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「株式バブル崩壊は必ず来る」著名投資家たちも"ゴールドシフト"を始めた

9/17 9:16 配信

プレジデントオンライン

■株式市場「9月の変」

 9月に入り、米国のハイテク株の上昇を背景に一本調子で上げてきた株式市場に変調が現れてきた。9月8日にはテスラ株が21%下げ、最高値の更新を続けてきたナスダック総合指数も急落し1割下げた。

 8月の上昇相場に強気だった市場関係者や投資家たちにも疑念が広がっている。8月上昇分の「調整」だとする向きもあるが、これは「異変」と見るべきであろう。

 ハイテク企業はコロナ禍でも業績を伸ばせると資金が集まっていたが、世界的に実体経済が急降下を続ける中で、株式市場だけが3月の暴落から上昇を続けていることに多くの人が疑問を抱いていた。

 そうしたところ、株価上昇の背景として「個別株オプション」の取引が積み上がっていたことも明らかになった。その代表例の1つが、先ごろ巨額のオプション取引の事実が明らかになったソフトバンクグループ(SBG)だ。また、「ロビンフッド」をはじめとする投資アプリが若者を中心に個人投資家の資金を集め、こうした初心者の資金が知識もないままにオプション取引に流れているという報道もある。

 いずれにしても、経済成長や企業の業績向上を背景にしての株高ではない動きを示していることは確かで、「何か」が起これば、たちまち「風」は変わる、と見るべきだ。

■ゴールドは「調整期間」か? 

 一方、コロナショックを受けた各国の例を見ない資金供給による「野放図」な金融緩和と、今後の世界経済の先行きへの疑念から、安全資産として世界的な注目度が高まってきた金(ゴールド)は、8月7日に2072.50ドルの史上最高値を付けた後は、やや値を下げた水準で、価格を上げたり下げたりと調整的な動きが続いている。

 8月12日には一時1863.66ドルまで下落するなどしたことから、もともとゴールドに懐疑的な日本のマーケット関係者は、金投資に否定的なコメントをし始めた。

 だが、高値を付けた後にはこのような値動きになることが少なくない。

 7月中旬に1800ドルを超えてからの上昇スピードが速すぎたこともあり、現在の値動きはスピードを調整のための期間であろう。事実、最高値から下げても下落トレンドに入ることなく、9月12日現在も1940ドル台を維持しており、これは「次の動きをうかがう展開」にあると見るべきだ。

■「株式投資か、金投資か」で考えるのは誤り

 今後の動きが気になるが、日本人投資家の皆さんに言いたいのは、「株式投資か、金投資か」で考えるのはこれからの時代は間違っている、ということだ。

 事実、これまで金に否定的な見方をしてきた米国の著名投資家や学者などが、最近になってこぞって金投資の重要性を説くようになっている。

 たとえば8月に世界一の株式投資家であるウォーレン・バフェット氏が、カナダの産金会社バリックゴールド株を購入したことが明らかになった。これまで「金投資は無意味」と公言してきたバフェット氏が、金価格の上昇が最大の収益源になる産金会社の株式を購入したのである。

 「変節」というより、これは「時代の変化への対応」であろう。

■金をポートフォリオに加える世界の重鎮たち

 市場の重鎮たちが金投資に関する見方や考え方を大きく変えているのが最近の「世界の潮流」である。これは意外に日本では知られていないようだ。

 米国株の強気派として広く知られるジェレミー・シーゲル教授も、金に対するスタンスを明確に変えた一人だ。

 シーゲル教授は、200年以上にわたる米国株の長期リターンを研究し、株式の長期投資がもっとも儲かるとの結論に至ったとして、かねて株式投資の優位性を主張してきた。

 「人々が努力する限り、それは企業活動にとってプラスとなり、そのプラスは企業の利益を生み出し、その利益は株価を押し上げる」
「債券や金や不動産では、この人々の夢や希望を追うための努力が価格に反映されるということは少ない。資本主義社会において、株式会社とは人々の努力を反映する仕組みである」

 その根拠として、1802年に米国株に1ドルを投資していれば、現時点で150万ドルになり、217年間で米国株はインフレ控除後で平均6.7%上昇。一方、米国長期債に1ドル投資していれば、現在価値は2000ドル、金は3.5ドル程度にすぎない。つまり、国債と金の場合の実質利回りは、年間平均でそれぞれ3.5%と0.6%でしかないとデータで示したのである。

■「株式優位派」シーゲル教授が金投資を説き出した

 しかし、当時示されたデータは、「1800年代」からのものであり、現代の金融市場を取り巻く環境にそのまま当てはめるには、かなり無理がある。現在の金融政策は、歴史上経験がない緩和政策がとられ、明白な結果がまだ出ていない。それを考えると、「前提が変わった」、すなわち、過去のデータと比較することに意味がなくなったといって差し支えない。

 シーゲル教授も最近になって、これまでの自身の金投資に対する見解を明らかに変え、金投資の効用を訴え始めている。これは私も含め、プロの市場関係者にとって驚きであった。

