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「PCR受診で住宅ローン借りられない」説の真実

9/26 6:11 配信

東洋経済オンライン

 住宅ローンを借りるとき、銀行や住宅金融支援機構は借り主に生命保険をかけます。この際の保険を「団体信用生命保険(団信)」といいます。

 この団信について最近、「PCR検査を受けると住宅ローンの団信に加入できない」という話を耳にしました。ある記事では「PCR検査自体は団信加入に問題ない」と結論づけていましたが、本当でしょうか。

■そもそも団信は何のためにあるのか

 団信の目的の1つに、借り主の遺族に借金が残らないようにすることがあります。例えば、働き盛りのお父さんが亡くなり、妻と子供が住宅ローンを引き継いで支払わねばならないケースが存在しえます。

 一般的に、借金を残して家族が亡くなった場合、(1)プラスの財産を上限に借金も引き継ぐ「限定承認」、(2)借金やマイホームなど財産の一切を相続しない「相続放棄」、という2つの選択肢があります。団信をかけておくことで、借金というマイナスの財産が存在しなくなるので、遺族は安心してマイホームに住み続けることが可能です。

 一方、お金を貸す金融機関にとっていちばん困るのは、住宅ローンの返済が行われなくなること。遺族が住宅ローンの支払いに窮するようでは、債権の管理上困りますし、回収不能になってしまえば、金融機関の財務諸表に小さいながらも傷がつきます。

 そうならないように、金融機関自らが保険料を負担することで住宅ローンを借りる際の条件となっているのが、団信なのです。遺族の味方か、金融機関の味方か、判断が難しいところです。

 (※ 住宅金融支援機構の提供する「フラット35」では、団信加入は任意となっています。また、一部の金融機関では団信なしで住宅ローンが借りられる措置もあります)

 ここで話を本題に戻しましょう。「PCR検査を受けた場合に住宅ローンが借りられなくなる」という話の真偽ですが、借りられないケースも出てくると考えられます。

 それはどのような場合でしょうか。まず、PCR検査を受けたが結果が出ていない場合が想定されます。通常の生命保険では、加入を見送る判断となるケースです。理由は「疾病可能性があるから」。

 例えば、月曜日にPCR検査を受け、火曜日に団信に申し込み、水曜日にPCR検査の結果が出る、という場合です。団信を申し込む火曜日の時点では感染したとはわからず、水曜日に初めて感染の有無がわかります。ということは、検査結果待ちのタイミングで団信を通すわけにはいかないことになります。

 また、何度かのPCR検査のあと、ようやく陽性が判明するケースもあれば、治療後に何度かPCR検査を実施して、何度目かに再度陽性となるケースもあります。

 このような可能性が存在する以上、「若ければ重症化リスクが低いから、コロナにかかっても住宅ローン返済に問題ない」というような、お金を借りる側の論理は通用しません。住宅ローンを貸した直後に、新型コロナウイルス感染症に伴う肺炎などで亡くなる可能性がある以上、団信を通すわけにはいかないのです。

■考えておきたいもう1つのケース

 もう1つ気になるのは、のちのち陽性と確定した場合と、濃厚接触など感染リスクの高い時期が団信申し込み前である場合です。一般的に保険に申し込む前の時点における何らかのリスクが原因で、保険加入後に発病・発症した場合、保険金支払いの対象とはなりません。

 例えば、以下のようなケースが考えられます。月曜日に職場でクラスターが発生し、火曜日にPCR検査を受け、木曜日に検査結果が出て陰性だった。そこで金曜日に団信に申し込み、その際にPCR検査を受けており、結果が陰性であったことを記載したところ、翌週月曜日に団信の審査が通った。

 しかし念のため、水曜日に再度PCR検査を実施し、金曜日に陽性と判明して自宅待機に。自宅待機期間中に当初の予定どおり住宅ローンを借りたものの、住宅ローンの融資実行後に急激に体調が悪化し死亡。このようなケースがないとも限りません。

 団信の引き受け側としては、加入延期の判断を行わないと、未知のウイルスによる予測不能のリスクを抱え込むことになります。こうなってくると、告知書の既往症や疾病歴を査定する保険会社の担当者がどのように判断するかによります。

 筆者の知る限りでは、保険の引き受けはAI(人工知能)ではなく、人手を使って査定しています。某銀行ドラマではありませんが、厳しい検査官と緩い検査官がいるわけです。たまたま厳しい検査官であれば、謝絶(加入不可)と判断され、たまたま緩い検査官だと保険が成立するということもありえます。

