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Knotが国産腕時計メーカーとして絶対守る牙城

9/17 8:21 配信

東洋経済オンライン

日本の伝統工芸の技術で作られたベルトと、高品質で優れたデザインの時計本体を自由に組み合わせ、自分好みの腕時計を低価格で提供する国産腕時計「Knot」。「Knotが上質な国産腕時計を1万円台で出せる訳」(2020年7月16日配信)に続いて、「Knot」創業の経緯や変化しつつあるブランド戦略についてKnot社長の遠藤弘満さんに聞いたインタビュー後編をお届けする。(取材はZoomで実施)

■いいものを作っていれば、必ず売れる? 

 ――「Knot」のベルトは、日本各地の職人技術によって作り出される伝統工芸品が取り入れられています。「MUSUBUプロジェクト」という取り組みを通して、日本に息づく繊細で丹念なものづくりを世界に向けて発信されていますが、日本のものづくりが抱える現状や課題について、どのようにお考えですか。

 最初のころは、メイドインジャパンにそこまで強いこだわりはありませんでしたが、日本のものづくりの現場の方や経営者の方々と話す中で、私の中に使命感がどんどん生まれてきました。

 日本の職人さんたちは、「いいものを作っていれば必ず売れる」という思い込みがありますが、実際は違います。「これはなんとかせにゃいかん」と思い、日本の伝統工芸と世界を結んでいくことを心に決めました。Knotはものづくりを担当している素材メーカーさんや職人さんたちを“パートナー”として、店舗やウェブサイトで積極的にPRを行っています。

 ――製造業や開発現場は、少子高齢化に伴う後継者不足の問題も抱えています。ものづくりの魅力を次世代に伝えるとともに、世界に発信する取り組みを行っているんですね。

 東京オリンピックの開催が2020年に決まった際、政府はインバウンド(訪日外国人観光客)を年間2000万人と予測し、大手百貨店各社も「ニッポン」のものづくりフェアを開催し、和装小物や焼物などを売っていましたが、需要がすごくあるかというと疑問です。というのも、そもそも日本人の間で人気が高いワケではない。なのに外国人だったら売れるのかと。

 職人さんたちの中には自分たちの作ったいいものが売れない理由について、「お客さまがモノの価値をわかっていないから」「値段だけで中国製を選んでいる」と思い込んでいる人がいるのです。

 彼らが培ってきた世界に誇る素晴らしい技術や素材をどうやって伝えていくかが大切です。そのためには世の中の変化を察知して、消費者の需要に対応したものを作る必要があります。情報の発信の仕方についても、例えば新聞に広告を出しても今は昔のような効果はないので、若い人をターゲットにするならデジタル媒体で伝えるなどの工夫も求められるでしょう。残すものは残しながら、変えるものは変えていかなければなりません。

 ――「作る」と「届ける」ということはまったくの別モノ。作り手側は、「どのような届け方をするか」ということを考える必要がありますね。

 われわれはメーカーですが、製造をしているわけではありません。製造をしているのは、職人である“パートナー”。われわれの役割は、企画やお客さまとのコミュニケーション、PRなどの“ディレクション”をすることです。

 日本のものづくりの素晴らしさを世界に訴えることと同じくらい重要な役目は、“たくさん売ること”です。ビジネスを作ることが、工場や職人さんの豊かさにつながるのです。

■生産者と良好なパートナーシップを築く

 ――Knotの店舗には、時計だけでなく「MUSUBUプロジェクト」のパートナーの素材を生かしたお財布も販売されていました。

 Knotで開発する製品は、作る意味や価値がないものは絶対に作りません。

 お財布にも作った意味があります。

 腕時計のベルトはものすごく売れていますが、時計のベルトに使う革の量は、1本300㎠ほどしかありません。例えば革の仕入先の1つである栃木レザーのベルトが1万本売れて「Knot」が繁盛したとしても、栃木レザーからしたら、1万本のベルトはたった70~80枚の革しか売れていません。パートナーシップにおいて良好な関係を築くためには、もっと革そのものを買って、栃木レザーの売り上げも上げていきたいと考えているのです。

