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「女おひとりさま」は幾らで介護施設に入れるか

8/16 6:01 配信

東洋経済オンライン

 「人生100年時代、質素倹約に努めて老後に備えましょう!」と言われても、そう簡単にできるものではありません。この先、何歳まで生きるのか、お金はいくらかかるのか、病気や要介護になったらどうするか……。よくわからないことが多すぎて、老後の備えを先送りしてしまいがちです。

 筆者はファイナンシャルプランナーとして、お客様のライフプランについてアドバイスをしていますが、自分自身の老後にはどう備えるべきか、と考えると正直、悩みは尽きません。しかし、いろいろ悩んでいても、結論は「老後のためのお金の準備は早くから始めるべき」で間違いなさそうです。

 筆者のお客様の中には、「ひとりで生きる」ことを前提に老後のライフプランを描いている独身女性もいらっしゃいます。そうした方は自分ひとりのお金だけで老後資金を準備しなければなりませんが、どのように先行きのお金を見積もり、どう計画を立てていけばよいのでしょうか。今回は、その方法をご紹介します。

■年収800万円の50代独身女性が抱く老後不安

 今年57歳のAさんは、30年以上同じ会社に勤めるベテラン女性。年収は800万円、賃貸マンションでひとり暮らしです。長年、貯蓄にも励んで、会社の財形で800万円、銀行の定期預金に1200万円、合計2000万円あります。

 筆者へのご相談の内容は、2022年からiDeCo(個人型確定拠出年金)の加入資格が65歳まで延びることを知り、「加入を検討したい」とのこと。iDeCoの金融機関はどこがいいか、運用商品はどう選べばいいのかなど、Aさんはしっかり勉強していました。でも、「老後のためにいくら貯めたらいいのか、全然わからなくて不安」というのです。

 とかく女性は長生きです。2人に1人が90歳まで生きる時代に、いま配偶者がいようがいまいが、どの女性にとっても「ひとりで暮らす高齢期」は現実味を帯びているはずです。

 とはいえ、いざそうなったときに、日々の暮らしはどうなるのか。これはなかなかイメージできないものです。Aさんも同じで、そもそも老後のイメージが湧かないのでしょう。そこで筆者は、身近なサンプルを示そうと、「Aさんのご両親はどうなさっていますか」と聞きました。

 聞けば、Aさんのお父さんは5年前、84歳で他界されたということでした。足が悪く、お母さんが世話をしていたそうですが、最後の1年くらいは持病のケアもあり、特別養護老人ホームに入居していたそうです。一方、現在80歳のお母さんは地方都市の介護付き有料老人ホームで暮らしています。

 筆者はAさんに、「2つの異なる施設を見て、どんな印象を持たれましたか?」と改めて聞きました。

 「高齢者施設にいいイメージを持っていなかったのですが、父の施設では、皆さんがよくしてくださり、印象が変わりました。最後は病院で亡くなりましたが、後期高齢者なので支払いはびっくりするくらい少額だったんです。母の施設は元気な方々ばかりで、お年寄りの寮生活といった雰囲気です。カラオケ仲間もできて楽しそう。月の費用は年金で賄えるので、お金の面でも安心です」

 コロナ禍で面会ができない時期には寂しさはあったものの、Aさんは「施設の存在が非常に心強かった」と言います。

■リーズナブルな「介護付き施設」も少なくない

 高齢者施設には種類があり、特別養護老人ホームは要介護3以上の人が入居できる施設です。一方、介護付き有料老人ホームは、原則として元気な高齢者が入居できる施設です。ただし、病気になった場合は医療機関と連携してケアしてくれますし、介護も必要になればお願いできます。

 費用は施設ごとに異なりますが、筆者が調べたところ、特別養護老人ホームはそれほど高額ではなく、だいたい月10万円程度のようです。介護付き有料老人ホームは「入居一時金プラス毎月の利用料」という費用設定が多く、金額はピンからキリまでですが、入居一時金3000万円で毎月75万円というところもありました。

 もう少し現実的なところで調べると、入居一時金が500万円、月の利用料15万円から20万円程度の施設が多いようです。総務省によると、高齢者の毎月の消費支出は約15万円で、それに加えて税金と社会保険料1万2000円程度だそうですから、それを考えると月額15万円から20万円程度の介護付き有料老人ホームは比較的リーズナブルといえるかもしれません。

 Aさんは、ご両親の老後の暮らし方から自分自身の老後をイメージすると、介護付き有料老人ホームに入居するという選択肢もありだと思ったようです。そこで、それに向けてお金をどう賄うかを考えてみることにしました。具体的には、75歳をメドに介護付き施設に入るために「入居一時金600万円と月の費用25万円が安心して工面できる資金を貯める」というゴール設定をしました。

