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コーセー、ポーラが注力する「私だけの化粧品」

9/24 5:21 配信

東洋経済オンライン

 タブレット端末の前に座り、顔を左右に1回ずつ振ると、顔がスキャンされて3Dデータとなる。目の前にあるレーザー加工機がそのデータをもとに不織布を切り取っていく。

 出来上がったのは、美容液や化粧水を浸透させ、顔に貼るシートマスク。スキャンも含めて要した時間はわずか5分だった。

 「化粧品は種類が多すぎる。その中から自分に最も適した商品を選ぶのは大変」。そんな悩みを解決するのが、肌などの特性を調べ、その人に合った商品を製造・販売するパーソナライズド化粧品だ。

■アメリカ発の技術を活用

 パーソナライズド・シートマスクの製造で7月からトライアル運用を始めたのは、化粧品大手のコーセーだ。旗艦店「メゾンコーセー」(中央区銀座)に行けば、顔の画像をスキャンし、シートマスクを1人につき3枚無料で作ってもらえる。パーソナライズド・シートマスクの提供は「日本で初めてのサービス」(コーセー経営企画部の森松孝之氏)だ。 

 市販されている既存のシートマスクでは、「自分の顔にフィットせず、乾燥しやすい小鼻の横を保湿したくてもできない」(20代女性)などの不満があった。しかし、その人の顔の形や大きさに合わせて作られるパーソナライズド製品であれば、そんな心配は無用だ。

 これを可能にしたのが、アメリカのスタートアップ企業「Bellus 3D」が開発した技術だ。顔の形を高精度でスキャンし、平面展開することができる。コーセーがこの技術に目をつけ、パーソナライズド・シートマスクに活用した。

 「自分に合ったものを選びたい」という消費者ニーズの高まりやAI(人工知能)、AR(拡張現実)などのテクノロジーの発展で、注目が集まるパーソナライズド化粧品。ベンチャー企業や異業種も同分野に続々参入している。

 ベンチャー企業のSpartyは2018年5月、パーソナライズドヘアケア商品「MEDULLA」を発売。さらに2020年5月にはパーソナライズドスキンケア商品「HOTARU PERSONALIZED」を市場に投入した。

 MEDULLAの2020年4月の売り上げは前年同月比で倍増の4億円。会員数は21万人で毎月3万人増のペースで広がっている。

 ロート製薬も2019年10月、パーソナライズ化したシャンプーやトリートメントなどのヘアケア商品「CONSTELLA」を子会社から発売した。アプリでの自己診断と美容師による診断を総合して商品を作る。

 同分野における国内の先駆者が化粧品大手のポーラだ。1989 年からパーソナライズドスキンケアブランド「APEX」を展開している。将来予想されるシミへの対応やニキビケア分析など進化を重ね、1人ひとりの肌分析の結果に基づき、その人にあった化粧水や日焼け止めを製造・販売している。

■肌の動きで肌の内部まで推定できる

 2019年にブランドを大幅刷新し、肌診断から結果が出るまでの時間は従来の約2週間から3分へと大幅に短縮された。最大の要因は診断技術の進歩にある。今までは角層を採取し、静岡県袋井市にある肌分析センターに郵送していた。それが新たに導入された技術と機器により、その場で以前と同レベルの診断結果が得られるようになった。

 グループ会社のポーラ化成工業が開発した分析技術では、肌の動きから肌内部の状態が推定できるようになった。タブレットに向かって、口を大きく開けたりすぼめたりし、動画を約14秒間撮影するだけでいい。肌分析カメラはソニーと共同開発したものを大幅刷新時に導入した。

 分析の詳細さには驚かされる。肌の「色・形」という項目では、水分やメラニンの量だけでなく、肌の老化の原因となる糖化の状態などもわかる。それらが5段階で評価され、顧客はスマートフォンで確認できる。

 年代別や居住地域別での平均値も示してくれるため、自分の数値と比較できる。居住地域はポーラが肌分析のために58地域に独自分類したもので、例えば、宮城県仙台市と熊本県阿蘇市、北海道稚内市と栃木県日光市がそれぞれ同じ地域区分だ。天候や地形などの違いで日本気象協会と相談して決定。気圧や日照時間、水蒸気密度などをもとに、同じ条件の地域を分類している。

 実際に診断を受けた女性は、「今まで乾燥肌だと思っていたが、意外にも肌の水分量は多かった」と驚く。ポーラ商品企画部の鈴木若葉氏によると、「7割の人が自分の肌を誤解している」という。つまり、肌の悩みと自分が思っている原因は一致していないわけだ。

 期待の高まるパーソナライズド化粧品だが、普及に向けた課題は残っている。

 先述したSpartyからOEM製造を受託するサティス製薬社長の山崎智士氏は、既存の化粧品との違いとして「バリューチェーン」を挙げる。既存の化粧品は商品を大量生産してから販売しているが、パーソナライズド化粧品は消費者からの注文を受けてから初めて製造に取り掛かる。しかも少量多品種が基本となるため、大量生産もできない。

■大量生産・販売が通用しない

 商品の受注から納品までのリードタイムも違う。今までは需要を予測し、商品を在庫としてストックしていた。ところがパーソナライズド化粧品は、受注から数日のうちに製品を製造し、発送する必要がある。

 化粧品メーカーでは大量生産を前提にした製造ラインや販売の仕組みができあがっている。パーソナライズド化粧品ではそれが根本から異なるため、「ソフトもハードも(パーソナライズド化粧品用に)専用の設備を整える必要がある」(山崎氏)。

 30年以上にわたってパーソナライズド化粧品事業を継続してきたポーラはこの点をどうクリアしているのだろうか。詳細は明らかにしていないが、製造に関しては少量生産の専用ラインを整えて効率化を図ったという。

 なお、パーソナライズド化粧品では商品数が大幅に増えるため、品質や安全性の管理も煩雑になる。ポーラは成分の似通ったアイテムを美容部員などが2週間ほど試して安全性や効能をチェックする「個対応テストを行って解決している」(商品企画部の鈴木氏)という。

 ポーラが現状として認識しているのは、「パーソナライズドの波は数年に1回来るが一過性のもので終わってしまっている」(APEXブランドマネージャーの田村明子氏)こと。過去のブームでは期待を超える満足を継続することやパーソナライズであるがゆえに口コミに頼れず、大きなうねりを生み出せなかった。はたして現在のブームは本物になるか。

東洋経済オンライン

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最終更新:9/24(木) 5:21

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