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DV加害者にやめさせる為に絶対欠かせない条件

10/1 13:11 配信

東洋経済オンライン

DVをどうやったら減らせるか、どんな対応が必要か。そうした議論では、「被害者支援」に比べて「加害者の更生」はあまり論じられてこなかった。「DVを受けている人は逃げてください」は正しい方針であるにしても、加害が減らない限り問題は解決しない。「加害者が変わる」を現実的な選択肢にするにはどうしたらいいのか。長年、DV問題に取り組んできた原宿カウンセリングセンター(東京)の所長・信田さよ子さんにインタビューした。

■加害者が変わったかの見極めは被害者

 人は変わるか。DV加害者は変わるか。取材はその問いから始まり、信田さんはこう答えた。

 「変わったかどうかを決めるのは、私たちカウンセラーじゃない。加害者本人でもない。それは誰かというと、被害者です。被害者がいちばん、それを決める権利を持っている。それに、変わるか、変わらないかという二項対立ではダメだと思います。“変わる”にも5段階くらいある。まずはカウンセリングや加害者プログラムに参加すれば、私たちは変化の第一歩と捉えます。よくDVを“治す”という表現をする人がいます。でも、DVは病気ではないので、“回復”や“治療”という表現を私たちはしません。再犯のない期間を延ばすんです」

 信田さんが開業した「原宿カウンセリングセンター」は、今年で25周年になる。DV被害者のカウンセリングに加え、教育プログラムという形で加害者へのアプローチも続けている。

 臨床心理士の信田さんはもともと、アルコールや薬物などの依存症を専門としていた。その仕事に就いた1970年代にはまだDVという概念がなかったが、患者のなかには酒に酔って妻や子どもへ暴力を振るう人たちも少なくなかったという。

 信田さんによると、加害者向けのプログラムに参加する人は多様だ。被害者の家出や離婚要求をきっかけにDVが露呈したケースが多い。アルコール依存問題や引きこもりなど、別のイシューでの相談を深掘りしていった延長にDVが発覚することもある。

 暴力によるDVの“再犯”も大きな問題だ。

 「日本は加害者に対し、教育プログラムの受講を義務付けていないので、受講者はあくまで任意参加なんです。そのせいか、私たちがあまりに強固な姿勢を示すと、ドロップアウトしてしまう。そしてドロップアウトした後は暴力の“再犯率”が高くなるんです。ですから、私たちは絶対ドロップアウトさせないように、けれどもジェンダー視点を守り、被害者支援の一環として着実にやっていく。山のつり橋の上を揺れながら歩くような、すごく困難な道です」

 日本の刑法は「法は家庭に入らず」を原則にしてきた。しかし、2000年に「児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)」が制定され、翌年には「DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)」ができた。これにより、「愛情」や「しつけ」などとして正当化されてきた家庭内の暴力がようやく、法規制による対象になったのだ。

 もっとも、被害者の告訴がないと、DV加害者を法規制の対象にはできない。期限付きの保護命令(接近禁止命令、退去命令)だけ。それらの命令に違反した場合は刑事罰もあるが、加害者の変容を促す法的なアプローチは存在しないままだ。

 信田さんは加害者向けプログラムを「DV教育プログラム・男性版」という名称にしている。「更生」という言葉は使っていない。

 「『更正』は犯罪に対して使う言葉です。日本では、DVは犯罪化されていません。『更生』を使っていいのは法務省や警察だけであり、一民間団体が対外的に使ってはいけないと考え、あえて入れていないのです。もちろん、心の中では『更正』だと思っていますけど」

■裁判所命令で加害者更生プログラムを受けさせる国も

 欧米諸国では、「ダイバージョン・システム」と呼ばれる制度が導入されている。DVが比較的軽微な場合、裁判所の判断に基づき刑罰の代わりに加害者更生プログラムの受講を命じる仕組みだ。例えば、カナダでは、州によってDVを専門とした裁判所があるほどだ。

 ただ、裁判所命令でプログラムを受講させることにも弱点はある、と信田さんは説明する。

 「カナダのドロップアウト率は約40%です。受講しないと実刑になるから、嫌々来ているんですよね。一方、私たちは『動機付け面接』という理論に基づいて、本人の変わりたいという意志をきめ細かにサポートする方針を取っています。そのため、ドロップアウト率は1%にも満たない。まずは受講に来ていることをプラスに評価し、微細な変化をねぎらう。暴力は否定するが、人格は尊重します。そうしないと、モチベーションが続かないんです」

