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くら寿司が“神がかり的”アイデアを連発できる「シンプルな発想法」

8/8 12:01 配信

マネー現代

(文 夏目 幸明) コロナ禍より遥か以前から寿司にカバーをかけるなど、くら寿司・田中邦彦社長(69歳)の先見性は業界内でも「神がかり的」と言われている。

 他にも、お皿をテーブル脇の投入口に入れるとゲームが始まり、当たると玩具がもらえるシステム「ビッくらポン!」は、片付けの手間を省きつつ、子供を喜ばせる一石二鳥のアイデアだ。こうした発想は、どこから湧き出てくるのか。

アイデアを生み出す思考法

 「ビッくらポン!」は、私が小学校2~3年の頃、親戚のおじさんにブリキのおもちゃをもらったことが原体験になっています。

 多分、日本の文化は「子供を喜ばせよう」という色合いが濃く、文芸作品をとっても、桃太郎や竹取物語など、子供の興味を引きつける物語が多い。私は、このよき文化を店舗にも取り入れようと考えました。

 普段から人間とは何か、文明とは何かといった普遍的なことを考えるのが好きで、それが商売にも自然と結びついています。

 「先見性がある」と言っていただくこともありますがその時々に為すべきことを必死にやってきただけです。

 たとえば、O-157騒動で生ものが敬遠された際には、一定の時間回ったお寿司を自動でレーンから外すシステムを日本で初めて導入しました。すると、早期に売り上げが回復し、結果的にお客様からの信頼感も高まった。

 お寿司のカバーも「空気中の雑菌がお寿司に落ちる」と知っていたので、長年試行錯誤した末に、'11年に導入したものです。私は、商売のことよりも「良心に恥じない人生を送り笑って死にたい」と、常に考えています。

「人間好き」であること

 人間とは何か、と考えるようになったのは、子供時代の経験がきっかけでした。勉強が好きでなかった私は、教師に辛く当たられ、高校では皆に順番に質問するのに私だけ飛ばされるようなこともありました。

 そうした周囲とのずれに苦しむうちに、独学で様々な本を読むようになりました。そしてこの経験が、いまになって最高に役立っています。

 たとえば、組織は適切な場所に適切な能力を持つ人を置けば自然と発展するでしょう。私は、いつも「この人はどう思っているかな」と考えてきたからか、それが少し上手なんです。

 また、「他人の気持ちがわかる」「人間好き」であることも、仕事に生きています。たとえば、捨て猫が雨に打たれていたら「寒そうだな、かわいそうだな」と、何とかしたくなりますよね。その気持ちと、お客様を思う気持ちの根本的な出どころは同じなんです。

 状況から相手の気持ちを汲み、思いやることができるかどうか。採用の際も、私が常に念頭に置いていることです。

 リーダーの役割は「ビジョンを示すこと」だと思っています。なぜ皆、苦労して勉強して運転免許を取るのか? それは「車に乗るとこんなことができるよ」と知っていて、楽しいビジョンを描いているからです。

 だから、当社は社員に自社株を持ってもらっています。渋沢栄一も同じことを言っていましたが、一部の人間だけが金持ちになるから資本主義はダメになる。当社は、「資産1億円の社員を100人作る」と公言しています。

 米国で上場しましたが、貧富の差が激しい国だからこそ、こうした特異性が評価されないかな、と思っています。

 同時に「スマートレストラン」を作る計画も進めています。'21年中には、受付からお皿の勘定、お会計まで、すべて人を介さずにできる仕組みを国内の全店に導入する予定です。

経営者が持つべきは「忍耐と勇気」

 趣味は釣りで、自分も魚を捌きます。ただ、釣りの帰りに店に寄ると「この看板ではお客さんが困るだろう?」と、そんなことばかり目につきます。

 個人経営の店は看板で値段を掲げるべき。でなければ、怖くて入れません。また本当に自信があるものを一品掲げたほうが、お客様に伝わります。

 生活は質素な方だと思います。初めて新車で47万5000円の軽自動車を買った時、子供に「これが世界で一番の車や」と言ったら、学校で友達に自慢して、皆から「これは世界で一番安い車や」とからかわれ、しょげていたのはいい思い出です(笑)。さすがにいまは安全性の高い高級車をあてがわれていますが、修理代の高さに辟易します。

 くら寿司はアイデアが豊富と言われます。しかし、結局は人間が好きで、いろんなことを面白がってやっているだけなんです。そして、特異性はすべてここから出てくる。

 そのために経営者が持つべきは「忍耐と勇気」だと思います。新しいことをやる勇気を持ち、面白がっている部下に任せ、ちゃんと見守って責任は問わない。すると、どんどん新しいことを始められます。

 おせっかいながら日本の大企業は心配です。社員が完全に「言われたことをやっていればいい」となっている会社もある。社長がビジョンを示せず、皆がワクワクしていなければ、新しいことが始まるはずもありません。

 だから私は上場で世界を見てきた人間として「これでは日本の企業の地位が下がるばかり」と心配しているんです。(取材・文/夏目幸明)

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田中邦彦(たなか・くにひこ)
'51年、岡山県生まれ。桃山学院大学経済学部を卒業して酢のメーカーに就職、'77年、大阪府堺市に寿司店を開業、'95年にくらコーポレーション(現くら寿司)を設立し、代表取締役社長に就任、以来現職。コロナ禍の中、「医療従事者の方々のお役に立ちたい」と個人で1億円を大阪府に寄付する一面も
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 『週刊現代』2020年7月18日号より

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最終更新:8/12(水) 17:45

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