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ヨシタケシンスケがラーメン屋で気づいた真理

8/16 6:11 配信

東洋経済オンライン

普段からスケッチ帳を持ち歩き、思ったことを書き留めているという、絵本作家のヨシタケシンスケ氏。実際に、このスケッチ帳から絵本のアイデアが生まれることも多いといいます。このスケッチ帳から選りすぐりのイラストをエッセイで解説した『欲が出ました』から今回は一部抜粋して掲載します。

■こんな写真集が欲しい

 欲が出たときの顔

 ひょっとしたらこのまま作家になれるんじゃないか? これはプチ欲が出たときの顔。お菓子をもう1個取っていいんじゃないかとか、俺はもうちょっと寝てていいんじゃないかとか、人間って欲が出る瞬間があるわけです。欲が出るから成功もするし、欲が出るから失敗もするわけなんですけど。こういう自分の中で欲が出た瞬間って、どんな顔をしてるのかな? と思ったんですね。

 黙ってたらもう1個取ってもわかんないんじゃない? 

 人間ってそういう、あれ? いけるんじゃない? みたいなとき、何とも言えない顔をする。そんな欲が出た瞬間の顔ばっかり集めた写真集があったら、ぜひ買いたいと思いました。あー、この人、欲出てるわ、いけると思っちゃったんだろうな、ってのをたくさん見てみたい。ただ、どうやってその瞬間を写真に撮るかが、一番問題なんですけど。

 という感じで、脈絡ないんですが、いつも、思ったことをそのまま描いてます。

 表面にうかんでるイロイロ

 ラーメン屋さんに行くと、スープがよく大きな寸胴で作りおきしてある。表面にネギとか豚骨とかが浮いていて、そのスープをすくうときには、それをおたまですーっとどかしてからすくうんですよね。それが楽しくていつもよく見るんですけど。

 欲しいものは下のほうにある、澄んだいろんなものが抽出されたもの。なんだけれども、表面にはその材料がいっぱい浮かんでる。で、いきなりがぽっとよそってしまうとそういう余計なものが入ってきてしまうので、その前に、表面に浮かんでるイロイロを丁寧にどかしてからすくう、って作業が必要になる。

 作品を作るときも、本来言いたいこと、伝えたいこと、面白いなって思ってることを表現するためには、何か余計なものをどかす必要がある。

 で、それを丁寧にどかして、中のいちばん味わってもらいたい部分だけをすくう作業が、物作りをするうえで実はいちばん難しくて大事なことなんじゃないかな、っていうのをラーメン屋さんで思ったって話なんです。ついつい何か表側の余計な部分も、すくっちゃったりするんですよね。でも、そういうのをどかさないと、本来のものが伝わらなかったり、おいしくなかったりするんじゃないか。

 その一連の作業をきれいにできたら気持ちいい。作品作りにおいても、そうだなって考えました。

■第三者に促してもらいたい

 感謝を促す係

 子どもとかに、人のありがたみを教える仕事って、あったほうがいいよなと思ってて。人の半分ぐらいの身長で、感謝を促す係。そう考えるとホント「ありがとう」ですよネ、って、嫌みじゃなくさらっと言いに来て、誰かへの感謝の念を、湧き起こさせる……。

 要は子どもに、「あんたのお母さん、あんたのために一生懸命やってんだよ。だからお母さんに、あなたはもっと感謝すべき状況なんですよ」、っていうことを、あんまり押しつけがましくなく話す人がいてほしい。子どもは、お母さんから言われたら絶対感謝しないけれども、こういう第三者が来て、「ありがたいと思いません?」と言ってくれると、「あ、確かに」って、意外と納得できたりするかもしれないので。

 会社に来たなら、「あの後輩、何だかんだ言いながら、こういうこともやってくれるし、そう考えるとホントありがとうが必要ねー」って先輩を諭してくれる。で、この感謝係がたったったって帰ったあと、先輩が「いつもありがとね」みたいな、めったにない感謝の言葉を、後輩にかける。

 そういうどちら側の立場でもない中立の人がいて、お互いに対する感謝の念を呼び起こす、いい感じの言い方をしてくれると、世の中もっと潤滑に動くんじゃないでしょうか。それがこの人の仕事です。ただ、誰からお金もらうかは、わかんないんですけど。

 なぜうまくいかないのか

 それってつまり「持ち方が違う」みたいなことなんじゃないかしら、って話なんですけど。何かが思ったようにうまくできないとき、それはそもそもの持ち方がおかしいんじゃないか、大前提を疑うってことも大事だなと。

 子どもがおはしを使うのが下手で、それでよくよく見たらやっぱり持ち方がおかしくて、もっと上の方で持たないからつかめないんだよ、みたいなことをよく言うんです。おはしもそうだし、何かしらうまくいかないってことは、持ち方がそもそもおかしいときのほうが多いんだろうなって、気がつきました。

 そもそもの持ち方、とらえ方っていうのをちゃんと教えてくれる人さえいれば、結構いろんなところがうまくいくのかもしれません。

 「サァ! 今日も元気に顔色をうかがっていこっ!」

 「サァ! 今日も元気に顔色をうかがっていこっ!」

 「おおー!」

 って。これは、みんなで、朝1発目に気合いを入れるためのかけ声です。

 もうこれ以上でもこれ以下でもない。社会人がやってることって、ほぼこれだけじゃないかとも思います。

 肯定係

 感謝係の次は、肯定係。そのままでいいのよ。大丈夫よ。しなくていいのよ。って、言ってくれる。あなたはいいのよ、そのままで、って。よく考えてみると、必要だったじゃないですか、やってよかったじゃないですか、それ、糧になってますよ、とか。

 肯定係の方々はプロなので、「不要な肯定はしない」「甘やかしすぎない」ってのがポイントですね。すぐにでも来てほしいです。

■人は日々、「雪かき」をしている

 必要なところだけじゃまなものをどける

 大雪が降ったとき、みんなが使うところだけ、雪をどけるわけですね。そうすると、街で普段使ってるところだけが可視化される。っていうことは、この今、白い雪の残っている道のところは、実は普段なくてもいいのがわかる。

 関東は、めったに雪が降りません。だからたまに積もると、急に社会が見える。若い家族の家の前は、早くから雪がどけられている。夕方まで雪が残ったままなのは、雪かきしたいけどできない家。1人暮らしのおじいちゃん、おばあちゃんの家なんだっていうのも、わかる。雪がいろんなものを可視化させる。

 反対側のお隣がいい人で、うちの雪かきもやっちゃうぐらいのパワーがあるとか、生き物としての強さもそういうときに出る。だから、雪の日は怖いんです。いろんなものが噴出するんで。

 必要なところだけじゃまなものをどける、って。面白くないですか。世の中、みんな無意識にじゃまなものをどけながら生きてるわけです。それも最小限。たくさんどけるのは、大変だから。少ない労力で必要なところだけ、やる。でも、その人その人で、家々で最小限のエリアが違うわけですよ。車があれば、もっとどかさなきゃなんないとか。

 人生においても、その人その人のじゃまなもの、雪に代わる何かそういうものがあるはずで、みんなやっぱり雪かき的なことを毎日やりながら生きてるんだろうなあって、思ったんです。

 あの人は、何をどけて生きているのか。

 普段何気なくどかしてるけど、どけたことを本人はわかってないかもしれない。

 それを、雪みたいに見えるようにできないだろうか、って。

東洋経済オンライン

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最終更新:8/16(日) 6:11

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