 つまり、PCR検査を受けて住宅ローンが借りられるかどうかは、保険会社のみぞ知る事項となります。ケースバイケースのため、大丈夫かどうかは団信申込書を提出しなければわからないのが現実。YESでもなければNOでもない、玉虫色の状態です。

 明確にしてほしいと考える読者もいると思いますが、保険の引き受け基準は保険会社ごとのノウハウ蓄積の結果でもありますので、積極的に開示することはありません。また、開示することは「モラルリスク」といって、危険性のある人がリスクを隠して保険に加入するということにつながりかねないため、注意が必要です。

 新型コロナウイルス感染症にかかると、後遺症が残る場合があるといわれています。完治したとしても後遺症で通院が続いているようだと、団信への加入を断られる可能性はあるでしょう。

 いったん完治したように見えて再発するケースもあるようですので、退院後や自宅療養終了後も一定期間は保険に加入できないようにするほうが保険会社としては安全です。感染が拡大してまだ1年も経っていないわけですから、積極的に罹患者に対して保険加入を許す姿勢にはならないと考えられます。

 今後、発症者に対する有効なワクチンが開発されるなど状況が変われば、完治後ただちに団信申し込みとなっても問題なくなるでしょう。

■告知義務に違反して借りるリスク

 筆者が管理しているWebサイトの人気記事に「団信の告知義務違反」があります。年間にすると約150万回検索されている計算ですから、いかに団信の告知義務違反が悩ましいテーマか、おわかりいただけるのではないでしょうか。

 10年前のことですが、筆者が住宅ローンの勉強会で団信の話をした際、不動産会社の方から団信の告知義務違反に関する話を聞くことができました。頭に手術痕が生々しい人であっても団信の告知をせず住宅ローンを借りたという話です。

 不動産会社は、住宅ローンの審査が通らなければ売り上げが上がりません。銀行は、住宅ローンを貸せなければ金利収入が得られません。窓口で対応する銀行員も知らぬふりをしていたということです。

 団信に告知義務違反をして住宅ローンを借りた場合のリスクは、(1)告知義務違反が判明した場合に住宅ローンの全額返済を求められる、(2)死亡、高度障害など団信の支払事由に該当しても保険金が支払われず、住宅ローンの支払いが遺族に引き継がれる、という点です。

 これらのリスクの先は何があるのでしょうか。想定されるのは、以下のようなケースです。

・支払い能力のない遺族に借金が残る。
・住宅ローンの全額返済ができないため、自宅を売ることになる。
・「住宅ローンの残高 > 自宅の売却価格」の場合、借金だけが残る。
・債務整理などを行うことで、それ以降の借り入れやクレジットカードの保有が制限される。
・債務整理の方法によっては一定の職業に就けなくなる。
 このようにいろいろと恐ろしい事態が待っているわけです。団信の告知義務違反の責任は、住宅ローンを借りた人とその家族に課されます。貸し手の銀行、売り手の不動産会社が対応することはありません。

 銀行が団信の告知義務違反をわざと見逃していた事実が判明すれば、何らかの対応をしてもらえる可能性もあるでしょう。しかし、あえて団信の告知義務違反をしようとしている借り主に対して、銀行や不動産会社が自分たちの不利になるような証拠を保存するメリットはありません。売り手や貸し手の悪しき助言の証拠を捕らえることはできないのです。

 筆者のお客様の中で、団信の告知について悩まれた方がいます。

 このAさんには健康診断結果に指摘事項があり、通常であれば団信に記載が必要でした。筆者が相談を受けた時点では、不動産会社から告知義務違反を勧められていました。筆者は「告知義務違反は辞めるべき」と伝え、告知義務違反が判明した場合のリスク(前述)を説明したところ、住宅購入をいったん保留することになりました。

 その数カ月後、Aさんはがんと診断されました。健康診断結果の異常を再度検査したところ、悪性新生物の診断となったのです。このタイミングでAさんからお礼のメールが届きました。「あのとき、告知義務違反をしてまで住宅を買わないでよかった」。短い文面でしたが、断固反対を貫いてよかったと思いました。

 実は、ご家庭の夢であるマイホーム購入を打ち砕いてしまったことに少なからず後悔をしていました。おそらく告知義務違反が判明するケースはそれほど多くない、むしろまれ。黙って買ってしまえばいいのではないかと思っていたのです。人の人生設計に口出しして、夢を叶えないなど余計なお世話ではないのかと悩みます。

 団信については、通常の生命保険販売と比べてコンプライアンスがザルといいますか、誰も責任を取らない体制であることが気になります。例えば、保険ショップで告知義務違反をして、のちに告知義務違反が発覚した場合は、販売した担当者が罰せられます。販売した店舗、販売した会社にも相応の処分が保険会社から下されます。

