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貧困層とお金持ち「アベノミクス恩恵」の大格差

9/20 16:01 配信

東洋経済オンライン

 菅義偉首相率いる菅政権が誕生した。この菅政権が継承する安倍政権の総括がさまざまな角度からなされているが、ちょっと変わった視点でこの7年8カ月を評価してみたい。

 異次元の金融緩和を実施し、ETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)を日本銀行に買い取らせる非常時の金融政策を実施したアベノミクス。その最大の功罪は、富める者はますます富み、貧しいものはますます貧しくなった──とする社会の格差をそれまで以上に拡大させたことだと言われる。

 アベノミクスによって、本当に格差は拡大したのか。貧しい人々から見たアベノミクスとは何だったのか……、富裕層から見たアベノミクスの恵みとは何だったのか……。それぞれの立場からアベノミクスがもたらした成果について考えてみたい。

■実質賃金は下落、2人以上世帯の収入は増加

 格差社会と言われたときに、最も注目されるのが「賃金」だ。安倍政権時代の7年8カ月で、賃金は上がったのだろうか。まずはいくつかの統計から、その実態を見てみよう。

<実質賃金指数/毎月勤労統計調査>……7年間で105.3→99.6
 2015年を100とした実質賃金では、政権発足時の2012年の平均は105.3(決まって支給する給与)、そして2019年の平均は99.6。この7年間で賃金が5.7ポイント減った勘定になっている。安倍政権が賃金上昇を果たせなかった根拠として最も取り上げられている数字だ。

<実収入/家計調査>……7年間で月額6万7643円のプラス
 総務省の家計調査報告によると、「2人以上の世帯のうち勤労者世帯」の実収入を見てみると次のようになる。

・2012年……51万8506円(月額平均)
・2019年……58万6149円(同)
 月額で6万7643円、実収入が増えたことになっている。では使うことができるお金=可処分所得ではどうだろう。

・2012年……42万5005円(月額平均)
・2019年……47万6645円(同)
 月額平均で5万1640円の可処分所得が増えたことになる。この数字を見ると、アベノミクスは大きな成果を上げたと言っていいのかもしれないが、実質賃金指数の推移とは矛盾もある。安倍政権下では、働き方改革で主婦の多くが働きに出た。しかも、団塊の世代が本格的なリタイアの時期に差しかかり、世間では急速に人手不足感が出てきた時期でもある。その点は関係しているのかもしれない。

<平均給与/民間給与実態統計調査>……平均で32万7000円のプラス
 では、平均給与の視点で見るとどうなるだろうか。国税庁の民間給与実態調査によると、民間企業の給与は次のような推移となる。相変わらず男女格差は大きいが、それでもこの7年間で大きく伸びた。(1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たり平均給与)

・2012年……408万円
・2018年……440万7000円(男545万円、女293万1000円)

<平均給与/正規雇用者と非正規雇用者の格差>……正規+35.9万円、非正規+11.2万円
 同調査では、2016年から男女別の平均給与を発表している。さらに、2012年からは正規雇用者の平均収入も公表している。それによると、正規雇用者と非正規雇用者の平均給与は安倍政権時代に次のように変化している。

・2012年……467.6万円(正規)/168.0万円(非正規)/296.6万円(正非格差、以下同)
・2013年……473.0万円/167.8万円/305.2万円

・2014年……477.7万円/169.7万円/308万円
・2015年……484.9万円/170.5万円/314.4万円
・2016年……486.9万円/172.1万円/314.8万円
・2017年……493.7万円/175.1万円/318.6万円
・2018年……503.5万円/179.0万円/324.5万円
 正規労働者は35万9000円ほど上がった一方で、非正規労働者の上昇分は11万円にとどまる。正規雇用者と非正規雇用者との間には、絶対額で実に「324.5万円(2018年)」もの差がある。2012年から正規雇用者と非正規雇用者の収入の格差がさらに広がった。

 安倍政権は2013~2019年の7年間で新規雇用者数を447万人(総務省統計局、労働力調査)増やした。安倍前首相は辞任会見においても「400万人を超える新規雇用を生み出した」と胸を張った。ただ、その実態は非正規雇用者数が254万人と、新規雇用者の56.8%を占めている。

