IDでもっと便利に新規取得

ログイン

取引先に提案が通らない人がわかってない急所

9/19 11:31 配信

東洋経済オンライン

自分のやりたい仕事を進めていくためには、社内外でそれを「通す」ことが不可欠となります。とくにビジネスパーソンが仕事の取引先に納得してもらって提案やプレゼン、企画を「通す」には、どのようにするのが有効でしょうか。拙著『通す力 GOサインを得るコツ55』でも解説している中から3つのコツをお伝えします。

(1)提案者は五者であれ──「芸者」「役者」「易者」「学者」「医者」
 「素の自分」って、いったいなんでしょうか。

 私は自分の子どもに接するとき、決して「素の自分」ではありません。父親を演じています。講師をしているときは、「講師の自分」を演じています。

 アップルの共同設立者の1人であるスティーブ・ジョブズは、プレゼンの天才といわれていました。iPhoneの新製品発表会では、身振り手振りで「アップルが電話を再発明する」といった名言を吐きながら、見るものの心をつかみました。彼は「素の自分」で、こうした会見に挑んでいたでしょうか。そんなはずはないでしょう。彼は、さまざまな役回りを演じていたと私は分析しています。

 私はそれを「芸者」「役者」「易者」「学者」「医者」という5つの演者だと解釈しています。

■明るい未来を予言する役割も必要

 ① 芸者

 退屈なプレゼンは話を聞いてもらえません。ジョブズは、前述の「アップルが電話を再発明する」と発言したあと、昔の回転式ダイヤルのついたiPodの写真を見せて、会場を笑いに包みました。このように場を盛り上げるには「芸者」を演じていました。

 ② 役者

 プレゼンの場では、「素の自分」ではなく、その製品やサービスの特長を理解させ、興味を持ってもらう必要があります。一方で、素の自分のままだと、恥ずかしさが先立ち、しっかりとしたプレゼンをすることができないものです。だから「役者」として、そのキャラクターになりきっていると、思い切ったプレゼンができるようになります。ジョブズはもちろんこれをやっていたでしょう。

 ③ 易者

 ジョブズは初代iPodを紹介するとき「1000曲をポケットに」と発言しました。それを聞いた聴衆は、何を思うでしょうか。「外出中でも、いつも好きな音楽を聴くことができるんだ」と、明るい未来を想像するようになります。

 ジョブズは自信を持って明るい未来を予言した。これは「易者」──つまり、占い師の役割です。

 ④ 学者

 ジョブズのプレゼンは「シンプル」です。くどくどと語らず、その製品やサービスの魅力を端的に伝えています。漏れがないように、いろいろなことを伝えるプレゼンでは相手に響かないのが一般的です。いちばんの魅力を伝えるには、深い製品知識を身に付けておく必要があります。これは「学者」の役割です。

 ⑤ 医者

 人が製品やサービスを買うときは、何か困り事、不満、不便、不具合を解消するときではないでしょうか。だからこそ人の困りごとを助ける提案、アプローチをする。ジョブズはこの点において「医者」の役回りを果たしていたと私は思います。

 5者すべてをつねに演じられる人はなかなかいないでしょう。その必要もないはずですが、こうした観点を持っていると、プレゼンや提案の質や相手の受け止め方に影響を与えるはずです。

(2)提案するときは、いろいろな角度から
 プレゼンのとき、その製品やサービスのメリットを1つだけに絞って話す人がいます。しかし、それでは相手に「いい製品(サービス)だ」と伝わりにくいことも少なくありません。

 プレゼンする側は、その製品やサービスを熟知していますが、相手は、まったく知らない状態です。それなのに、そのメリットを絞って伝えると、相手はそれ以外の利点に気づきにくくなるからです。

■iPhoneは「革命的な3つの新製品」だった? 

 またもスティーブ・ジョブズを引き合いに出してしまいますが、彼が「初代iPhone」のプレゼンをするとき、「本日、革命的な新製品を3つ発表します」と言って、こう続けました。

 「1つ目。ワイド画面、タッチ操作iPod。2つ目。革命的な携帯電和。3つ目。画期的ネット通信機器。

 3つです。

 タッチ操作iPod、革命的携帯電話、画期的ネット通信機器。

 iPod、電話、ネット通信機器。

 iPod、電話、おわかりですね。

 独立した3つの機器ではなく、1つなのです。名前はiPhone」──。

 もし、ジョブズが「革命的携帯電話」という点に特化してプレゼンをしたら、これまでの一歩先を行く携帯電話くらいの印象しか、世間に与えられなかったかもしれません。その点、3つの特徴を挙げたことによって、見ていた側は「初代iPhone」が、自分たちの想像のはるか上をいく製品であることに気づいたのです。

 スマートフォンと呼ばれるデバイスが誕生した瞬間でもあったでしょう。

 特徴がそれほどなかったとしても、角度を変えて、アピールすることは別の魅力を打ち出せることにもつながるはずです。「時短を実現するサービス」であれば、「残業がなくなる」のほか、経営でいえば「残業代を減らせる」メリット、家族からの視点でいえば「子どもと一緒にお風呂に入れる」メリットが浮かび上がります。

 地球規模でいえば「エアコンの稼働時間を減らせて、CO2削減を実現できます」とさえ訴えることもできます。

 複数のメリットをアピールすると、相手は、製品やサービスのよさに気づいてくれます。だから、いろいろな角度から攻めていくことが大切なのです。

(3)提案は社会的意義を伝える
 取引先に企画を提案して通したい場面では、どうしても「御社のため」というキーワードを使うビジネスパーソンは少なくないでしょう。確かに「このサービスで残業が2時間減ります」「ほかにはない機能ですので、売り上げが確実に上がります」といった言葉は、相手に直接刺さる言葉です。

 しかし、それだけが求められてもいません。昨今のビジネスは、単に製品を作ったり、サービスを提供したりすること以上の意味が求められています。その製品やサービスによって、どのように社会に貢献できるかが問われるような社会情勢になっているからです。

■社会的意義の提案は、相手を前向きにさせる

 とくに、2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震、2019年の令和元年東日本台風、そして2020年の新型コロナウイルス騒動などを通じて、企業側が「儲け」だけを目的にすれば、社会から糾弾されることを肌で知っています。

 つまり、「御社のために」の先にある「この製品を導入することで、どのように社会に貢献できるか」を伝えることが大切になってきているのです。例えば、残業が2時間減るとしたら「どれだけのCO2を削減できるか」「親と子がどのくらいの時間一緒にいられるか」といったことまでアピールする必要があります。

 ポイントの1つは、取引先の「創業理念」。多くの会社では、自社のホームページに掲載しています。その理念に沿った社会的意義をアピールするのです。

 社会的意義をアピールすると、聞いた側が「それは違う」と真っ向から否定することは難しいででしょう。「儲かればそれでいい」などとは、口が裂けても言えないと思います。これが通す場面において、大きな威力を発揮します。

 「会社」という言葉をひっくり返して「社会」にする。単に「自社の商品やサービス」という狭い視点で売り込むのではなく、「自社の商品やサービスを通して社会に貢献できる」という広い視点での社会的意義のある提案。自分さえよければそれでいいという「利己」的な考えではなく、世のため人のためになるという「利他」の精神こそが、相手の前向きな検討・支持につながるはずです。

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:9/19(土) 11:31

東洋経済オンライン

投資信託ランキング