 日本の対応は他の先進国と比べて見劣りするものの、信田さんはここ数年、警視庁の対応には変化を感じているという。

 「警視庁は全国の警察に比べても進んでいます。DV被害者からの通報があると、(刑法の暴行罪や傷害罪などの容疑での)逮捕を厭わない方針になってきました。これは、すごいこと。法的には被害者の告訴がないと逮捕できないので、被害者に『告訴しましょう』と説得するんですね。しかも拘留中には『DVとは何か』といった勉強をさせたり、出るときには加害者プログラムを紹介したりするんです」

 「なぜ、そうなったか。2013年頃からストーカーや虐待などで被害者が殺される事件が相次ぎ、警視庁は女性や子どもを守ることの優先順位を上げたんです。『面前DV』という言葉もでき、2004年の児童虐待防止法の改正では、子どもが親のDVを見ることは心理的虐待だと明確になりました」

■加害者意識でいっぱいな被害者

 DVのある環境にいると、当事者には「当事者意識」がないことが多いと言われる。これは、彼らの認識がねじれているためだという。加害者に被害者意識があり、被害者には加害者意識がある。

 加害者に言わせると、自分は「言うことを聞かない妻に対してがまんしている」側であり、被害者は「自分はいつも間違えて夫を怒らせてしまう」側だと感じてしまう。そのねじれにはなかなか気付かず、警察や全国各地の配偶者暴力相談支援センターといった第三者に相談して初めて、自分にされている行為はDVであると気付く。そういった事例は枚挙に暇がない。

 信田さんは被害者に対し、絶えず「あなたは悪くない。あなたは被害者なんです」と言い続ける必要があるという。

 「殴られたり怒鳴られたりしても、すぐ、『あ、DVされた』とは思わないですよね。普通は、それより先に『どうして怒らせちゃったんだろう』と考える。自分がさせちゃった、という発想です。1年以上被害者グループに参加している人でも『私みたいな人が被害者と言っていいんでしょうか』と言うくらいなんです」

 一方、加害者が加害意識を持つようになるためには、ある種の強制力が必要になるという。警察に通報する、家を出ていく、子どもには会わせないといった方法だ。

 「加害者は『え?  ここまでされる?』という経験をしないと、自覚は生まれません。日本では、警察や裁判所がなかなかそれをやってくれないから、すごく大変だけれど、被害者が頑張ってやるしかないんです」

■パートナーを加害者更生プログラムへ

 信田さんには『加害者は変われるか?   DVと虐待をみつめながら』(筑摩書房)という著書がある。その中で、被害者には置き手紙方式を勧めている。家を出るときに、以下のような手紙を残しておくといい、という勧めだ。

 「あなたの行為はDVだと思います。私はこれ以上DV行為を受け続けることはできないので、しばらく家を離れます。もしあなたが私に会って話したいと思われるのであれば、次の機関で相談を受けてください。そこでのDVに関する教育プログラムを受講して、すべてを修了した段階で、担当者と話し合っていただければ、あなたと会い、話し合う可能性はあるでしょう」

 信田さんによると、加害者の変化に欠かせないのは、2つの気付きだ。まずはジェンダーについて学び、旧来の男性中心主義的な価値観が当たり前ではなくなっていることを知ること。次に、妻や子どもがいかに傷付いていたかという被害を知ること。

 「私たちのところに来る加害者で、“再犯”のない時期が続いている人はとても多いです。すると、本当に妻が安心する。安心すると、妻は次に『言えなかったこと』を全部言うようになるんです。加害者にとって、その期間はとてもつらい。自分はこんなに勉強をして頑張っているのに、妻から責められ続ける、と。でも、この時期は絶対に必要なので、頑張って妻の話を聞いてくださいと伝えています。彼女たちの苦悩や屈辱感を聞けるだけの基本が、あなたにもできたんだから、と」

 (取材:ニシブマリエ=フリーライター)

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最終更新:10/1(木) 13:11

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