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サザンと「YOASOBI」、時代を越えた意外な類似

8/8 8:10 配信

東洋経済オンライン

 2020年上半期音楽シーンのブライテスト・ホープを「YOASOBI」(ヨアソビ)とすることに異論は少ないだろう。この2人組は、米津玄師、あいみょん、オフィシャル髭男dism、King Gnuに継ぐ存在にな(ってい)ると見るのだ。

 最新(8月3日付)のビルボードジャパン・ホット100では、YOASOBI『夜に駆ける』が、SixTONES『NAVIGATOR』に続く第2位を獲得しているのだが、驚くべきは、この曲が「新曲」ではなく、昨年11月に公開されていることだ。ジワジワと世評を広げた結果1位を獲得、そして、ストリーミングの総再生回数が1億回を突破したという。

 というわけで、今回の「月間エンタメ大賞」は、このYOASOBIのブレイクの要因を分析してみたい。とりわけそのポイントは、後述する、その特異な音楽的構造だと考えている。

■音楽、映像、小説の「三次元ヒット」構造

 まず注目するべきは、その「クロスカルチャー性」である。 公式サイトでYOASOBIは「小説を音楽にするユニット」(NOVEL INTO MUSIC)と紹介されている。双葉社とソニー・ミュージックエンタテインメントが運営する「monogatary.com」(モノガタリードットコム)という小説投稿サイトがあり、同サイト上の小説を楽曲化するユニットとして、昨年、YOASOBIが結成されたのだ。

 メンバーは、「monogatary.com」のスタッフが声をかけた、ボーカロイド楽曲のプロデューサー(「ボカロP」という)=Ayaseと、彼がインスタグラムで見つけたボーカリスト=ikuraによる2人組。

 「小説を音楽にするユニット」なので、それぞれの曲には、基となった小説がある(『夜に駆ける』の場合は、星野舞夜の小説『タナトスの誘惑』)。つまり、YOASOBIの楽曲は、音楽だけでなく、元々の小説、そして音楽と小説の世界を体現した映像(MV)が密接にリンクした形でヒットしたのだ。

 言わば「三次元ヒット」。これまでの音楽+映像(MVやタイアップCM、ドラマなど)の「二次元」構造に加えて、小説が入る分、麻雀的に言えば一翻(イーファン)多い「クロスカルチャー性」が高まるのだ。

 続いてのブレイク要因は「TikTok起点」でのヒットであること。 ビルボード・ジャパンのサイト記事「博報堂 研究開発局による『音楽ヒット予想研究Vol.4』」の中で、博報堂研究開発局研究員・谷口由貴氏は、YOASOBIに加えて、瑛人、yama、Rin音という、言わば「上半期のブライテスト・ホープ候補」たちの作品について「TikTok起点でのヒットであるという点」が共通しているという。

 「TikTok起点」のヒットとしては、「♪ドールチェ・アーンド・ガッバーナー」の奇妙な音韻で知られる瑛人『香水』が有名だが、YOASOBIも含めて、より大きなムーブメントになっているようだ。同記事によれば、YOASOBI『夜に駆ける』についても「TikTok再生指数急上昇の直後にストリーミングチャート指標も上がり幅が大きくなっ」たという。

 また同記事では、「TikTok起点型ヒットの鍵」を、(「弾いてみた/歌ってみた」動画などで)「参加したくなる“余地”」と(歌詞に)「共感をつくる”余白”」だとしているのだが、このあたりに密接に絡んでくるのが、以下に述べるYOASOBIならではの「特異な音楽的構造」である。

■「参加」性と「共感」性が醸成されるコード進行

 その音楽的特徴を一言で述べると「心理的距離を縮めるコード進行」となる。もちろん、心理的距離を縮めた結果として、先の「参加」性と「共感」性が醸成される。

 具体的に言えば、YOASOBIの楽曲には、以下のコード進行が多用されているのだ。

F→G7→Em→Am
※キーをC=ハ長調に移調。
※メジャーセブンス、マイナーセブンスなどの付加的なテンションノートを省略して簡略化)

