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韓国文大統領は米韓同盟が邪魔なのか?「南北終戦宣言」を元駐韓大使が解説

9/29 6:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

● 文在寅大統領が米国と相談なく 国連演説で南北終戦宣言に言及

 文在寅大統領は9月22日、テレビ会議形式で開かれた国連一般演説で、南北終戦宣言を提案した。

 終戦宣言を提案したのは今回が初めてではなく、北朝鮮もいったんは合意していたが、南北関係が緊張すると、同宣言には見向きもしなくなった。これを再度よみがえらせようとするのが今回の演説であり、その関連部分は次の通り。

 「今年は朝鮮戦争が勃発して70年になる年」であり、「もう朝鮮半島では戦争は完全に、そして永久的に収束されなければならない」

 「朝鮮半島の平和は北東アジアの平和を保障して世界秩序の変化に肯定的に作用するだろう」「その始まりが終息宣言だ」

 「国際社会の支持と協力が続けば朝鮮半島の非核化と恒久的平和が実現できると、変わりなく信じる」

● 終結宣言は米国と事前調整がない 文在寅大統領の独り相撲

 中央日報によれば、文大統領のこうした国連演説に対して、韓国政府筋は「文大統領の終戦宣言提案は(朝鮮戦争の休戦協定の当事者である米国と)事前の調整がなかった」と語ったようである。

 同紙は社説で、「非核化に向かった有意義な措置がないまま終戦宣言を締結すれば、致命的な安保空白を招きかねない。終戦宣言を結べば、北朝鮮にとって在韓米軍の撤収を主張する名分になる。1950年の北朝鮮の侵略で韓国を守るため作られたのが国連司令部であるが、その存立の根拠もなくなる」として懸念を表明している。

 米国の反応は厳しいものがある。

 かつてホワイトハウス安全保障会議で補佐官を務めたマイケル・グリーン戦略国際問題研究所(CSIS)上級副所長は、「韓国大統領が国連で米国議会や政府の立場とこれほど一致しない演説をするのをほぼ見たことがない」「平和を宣布することで、そのように(朝鮮半島平和の実現)できるわけではない」と強い口調で批判した。

 米国務省報道官は「我々は北朝鮮に対し、統一された対応を行うため緊密に調整している」として即答を避けた。逆説的にこれは文発言に対する不満の表明とも取れるものとみられている。

● 韓国ペースで南北関係の実績を作り 米国を動かすのが狙いか

 米韓共同で北朝鮮に対処するというのがこれまで韓国政府のやり方であった。

 しかし、文政権になってから、特に最近の動きを見ると、新しい方針を確定する前に米国の意向を尊重するよりも、韓国のペースでまず南北協力を進めて実績を作り、米国をこれに引きずり込む方針に徐々に転換しつつあるように思われる。

 これは北朝鮮の非核化を優先し、それに応じて北朝鮮を支援していくという国際社会の方針とは一線を画すものであり、北朝鮮にいいとこ取りをさせかねない危険な行動である。

 しかし、韓国の行動がこれまで実を結ばなかったのは、北朝鮮が韓国に対し反発しているからである。北朝鮮が韓国の提案を受け入れるようになれば、朝鮮半島の構図が大きく変わりかねない危険性をはらんでいる。

 文大統領にとって終戦宣言は、2017年7月のベルリン宣言など、朝鮮半島の平和プロセスの出発点だ。2018年4月の第1回南北首脳会談で「停戦協定65周年となる今年、終戦を宣言して停戦協定を平和協定に切り替えることを積極的に推進したい」と合意した。

 しかし、米国は北朝鮮の核申告を終戦宣言の条件に掲げたため、こうした試みは失敗に終わっている。

 韓国は今回、米国との協議なく、非核化の条件のない終戦宣言を提案したという訳である。魏聖洛(ウィ・ソンナク)元朝鮮半島平和交渉本部長は、「これを本当に推進しようとすれば、条件付きに変えられないよう事前に米国を説得すべきだった」と述べたが、こうした調整なしに動くのが文政権のやり方でもある。

