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最高裁判事指名でトランプ大統領「終了」の危機

9/28 15:01 配信

東洋経済オンライン

 アメリカに激震が走りつつある。発端は9月18日に、ルース・ベイダー・ギンズバーグ米連邦最高裁判所判事が死去したことだ。彼女はニューヨークのブルックリン生まれ。「RBG」の愛称で知られ、1993年にビル・クリントン大統領(当時)の指名を受け、アメリカで2番目の女性判事となっただけでなく、リベラル派判事の代表的な存在として、アメリカ社会全体に非常に大きな影響力を誇っていた。

 同国の連邦最高裁は現在9名の判事によって構成されており、その構成によって妊娠中絶や銃規制など重大な憲法判断が揺れ動くこともあるため、国民の注目度は非常に高い。上院の承認が必要だが一度指名されれば、自らが引退を申し出るか死亡する以外では「終身」(弾劾裁判を除く)となる。したがってリベラル派、保守派に分かれる判事の構成は、時の大統領や議会以上に国の方針に大きな影響を及ぼすと指摘する向きもある。

■共和党は「自らの4年前の出張」を反故に? 

 そして今回、11月3日の大統領選まであとわずかというタイミングで彼女が死亡したことは、アメリカの政治はもちろん新型コロナウイルスによる大幅な落ち込みからの回復途上にある同国経済にとって、大きな影響を及ぼす事件となりそうだ。

 ドナルド・トランプ大統領はさっそく、後任判事の選定に取り掛かり、9月26日にはシカゴ連邦高等裁判所判事のエイミー・バレット氏を指名した。バレット氏は敬虔なカトリック教徒であり、彼女を指名することによって中西部などのカトリック票を取り込むことができ、大統領選で有利に働くと見られている。

 野党の民主党は当然ながら、この動きに猛烈に反発している。直近では2016年3月、当時のバラク・オバマ大統領が保守派のアントニン・スカリア判事の死亡を受けてメリック・ガーランド氏を指名した際、当時上院で多数を占めていた共和党が強力に反対した経緯があるからだ。

 最高裁判事の指名には上院での承認が必要だが、このとき、共和党は次の大統領選まで1年を切るなかで「後任判事は新しい大統領が指名するべきだ」との理由から、承認のための公聴会の開催を拒否。オバマ大統領は最終的に指名を断念した経緯がある。

 その共和党はトランプ政権下でニール・ゴーサッチ氏を2017年に後任判事に指名する際、「核オプション」と呼ばれていたルール変更を行った。それまでは上院で議事妨害を打ち切り採決に持ち込むためには60名の賛成が必要という要綱を撤廃。単純過半数で承認できるようにしたうえで、指名を強行した。さらに、今回は次の大統領選までの時間が2016年に比べても少ないなかにもかかわらず、後任の指名を強行したことになる。

 もちろん、共和党内にもそれに批判的な意見もある。メイン州選出のスーザン・コリンズ氏とアラスカ州選出のリサ・マカウスキー氏の2名の同党上院議員が、承認に反対する意向を示している。しかしながら、かねてからトランプ大統領に否定的だったユタ州選出のミット・ロムニー議員が承認の採決を支持する意向を示したことで、大統領選実施までの承認への道筋が一気に開けたことになる。

■民主党は「ありとあらゆる手段」で承認阻止へ

 こうした事態を受けて民主党内では、トランプ大統領あるいはウイリアム・バー司法長官の弾劾手続きを行うとの案も浮上している。弾劾手続きは民主党が多数を占める下院で進めることができるうえ、下院で弾劾の開始が承認され、上院で審議が行われるということになれば、それが最優先事項となるために後任判事の承認手続きが遅れ、時間切れに追い込むことができる可能性が高くなるからだ。

 また民主党議員の間では、次の選挙で民主党が上院でも過半数を取った際、「法改正を行って最高裁判事の定員を4名増やす」との方針も、現実味をもって議論されはじめている。

