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分断社会の解法示す「キーパーある兵士の奇跡」

9/28 8:11 配信

東洋経済オンライン

 第2次世界大戦で連合国軍の捕虜となってイギリスの収容所へ送り込まれたドイツ軍の兵士が、終戦後にサッカー選手としてイギリスとドイツを結ぶ平和の架け橋となり、 やがて国民的ヒーローとして敬愛された。戦争の記憶が色濃く残っていた時代に、なぜそんな奇跡を成し遂げることができたのか――。

 その実話を実写化した作品が10月23日から新宿ピカデリーほか全国の劇場で公開される『キーパー ある兵士の奇跡』だ。2019年にドイツのバイエルン映画祭で最優秀作品賞に輝き、アメリカ、 イギリス、フランスなどの映画祭で次々と観客賞を贈られるなど、世界中の観客から評価を得ている。

 ドラマチックかつ波瀾万丈な人生が描かれているが、本作のモデルとなったバート・トラウトマンはもちろん実在の人物だ。ドイツ軍の兵士として第2次世界大戦を戦っていた彼は、戦地で連合国軍の捕虜となり、イギリスのランカシャー収容所に送り込まれる。イギリスの収容所内での捕虜は過酷な労働が求められたが、その代わりに温かい食事が提供され、さらに仕事の合間にはタバコを吸ったり、サッカーをする自由も与えられていた。

■ドイツ軍捕虜が英国チームのゴールキーパーに

 そんなある日、トラウトマンは地元のサッカーチームの監督ジャック・フライアーにスカウトされ、ゴールキーパーとして無理やり試合に出場させられる。だが、チームメートは「ナチスと一緒にプレーはできない」と激しく反発する。もちろん観客からも激しい言葉が投げられる。だが、チームメートたちも真摯にプレーに打ち込むトラウトマンの姿を見ていくうちに、次第に彼に信頼を寄せるようになる。そして観客も彼を受け入れるようになる。

 戦後、収容所が解放されてもチームのためにイギリスに残ったトラウトマンは、 監督の娘マーガレットと結婚。さらに、現在でも名門サッカークラブとして知られる「マンチェスター・シティ FC」の入団テストに合格する。だが、戦争によって友人や家族を奪われた人も多い、戦争の記憶が色濃い時代のことである。ユダヤ人が多く住む街で、トラウトマン夫妻は想像を絶するような誹謗中傷を浴びることになる。試合中も観客のブーイングは鳴りやまない。

 それでも、トラウトマンは愚直なまでにゴールを守り抜き、マーガレットは力の限り夫を信じ続けた。やがてトラウトマンの活躍によって、世界で最も歴史のある大会でチームは優勝する。トラウトマンは真の英雄となるが、その一方で誰にも打ち明けられない“秘密の過去”を抱え、苦しんでいた――。

 キャストは、ドイツ、イギリスを代表する実力派俳優が集まった。主人公のバート・トラウトマンには、ケイト・ウィンスレット主演の『愛を読むひと』で注目を集めたデヴィッド・クロス。 ドイツ兵だったという過去の闇に葛藤しながらも、それでも人を愛し、愛されたいと願う人間味にあふれた魅力的な青年を演じた。

 彼の妻のマーガレットには、『サンシャイン 歌声が響く街』『モダンライフ・イズ・ラビッシュ ロンドンの泣き虫ギタリスト』のフレイア・メーバー。“敵”とみなしていた相手を“人”として愛するようになり、やがて逆境にさらされる夫を献身的に支えるマーガレットを力強く、魅力的に演じている。

 メガホンをとったのは、ドイツ国内で高い評価を受けるマルクス・H・ローゼンミュラー。彼はトラウトマンの人生を映画化するにあたり、「まずはすばらしいスポーツマンシップの話であることにひかれましたが、ただそれだけでなく、人間社会を描いているということと、和解と愛の物語だということに感動しました」と振り返る。

■分断社会を解決するヒント

 本作プロデューサーのロバート・マルチニャックは「彼はサッカーファン以外にはドイツでもあまり知られてない」と語る。イギリスでキーパーとしては初となるFWA(サッカーライター協会)年間最優秀選手賞を獲得するなど、その才能は認められながらも、イギリスとドイツという地理的な問題や政治的な理由などにより、ドイツ代表としてプレーすることはかなわなかったからだ。

 だが、映画公開時にはドイツサッカー連盟が本作の宣伝に協力し、その存在が広く知れ渡ることになった。そして映画が公開されると、ローゼンミュラー監督とプロデューサーのマルチニャックは、訪れたイギリスとドイツの映画館で、驚くほどたくさんの称賛と感謝を受けたという。

 戦争によって怒りや憎しみ、そして悲しみが増幅され、人々が分断されてしまう悲劇。それは現代にも通じるものがある。ローゼンミュラー監督は「敵だった人物が国民的ヒーローになる。それは、スポーツというものが、和解するために重要な役割を果たしていたことも示している」と語る。

 しかしそれは簡単なことではない。それでもローゼンミュラー監督はこう付け加える。「わたしにとって大切なのは、この完璧ではない世界で葛藤しながら、それでも完璧な世界を切望する人々を描くことでした。それは、誰もが罪悪感なく幸福に満ちあふれて過ごすことができる時間への強いあこがれでもあります」。

 分断社会を解決するヒントをも与えている作品だといえるだろう。

東洋経済オンライン

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最終更新:9/28(月) 8:11

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