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米留学後PMDDで主婦になった25歳女性の苦悩

8/2 8:05 配信

東洋経済オンライン

バイエル薬品が制作し、婦人科などで配布している冊子(『生理前カラダの調子やココロの状態が揺らぐ方へ PMS 月経前症候群』)によると、約74%の女性が、月経前や月経中に身体や心の不調(月経随伴症状)を抱えているという。

月経随伴症状とは、月経前はPMS(月経前症候群)やPMDD(月経前不快気分障害)、月経中は月経困難症と呼ばれる症状だが、日本ではまだあまり知られていない印象だ。
しかし、ホルモンバランスの変化により、精神状態や体調が変化することに気づき、悩んでいる女性は少なくない。

そこで、実際にPMSやPMDDに苦しむ女性の事例を紹介することで、PMSやPMDDについての理解を社会に広められたらと思う。

■アメリカ留学中にPMS・PMDDの傾向が出始めた

 関東在住の渡辺海凪さん(仮名、25歳)は、高校生の頃からアメリカに留学。高校卒業後は現地の大学に進み、卒業までを過ごした。

 「高校生のときに半年以上生理が来なかったことがあり、地元の婦人科医に診てもらいましたが、『よくあること』で済まされて、とくに何のアドバイスもなく、薬も処方されませんでした」

 渡辺さんの父親が内科医だったため、日本に一時帰国した際にヤーズフレックスというピルをまとめて処方してもらった。

 この頃はまだ、生理不順に悩むくらいだったが、大学卒業間近の頃、突然の卵巣嚢腫破裂による内出血で意識を失い、救急搬送される。

 手術一歩手前の状態だったが、貧血が治るまで3日ほど入院し、退院後1週間ほどの自宅療養で完治。

 念のため、帰国後に大学病院の婦人科で診察してもらったが、とくに問題はなく、PMDDとも直接的には関係ないと言われた。

 「思い返してみると、PMS・PMDDの傾向が出始めたのは大学在学中です。勉強の量が多いときは生活リズムを崩してしまい、生理10日ほど前から精神的に不安定になっていました。高校から大学に移るタイミング、大学で転校したタイミングでそれぞれ違う州に引っ越ししたので、そのたびにまったく新しい人間関係を築き上げなければいけなかったことは、ストレスになっていたように思います。

 アメリカは州によってまったく違う文化を持っているので、日本国内で引っ越しする以上に大変でした。私は新しい環境で率先して行動を起こしていくのがあまり得意ではないので、自分で意識していた以上に疲れることだったのかもしれません」

■母親に実家を追い出される

 日本に帰国した渡辺さんは、実家で生活しながら就職活動を開始。2カ月後には就職が決まった。

 ところが入社間近なある日、突然母親がヒステリックに怒り出し、実家を追い出されてしまう。

 「もともと母親はヒステリックな気性で、ストレスがたまったり、思いどおりにならない状態になると、感情がコントロールできなくなる傾向がありました。私が留学を決めたのも、そういう母親と離れて暮らしたいという思いがあったのだと思います。帰国して就職するまでの短期間の同居なら何とかなると思っていましたが、私の言動がしゃくに障ったのでしょう。もしかしたら、これもPMDD悪化の一因だったのかもしれません……」

 同居していた兄や父親もその現場に居合わせ、いさめようとしてくれたが、火に油だった。母親は余計に怒り狂い、渡辺さんは家を出るしかなかった。そして1人暮らしを始め、保険会社の総合職として社会人生活をスタート。

 「アメリカにいる間は周囲に日本人がいなかったので、当時の私の日本語能力は中学生レベルだったと思います。何を話すにも、英語から日本語に脳内で変換して直すプロセスが必要でしたし、話を聞くにも、日本語から英語に変換する作業が欠かせませんでした。私が稚拙な日本語で話すと、面と向かって笑われることもあり、正直これがいちばんきつかったです。