 人生の最後まで発生する毎月の費用は、終身払いが保障される公的年金を充てたいところです。Aさんの老齢年金は、ねんきん定期便によると月15万円。これでは足りません。そこで、年金の受給開始の繰り下げを考えました。70歳まで繰り下げる場合、年金額は1.42倍に増額され、Aさんは月21万3000円を受け取れます。

 また、今年5月に成立した年金改革法により、2022年4月以降75歳まで繰り下げが可能になりますが、そうした場合、年金額は1.84倍となるので、Aさんは月27万6000円の年金収入を得られることになります。これで、施設の毎月の費用25万円も賄えることになります。

■年金繰り下げ受給の「損得勘定」は意味がない

 ただ、Aさんは年金の繰り下げ受給に不安もあるようでした。

 「年金の受給開始年齢は損得の分岐点を考えなければいけないと思いますが、75歳という遅い年齢まで繰り下げるのは本当に得なのでしょうか」とAさん。

 筆者は「何歳まで生きれば得だとか損だとかよくいわれますが、それは何歳で死んだら得だ、損だという言葉の裏返しで、そもそも損得で選ぶものではありません」とお答えしました。実際、日本の年金制度は、平均寿命まで生きれば、繰り上げようが繰り下げようが、受給総額が同じになるように設計されているのだそうです。

 Aさんは「もし、受給開始を75歳まで繰り下げたのに、すぐに亡くなってしまったら、年金はそれっきりですよね」とも言います。確かに、亡くなってしまえば年金は受給停止です。

 一方で、年金というのは、必要になったとき、いつでも受給を始めることができるのです。月25万円を下回るような費用面で折り合う施設が見つかれば、70歳から年金を受け取ることもできるでしょう。また75歳まで待って受け取る際に、70歳時点の年金額にさかのぼり、75歳になるまでの5年間分を一括で受け取って、そこから70歳時点での倍率の年金を終身で受け取ることもできます。

 もちろん、75歳から1.84倍に増額された年金を終身で受け取ることもできます。「日本の年金制度は自由度が結構高いんですよ」とお話をすると、Aさんは少し安心されたようでした。

 施設の毎月の費用を賄う算段がつきました。入居金の600万円は会社の退職一時金で賄えそうです。これで「75歳からの生活設計」ができました。残るは、「60歳から75歳までの生活をどう賄うか」です。

 Aさんは「仕事は好きなので、できるだけ長く働きたい」とのことですが、「そうはいっても60歳以降はペースダウンしたい」という気持ちもあります。現在の毎月の生活費は30万円。70歳まで月平均20万円で働けたとしても、今の生活費は出せません。課題となるのは、施設に入るまでの住居の確保と、生活のダウンサイジングです。

 Aさんの70歳までの生活に関する不足金を月10万円、その後75歳までの生活費を月25万円と仮定します。すると合計2700万円となり、現在の貯蓄額2000万円ではあと700万円足りません。57歳のAさんにとっては、結構大変な金額です。

 それでもAさんは「そろそろ仕事を辞めたいなんて思う気持ちもあったんですが、少なくとも65歳までは今までと同じくらい頑張らなくちゃいけないということですね!」と、吹っ切れたような顔をされました。実際、プロモーションの話もあり、受けるかどうか迷っていたそうですが、もう少し頑張ってみようと気持ちが整理されたようでした。

■「ひとりで生きる」計画は「男おひとりさま」も有効

 60歳以降も働けば、その分老齢年金も増えます。昭和38(1963)年生まれのAさんには、特別支給の老齢厚生年金が63歳から支給されますが、これは手を付けずに資産形成に回します。そのころの給与額にもよりますが、今回の年金改革法で在職老齢年金の基準が引き上げられたので、Aさんの特別支給の老齢厚生年金はカットされることなく全額受給できる可能性が高くなりました。

 つまり、今後Aさんがますます活躍できる場が整ってきたともいえるでしょう。もちろんiDeCoや、つみたてNISAもフル活用です。

 Aさんのケースは独身女性でしたが、実は「ひとりで生きること」を前提とした資金計画は、独身男性にも、配偶者がいる方にも有効です。まず「ひとりで完結する」ライフプランが確保できると、パートナーと2人で生きることになった場合でも経済的にはメリットしかありません。「ひとりで生きる」資金計画、参考になりましたら幸いです。

東洋経済オンライン

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最終更新:8/16(日) 9:01

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