 これは栃木レザーに限らず、時計のベルト以外のもっと面積が大きいものに、弊社のパートナーの素材を使うことができれば、彼らの売り上げはもっと上がりますので財布も手掛けるようになりました。自分たちのエゴや、自分たちだけの儲けにしかならないようなものはKnotはやらないと決めています。

 Knotは、ものを作ってくれているパートナーと、それを買ってくれるお客さまがいて、「Knot(結び目)」のわれわれがいる。この3者の関係で成り立っているのです。

 ――「結び目」であるという意味を込めて「Knot」という社名を付けたんですね。

 最近、「結ぶ」「つながる」「絆」という言葉を耳にすることが増えてきていました。Knotのロゴマークをデザイナーにお願いしたとき、「Knot」の「o」マークが、「結ぶ」を意味するようにクロスされていて、これしかないと思いました。

 いま、コロナ禍で世界中に緊張状態が続いていますが、コロナも地球の自然から生まれた1つの自然現象です。「サスティナビリティ」という言葉も注目されてきている中、自分の子どもや孫の世代に地球の未来をつないでいくことを真剣に考えていかなければいけない時代になってきました。そのような中で、「Knot」という名前をつけたことは、ここに来てさらに意味を成してきました。

 Knotでは、今後環境問題を考え買い物袋の廃止を検討しているのですが、こういう方針を伝えるときにも、「未来を作っていくためには、ゴミをなくす。うちは『Knot』だから当然のことだ」いうように、社員にも伝わりやすいです。

 おこがましいですが、Knotという名前に、世の中がマッチしてきたように感じます。

■吉祥寺を選んだ理由

 ――「Knot」は吉祥寺からスタートしました。なぜ吉祥寺を選んだのでしょうか。

 吉祥寺への思いは特別です。吉祥寺には学生時代から縁を感じています。前職をいきなり解任になって、まず訪れたのも吉祥寺。

 腕時計ブランドが多くある銀座や表参道、六本木は敷居が高いイメージがあります。腕時計をリストファッションとして、1人でも多くの方に使っていただきたいと思ったとき、きれいな水や自然がありながら、肩に力を入れずに行ける街というのにマッチして、吉祥寺を選びました。私はこの街に支えられて、この街の方々に応援をしてもらって、今に至っています。

 吉祥寺は、お店や個人商店はありますが、企業が少なく、古い街です。やっぱりここで代替わりしなければいけない。おじいちゃんが息子に譲って、その息子が息子に譲るだけでは、その会社が変わるわけではないので、うちみたいな企業が吉祥寺を盛り上げることが、吉祥寺に対しての恩返しになると思っています。

 ――地域に根差すというのも、1つの企業の生き方ですね。

 栃木出身のお客さまは、栃木レザーのベルトを買っていく。山梨出身の人は、槙田商店の甲州織物のベルトを買っていく。自分の故郷の素材を採り入れて、製品化してくれるというのは嬉しいことみたいで、そういうつながりもとてもいいと思うのです。目標としては日本の全都道府県に1パートナーずつ作ってつないでいきたいですね。

 ――Knotはアジア数カ国で店舗を拡大していますが、今後、アメリカ・ニューヨークやヨーロッパなどにも進出していくにあたっては? 

 今までアジア中心で、欧米圏に入れなかったいちばんの理由は、日本からの距離があります。今の時代、このハンデを覆せるのがeコマース(電子商取引)です。

 スマホを開けば、SNSで海外のメーカーのいろいろな広告が入ってきますが、日本は内需が大きいため、メーカーはまず国内ビジネスを中心に考えます。一方で海外のメーカーの中でも、特に内需が少ない韓国や台湾などのアジア諸国のメーカーは、海外に売ることを第一に考える。ヨーロッパも同様です。

 このように日本はeコマース・ネット販売の考え方が海外と真逆で、日本は、ネットを使って日本人に売ることを前提に考えられている一方で、欧米諸国は世界的に売ることを前提に考えられている。

 ――これをうまく表したのが、「Amazon」と「楽天」の違いですね。Amazonは全世界を対象にしているのに対し、楽天は、国内では最強でも、海外にいまだに進出できていないという違いがある。