 仕事の会議でも、トピックが進行する順番が英語での会議とあまりにも違いすぎていたため、同僚や上司が何を話そうとしているのかわからず混乱する毎日。初めて社会に出たということに加え、日本の気候に身体が慣れていなかったせいもあり、生理前に体調を崩すようになりました」

 生理前になると精神的に不安定になるだけでなく、身体が思うように動かなくなる。渡辺さんは藁にもすがる思いで大学病院の婦人科にかかった。

 すると医師から、「生理前だからといって、このように精神的な影響が出るのはありえない。婦人科としてできることはない」と言われ、生理不順に関してのみヤーズフレックスを処方される。

 渡辺さんはかなりのショックを受け、「自分の甘えかもしれない」と思ったが、セカンドオピニオンを求めて精神科の扉をたたいた。

 精神科医は、「今いる会社は向いていないから、回復することは難しい」とキッパリ。適応障害とPMDDと診断され、ドクターストップがかかったため休職することに。

 しかし復職しても続かず、「周囲にこれ以上迷惑をかけたくない」「惨めな思いをし続けたくない」と思い、半年ほどで退職した。

■女性上司からのパワハラ

 最初の退職から3カ月後、金融系情報サービスの営業職として再就職した。しかし入社後すぐに、教育担当になった女性上司からパワハラを受け始める。

 「その会社は業務量に対して人員が不足しており、社員はキャパシティーオーバーの業務を請け負っていました。私が入社したのはちょうど繁忙期で、たぶん、女性上司もとてもストレスがたまっていたのだと思います。私も社会人として欠けるところがあったと思いますが、入社したばかりで右も左もわからないのに、質問をするだけで、ほかの社員がいる前で人格まで否定するような暴言を毎日何度も言われました」

 「このままでは潰れてしまう」と思った渡辺さんは人事に相談。その女性上司は教育担当から外された。

 幸い、女性上司以外の社内の人間関係は良好だったが、パワハラ問題が解決してから2カ月ほど経った頃、一時的に改善していたPMDDが悪化。自分の体調や感情をコントロールすることができなくなってしまう。

 渡辺さんが相談したところ、会社はPMDDに対して理解を示してくれた。しかし渡辺さんは、悩んだ末に退職を決意。就業期間はやはり約半年だった。

 「おそらく、パワハラを受けていた間は生き延びるので精いっぱいでしたが、パワハラが落ち着いたため、遅れてPMDDが悪化し始めたのかもしれません……」

 やがて渡辺さんは、女性婦人科医が経営するレディースクリニックにたどり着いた。

 女性婦人科医は、PMDDについて親身に相談に乗り、「生理前にこのような症状で苦しんでいる人は、あなただけではない」と教えてくれた。

 「3年ほどずっと飲んでいたヤーズが合わなくなってきたことを話したら、副作用からほかにどのピルが合うかの提案や、生理前の身体的な症状に合わせた漢方の処方をしてくださり、とても安心感を覚えました。身体的症状は改善しましたが、精神的症状にはやはり精神科へ行ったほうがいいとのことでしたので、別に精神科医にかかることにしました」

 最初の会社を辞めたときにかかった精神科とは別の精神科へ行くと、やはりPMDDと診断。

 「基本的にPMDDはピルでは改善は見られにくい」とのことで、抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を処方され、ストレスを適切に処理するためにリラクゼーション療法を勧められた。

 「リラクゼーション療法とは、自分でストレスフルになってきたと感じたら、アロマをたく、湯船に浸かる、音楽を聴く、軽い運動をするなどして、ストレスを限界までためず、少しずつ消化していくことです」

 2回目の退職から6カ月後、渡辺さんはかねて交際していた男性と入籍した。

 渡辺さんは生理の2週間以上前から、集中力の欠如・物忘れ・気怠さ、身体が鉛のようになる・感情の劇的な起伏、易怒性、非常に涙脆くなる・食欲の増加・被害妄想・ネガティブ思考、自己嫌悪・むくみ・偏頭痛・吐き気・眠気の増加・パニック・自殺願望などの症状に悩まされる。

