果の得られる個人輸入薬も用意して、女性たちの切実なニーズに最大限応じてきたつもりだ。2019年には152件のオンライン受診者にアフターピルを処方、発送した。

 今回の内閣府の発表を聞いて、ようやく肩の荷が下りたと思った。

 だが、少し引っかかったのは、それに続く厚労相会見の報道だ。田村憲久厚労相は、閣議後の記者会見で、「これまでの議論を踏まえ、しっかり検討していく」「期限を区切ってとは考えていない」と発言した。

 厚労相の言う「これまでの議論」が、オンライン診療をめぐる厚労省検討会でのやり取りを指すことは間違いない。多くの“有識者”が、アフターピルについてはOTC化どころかオンライン診療でさえ、全面解禁に難色を示してきた。

 また、解禁の時期について、厚労相があえて見通しを示さなかったのも気になった。実は10月7日時点の報道では、政府方針として「2021年にも導入する」とあった。しかし8~9日の内閣府案報道では、その文言はなくなっていた。そればかりか、薬剤師の対面で服用する条件が付いたという。厚労省検討会を大幅に加味した最終調整が行われた、と見るのが普通だ。

 なお、7月末に示された「第5次男女共同参画基本計画策定にあたっての基本的な考え方(素案)」の時点では、「緊急避妊薬」の文字はまだなかった。それからすれば、まさに急展開ではある。当初「来年にもOTC化へ」と聞いた際には、政権交代で利害関係などのしがらみが一気に片付いたのか、とも思った。実際には、そこまでは望めなかったようだが……。

 以下、アフターピルをめぐるこれまでの議論を振り返り、根本的な問題を明らかにしていきたい。

■オンライン診療さえ難色示す“有識者”たち

 当院では2018年からアフターピルのオンライン診療・処方を行っている。きっかけの1つは、2017年に厚労省検討会でOTC化が見送られたことだ。「時期尚早」というのがその理由だった。再び議論が盛り上がるには相当の年月がかかるだろう、それまで現行の仕組みの中でできる‟次善策”を、と踏み切ったのが、オンライン診療・処方だった。

 以来、多くの女性たちから感謝の言葉をいただいてきた一方、世の中にはオンライン診療を歓迎する人ばかりではなかった。「対面診療は必須」という主張である。

 「初診は原則として直接の対面診療による」とした1997年の厚生省(当時)通知が、その主張を後押ししてきた。2018年3月に示された「オンライン診療の適切な実施に関する指針」でも、その“原則”は維持された。ただし、これら「通知」や「指針」に法的拘束力はない。

 その後、指針の見直しに関する検討会は、一定条件の下にアフターピルを「オンライン診療の初診対面診療原則の例外」として認めると了承。しかし、その条件は「3週間後の産婦人科受診の約束を取り付ける」「薬局で薬剤師の前で内服する」といった、女性側の事情を考慮しないものだった。

 実際、2019年7月の改訂でその2点が指針に明示された。繰り返すが、法的に意味はなく、この通りでなくても受診者に不利益が生じることは一切ない。

 そんな中、アフターピルのOTC化と僅差で報じられたのが、初診からのオンライン診療を全面解禁する、という厚労省方針だ。新型コロナ対策としてこの4月から“特例”として時限的に認めていたのを、恒久化するという。

 そうなれば、アフターピルを“例外”としてきた大前提がひっくり返る。あるいはOTC化が実現すれば、アフターピルに関してはオンライン診療・処方自体、その役割を終える。世界を見渡せばいずれも既定路線だが、果たしてどうなるか。検討会の動きを注視していきたい。

 そもそもなぜ日本では、アフターピルの入手が困難な状態のまま、ある種“聖域”化されてきたのか。OTC化が決して早くはなかったアメリカでさえ、議論に決着がつき解禁されたのは2013年のこと。このままでは日本は10年以上の遅れを許しかねない。

 2017年にOTC化が見送られた際の反対側意見が、議事録(厚生労働省、2017年7月26日第2回医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議)に残されている。