 少なくとも富裕層ではない世帯では、女性活用社会などのキャッチフレーズに基づいて「働き方改革」のスローガンのもとに、専業主婦や定年退職した後の高齢者などが働いて、世帯全体の収入は上昇したという側面はありそうだ。

■少し改善した「相対的貧困率」

 OECD(経済協力開発機構)の報告によると、日本の非正規雇用の労働者は今や雇用全体の38%に達しているそうだ。非正規雇用者の賃金の低さや職業訓練などの機会を得られないことによる格差が拡大し、日本にはいまや、その地域の周囲の人に比べて極端に貧しいことを示す「相対的貧困」に陥っている人々が、先進国の中ではアメリカに次いで多くなっていると言われる。

 その相対的貧困率を見る限り、少しは改善したものの、大きな効果を上げたとは言えない。

<相対的貧困率>……ほぼ横ばい
・2012年……16.1%(国民生活基礎調査・厚生労働省)
・2015年……15.7%(同)
・2018年……15.4%(同)

 厚生労働省が3年ごとに実施している「国民生活基礎調査」によると、「子どもの貧困率」は、2012年=16.3%、2015年=13.9%、2018年=13.5%となっており、依然として7人に1人の子どもが「貧困状態」であることがわかっており、これも大きく改善はできていない。

 ちなみに、国立社会保障・人口問題研究所が2017年7月に実施した「生活と支え合いに関する調査」によれば、「ひとり親世帯(2世代)」の約36%が食料の困窮経験が「あった」と答えている。食糧の困窮経験といえば「絶対的貧困」にも相当する深刻な問題だ。

 法人統計によると安倍政権時代には約4割の経常利益が増えた。

<法人企業統計、経常利益、全社>……24兆2796億円の増加
・2013年……59兆6381億円(全産業)

・2018年……83兆9177億円(同)
 輸出産業などは為替市場の円安効果もあったとみられる。一方、企業の人件費はこの7年間で196兆円から208兆円へとわずかな伸びにとどまっている(法人企業統計)。ここには正規雇用者と非正規雇用者の収入の格差があり、利益を上げた要素の1つに人件費を抑えたことが入っているだろう。さらに、企業は内部留保という形で400兆円を超える資金を貯め込んだ。

■アベノミクスの成果で「消費」は増えたのか? 

 さて、安倍政権時代の「消費」はどうだったのか。各種の数字を見てみよう。

<家計支出>……7年間で8万6521円のプラス
 家計の中で支出する金額「家計支出」が増えたかどうかを見る指標。家計支出には、生活に必要な「基礎的支出」と、それ以外の「選択的支出」がある。2人以上の世帯のケースで見ると……。

●2012年
・家計支出……343万4026円
・基礎的支出……190万4710円
・選択的支出……152万9317円

●2019年
・家計支出……352万0547円
・基礎的支出……200万2085円
・選択的支出……151万8463円
 ちょっとわかりにくいかもしれないが、安倍政権下で家計の支出は8万6521円伸びた。ただし、食品や家賃、光熱費、保険医療といった必需品的な「基礎的収支」は9万7375円増加し、逆にぜいたく品的な選択的収支は1万0854円減少している。

 実際に、日本の個人消費は2013年の第1四半期には297兆円程度だったのが、一時的に305兆円(2014年第一四半期)を超えたことがあったものの、コロナ禍が始まる直前の2019年第4四半期には295兆円程度となり、7年8カ月もかけた経済政策は個人消費を飛躍的には伸ばせなかった。

 一方、安倍政権の成果の1つに掲げられるものに「株高」がある。

<日経平均株価>……7年で1.3倍
・2012年12月25日……1万0080円
・2020年8月28日……2万2882円
 安倍政権最大の功労であり、また最も力を入れた政策だった株価だが、ざっと2.3倍となった。安倍政権の誕生時に、日経平均に連動するETFを100万円買っていたとしたら、230万円(税引き前)になったことになる。