 医療系の仕事をする夫は、PMDDに理解を示し、自らPMDDに関する文献を読み、客観的なアドバイスをくれる。

 「夫には物理的に攻撃してしまったことはありません。ただ、『死にたい』『どうせ私なんて価値のない人間』といった言葉で傷つけてしまったことや、公共の場で八つ当たりをしてしまったことはあります。『あなたには私の絶望なんてわからない』『PMDDで仕事に支障がないなんてうらやましい』なんて夫に言っても仕方がないし、不快な思いをさせるだけと理性ではわかっているのですが、どうしても言わずにはいられなくなるのです……」

 これまで渡辺さんは、婦人科ではヤーズ、ルナベル、ジェミーナといったピルや漢方薬を服用してきた。ヤーズは、留学中はよかったが、帰国後にPMDDが悪化してからは、飲むと頭痛がひどくなり、続けられなくなった。ルナベルは、不正出血の量が多く、頭痛もひどかったので中止し、ジェミーナに落ち着いて、1年以上服用している。

 一方、精神科では、パキシル、セルトラリン、ソラナックスを処方された。

 「ピルはPMDDの症状には効きませんが、私は生理不順になりやすい体質なので、スケジュールを管理するという意味でジェミーナを飲み続けています。漢方薬は、五苓散がむくみや頭痛に効きましたが、それ以外のものは効果が感じられませんでした。精神科で処方された薬は、不安やパニックに効いた気がしますが、私の場合、PMDDの原因は仕事によるストレスだと思っていて、『精神薬に頼ってまで続けなくてはならない仕事なのか?』という疑問が湧きました。なので、今では飲んでいません」

■同じ女性から理解を得られないのがつらい

 2回目の退職から、渡辺さんは就職活動をしていない。

 「仕事をスパッと辞め、ストレスの根っこを思い切って取り除いてしまってから、1年近くかかりましたが、かなり体調が安定しました。ストレスが少なくなり、運動・生活リズム・食生活にも気を使えるようになったことが大きいと思います。私は仕事を続けながらストレスを処理する方法を見いだせませんでしたが、仕事といっても千差万別で、さまざまな働き方があるので、他人と比べず、自分に合った働き方をトライアルアンドエラーで模索していくことが大切なのかもしれません」

 渡辺さんは、お風呂上がりにストレッチや自重筋トレなどをし、日中は散歩をする。早寝早起きを心がけ、1日3食なるべく同じ時間に摂ることや、栄養バランスに注意している。

 「もちろん、注意していてもできないときはあります。大切なのは、自分を責めないようにすること。体調管理で重要なのは、ストレスを看過しないこと。ストレスを放置していると、生理前に体調が悪化します。『今月は身体に負担をかけたな』と感じれば、予定を詰めすぎず、家でゆっくりコメディなどを見て笑うことを心がけています。自身の体調が芳しくないと思ったら夫に伝え、一緒にリラックスして過ごせるようにしています。理解されるだけでも心強いですし、お互いに安心します」

 渡辺さんがPMDDで最もつらいのは、「同じ女性から理解を得られないとき」。過去に「そんなこと女性なら誰でも我慢している」「自己管理できないあなたがおかしい」などと言われた記憶がPMDDになると重くのしかかってきて、最終的には潰されてしまうという。

 「私はPMDDとフルタイムの仕事とを両立することができず、夫に扶養されて半年経ちましたが、仕事をしたくてもできない自分の歯がゆさにはいつまで経っても慣れることができません。そもそも比べるものではないのですが、ほかの人のように働けない自分を見ると、どうしても自信喪失・自己嫌悪に陥ってしまいます……」

 「また働きたい」という渡辺さん。興味のある新しい分野に挑戦するため、現在は人生の休養期間中だ。

東洋経済オンライン

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最終更新:8/2(日) 8:05

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