 これは、マキタスポーツ氏が「未練進行」と名付けているセンチメンタルな情感(=未練がましさ)を醸し出すコード進行で、私が氏と出演しているBS12トゥエルビの音楽番組『ザ・カセットテープ・ミュージック』(毎週日曜21時~)では、何度も解析を試みているものだ。

 以下、少し細かくなるが、YOASOBIの各曲で、どこにこの「未練進行」が潜んでいるかを示してみる(が、音楽に詳しくない方やYOASOBIを未聴の方は、読み飛ばしていただいて構わない)。

『夜に駆ける』
歌い出しから「未練進行」が多用され、楽曲の骨格を成していると言っていい。併用されるのは、こちらも日本人好みの「F→E7→Am→C7」(『ザ・カセットテープ・ミュージック』で『勾玉進行』と呼んでいるもの)。
『あの夢をなぞって』
歌い出し「♪聞こえた言葉は『好きだよ』」の後の間奏で「未練進行」が現れる。またキャッチーなサビ=「♪本当に」から「♪今も」、「♪もうちょっと」から「♪君からの言葉」で、「未練進行」が炸裂する(過剰な表現だが、まさにそんな感じ)。

『ハルジオン』
Bメロ=「♪知りたくないほど」~「♪呑みこまれたの」が「未練進行」。またサビでもこの進行が2回繰り返される。
『たぶん』
サビの「♪僕らは何回だっけきっと」からと「♪仕方がないよきっと」からが「未練進行」。他のパートでも「未練進行」が多用され、楽曲の骨格を成している。
 と、細かく見てきたが、とにかく「F→G7→Em→Am」という「未練進行」が、これでもかこれでもかと多用されるのである。「YOASOBI進行」と言い換えてもいいくらいだ(さらに細かくなるが、YOASOBIの場合は「Fmaj7→G7→Em7→Am7」とセブンスを加えることで、より情感を増している)。

 興味深いのは、この「未練進行」が、ここ最近に多用され始めた今風のコード進行ではなく、実は、しばらく前から既に、日本で偏愛されていたことである。

 フロンソワ・デュポワというフランス人のマリンバソリスト/作曲家が書いた『作曲の科学』(講談社ブルーバックス)という本は、この「未練進行」を「日本でひんぱんに使われているコード進行」「日本で人気の王道コード」としている。

 また同書では、その例として『オリビアを聴きながら』『いとしのエリー』『LOVEマシーン』『瞳をとじて』『シーズン・イン・ザ・サン』『世界でいちばん熱い夏』『さくら』『ロビンソン』『大迷惑』『夢で逢えたら』を挙げている。

 「未練進行」が「日本でひんぱんに使われているコード進行」となったのは、このラインナップを見る限り、1979年リリースのサザンオールスターズ『いとしのエリー』(「♪笑ってもっとBaby?  むじゃきにon my mind」)や、(このラインナップには無いが)荒井由実『卒業写真』(「♪人ごみに流されて」)の影響が大きいと思うのだが。

■古今東西変わらぬ日本人の音楽ニーズ

 話を戻すと、YOASOBIという新進気鋭の音楽家が、実は「日本でひんぱんに使われているコード進行」を多用している点が、私にとっては、実に興味深いのである。

 YOASOBIの「クロスカルチャー性」、加えてTiktokに代表される、極めて現代的なタッチポイントにおける「参加」性・「共感」性の陰に、日本人が長く愛し続けた「未練進行」のセンチメンタリズムがあった! 

 言い換えると、YOASOBIならではの「特異な音楽的構造」とは、実は、今風の珍奇なものではなく、むしろ日本人のど真ん中音楽ニーズとしてのセンチメンタリズムを捕らえる、極めてオーソドックスな音楽的構造だったのだ。

 以上、努めて客観的に書いてきたが、かくいう53歳の音楽評論家である私も、『あの夢をなぞって』のサビ、「♪もうちょっと どうか変わらないで」からの「未練進行」で胸がキューンとなることを、恥ずかしながら白状したい。

 「未練進行」×ikuraの透明感ある声の組み合わせは、それほどまでにセンチメンタルで、かつ汎用的な魅力を持つのである。YOASOBIは今年上半期のブライテスト・ホープであり、センチメンタリスト・ホープでもある。

東洋経済オンライン

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最終更新:8/8(土) 8:10

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