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コロナ感染より「隔離・制裁」を怖がる人が多い

9/20 6:11 配信

東洋経済オンライン

 筆者は都内の20カ所の企業で嘱託産業医および精神科臨床を行っていますが、最近、現役世代の人たちと面談をしていると非常に複雑な気分に襲われます。というのは、新型コロナ感染症に対して、次のように怖がる人が増えているからです。

 「コロナに感染するのはあまり怖くないけど、2週間近くも隔離されるのが困る」「もしコロナに感染しても風邪程度で治るだろう。でも自分が会社の同僚や取引先のお客様を濃厚接触者にしてしまうと迷惑をかけてしまって恨まれるのが怖い」「健康だからコロナに感染しても無症状か軽症で終わると思うけど、自分が感染すると子供が学校に行けなくなるし、差別されて仲間外れにされるだろうから絶対に避けたい」

 つまり「コロナウィルス感染自体は怖くない」が、「感染したら自分も周りも隔離されることで生じる社会的制裁が怖い」ということを異口同音に訴えるのです。このような恐怖感が広がってきているのは、非常におかしなことだと思いませんか? 

■恐怖の対象はウイルスではなく「隔離・制裁」

 3月末に緊急事態宣言が発せられた前後は、マスコミ(特にワイドショー)と一部の過激な有識者によって「コロナは恐ろしい殺人ウィルスだ。感染すると老いも若きもバタバタ死ぬ」といった間違ったイメージが流布されたため、真剣にコロナに罹患することを恐れている人が多数いました。

ですが、今は数々の統計データや研究結果も集積され、一部の良識あるマスコミでは真実に基づいた報道もなされるようになった結果、「コロナで重症化するのは、日本でも世界でも70歳を超えた高齢者と基礎疾患者がほとんどである」「健康な現役世代や若者・子供にとっては、ほとんどが風邪症状か無症状で治癒する」「日本は、厳しいロックダウンをしなかったにも関わらず、世界でも死者数・重症者数が非常に少ない」という事実が知識層を中心に幅広く理解されるようになってきました。(東洋経済オンライン記事『新型コロナ、日本で重症化率・死亡率が低いワケ』参照)

 このようにコロナウィルス自体に対する恐怖感は薄らいできたにも関わらず、コロナに感染すれば濃厚接触者も含めて隔離されるために、「他人に迷惑をかけて恨まれたくない」「差別や迫害を受けたくない」という社会的な理由による恐怖感がはびこってきています。筆者はこれを一言で表現するならば、「隔離・制裁恐怖」だと考えます。

 この人々の間に蔓延する「隔離・制裁恐怖」は、経済活動はもちろんのこと社会活動の大きな足かせとなり、多方面で悪影響を生じています。

内閣府が17日発表した2020年4~6月期の国内総生産(GDP)は前期比年率で28.1%減り、リーマン・ショックを超える戦後最大の落ち込みとなりました。エコノミストによると人々が国内の活動を制限していることだけで、毎日400億円が失われている計算になるそうです(参考記事『政府は「新型コロナの恐怖」政策を見直すべきだ』)。

 解雇や雇い止めにあった人は9月11日時点でが5万8417人に上るとのことです(厚生労働省発表資料)。失業者が増えれば自殺が増加することは以前から懸念されていましたが、悲しいことに今年8月の全国の自殺者は前年同月比で246人、15.3%も増えて1849人となったことも判明したのです。例年8月は少ないのですが、今年は7月よりも54人増加しました。

 経済への影響だけではありません。大学はクラスターの発生を恐れていまだにリモート授業のままのところが多く、苦しい受験勉強を経て晴れて大学生になったものの一度もキャンパスに行けず友達との交流もできない、実験や実習も画面で先生がやっているのを見ているだけという学生も少なくありません。

■過剰な感染対策で子どもの教育に大きな支障

 小・中・高等学校では運動会や文化祭、スポーツ大会といった主要行事が軒並み中止となっています。また過剰な感染対策を敷いている学校もあり、「給食中の私語禁止」「外遊び制限」「授業中の発言抑制」などが現在も行われており、子供たちの人間関係づくりに大きく支障を来しています。