 シーゲル教授は、「金融政策が長い間、拡張的な状態に据え置かれ、短期金利は米連邦準備制度理事会(FRB)が、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利を介して操作し、雇用が回復するまで超低金利が維持される」としている。この点は、8月27日にFRBが「新戦略」として明示した、低金利政策の長期化からも十分に想定できるシナリオである。

 そしてシーゲル教授は、「長期金利はFRBが操作せず、結果としてイールド・カーブ・コントロールは採用されず、緩やかに上昇する」とし、さらに、「インフレは長期金利の上昇以上に上昇することで、結果的に実質金利はマイナスのままで推移し、これが金やコモディティ、実物資産の魅力を高める」としている。

■「前提」が変われば「結論」も変わる

 マイナスの実質金利が維持されれば、実物資産だけでなく、米ドルの下落にもつながる。FRBが打ち出した「新戦略」と呼ばれる、インフレ率の上昇を一定期間容認するという大胆な政策は、まさにドル安・金価格の上昇を促す格好の材料である。

 経済が回復するにつれて流動性が高まり、これがインフレに油を注ぐ可能性がある。そうなれば、ますます金価格が上昇しやすくなる。

 このような状況からも、これまで金投資に否定的だったシーゲル教授も、金価格の見通しに強気にならざるを得ず、金投資の必要性を説くにいたったのであろう。

 これもバフェット氏と同じく「変節」ではなく、シーゲル教授なりの「時代の変化への対応」であろう。

■「コモディティ王」ガートマン氏の新ポートフォリオ戦略

 「コモディティ王」と呼ばれるデニス・ガートマン氏も、「金はまだ強気相場が継続しており、弱いときには買ってよい」との見方を示す。ガートマン氏は一時、金について慎重なスタンスに転じていたが、最近の金価格の調整で再びポジティブになりつつある。

 ガートマン氏は、金を買う方法として、ボラティリティの高い金鉱株より金上場投資信託(ETF)を勧めている。これはバフェット氏と真逆のスタンスである。そのうえで、ガートマン氏は、自身のポートフォリオにおいて、イールド・カーブの長期側をショートし、金市場をロングしたとしている。さらに、毎月配当を支払う高配当株もロングしている。長期金利の上昇を嫌気し、インフレと金利の上昇に対処していることになる。

 さらに興味深いのは、ガートマン氏が新たに提示したポートフォリオ戦略である。従来の「60/40ポートフォリオ(株式60%+債券40%の資産配分)」から、「株式40%+債券40%+金などインフレ・ヘッジ20%」にすべき、としたのである。加えて、「さらに積極的にするのであれば、株式40%+債券30%+金30%にすべきである」とした。

 実は、7月に刊行した拙著『金を買え 米国株バブル経済終わりの始まり』(プレジデント社)で、私の持論である「株式・金・現金3分割法」のポートフォリオを紹介している。日本では株式投資の専門家は多いが、コモディティの専門家が少ないためなかなか理解されないようだが、拙著を知るはずもないガートマン氏が、図らずも私と似たような「ゴールドシフト」を推奨し始めたことは実に面白い。

 注目すべきは、ガートマン氏が、金に資産の20%を配分する際に、債券からでなく株式から配分を振り分けている点である。ガートマン氏は株式についてあまり強気でないようである。

 いずれにしても、市場の重鎮たちが、金をポートフォリオに組み込むことの有用性を説いてきた私の投資戦略にお墨付きを与えるような発言をしていることは、非常に心強く感じられる。

■世界に遅れる日本の「投資ニューノーマル」

 世界の著名投資家・学者などが金投資の重要性を説き始めている一方で、国内にはいまだに金投資に否定的な見解を述べる人たちが多い。

 当のシーゲル教授がすでにゴールドシフトを進めているにもかかわらず、同じような1970年代、80年代からの長期的な金投資と株式投資の投資リターンの差をグラフで示し、シーゲル教授のかつての主張を紹介しながら金投資の無意味さを説くのである。

 残念ながら、彼らの言い分は一部では正しいが、大部分では明らかに間違っている。

 実は、2000年から現在までの20年間の金投資と株式投資のリターンの差は、比較する意味もないほど圧倒的に金投資のリターンが高い。ちなみに、この20年間で金価格は7倍以上になったが、米国株は2.5倍である。配当を入れても、金投資のリターンには及ばないのが「事実」である。

■自説を現実に合わせてカスタマイズし、行動変容を恐れるな

 金投資を否定してきた世界の重鎮たちが、これまでの自説を撤回し、柔軟に金投資の重要性を説き始めている。「株式投資か、金投資か」ではなく、「金をポートフォリオに取り込め」と言っているのである。

 私たちは、常に現実を冷徹に見つめ、変化することをいとわない彼ら本物の金融のプロの姿にこそ学ぶべきだろう。凝り固まったものの見方でいると、いまのような歴史上経験のない、大規模な金融緩和政策が取られている中では、全く対応ができない。思考と行動の柔軟さを持ち合わせていなければ、これからの時代は生き残れない。