 一方、株式と並んで典型的な資産と言える不動産はどうだろう。

<首都圏マンション平均価格>……7年で1440万円の価格上昇
・2012年……4540万円(不動産経済研究所調べ)
・2019年……5980万円(同)
 となっている。

 この7年間で、1440万円上昇したことになる。ちなみにコロナ禍の現在、平均価格は6124万円(7月)と、さらに上昇。首都圏に限らず近畿圏などのマンション価格も上がっている。一方で、マンションが高くなりすぎて買えない、あるいは買うのに苦労するような人が出てきている。

 「不動産価格指数(国土交通省)」の2012年12月~2019年3月の数字を並べてみよう。

<不動産価格指数>……マンション以外ほぼ横ばい
・住宅総合…… 98.6→115.5
・住宅地…… 94.5→104.2
・戸建て住宅…… 99.6→103.3
・マンション…… 101.2→ 148.8
 マンション価格だけが大きく伸びて、価格の下落は止まりつつあるものの、住宅地や戸建て住宅は、この7年間でやや上昇傾向を保ったと言う程度だ。地方では相変わらず、下落傾向が続いている。 

 都市部に本社を持つ一流企業や、都市部に住む富裕層が大いに恩恵を受けた7年8カ月だったと言っていいだろう。安倍政権の支持を最も鮮明にしている層と言っていい。

■消費税2回アップ、国民負担率は5%上昇? 

 第2次安倍政権時代には、消費税を5%から8%、そして8%から10%(1部を除く)と2回も税率をアップさせた。当然のことながら租税負担率や国民負担率といったものが上昇することになる。安倍政権時代の国民負担率(対国民所得比)の推移を見てみると、次のようになる。

<国民負担率>……4.9%の負担増
・2012年……39.7%
・2020年……44.6%(見込み)
 問題は、消費税のような貧富の差なく幅広く課税する間接税は、当然ながら家計全体に占める税金の比率が高くなるため、貧困層には重く、富裕層には軽い税金となる。そういう意味では、安倍政権はやはり貧富の格差を拡大させたと言っていいのかもしれない。

 国民負担率と言うのは、「租税負担率+社会保障負担率」のことで、日本の場合、2020年度の見込みで租税負担率が26.5、社会保障負担率は18.1%となっている。これはイギリスの47.4%(2017年)に迫るものであり、ドイツの54.1%(同)にも近づきつつあることを物語っている。

 ただし、ドイツやイギリスは、日本よりも医療費等の面で高い行政サービスを実現させており、今回のコロナウイルスのパンデミックでもその違いが鮮明に出た。

■仕事にありつけない人は減った

 安倍政権時代、いわゆる貧しい人であっても恩恵はむろんあった。賃金は安いものの仕事にはありつけた人が多かったはずだ。例えば、求人数に対して求職数がどの程度あるのかを示す「有効求人倍率」は、コロナ禍で最近は落ちてきているものの、安定した伸びを見せた。また、安倍元首相が指摘するように、失業率も安定的に改善してきた。

<有効求人倍率>……0.82倍→1.622倍
 高いほど就職しやすいとわかる指標が有効求人倍率だ。政権交代の2012年12月の有効求人倍率は0.82倍。求職者1人に対して、0.82の仕事しかない状態だった。しかし安倍政権誕生以来、改善の一途をたどり、2018年には1.622倍まで回復している。

 ただ、コロナ禍で現在は下落し続けており2020年の7月には1.08倍にまで下落している。

<失業率>……4.5%→2.3%

 完全失業率は、安倍政権発足時の2012年12月には4.5%(季節調整値)だったのが、その後一貫して下落し続け、2019年5月には2.3%にまで少なくなっている。完全雇用の状態というよりも、人手不足の時代と言っていいだろう。

 自助努力を前面に出していた安倍政権のもとでは生活保護などのセーフティーネットはあまり当てにできなかったわけだが、少なくとも仕事はあったわけだ。

 これらをまとめれば安倍政権の7年8カ月は富裕層や大企業にとっての恩恵が貧困層よりも大きく、格差が広がったという世間一般の指摘は当たっているといえる。

東洋経済オンライン

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最終更新:9/20(日) 16:01

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