 このように子供、青少年、若者たちの重要な集団教育やコミュニケーション訓練の場がことごとく奪われており、筆者は精神科医として日本の近未来を担う若い世代の心身の健全な発育が阻害されていることを非常に危惧しています。

 実際に8月18日に公表された国立成育医療研究センターの調査でも、「新型コロナウイルスのことを考えると嫌な気持ちになる」「集中できない」など何らかのストレス症状を抱えている子どもが72%に上ることが判明しています。また32%の子供が、「家族や自分がコロナになったら秘密にしたい」と答え、40%の子供が、コロナに感染し回復した人と「一緒に遊びたくない人が多いだろう」と答えたそう。大人だけでなく子どもたちまでが新型コロナによる差別を恐れ、偏見を抱えていることが明らかになっています。

 このような「隔離・制裁恐怖」が人々の間に蔓延し強大な社会ストレス化している原因としては、新型コロナウィルス感染症が指定感染症(二類感染症相当)にされていることがかなり関与していると思われます。

 現在、新型コロナウィルス感染症は、2020年1月28日から2021年2月6日までの期限つきの「指定感染症」とされており、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、鳥インフルエンザ(H5N1、H7N9)などと同じ二類感染症に相当する分類とされています。二類感染症は致死率が高い感染症グループで、「診断・死亡時の届け出」「就業制限」「入院の勧告措置」などが義務づけられています。

■致死率で見れば季節性インフルエンザとほぼ同等

 ちなみにSARSの致死率は9.6%、MERSは34.4%、鳥インフルエンザは50.0%です。しかし新型コロナの致死率はPCR検査が拡大するにつれてどんどん低下し、現時点(9月19日現在)で計算すると1.9%ほどです。さらにソフトバンクや横須賀市などが実施した抗体検査(ソフトバンク結果抗体陽性率0.43%、横須賀市結果では1.04%)で推定される潜在的な感染者数を勘案すると、実際の致死率は0.2~0.1%以下となり他の二類感染症に比してはるかに低い致死率であるばかりか、季節性インフルエンザ(致死率0.1% 五類感染症)とほぼ同等であることが推定されます。

 しかも現在の新型コロナ感染症は、二類感染症どころかさらに致死率の非常に高いエボラ出血熱(致死率はなんと50~90%! )と同じ一類感染症の扱いをされており、「無症状でもPCR検査が陽性になれば入院・隔離」が原則です。濃厚接触者となれば、PCR検査が陰性であっても14日間の健康観察が必要となり、仕事や学校に行けなくなるのです。

 無症状者・軽症者でも入院やホテル療養が基本となっていることで、重症者のためのベッド数を圧迫し、医療スタッフに過度の負担がかかっています。

そこで8月頃から新型コロナウィルス感染症の「指定感染症」(二類感染症相当)指定を解除すべきという声が急速に高まり、政府の新型コロナウィルス対策本部が検討を始め、8月28日に「新型コロナウィルス感染症に関する今後の取り組み」(いわゆる「新パッケージ」)を決定しました。

 そこには「軽症者や無症状者について宿泊療養や自宅療養での対応を基本とし、医療資源を重症者に重点する」と明記されました。追って9月18日の厚労省・作業部会でも承認されたことにより今後は「入院は重症化しやすい65歳以上の高齢者や持病のある人、年齢に関わらず症状が重くて入院が必要な人」「軽症者や無症状者は宿泊療養か自宅療養」が徹底されるように政令化されるようです。しかし指定感染症の解除については触れられませんでした。

新型コロナウィルス感染症対策において隔離が徹底されている理由は、「無症状者からも感染させることがある」という従来からの知見にあると推測されます。ところが、これについては最近、「無症状者からの感染は非常に稀である」という研究結果が、Annals of Internal Medicineという権威ある学会誌に発表され注目を集めています。(原文:Contact Settings and Risk for Transmission in 3410 Close Contacts of Patients With COVID-19 in Guangzhou, China)

 この研究は中国広州での新型コロナウィルス初感染者391人とその濃厚接触者3410人を2020年1月6日から3月6日まで追跡した大規模な調査結果を論文にまとめたものです。