 これは、使用しているシステムの違いにあります。Knotも今まで越境ECをやっていましたが、国内のシステム、ASP(Application Service Provider)カート機能を使っていることで、海外に売ることはできても、決済がうまくできないという壁に今まで阻まれてきました。また、近くの大国ロシアに商品を送ることはできますが、届いたかどうかわかる追跡ができない。

 今まではインスタグラムで広告を出して、それを見た人がKnotのWebサイトに入って、KnotのWebサイトから商品を買わなくてはいけなかったので、国によっては買えない人がいましたが、今後インスタやFacebook、YouTubeなどにショッピング機能がついたサービスが開始されれば、広告内で買い物ができるようになるのです。そうなると、自社のショッピングカートは関係なくなる。これはグローバル展開をしていくうえにおいては、劇的な追い風になります。これからは、積極的に海外展開に手を広げていきたいと考えています。

■自分のすべてを懸ける覚悟、商標権を渡さない理由

 ――Knotには株式を上場する計画がありましたが、遠藤さんは直前で取りやめたそうですね。上場ゴールという言葉があるぐらい、多くのスタートアップ、ベンチャーが株式上場を目指すのに、なぜそのような決断を? 

 「Knotは絶対に誰にも奪われたくない」という思いからです。

 私は今まで商標権や代理店権などを剥奪されることで、非常に苦しい思いをしてきたので、Knotは自分のすべてを懸ける覚悟がありました。

 商標権は遠藤弘満個人で持っています。「商標権を上場するためには会社に譲渡してください」と、上場準備をしているときに主幹事の証券会社から言われましたが、また歴史が繰り返すのではないかと危惧しました。株式を上場すればほかの株主も入ってきます。Knotが自分のブランドであり続けるためには、商標権は渡すべきではないと考えました。

 また、「上場企業は株主のためにある。遠藤さんの思いで儲からない値付けをすることは今後許されなくなりますよ」ということを証券会社から言われたのも、上場を取りやめた理由の1つです。

 Knotの製品は、企画段階で先にターゲットプライスが設定されます。逆に言うと、“5000円”がベルトのテーマの1つで、“5000円”をはるかに上回るような製品になってしまうのであれば、その開発プロジェクトは中止を決定します。

 普通の企業は、製造コストが2000円だから売り値は1万円、原価が3000円だから販売価格は1万5000円というように原価を積み上げて値付けしていきますが、Knotは真逆。「お客さまがいくらだったら喜んでくれるか」という値段をまずつけて、それに製造コストやプロセスを合わせていく逆算するやり方をとっています。

 それはリストファッションライフを楽しんでもらいたいためです。日本製の高品質な時計ベルトを、Tシャツ1枚の価格で提供することが創業以来のポリシーです。そのためには、ベルト1本がリーズナブルな価格で、気軽に買えなければ楽しめないという考え方があります。

 BtoBのビジネスはだいたい製造原価率を30%以内に抑えるのが一般的な製造業の考え方とされていますが、Knotは直販なので50%でも行けます。

■パートナーとお客さまとの結び目が崩れてしまう

 ――50%の製造原価率はメーカーとして考えるとかなり高い。その分、顧客はリーズナブルに商品を購入できますね。

 はい。Knotは、お客さまに求められているから、この成長がある。お客さまに求められるか、株主に求められるか、2つに1つしか選択できないのであれば、お客さまに求められるブランド、企業を選ぼうと思いました。

 また、職人さんたちであるパートナーとの付き合いも大切にしています。例えば1つの製品をつくる際にベルトを3社から調達するとして、A社、B社よりもC社のほうがコストは少し高いけど、C社はKnotとの取引がメインで成り立っている会社だから、他社よりも多めに発注するというようなことがあります。それは上場企業だと株主への背任行為になってしまうのです。

 Knotは、ものを作ってくれているパートナーと、それを買ってくれるお客さまがいて、「Knot(結び目)」のわれわれがいる。この3つの関係で成り立っているので、上場してしまうと、この関係図が完全に崩れてしまうのです。上場したら絶対後悔すると思いました。

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最終更新:9/17(木) 8:23

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