 一方、今の団信は「告知義務違反した者勝ち」の状況といえます。一定の割合で保険金支払事由に該当した場合に、運が悪かっただけのように評価されてしまいます。

 「団体信用生命保険 告知義務違反」とWeb検索すると、サジェストワードとして「時効」が表示されます。つまり、見つからなければ問題ないし、最悪見つかっても時効扱いでおとがめなしになるには何年平穏であればいいのか、と調べる人たちがいるのです。

 金融庁直轄の保険業界では、保険の告知義務違反は言語道断です。しかし、不動産販売は国土交通省の管轄です。住宅ローン自体は金融庁のテリトリーですが、団信販売が適正化される動きは見えません。縦割り行政の弊害なのか、団信の取り扱いはひどい状況です。

 一生に一度の買い物を諦めることができないのは仕方ないのですが、実際に告知義務違反をした人はどうなるのでしょうか。

■積極的な告知義務違反で住宅ローンを借りると…

 こんな事例もあります。先日、1本の電話を受けました。「団信の告知義務違反について」ということだったので、不動産会社が抜け道を知りたくて質問してきたのかと思いました。電話の主は、今回のテーマである「団信に告知義務違反をして加入した人」でした。

 話を聞いてみると、現在メンタル不調で就労できない状態となり、団信の就労不能条件に適合するとのこと。しかし、住宅ローンを借りる前からメンタル不調による通院を続けており、告知義務違反であることはBさん自身が認識していました。

 就労不能を原因として団信を活用し、住宅ローンの支払いを1年免除してもらう場合、医師の診断書を提出する必要があります。医師が診断書を書けば、住宅ローンを借りる前からの通院履歴が記載される可能性があり、告知義務違反とばれてしまうのではないか、ということでした。

 本件について、筆者は複数の金融機関に問い合わせをしてみました。情報が少ないこともあり明確な回答は得られませんでしたが、あるネット銀行からは「告知義務違反の場合は残債の一括返済となる」との回答がありました。

 Bさんは、(1)メンタル不調に伴う団信活用を見送る、あるいは、(2)ダメ元でメンタル不調に伴う団信活用に挑戦する、という2択で悩んでいました。おそらく今も悩んでいるでしょう。Bさんの場合はご自身が悪いので、根本的な解決策がなく、苦しい状況です。客観的に見れば、住宅ローンの一括弁済の可能性がある(2)の選択肢を選ぶ可能性は低そうですから、(1)を選択されるのでしょう。

 世の中には団信の告知義務違反をするかどうかで悩んでいる人が相当いらっしゃるようなので、今回記事にすることにしました。団信の告知義務違反により不幸のリスクを抱えたままの住宅購入がいいのか、住宅購入という夢を諦めるのか、その人の人生観が問われます。筆者も自分事であれば、告知義務違反をしない自信はありません。

■団信に加入できなくても住宅ローンは借りられる

 もちろん、団信に加入しなくても住宅ローンを借りる方法はあります。「住宅金融支援機構のフラット35を利用する」「銀行に団信なしで住宅ローンを貸してもらう」といったものです。

 住宅金融支援機構のフラット35は、団信への加入が任意となっています。したがって、そもそも団信に加入しないという方法を選択できます。

 また銀行によっては、事情を話せば団信なしで住宅ローンを貸してくれる場合があります。その代わり、借り主死亡の際は住宅ローン返済義務が遺族に引き継がれます。

 上記と併用する選択肢として、民間の生命保険を活用するという方法があります。最近は少なくなりましたが、独身の方で死亡保険金3000万~4000万円の生命保険に加入している人がいます。この生命保険を団信代わりに活用することが可能です。住宅ローンの借り入れを生命保険の保険金額の上限内に収まるようにすればいいのです。

 最近は、メンタル不調のために、若い人でも団信を含めた生命保険に加入できないケースを散見します。そのような場合に、若いころには加入の意味がないと思っていた生命保険を活用することができるのです。ただし、最近の生命保険は高額の死亡保障を若者に販売することが少ないので、団信代わりにならないこともあります。

 本稿を読んでいる人は、団信の告知義務違反を検討している人、告知義務違反をした人、住宅ローンの融資担当者、不動産会社、親や配偶者が住宅ローンを借りようとしている人など、多岐にわたるでしょう。

 関係者の皆さんには団信の告知義務違反を軽く考えず、お客様とご家族を守る最後の砦だという認識で取り扱っていただけるとうれしいです。いつの時代も、泣くのは弱い立場の人です。ご家族を弱い立場に追い込まないよう、団信は正しく告知をして加入してください。

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最終更新:9/26(土) 6:11

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