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「ゲームは勉強の邪魔」と見下す大人達の勘違い

8/8 16:01 配信

東洋経済オンライン

昔も今もゲームに熱中する子を、親はあまりいい目で見ない。その理由の大半は、「勉強の邪魔になるから」だ。ところが、最近は東大や京大、東工大など高学歴なプロゲーマーも増えてきた。「ゲームと勉強を両立できる人」は何をしているのか?  プロゲーマーのすいのこ氏による新書『eスポーツ選手はなぜ勉強ができるのか』から一部抜粋・再構成してお届けする。

 ゲームなんかしないで、勉強しなさい――子どもの頃、ゲームで遊んだ人なら誰もが、親からそう言われたことがあるのではないだろうか。

 私(すいのこ)もそのひとりだった。小学生の頃なんかは1日1時間くらいしかゲームをやらせてもらえなかったので、“治外法権”だった祖母の家にわざわざ行って、弟と一緒にゲームをしていた。それに対して母は決していい顔はしなかった。

■「ゲームなんかしないで勉強」はもう古い

 そんな私は30歳、現在「プロゲーマー」として活動している。いわば、ゲームで飯を食っている立場にある。

 eスポーツのイベント運営などを行うウェルプレイドとプロ契約したのは2019年5月、29歳のときだ。サラリーマンであれば、人によっては昇進して役職が付き、部下もできて責任ある立場になっているであろう歳に、私はすべてを捨て、プロゲーマーという生き方を選んだ。

 間違いなくサラリーマンよりも収入が不安定で、先が見えない。10年後にはこの業種がなくなっていることも十分にありえる。それなのになぜプロゲーマーの道を選んだのか、それはひとえに「ゲームが好き」だからという一点に尽きる。

 私は『大乱闘スマッシュブラザーズ(スマブラ)』というゲームに出合い、熱中したからこそたくさんの人と出会い、いろいろなことを学んできた。その結果、今こうして筆を執ることができている。「ゲームはすばらしいもの」と押し付けるつもりはないが、私にとっては、ゲームは人生を変えてくれた大切なものだ。それは胸を張って言える。

 だが、私がゲームに感じているすばらしさと、世間の人から「ゲーム」もしくは「ゲーマー(ゲームをプレイする人)」に向けられる視線に“ギャップ”を感じることが多い。

 株式会社アスマークが2019年に行った『ゲームと子どもに関するアンケート調査』では、子どもにとってゲームは「いい影響があると思う」と答えた親の割合は24.2%と全体の4分の1以下にとどまった。

 また、父親より母親のほうが割合は低く、20%未満だった。具体的な影響については、「考える力や想像力が付く」というポジティブな意見がある一方で、「情緒不安定になりイライラする」といった意見やコミュニケーション力の欠如が懸念されていたり、「宿題もしないでずっと(ゲームを)やっている」といった、一種の依存に近い状態になってしまったりする、という声が上がっている。ポジティブな意見よりネガティブな意見のほうが具体的だ。

 ゲームばかりやると勉強をしなくなって頭が悪くなる――そう思っている子育て世代の方がいるかとは思うが、はたして本当にそうなのだろうか?   少なくとも私の知っている限りでは「ゲームをやりまくっていたのに、勉強ができる」という人がたくさんいる。

■東大・京大「高学歴eスポーツ選手」は多くいる

 私の身近な例を挙げると、日本初のプロスマブラプレイヤー「aMSa(あむさ)」は東北大学の宇宙地球物理学科卒業だし、日本を代表するプロスマブラプレイヤー「Abadango(あばだんご)」は東京農工大学大学院でプログラミングを学び、修士号を得ている。

 ほかにも、元GameWith所属のトッププレイヤー「Shogun(しょーぐん)」は京都大学卒業であるなど、スマブラ界だけで見てもトッププレイヤーで高学歴の人は多いし、大卒というくくりで見ると、その割合はかなり高くなる。

 スマブラ以外の例を挙げると、「ときど」は東大卒プロゲーマーとしてさまざまな大会で実績をあげる傍ら、著書を複数出版しており、ゲーマー以外の層からも人気と支持を得ている。

 ニンテンドースイッチソフト『ARMS』の世界大会で優勝した「KHU(こへう)」も東大卒だが、彼はそれに加えて法科大学院を修了後、司法試験に合格したなど、さまざまなジャンルで最上位かつ高学歴というプレイヤーが存在する。

 視点を現役の学生へと移すと、2017年に開催されたパソコン用オンライン対戦ゲー『League of Legends』の学生サークル日本一を決定する大会「オール・キャンパス・シリーズ」では、東京大学のサークルが優勝し、300万円相当の商品を獲得している。高校対抗のeスポーツ大会「STAGE:0」(2019年)では、『クラッシュ・ロワイヤル』部門で都内有数の進学校である渋谷教育学園渋谷高等学校が優勝した。

 このように「高学歴である」と「ゲームがうまい」という肩書きをあわせもつ事例はいくらでもある。ただし、私はここで「学校での成績がいい人=ゲームが強い人」と言いたいわけではない。

 大学に行っていないトッププロゲーマーも、もちろん数多く存在する。その最たる例が、日本最初のプロ格闘ゲーマーにして、「世界で最も長い期間賞金を稼いでいるプロゲーマー」としてギネス世界記録に認定されている「ウメハラ」こと梅原大吾だ。

 彼は高校卒業後、一度は格闘ゲームの道を退き、介護職などさまざまな道を模索していた時期があった。だが、自分には格闘ゲームの道しかないのだと決心し、プロゲーマーという職業がほとんど知られていなかった2010年以降、ずっと第一線で活躍している。彼の偉業やゲームに対する真摯な姿勢、そして魅力的な人柄は、私を含め多くのプロゲーマーの憧れであり、なかなか追いつくことのできない目標だ。

■なぜゲームが強い人は、頭がいいのか? 

