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殺虫剤メーカーが今年「当たり年」となった理由

8/11 5:21 配信

東洋経済オンライン

 「今年は殺虫剤がすごい勢いで売れている。メーカーに問い合わせても十分に入荷できない状況が続いている」

 そう明かすのはある大手スーパーの店員だ。店員が勤務する都内の店舗では、特に6月が品薄状態だったという。週1回、60個の殺虫剤を発注しても、入荷した分は1~2日で完売。人気を集めたのは、コバエやゴキブリの駆除商品だ。

■アース製薬の株価は上場来高値に

 殺虫剤の好調な売れ行きは、市場調査会社「インテージ」のデータからも見て取れる。殺虫剤は夏場のピーク時に月間200億円前後を売り上げるが(沖縄県を除く全国エリア)、2020年は5月、6月それぞれの月間売上高が200億円を突破。対前年同月比で5月は26.1%増、6月は34.9%増の伸びを示した。

 殺虫剤メーカーの業績も好調だ。最大手のアース製薬は6月末に2020年1~6月期の業績予想を見直し、期初に104億円と見込んでいた営業利益を160億円に引き上げた。株式市場も上方修正を好感し、同社の株価は6月30日に上場来高値を更新した。

 上方修正の要因は、広告宣伝の効率化などで費用が減ったことが大きいが、主力商品である虫ケア用品が想定以上に売れたことも見逃せない。

 アース製薬の2019年12月期の虫ケア用品の売上高は593億円。「今年は1~6月の店頭での売り上げが前年同期比20%増で推移している。7月単月も10%増。通期でも5~10%増を見込んでいる」(アース製薬)という。

 殺虫剤業界では新規参入組に当たるレックも売り上げ好調だ。「激落ちくん」などで有名な日用品メーカーのレックは、2018年末にライオンから殺虫剤の「バルサン」事業を買収した。

 2019年のバルサンの売り上げは約15億円で、2月に投入した新商品群が既存商品の売り上げを上回る勢いをみせる。2020年のバルサンの売上高目標は40億円だ。

 殺虫剤メーカーの業績は気温に大きく左右される。というのも、殺虫剤の商品カテゴリーで最大なのがハエ・蚊用であり、特に蚊は気温によって活動状態が変化するからだ。

 業界3位のフマキラーによると、「ヤブ蚊は気温が25~26度になると活性化する。反面、30度を超えると吸血意欲が低下する」。なお、ショウジョウバエの最適温度は25度。40度以上になると死亡する個体も出てくるという。

 ここ2年は気温の変動が原因で売り上げが低迷していた。2018年は記録的な酷暑。35度を超える猛暑日が続き、あまりの暑さに蚊も活動が鈍った。実際、フマキラーの2019年3月期の殺虫剤売上高は前期比20%減の307億円にとどまった。

■「巣ごもり消費」も追い風に

 それが2019年は一転し、残暑が厳しかったものの全体としては冷夏だった。2020年3月期のフマキラーの殺虫剤売上高は前期を上回る326億円となった。ただ、2期前との比較では15%減と低迷が続いた。

 今年は過去2年以上の売り上げを見込める「当たり年」だ。5~6月の気温上昇がハエ・蚊用製品の売り上げ増に寄与している。アース製薬の「液体蚊とりアースノーマット」はここ10年ほど、売り上げが減少傾向にあったが、2020年に入って1~6月は前年同期比20%増となっている。「コバエがホイホイ」の売り上げも好調でこちらは18%増だ。

 気温に加えて追い風になっているのが、新型コロナによる巣ごもり需要だ。

 キンチョールなどを販売する業界2位の大日本除虫菊は、「巣ごもりで家庭ごみが増え、そこにハエやゴキブリが集まったり発生したりしているのでは」とみる。また、在宅時間が長くなったことで、そもそも虫と遭遇する機会が多くなったこともあるという。

 新型コロナ対策で換気のために窓を開ける機会も増えた。そのため、今年は網戸に噴射するタイプの殺虫剤が伸びている。フマキラーによると、「虫よけバリアスプレー アミ戸窓ガラス」など網戸タイプの商品の1~6月の売り上げは、2019年の同時期と比べて2.5倍になっているという。

 殺虫剤メーカーの業績が好調なのは、海外売り上げを伸ばしたり、ハエ・蚊以外の商品を拡充したりと、天候に左右されにくい経営構造に改革し続けてきたからでもある。

 業績面の下支えとなっているのが、気温が高く、通年で商品が売れる東南アジアなどでの売り上げだ。フマキラーは、1990年に進出したインドネシアを中心に、海外売上高は2010年3月期の48億円から2020年3月期には200億円にまで成長。海外売り上げ構成比も同期間に20%から45%に上昇した。

 海外売り上げ構成比は6%と小さいが、アース製薬も海外売り上げを伸ばしている。2019年は113億円で、このうち約7割が殺虫剤だという。

■手軽なゴキブリ用殺虫剤が大ヒット

 ハエ・蚊用よりも気温に左右されにくい、ゴキブリ用やダニ用の商品比率も上がっている。

 インテージ集計のデータでは、ゴキブリ用殺虫剤の市場規模は159億円(2019年)。447億円あるハエ・蚊用の3割超にすぎないが、殺虫剤全体に占める構成比はハエ・蚊用が2015年の51%から47%に下がる中で、ゴキブリ用は14.8%から16.8%と上がっている。

 ゴキブリ用殺虫剤の最近の大ヒット商品は、大日本除虫菊が2020年2月に発売した「ゴキブリムエンダー」。ゴキブリがいそうな空間にではなく、部屋の中央で宙に向けてプッシュするだけでいいという、従来の商品にはなかった手軽さが人気だ。

 ダニ用商品も、市場規模は2019年で44億円と小さいものの、殺虫剤全体に占める構成比は2015年以降で3.6%から4.7%に上がっている。アース製薬が2018年に発売したワンプッシュ型商品「おすだけダニアーススプレー」の売れ行きは好調で、殺虫成分を使わない天然由来成分を使用した商品も伸びる傾向にある。

 ただ、多種多様な製品を次々と市場に投入した結果、「商品が増えすぎて消費者が困ってしまう」(アース製薬の渡辺優一シニアブランドマネージャー)という状況に陥っている。実際、大手ドラッグストアの店頭に行くと、商品棚にはゴキブリ向けの殺虫剤だけで20種類以上の商品が並ぶ。

 「商品を増やす段階は終わった。これからは集中と選択のフェーズに入る」と語る渡辺氏。殺虫剤の生存競争も厳しくなりそうだ。

東洋経済オンライン

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最終更新:8/11(火) 11:35

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