 「この薬品が避妊の目的であることを悪用する」

 「簡単に避妊できることを根拠に、避妊具を使うことが減ったり、性感染症が増える」

 「例えば13歳や14歳でも買う可能性が出てくる時代になっていますから、そういうときにどうするか」

 「もしかすると、消費者の方は、(中略)常備薬的に自宅に置いておく可能性が出てくる」

 同じくアフターピルの初診からのオンライン診療を「時期尚早」とする人々の意見も、検討会の議事録(厚生労働省、オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会)から読み取れる。

 「日本でこれだけ若い女性が性に関して知識がない状況で、(中略)責任が持てないと思う」

 「本当に簡単に若い女性が、ここでもらえるという感じでやられたら(=オンライン処方させたら)、これは非常に悪用になってしまうし、あるいは転売などという話も出てくるかもしれない」

 ほかにも薬剤師など提供側の理由は挙げられているが、少なくとも利用者側については、心配しつつもその実、「知識が足りないし、信用できない」と言っているに等しい。対面診療を死守しなければ「若い女性の性が乱れる」とでも言わんばかりである。

■科学的な議論でなく、ただのおせっかい? 

 だが、そうした懸念のほとんどは、ただのおせっかいにすぎない可能性がある。

さまざまな避妊方法が無償提供された場合でさえ、性感染症は増えず、複数の性的パートナー男性がいる女性の数もむしろ減少した、という2014年のアメリカの研究結果がある。14~45歳女性9256人(6割が25歳未満)を対象とした2~3年にわたる調査で、開始1カ月の時点で複数の男性パートナーがいると答えた被験者は5.2%にとどまり、しかも1年後までには3.3%に減少していた。

米国疾病予防管理センター(CDC)の報告でも、アフターピルOTC化後の2015~ 2017年に実施された10代の性経験調査から、次のようなことが示されている。

・2002年と比べ、未婚の10代男性の経験割合は17%減少した。
・性経験の年齢別の増加割合に、男女差はほとんどなかった。
・10代で初経験した15~24歳女性78%と男性89%が、初経験時に避妊を行った。
・10代女性の間で最も一般的な避妊法は、依然としてコンドームである。

 確かにアメリカに比べれば、日本は性教育が大幅に遅れている。それでも、“有識者”の方々にはぜひ科学に基づいた議論をお願いしたい。

 科学よりも老婆心(老爺心? )が先立ちそうなことは、オンライン診療指針に関する検討会の構成委員名簿を見れば察しが付く。掲載された12人中、女性はたった1人。年齢は40代が1人で、あとはオーバー50、うち3名はオーバー70だ。議事録も確認すると、アフターピルについて発言のあった参考人も、すべて60代男性である。

 ふと、菅政権発足時にSNS上で拡散された写真を思い出した。菅首相(71歳)+自民党新四役(60代後半~80代男性)の写真と、フィンランドのマリン首相(34歳)+連立政権党首3人(30代女性)が並んだ写真だ。

 この国では、老若男女すべてに関わる医療の問題を、年配の男性たち中心に集まって決めていく。令和日本の現実である。

■「女性の生き方」の問題であるはず

 アフターピルの議論も、男性を中心に行われてきた。しかし本来、避妊やその方法は、社会全体の問題であると同時に、まずは「女性の生き方」の問題であるはずだ。自分の生きたい人生を生きる、その手段を選ぶ、という点において「女性の生きる権利」の一部とも言える。

 かといって、女性だけで議論すべきものでもない。性に関わる問題は、当事者よりも、その外側にいる人々の無理解が生み出していることも多い。

 特に今日、セクシュアリティの考え方も新たな局面を迎えている。これまでの社会は、身体的特徴にのみ基づく「男性か女性か」という単純な2分類による管理が許されてきた。しかし今や、「LGBT」という呼称でさえ古いという。実際にはもっとずっと多種多様なセクシュアリティーが存在し、それを前提とした議論が求められている。

 性の問題を真に理解し、扱うことは容易ではない。さまざまな立場からの意見が飛び交う、真に開かれた議論の場が必要だ。医療や医療界も、認識の変化や体制の変革を求められるだろう。アフターピルのOTC化は、まだ最初の一歩だと思っている。

東洋経済オンライン

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最終更新:10/26(月) 10:22

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