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「睡眠は8~10時間」プロ棋士&東大AI研究者の集中を維持する4つのコツ

9/17 9:16 配信

プレジデントオンライン

今春、史上2人目の東京大学出身のプロ棋士となった谷合廣紀四段(26歳)は、東京大学大学院でAI研究をする大学院生でもある。これまでの人生で将棋と勉強をどのように両立させてきたのか。谷合さんに聞いた――。

 ※本稿は、『プレジデントFamily2020秋号』の記事の一部を再編集したものです。

■話題沸騰!  藤井聡太二冠に続く「将棋界の新風」登場

 2020年の4月に晴れてプロ入りした将棋棋士の谷合廣紀(たにあい・ひろき)さん(26)は、東京大学大学院の博士課程に在籍する現役の大学院生でもあり、AI(人工知能)を使った研究を行っている。

 「たとえば、自動車を運転している人間の様子がおかしくなったら、それを察知したコンピュータが人間の代わりに車を止めるといった自動運転技術や、路上に人がいることを検知する画像認識技術の研究などを行っています。自動運転技術や画像認識技術はまだまだこれから進んでいく分野なので面白みを感じています」

 どちらかに専念することなく、棋士としての活動をしながら、今後も研究を続けるつもりだ。博士課程修了後は企業の研究所などで働きたいと考えているという。将棋棋士とAI研究者、二足のわらじをどちらも脱ぐつもりはない。

 そんな谷合さんは、これまでの人生で将棋と勉強をどのように両立させてきたのか。棋士と学業と、二つの大きな目標を実現させた集中術を聞いた。

■集中術その1 「好きなことにはとことんハマる」

 谷合さんは東京の都心で一人っ子として生まれ育った。

 「興味のあることを見つけてハマったら、飽きるまでずっとそればかりやっているというような子供でした。逆に、子供の頃から、やりたくないことはやらないタイプでしたね」

 小学校に入ってまずハマったのはピアノだ。自宅にあったピアノの弾き方を父から教わり、ピアノ教室にも通い始めた。1日に5時間も弾き続けることもあったという。いまやショパンやドビュッシーを弾きこなす腕前だ。ピアノ教室通いは細々と続け、6歳から26歳まで約20年間にもわたる。

 同じ頃、アマチュア有段者である祖父から教わった将棋にもハマった。祖父の家へ遊びに行くたびに盤に向かい合い、将棋の面白さに夢中になったという。

 そんな谷合さんの様子を見た母が、東京・千駄ヶ谷にある将棋会館に連れて行ってくれた。日本将棋連盟の本部が入る建物で、一般の人向けに教室などが開かれている。

 「将棋会館に通って同じくらいの年齢の子たちと競い合い、だんだん力をつけていったような気がします」

 そこから将棋一筋かと思いきや、小学4年生から始めた公文式学習で、今度は算数にハマる。

 「そのころ母が公文式教室の先生を始め、放課後の週2回は母の教室で過ごすことが多かったんです。どんどん進み6年生のときに高校で習う数学の範囲まで終わらせていました。もともと算数や理科が好きで得意教科だったのですが、それまで特別な勉強をしていたわけではありません」

 公文式は計算問題が中心とはいえ、2年かからず高校数学まで終わらせしまったというから、驚異のスピードだ。

 中学は、将棋に卓越した能力がある子向けの特別枠がある都立中高一貫の白鴎高校附属中学を受験するものの残念な結果となり、私立中高一貫の男子校・獨協に進学。中学では数学の勉強にのめりこんだ。

 「高校の数学の教科書を先生に借りて、中学の段階で高校数学の勉強を一人でしていました」

 幼い頃、母のすすめで水泳や体操、英会話や子供劇団などに通ったこともあったが、あまり長続きしなかった。夢中になったピアノと将棋と算数は、いずれも好きだから、やっていて楽しいからやり続けているのだという。

 「ピアノは譜面通りに弾くのもいいけれど、即興演奏するのが楽しい。クリエーティブな面白さがありますね。数学の楽しさは、どんどん新しいことを知れること。たとえば、三平方の定理を学んだとき、すごく感動したのを覚えています。こんな感動がこの先も待っているんだと、新しい世界の扉が開けていく喜びを感じていました。そして将棋の楽しさは、相手に勝つこと。負けるとやはり悔しい。勝つのが“楽しい”から、いまも将棋を指し続けているんです」

■集中術その2 「目標を、あえて一つに絞らない」

 棋士への道は、ある意味で東京大学合格よりも厳しい。年間約3100人が入学する東大に対し、棋士になれるのは年間4人。一般的なルートは、棋士養成機関の「奨励会」へ入会することから始まるが、この奨励会には全国から天才といわれる子供が集まってくる。2~3倍の関門を抜けて奨励会に入会しても、棋士になるにはその中からさらにふるいにかけられる厳しい世界だ。

 谷合さんは小学6年生のときに入会試験に挑戦したものの、そのときは残念な結果となり、翌年再挑戦。中学1年生で奨励会に入会した。その後、級位・段位を上げていき、プロになる前の最大の関門「三段リーグ」に参戦したのは高校3年生の後半だった。