● 文在寅大統領の南北関係閣僚人事は 単独でも「協力実行の決意」の表れ

 李仁栄(イ・イニョン)統一相は7日、統一省主催の「朝鮮半島国際平和フォーラムで挨拶し、「南北は互恵的な協力を通じて一つの共同体として生きられる可能性を示すことになるだろう」とし、「朝鮮半島平和プロセスの進展と非核化を巡る朝米対話の大きな流れも引き寄せることができると信じている」と語った。

 李統一相は「『小さな企画』を通じて人道協力と交流協力を再開し、再び南北対話を始め、約束したものを一つずつ履行していきたい」「これが保健医療、共同防疫、気候環境などの生活の問題から共生と平和の窓口を見いだせる実質的な協力になる」との認識を表明した。

 さらに「南北が主導して国際社会と協力し、完全かつ検証可能で不可逆的な平和時代を切り開かなければならない」と述べた。

 これは、対北朝鮮政策を米国と調整しながら進めるよりもまず南北で進め、これに米国も引きずり込むことを念頭に置いた発言であろう。

 李統一相は16日、板門店を訪問し、「2017年、朝鮮半島で戦争が取り沙汰された一触即発の状況に比べると、今は軍事的緊張が緩和し、国民が平和を体感できる状況になった」「南北首脳の歴史的決断は高く評価されるべきだ」「軍事的な対立を防ぐ装置として平壌共同宣言と南北軍事合意が重要な機能を果たした」と述べた。

 李統一相は、最近の北朝鮮による反発は、韓国がこの合意に基づく協力をないがしろにしているとの不満があるとみている。その元凶となっているのが、南北間の協力問題を扱う米韓ワーキンググループであり、この協議体をバイパスして北朝鮮と協力していこうと模索している。これが平壌共同宣言に戻る道であり、従って、李統一相の言動は文在寅大統領の意向を反映したものでもあろう。

 文在寅大統領は、北朝鮮が南北共同連絡事務所を爆破した後、7月3日に外交安保チームを再編したが、そこで任命された統一相長官、国家情報院長、国家安全保障室長、外交安保特別補佐官は、いずれも北朝鮮と親しい活動をしてきた人々である。

 こうした閣僚等を従え文政権が目指すのは一層北朝鮮に寄り添った姿勢であり、金正恩氏へのご機嫌取り政策になるだろう。

● 文在寅大統領はなぜ今 終戦宣言が必要なのか

 19日は、文在寅大統領と北朝鮮の金正恩国務委員長が平壌で首脳会談を行い「平壌共同宣言」に署名してから丸2年となる記念日である。

 しかし、当時の南北融和ムードはすっかり消え、文大統領は停滞する南北関係の再活性化に焦っている。

 文大統領の任期は残り2年を切った。また、米朝首脳会談に応じたトランプ大統領は11月に大統領選挙を控え、今後の米朝会談にも不透明感が漂っている。

 そこで、文大統領は新しい閣僚と共に、南北関係改善の最後のカードを切ったのではないだろうか。

● 北朝鮮への協力は 保健など人道分野から

 国連の一般討論演説で、文大統領は「ポストコロナの朝鮮半島問題も、包容性を強化した国際協力の観点から考えることを期待する」と述べた。

 その中で防疫協力体関連部分は、「さまざまな国が共に生命を守り安全を保障する協力体は、北朝鮮が国際社会との多者間協力で安保を保証される土台となるだろう」と強調した。

 韓国の情報機関・国家情報院のシンクタンク、国家安保戦略研究院は17日の報告書で、北朝鮮経済について、制裁、新型コロナウイルス、水害の三重苦により防疫・産業・財政・市場が同時に崩壊または混乱に陥る「パーフェクトストーム(未曽有の大嵐)」に至る可能性が高まっているとの見方を示した。

 そのため、人道的危機が安全保障の危機へとつながらないよう大規模な支援プログラムを速やかに実施する必要があるとした。また、人道支援のための物資輸送、金融取引などについては一時的に制裁の猶予を検討する必要があると指摘した。