 もし今回後任判事の指名が行われれば、保守派とリベラル派の判事構成は6対3となるが、仮に定員を13名に増やしてリベラル派の判事を4名送り込めば6対7となり、力関係が逆転するという計算だ。

 こうした強引なやり方に対しては慎重な意見も多い。だが、民主党からすれば、共和党は核オプションというルール変更までしてゴーサッチ判事を指名。加えて性的暴行疑惑があったブレット・カバノー判事の承認も2018年に強行。そして今回さらに、4年前に共和党が示した慣例を無視する形で指名を強行しようとしていることには我慢がならないはずだ。「共和党に対抗するためには、この程度のことはして当然だ」との意見が多数を占めそうなのも無理もない。

 一方のトランプ大統領にとっても、後任人事を急ぐ今回の方針決定は、かなり大きなギャンブルとなりそうだ。

 確かにカトリック教徒の保守派判事を送り込むことで、キリスト教保守派の支持をより多く取り付けることは可能かもしれない。だが、もともと中絶反対派の人々は、トランプ大統領を支持している人が多く、新たな支持を獲得する効果があるのかは微妙なところだ。

 むしろ、こうした強引なやり方を好ましく思っていない中間層の支持が、女性を中心にトランプ大統領から離れてしまう危険性が高いのではないか。

 もし最高裁判所判事の後任指名人事が大統領選の主要な争点になれば、これまでの女性蔑視や人種差別的なトランプ大統領の発言や行動が、改めて批判の的になることも考えられる。今回の選挙は接戦で、どちらが勝利するのかは蓋を開けてみないとわからないとされているが、今回の問題をきっかけに世論が動けば、思った以上の大差で決着することもありうる。

■株価の大幅下落で「トランプ大統領1期で終了」も? 

 何よりも、こうした状況下で、難航している「追加経済対策」の協議が消えてしまうリスクにも注意を払わなければならない。現在の相場は小康状態だが、ギンズバーグ判事が死亡した直後の株式市場(9月21日)は全面安の展開となった。これは後任人事を巡って政治的な混乱が深まるとの懸念が、大きく影響した可能性が高い。

 下院民主党は5月に成立させていた3.5兆ドルの支援法案を修正、新たに2.4兆ドル規模の法案策定に取り掛かっている。だが、依然として共和党の主張とは大きな隔たりがあり、すんなりとこれが通ることはありえない。今回の承認指名をきっかけに与野党の対立が深まれば、大統領選までに支援策が成立する可能性はほぼゼロとなり、カンフル剤を失った同国の景気が再び失速してしまうリスクが一気に高まる。

 一方、FRB(米連邦準備制度理事会)のジェローム・パウエル議長は9月22日、米下院金融委員会で証言を行い、雇用や経済活動は新型コロナウイルスの感染が拡大する以前と水準を大幅に下回ったままで、景気の先行きは非常に不透明だとの懸念を示した上で、追加の経済対策の必要性を強く訴えた。

 先のFOMC(公開市場委員会)では少なくとも2023年まではゼロ金利政策が続くとの見通しが示されるなど、FRBは今後も積極的な緩和政策を打ち出すことを明確にしているが、それだけで経済を持ち直すには不十分という訳だ。

 実際、失業保険の上乗せ給付が実質的に終了した7月末以降は、PPP(雇用維持プログラム)などほかの経済対策の効果も薄れてくるなかで、アメリカの景気の回復ペースは明らかに鈍ってきている。

 与野党の対立激化で追加支援策の成立が遅れれば遅れるほど、今後景気が再び大幅に落ち込んでしまうリスクは高まる。それはいずれ株価の大幅な調整という形で市場にも表れてきそうだ。結局のところ、こうした形での株価急落が、回り回ってトランプ大統領の息の根を止めることになるのではないか。

東洋経済オンライン

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最終更新:9/28(月) 15:01

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