 結果は「3410人の濃厚接触者のうち、127人(3.7%)が2次感染し、初感染患者の重症度が増すにつれて2次感染率は高くなった。無症状患者からは0.3%、軽症患者からは3.3%、中等症患者からは5.6%、重症患者からは6.2%の感染率であった」というものでした。

■「検査して隔離」は海外でも常識ではない

 この論文の著者たちは、「新型コロナ患者からの2次感染は比較的少ないことがわかった」「より重い症状を持つ新型コロナ患者が高い感染力を有している一方、無症状者からの感染力は非常に限定的であることがわかった。これは2月にWHOが出した(同様の)レポート結果に合致している」と結論づけています。

 この研究結果は、今までの無症状者からの感染を警戒し、厳重に隔離対象としていた国々の対策に大きな一石を投じるものです。

またPCR検査の鋭敏すぎる感度による偽陽性率の高さも問題になっています。PCR検査で見つかった陽性者のうち実際に感染力があるのはわずか10%程度です。アメリカ疾病対策センター(CDC)でも、さまざまな議論があったようですが、現状で無症状者については「6フィート(約183センチメートル)以内の距離で少なくとも15分以上の濃厚接触者」にしか検査を推奨していません(Considerations for who should get tested)。日本の一部メディアでは「アメリカでは検査して隔離が常識」と誰でも検査を受けているように書いていますが、事実ではありません。

 大変興味深いことに、「ロックダウンは科学的エビデンスがない」として行わなかった国、スウェーデンでは、集団免疫がほぼ獲得されてコロナ感染が収束し世界で注目を集めています。現地在住の医師・宮川絢子先生に伺ったところ、スウェーデンでは「無症状の人は一貫してPCR検査をしていない」そうです。「濃厚接触者においても、症状がなければ基本的に検査はしていない」とのことでした。例外は介護施設勤務者であるなど特別な場合です。

 つまり症状のある人だけがPCR検査を受け、本当に治療の必要な人のみが入院し、陽性でも軽症ならば自宅療養になる。濃厚接触者になっても無症状の人は、ソーシャルディスタンスをとることを推奨されるのみで、基本的には仕事や学校に普通に行けるとのことでした。今後、家庭内での濃厚接触者に対しては扱いが変わる可能性があるそうですが、いずれにせよ日本と比べて圧倒的に隔離対象になる割合も少なく、医療機関にも無駄な負担がかかりません。

■スウェーデンでは感染者への偏見がない

 宮川先生によるとスウェーデンでは、コロナ感染者対して日本のような偏見や差別が一切存在せずに、もし感染したとしても「コロナにかかっちゃったよ」と軽い雰囲気だといいます。ちなみにスウェーデンは当初は介護施設での院内感染が原因で死者数が増えましたが、職員の検査と健康管理を徹底したのちに死者数は激減し、8月に入ってからは1日数名~0人となっています。

 日本はスウェーデンに比べて死者の総数が約5分の1であるにもかかわらず、国民の不安や恐怖感は比べ物にならないほど大きく、クラスターが発生すると大学や会社が謝罪して感染者は非常に肩身の思いをさせられます。地方では露骨な迫害が発生しています。これはコロナウィルスそのものによる恐怖だけではなく、「隔離・制裁恐怖」によるところが非常に大きいように思われます。

 今後は世界の動向とともに、日本でも新型コロナ対策がどんどん見直されていくものと思われますが、国民に蔓延している「隔離・制裁恐怖」が解消される事を願ってやみません。

 ちなみに、コロナ感染後の後遺症についても、一部のメディアで過激に報道されていますが、筆者の関わったコロナ感染者約20名は、その家族(子供も含む)ともに後遺症はまったくなく全員元気に復帰されています。このことについては次回詳しくご紹介したいと思います。

 謝辞:本コラム執筆にあたり、宮川絢子先生(スウェーデン・カロリンスカ大学病院泌尿器外科医師)、松岡伸英先生(八尾徳洲会病院肝臓外科医師)に助言・協力を頂きました。ここに厚く御礼申し上げます。

東洋経済オンライン

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最終更新:9/23(水) 15:23

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