 本来こうした提案は北朝鮮にとってありがたいはずである。しかし、北朝鮮がこれに応じる可能性はそれほど高くないだろう。北朝鮮は何度も談話を通じて文在寅政権に露骨な非難を繰り返しているばかりでなく、南北協力の象徴である、開城の共同連絡事務所を爆破している。

 北朝鮮の立場からすれば、そもそも北朝鮮の苦境は経済制裁からきており、保健分野の協力は末梢的な分野であって、これだけでは喜べないということであろう。

 ただ、最近明らかになった南北首脳の親書の交換や、韓国人射殺と焼却の意図や金正恩氏が何を考えているのかはもう少し分析してみる必要はあるかもしれない。

 また、文政権の提案は周辺国との調整も行っておらず、周辺各国の協力も見通せない。北朝鮮が非核化に前向きな姿勢を示さない限り、しかも北朝鮮が保健分野への協力に積極的姿勢を見せない限り、これに協力する国はほとんど見当たらないのではないか。

 この提案は文在寅大統領の独り相撲で終わるのか。北朝鮮の対応によって文政権は追い詰められている。これを打開するため、ますます北朝鮮にすり寄っていくのだろうか。米国の意向を無視し、北朝鮮の歓心を買おうとすれば、北朝鮮に対する制裁のなし崩し的な違反になることが懸念される。

 いずれにせよ、文在寅政権の対北朝鮮政策は北朝鮮の非核化への障害とならないよう望みたいものである。

● 日米韓防衛相会談に 韓国国防相が姿を見せなかった訳

 今年の春ごろまで、日米韓防衛相会談に積極的だったのは韓国だそうである。5月ごろから日米両国に働きかけていたという。

 米国も東シナ海、南シナ海で中国の活動が活発になったほか、香港の民主化問題、新型コロナウイルスの中国からの拡散問題、中国の技術覇権挑戦問題などで米中の対立が激しくなったことから、この動きを歓迎して調整を進めていた。そこに新型コロナウイルスの影響で人的往来が制限されたことから調整が難航していた。

 そうした中、米国は8月29日にグアムで会談することを提案したが、韓国は鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防相の参加は困難だと回答してきた。8月に韓国で米韓合同軍事演習が行われること、国防相交代の人事が行われることが理由である。

 しかし、米韓合同軍事演習は前日の28日までだし、国防相が必ずしも韓国にいる必要はない。また、文大統領は28日に後任の国防相を指名したが、鄭国防相は国会の聴聞会が終わるまで現職である。

 韓国が防衛相会談に不参加を表明したのは、南北共同連絡事務所を破壊した北朝鮮を刺激したくなかったことと米中間でうまく立ち回りたい文政権の意向が反映されているとの見方が強い。

 こうした中、米国は日程の再調整は行わず、日米だけで会談を行うことに踏み切った。これまで日米韓が連携して北朝鮮問題に立ち向かってきたにもかかわらず、この重要な局面で日米韓防衛相会談を欠席することの重要性を理解しているのか。

 また、米中対立で、欧州、オーストラリアも中国との距離を置こうとしている中、米中の間でうまく立ち回るというのは何を意味するのか文政権は理解しているのであろうか。米国が重視するインド太平洋戦略の中で韓国の影は薄くなるばかりである。

● 韓国は米国とは距離を置き 同盟関係を置き去りにする

 文政権は米国が韓国抜きで日米だけの防衛相会談に踏み切った意味を改めて考える必要がある。

 韓国の李秀赫(イ・スヒョク)駐米大使は「今や韓国は米中の間で選択を強要されるのではなく、選択できる国」と発言したそうである。

 この発言を米国はどう受け止めたであろうか。米国が韓国に対し中国との関係で厳しい要求を突き付けてくれば「中国を選択する余地もある」との趣旨に聞こえたのではないだろうか。

 また、韓米同盟がいつの間にか南北関係改善の足かせのような扱いを受けるようになってきている。文政権は、自由民主主義という価値を共有してきた米国と離れ、中国や北朝鮮にすり寄っている。米韓同盟は韓国の安全保障の基盤であることを今一度かみしめる必要があるだろう。

ダイヤモンド・オンライン

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最終更新:9/29(火) 18:16

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