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セブン、米コンビニ「2兆円買収」再挑戦の賭け

8/7 5:01 配信

東洋経済オンライン

 一世一代の大勝負は吉と出るか――。

 8月3日朝、小売り大手のセブン&アイ・ホールディングス(HD)から突然のリリースが発表された。

 内容は、セブン&アイHDの完全子会社でありアメリカのセブン-イレブン事業などを運営する米セブン-イレブンが、現地の石油精製会社マラソン・ペトロリアムのコンビニエンスストア併設型ガソリンスタンド「スピードウェイ」部門を買収する契約を結んだというもの。買収額は210億ドル(約2兆2200億円)に上り、買収完了は2021年度第1四半期の期間中(2021年1~3月)を見込む。

 この買収は、セブン&アイHDにとって過去最大規模となる。これまでのセブン&アイHDによる最高買収額は、2018年1月に米セブンがコンビニを併設するガソリンスタンドの店舗網1030店を米スノコLPから取得した際の31億ドル(当時の為替レートで約3400億円)だったが、今回はそれを軽く上回った。

■米セブンの営業利益は倍増

 米セブンの2019年12月期の業績は、総売上高361億ドル(約3兆8100億円)、営業利益11億ドル(約1160億円)。スピードウェイの2019年12月期の総売上高268億ドル(約2兆8300億円)、営業利益11億ドルと単純合算すると、買収によって米セブンの営業利益は2倍へと増加する。

 日本のコンビニの成長が頭打ちとなり、不振が続くGMS(総合スーパー)のイトーヨーカドーや百貨店のそごう・西武を抱えるセブン&アイHDの中で、アメリカのセブンは成長ドライバーとして期待されてきた。セブン&アイHDの井阪隆一社長は8月3日に行われた会見で、「コンビニを軸とした、真のグローバルリテーラーとなる歴史的な一歩になる」と強調した。

 今回の買収でセブンが手に入れるのは、スピードウェイの店舗約3900店。アメリカは日本とは異なり、コンビニ業界での寡占化が進んでいない。セブンは北米で9802店(2020年5月末時点)を展開し、店舗数はトップを走るが、そのシェアは約6%にとどまる。買収が成立すれば、スピードウェイを加えて約1万4000店体制となり、2位に7000店以上の差をつけることになる。

 世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大する中だが、「コロナが永遠に存在するわけではないと思う。5年先、10年先を考えたときに、約4000店のチャンスはわれわれの成長にとって大きなメリットになると判断した」(井阪社長)。

 トップシェアを強固なものにしてセブンが狙うのが、ハンバーガーやサンドイッチなど注力中のオリジナル商品の導入や、会員基盤の拡大や宅配サービスの展開拡大などサービス強化、店舗数拡大による購買力向上や配送効率化だ。

 とくに、アメリカでは現在、コンビニは給油のついでに買い物をする場所という存在だが、オリジナル商品の強化によって、コンビニに行くことを目的とする消費者を増やしていく。同時にセブンはスピードウェイからガソリン販売のノウハウを手に入れる。「お互いのベストプラクティスを共有できる。(買収は)すばらしい2社の結婚といえる」(米セブンのジョセフ・マイケル・デピント社長)。

■ガソリンスタンドでも安定収益

 ただ世界的にEV(電気自動車)が浸透し始め、環境規制も強化されつつあり、脱ガソリンの動きが強まっている。こうした現状についてセブン側は、ガソリンスタンドを中核とする店舗でも、中期的に安定的な収益を得られるとにらむ。

 アメリカのエネルギー情報局によると、現地の2020年から2050年までのガソリン消費量の年平均成長率はマイナス0.4%とほぼ横ばい。しかもコロナ禍におけるGPSデータによると、アメリカでは公共交通機関の利用者が減る一方、車による移動距離がコロナ前よりも増えているという。