 将来のことは誰にもわからない。しかも、いまは「過去にないこと」が起きており、対応を誤ると取り返しのつかない失敗につながる可能性が大きい。従来の自説にこだわり続け、最終的に損失をかぶるのは自分自身である。

 金価格が史上最高値を更新したのは、歴史の転換点の象徴とも言えるだろう。過去のデータを重視しながらも、現在の経済環境や市場動向に柔軟に対処できる者だけが生き残れるのが現代の社会である。

■行きすぎた金融緩和が行きづまることは確実

 ただ、これだけは言える。FRBが長期的な継続を半ばコミットしたかのような緩和的な金融政策は、いずれ崩壊に至る。

 金融政策が成功裏に終わったためしはない。現在のような行き過ぎた緩和は、株価を支えざるを得ない環境下では、もはや止めることができない。止めることができるのは、経済が新型コロナウイルスの感染拡大前の水準をはるかに上回る状態を回復し、株価も安定して推移し、さらにインフレ率が2%を超えて安定的に一定期間推移するようになってからである。

 しかし、そのような平和な状況が訪れる前に、異常な緩和政策のツケで株価はいずれ崩壊するだろう。それは、今も昔も同じである。

■ソフトバンクの投資戦略は「一発勝負」か? 

 市場では、ソフトバンクグループ(SBG)の上場株投資が大きな話題になった。英フィナンシャル・タイムズによると、SBGは米国のオプション取引で40億ドル(約4200億円)の含み益を抱えていると報じられている。また、その規模の大きさから、SBGの動向が株式市場に影響を与える可能性があるとの指摘もある。

 SBGがどのような取引を行っているかは全くわからないが、報道によると、「コール(買う権利)」と呼ばれるオプションで約300億ドルの額面に相当するポジションを保有しているようである。SBGはこれまで「ビジョン・ファンド」を通じて主に新興企業に投資してきたが、新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な株価急落もあり、これまでとは異なる戦略を取り始めたのだろう。

 市場環境が変われば、柔軟に対応することは当然であり、それ自体に問題があるとは思わない。しかし、投資対象がオプション取引であるとすれば、SBGの「短期的な収益を狙うだけの取引は実行していない」という説明にかなり無理があるように思われる。

 オプション取引は短期間で大きな利益を得るためのツールであり、さらにいえば、コールオプションを価格変動リスクのヘッジに使うという発想は基本的に理解しがたい。基本的には、短期間での株価上昇による値上がり益を享受するために、株式よりもレバレッジが効いたオプションを利用したと考えるのが妥当であろう。

 実際のポジション状況がわからない中での推測には意味がないが、報道の内容を見る限り、ビジョン・ファンドがうまく機能しない中、バフェット氏らのような時代の変化への対応というより、「一発勝負」に出た感が強いという印象だ。

 往々にしてこのような出来事が報じられると、市場が末期的な状況にあることが少なくない。これまでの損失を挽回しようと最後の上昇に賭け、一発勝負に出る投資家が出始めるのは、大相場の最終局面で見られる行為である。

■来る「大災害」の後は、金がポートフォリオを守ってくれる

 投資家にとって重要なことは、過去の歴史を理解しながらも、目の前に起きていることに柔軟に対処し、より長期的な目線で判断することである。

 私が尊敬する世界一の投機家であるジョージ・ソロス氏は、「市場は常に間違っている」とするが、多くのケースで正しいことも少なくない。しかし、重要な局面で結局は間違うため、バブルが崩壊し、大損害が発生するのである。

 いまの米国株の上昇も、おおむね正しい動きなのかもしれないが、最終的には大災害で終わるだろう。そのような動きになることも十分理解したうえで、いまの上昇相場に乗ることは間違ってはいない。しかし、相場から降りるタイミングを間違えてはいけない。

 そして、相場の変化の兆候は、金価格に表れる。大災害の後は、金がポートフォリオを守ってくれるだろう。これまでの市場の荒波を乗り越えてきた重鎮たちが、いまになってなぜ金投資にお墨付きを与えているのかをよく理解しておきたい。

 紙幅が尽きた。金投資や金に関する詳しい解説を知りたい方は、拙著『金を買え 米国株バブル経済終わりの始まり』(プレジデント社)をぜひお読みいただければと思う。今後の世界情勢や米ドルの動向、さらには米中対立の結末や金価格の将来見通しなどを知ることができるだろう。



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江守 哲(えもり・てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役
慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事に入社し、非鉄金属取引に従事。1996年に英国住友商事(現欧州住友商事)に出向しロンドンに駐在。その後、Metallgesellschaft Ltd.、三井物産フューチャーズを経て、2007年7月にアストマックス入社。同社でファンドマネージャーに就任。アストマックス退社後、2015年4月にエモリキャピタルマネジメントを設立。ヘッジファンドを中心とした資産運用や株式・為替・債券・コモディティ市場の情報提供などを事業として展開。
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最終更新:9/17(木) 9:16

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