 私はプロになる以前、所属するウェルプレイドで、企画職として働いていた時期があった。また、プロゲーマーとなってからも、同社が運営するウェブメディア『ウェルプレイドジャーナル』でプロゲーマーにインタビューしたり、記事を書いたりしてきた。

 そのため、スマブラのみならず、さまざまなゲームのトッププレイヤーと交流してきており、彼らがどのようにして強くなっているのか、現在どうやって強くなろうとしているのかについて話を聞く機会が多かった。

 そうしたなかで浮かんできたのが「ゲームが強い人は、なぜ頭がいい人が多いのだろう」という漠然とした疑問だ。

 トッププロゲーマーには、高学歴の人が多い。たとえ大学進学という道を選ばなかったプレイヤーでも、頭の回転が速かったり、緻密な思考力を備えていたりとタイプはさまざまだが「賢い」のである。

 この、「ゲームが強い人は、なぜ頭がいいのだろう」という問いの答えは何だろうか。

 私もプロゲーマーとなるまで、自分なりに「ゲームと勉強の両立」に取り組めていたように感じる。私がプロゲーマーになったきっかけを少し語らせてほしい。新書『eスポーツ選手はなぜ勉強ができるのか』を書くことになった動機にも関わっている。

 高校は鹿児島県で最もレベルの高い公立高校といわれる鶴丸高校に入学できた。その理由としては、「勉強のモチベーションをうまく維持できた」ことがあるように思う。

 小学校の中学年くらいまではあまりテストの点数はよくなかったのだが、マンションの隣に住んでいた同級生というライバルがおり、彼とテストや通信簿の成績を競い合っていたことが、私のなかで「勝つことの喜び」や「負けることの悔しさ」の原体験だったように思う。

 また、いい結果が出ると祖母からご褒美をもらえるなど、頑張りが形として報われていたこともモチベーション維持には大きかった。中学3年の受験期に学年トップ10争いに食い込むと、彼らに勝ちたいという対抗心もさらに大きくなり、定期テストの結果が出るたびに皆で集まって成績を見せ合い点数を競っていた。

■大学入学後に『スマブラX』にハマる

 その結果、鶴丸高校に進学できた。だが、中学校と違い全員がいわゆる“トッププレイヤー”のような環境で、一気に下位30%くらいにまで成績が落ち込み、心が折れてモチベーションを失ってしまう。ただ、そのなかでも好きだった英語と生物の成績でなんとか食らいつき、鹿児島大学農学部に入学できた。

 大学に入学した頃、スマブラシリーズ3作目『スマブラX』が発売され、たちまちのめり込んだ。SNSを通じて鹿児島のスマブラプレイヤーたちと実際に会って対戦し仲良くなり、同じ趣味の人とつながる楽しさを知った。

 もっとたくさんの人と対戦してつながりたいと思い、夜行バスに乗って東京や大阪の大会に頻繁に遠征しにいったりするなど、ゲーマーとしての活動にも精力的になり始めた時期だった。

 だが、学業はおろそかにしないよう努めた。焼酎学講座という全国でも珍しい焼酎をメインとした研究室で、大学院を含む4年間、焼酎をはじめとする発酵食品の研究を行ってきた。

 配属直後にまず、生徒1人ひとりが“マイ焼酎”をイチから作るという実習を行ったほか、地元の酒蔵に3日間ほど泊まり込んで、実際に現場で行う製造業務を体験する実習を受けたり、年に1度開かれる焼酎の鑑評会に特別に参加したりするなど、焼酎学講座ならではの体験を通じて、お酒の世界の奥深さに魅了されていった。

 卒論と修論の研究テーマは『麹および液化麹末摂食による老化促進マウス認知症発症の予防作用』――簡単にいえば「麹にはもしかすると認知症を予防する効果があるかもしれない」ということを調べる研究だ。研究成果を学会で発表したり、大学内で賞をいただいたりしたほか『抗酸化活性が増強した液化麹の製造方法』という特許も取得できた。

■勉強もゲームも「上達方法」は一緒

 大学での研究は、実験から得られるデータを分析し、考察して次の課題を見つけて取り組むことを繰り返して進めていくのだが、この工程は私がゲームを上達するうえで取り組んだ「課題発見→考察→解決策の実践→評価」というサイクルと共通していると感じる。

 大学院の修士課程1年のとき、2013年にアメリカで開かれた大会で世界17位という結果を残せたのだが、当時の練習方法が「いちばん強いプレイヤーとひたすら対戦し、勝てない原因をひとつずつ分解して、その対策を考えて試し続ける」というものだった。

 その結果悪い癖が少しずつ抜け、勝負どころを逃さない嗅覚が養われたのだと感じる。ゲームで得られた上達への取り組みは研究にも役立ったし、その逆もあるのかもしれない。

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最終更新:8/8(土) 16:01

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