 まさに大学受験の直前だ。棋士か、東大進学か、どちらかに絞ろうとは考えなかったのだろうか。

 「あまり考えませんでしたね。獨協から東大に進学する人はあまりいないのですが、通っていた予備校の先生から『東大狙えるよ』と言われて、それなら頑張ってみようと決めました。苦手な英語を中心に1日に12時間も勉強したこともあったと思います。奨励会の三段リーグがあるのは月2回なので、奨励会の日とその前日は将棋に集中して、ほかの日は受験勉強という感じでした」

 谷合さんは現役で理科一類(おもに工学部や理学部に進学する学生が多い)に合格。その後工学部電気電子工学科に進学する。大学では1年生のときの必修科目でプログラミングに出合い、プログラミングにもハマっていく。大学院在学中には『Pythonで理解する統計解析の基礎』という専門書も執筆しているくらいだ。

 棋士になれたとき、谷合さんは奨励会の年齢制限ギリギリの26歳だった。もしも大学進学をあきらめ、将棋一本に絞っていたら、もっと早くプロになれたのではないか。

 「それはわからないですね。もしかしたら、勉強の集中力が将棋にもいい影響を及ぼしていたのかもしれません。高校3年生の後半、まさに大学受験勉強をしていた時期の三段リーグの成績は11勝7敗と勝ち越していたので。そもそも、将棋一本に絞ってしまうと、いつか飽きてしまったときに困るかもしれないと考えていたんです。もともといろいろなことに興味を持つタイプなので、可能性を残しておきたかったんだと思いますね」

 将棋の調子が悪くても、大学がある。勉強がうまくいかなくても、将棋がある。そう考えることで、気持ちも軽くなるということだろう。

 「年齢制限が近づいてきたとき、多くの人は追い込まれるものなのですが、私はもしもプロになれなかったら、研究に励めばいいかと考えていました。これまでできなかった海外留学でもしようかなと。私の場合は、研究があったので自分を追い込まず、楽観的になれたのかなと思います」

■集中術その3 「睡眠時間は たっぷりと」

 プロ入り後も生活に大きな変化はないという。研究者として、夜通しプログラミングをしたり論文を読んだりすることもある。将棋にまったく触れない日もあるそうだ。対局が近づくと「締め切りに追われるように」相手の研究を始める日々だ。

 「AIの研究をしているときは、基本的に将棋のことは考えないんです。対局の1週間前くらいから、徐々に将棋脳に切り替えていく感じですね。ただ、どちらかに疲れたら、どちらかに脳を切り替えることはあります。どちらも好きでやっていることだから、いい気分転換になるんです」

 二足のわらじ生活は、普通の人の2倍の忙しさかと思いきや、そうではなさそうだ。起床時間は決めておらず、睡眠時間は8~10時間とたっぷりとる。寝不足の頭では、研究や将棋に集中することは不可能だからだ。

 「こまかいスケジュールをたてて、一つずつこなしていくようなタイプではありません。日によってAIの研究をする日、将棋の研究をする日と分けているくらいでしょうか。やらなければいけないことがあっても、いつもすぐにエンジンがかかるわけじゃない。そんなときは、やる気になるまで待つだけです。嫌々やっても、いいことはありませんから。どうしてもというときは、締め切りを設定することですね。やらざるをえない状況に自分を追い込むんです」

■集中術その4 「ゲーム感覚を取り入れる」

 「やっぱり楽しむのが大事です」

 谷合さんに、子供の集中力を高めさせるコツを伺ってみると、このような答えが返ってきた。

 「親ができることとしては、お子さんが楽しいと思える環境をつくってやることですかね。私が公文に夢中になったのは、どんどんレベルが上がっていくような競争心を刺激する仕組みがあったからだと思うんです。教材が進んでいくと嬉しいし、進度が速いと冊子に名前が載ることもあり、それもモチベーションになりました。受験勉強の全国模試もある意味、全国対戦型ゲームのような感覚はありましたね。勉強に集中するコツは、それを楽しむことです。誰だって嫌なこと、苦しいことには集中できないもの。だから、どうすれば楽しいと思えるかを工夫すればいいのではないでしょうか。プログラミングも、自分で工夫していろいろなものを作れるので、この感覚を楽しいと思う子にはいいと思います」

 谷合さんの原動力は「楽しい! 」という感覚だ。

 「中学に進学してしばらくして、授業がつまらなくなってしまったときがありました。まったく勉強をしない時期もありましたね。代わりに夢中になったのがオンラインゲームで、徹夜でパソコンに向かったことも。小さいときからあまり干渉せずに見守ってくれた親だったのですが、そのときはさすがに叱られました」

 将棋界は、競争の最たるもの。プロ入りしてからも厳しい競争は続く。そんな世界に身を置く谷合さんに、今後の目標を聞いた。

 「今後の目標は、ずっと続けてきたAIの研究成果で将棋界に貢献することです。情報系に専門を持つ棋士は私以外にはいませんので、今までにない形で、将棋とAIを融合させたいですね」



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谷合 廣紀(たにあい・ひろき)
将棋棋士
1994年、東京生まれ。獨協中学・高校、東京大学工学部を経て、現在は同大学院情報理工学系研究科博士課程に在籍中。
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最終更新:9/17(木) 9:16

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