 米セブンのデピント社長は、「EVの普及率は2019年の1.8%から2050年までに11.2%まで上がる見込みだが、それを上回るスピードで人口そのものが増える。EVの充電施設に力を入れることがゆくゆくは必要になるかもしれないが、長い目線での話になる」と説明する。

 セブンオリジナル商品を導入することによるスピードウェイでの商品売り上げの増加や購買力強化によって、2025年2月期には米セブンの営業利益が4億7500万~5億7500万ドル(約500億~600億円)押し上げられるとセブン&アイHDは見込む。

 この買収は、2度目の挑戦だった。今春、セブンによるスピードウェイ買収は約220億ドルで検討していたとされるが、折り合いがつかなかった。当時は巨額の買収費用に加え、ガソリンスタンドを中核とする店舗を買収することに、ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点において、セブン&アイの社内からも懸念の声が上がっていた。

 だが新型コロナの影響で石油需要が減少する中で、中核の石油精製事業が大幅な赤字となったマラソン側が再度売却を検討したと見られ、「千載一遇の案件が出てきた」(井阪社長)。

 巨額買収が決定したセブン&アイHDは3日の説明会で、割高な買収ではないことを繰り返し強調した。EV/EBITDA倍率(企業価値をEBITDAで割った値)は13.7倍に上るが、アメリカでの節税効果30億ドル、重複する店舗約200店の売却効果10億ドル、不動産など資産を売却しリース契約で借りるセール&リースバックで50億ドルの効果が見込めるという。それらを踏まえると、実質的な取得価額は210億ドルから120億ドル(約1兆2670億円)となり、EV/EBITDA倍率は7.1倍まで下がると、会社側は主張する。

 UBS証券の守屋のぞみアナリストは、「210億ドルの買収額は額として大きいし収益性の面からも割高だが、セール&リースバックなどを踏まえて4000店弱を120億ドルで手に入れられるなら必ずしも割高ではないだろう」と評価する。

■日本流は浸透するのか

 巨額買収の資金の内訳は、ブリッジローン130億ドル、セブン&アイHDから米セブンへの増資80億ドルで賄う予定だ。新株発行による資金調達はせず、株式が希薄化しない点も説明会で強調された。

 買収が発表された3日のセブン&アイHDの株価は、一時は前営業日の終値より268.5円下がる2937.5円にまで急落。だがその後の株価は買収発表前の水準まで戻している。UBS証券の守屋アナリストは、「株式市場では買収規模への懸念がまず広がったが、実質取得価額を120億ドルまで抑えるスキームや株式の希薄化がないという説明が出て、懸念が少し和らいでいる。ただ、米セブンの強みを生かして物販の売り上げ増加を会社が説明する時間軸で実現できるのかは、規模が大きいので丁寧に見る必要がある」と話す。

 現在米セブンはセブン&アイHDの傘下にあるが、もともとはアメリカ発祥のチェーンで、セブン-イレブン・ジャパンの前身がライセンス契約を結び日本での展開が始まった歴史がある。ある小売業界関係者は、「『日本流を広める』というのは幻想。日本のセブンはアメリカ流を排したことで成功したが、(商品を強化するという)日本流をアメリカに植え付けるのはその裏返しで、有効なのか疑問だ」と懸念する。

 また、買収で見込むシナジーを生むための施策を実行できるのかも注視する必要がある。米セブンのデピント社長は、セブン&アイHDの井阪社長が掲げる米セブンの商品強化に以前から賛同しているようだが、担当者レベルまで方向性が十分に浸透しているかは未知数だ。

 懸念点として残るESG(環境、社会、ガバナンス)について米セブンは、以前は2027年の二酸化炭素の排出量を2015年比で20%削減する目標を掲げていたが、今回の買収を受けて40%へと引き上げるなど、目標をより厳しく設定した。

 コンビニ事業として見ると、合理的にも見える大型買収。ただ計算どおりに統合が進むとは限らない。2兆円を超す巨額買収は、セブン&アイにとって決して失敗が許されない大勝負となる。

東洋経済オンライン

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最終更新:8/7(金) 5:01

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