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日本のオンライン診療「残念」なほど後れる実態

8/2 8:01 配信

東洋経済オンライン

昨今の経済現象を鮮やかに切り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第23回。

■世界では、コロナでオンライン診療が急拡大

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、世界の各国でオンライン診療が急速に進みました。

 日本でもコロナ期間中の特例として規制緩和をしたのですが、実態は進んでいません。そして、緊急事態宣言が解除されたいま、元に戻りそうです。

 導入できない理由としていろいろなことがいわれますが、納得できるものではありません。患者が声を上げ、医療制度を改革していくことが必要です。

 日本ではこれまでは通院中の患者に対してしか認められていなかった「オンライン診療」が、4月10日以降、初診から利用できるようになりました。

 PC(パソコン)やスマートフォンなどで医師の診断を受け、支払いはクレジットカードで。病院から薬局に処方箋が送られ、最寄りの薬局で薬を受け取ることができます。

 院内感染を回避することができるうえ、通院途中での感染の危険も防止できます。また、病院で長時間待たなくて済みます。

 もともと要請が強かったものですが、コロナ感染の広がりに伴って要請がさらに高まり、これまであった制約が緩和されたのです。

 オンライン診療は、世界各国で急増しています。

 アメリカでは、2020年の診療回数が、感染拡大前の予想の30倍近くに増えると見通されています。

 この原因としては、次のようなことがあります。

 第1に、新型コロナウイルスの感染拡大で、病院へ通うのが難しくなったこと。

 第2に、新型コロナウイルス治療に集中するため、ニューヨーク市などで多くの病院が緊急以外の外来患者の受け入れを中止したこと。

 第3に、医療保険の適用を拡大したこと。アメリカ政府は3月、公的医療保険メディケアにおいて、オンライン診療の保険適用範囲を大きく拡大しました。州政府も民間保険会社に保険の対象とするよう指示しました。

 イギリスでは、国民医療制度(NHS)が、バビロン・ヘルス社の開発したオンライン診療アプリに保険を適用しています。

 このアプリには、人工知能(AI)による症状の分析とオンライン診療の2つの機能があります。軽度の症状の診察はAIが行い、本格的な診療や薬の処方はオンライン診療が行います。

 中国では、すでに2019年夏にオンライン診療を公的医療保険の対象とする方針を打ち出しています。医師不足の中国では、もともとオンライン診療のニーズが強いのです。

 中国の調査会社によると、春節(旧正月)期間におけるオンライン診療アプリの利用者数は、前年より約3割増えました。

 代表的なアプリが「平安好医生」(平安グッドドクター)です。これは、時価総額が中国最大の保険会社である中国平安保険の傘下企業が提供するサービスで、医師とオンラインで健康相談ができたり、薬の手配ができたりする世界最大の遠隔医療プラットフォームです。登録者数は3億人を超え、診療回数は1日約73万回に達しています。

■日本ではなかなか進まないのが実情

 日本では、これまでも、オンライン診療は形式的には認められていました。

 2003年3月に、「対面診療と適切に組み合わせて行われるときは、遠隔診療によっても差し支えない」ことが確認されました。

 2018年度の診療報酬改定において、診療報酬にオンライン診療料等が創設されました。

 ただし、3カ月の受診歴が必要で対象も慢性疾患に限られるなど、制約が大きかったのです。

 ところが、2020年4月10日に、新型コロナウイルス感染症拡大期の「時限的・特例的な対応」として、初診からの「電話や情報通信機器を用いた診療」が可能になりました。

 では、実態はどうだったでしょうか? 

 私の個人的な経験を述べましょう。近くの病院で血液検査をして、その結果をいつも通っている病院に電話で伝えることで、定期健診に替えようと思い、近くの病院に電話をしたところ、「紹介状が必要」等々の面倒なことを言われて、結局のところ諦めました。

 この病院ではこれまでに何度か診療を受けたことがあり、カルテがあります。それでも、このような状況でした。つまり、オンライン診療にたどり着く前の状態でつまずいてしまったのです。

 「まったく、話にならない」というのが実態です。

 これは、緊急事態宣言が発令されていた最中のことです。いまなら、最初から門前払いされることでしょう。

 私はそのとき、ある大手製薬会社が提供しているオンラインの血液検査キットをウェブで注文して購入しました。

 自分で採血をして血液を容器に密閉して郵送すると、数日で結果を教えてくれるのです。あまり安価なものではありませんが、病院まで出かけなくても正確な結果を知ることができるのは、大変便利です。そのときは、結果に異常値がなかったので、随分、安心しました。

 技術的には、すでにこうしたことが可能となっているのです。

 いや、中国では、もっと進んだことが行われています。

 2013年に設立されたインターネット専業の損害保険会社である衆安保険は、糖尿病患者を対象とした医療保険を提供しています。ここでは、テンセントが開発したタッチパネル式の測定端末で血糖値のデータを取り、血糖値が規定値を下回われば、保険金が増額されます。

 この「測定端末」がどういうものなのか、詳細はわからないのですが、「タッチパネル式」というのですから、上で述べた血液検査キットよりさらに簡単に血液検査ができるのでしょう。

 こうした最先端技術を駆使すれば、家にいたままで、かなり詳細なデータを医療機関に送ることができます。

 上で述べたように、イギリスでは、国民医療保険が、AIの自動診断を導入しています。

 こうした技術進歩を考えると、以下に述べる日本でのオンライン医療に対する硬直的な姿勢は、まったく理解できないものです。

■日本では医師会が反対

 海外では、コロナ以前からオンライン診療に積極的に取り組んでいたのに対し、日本では、コロナ対策としてやむをえずオンライン診療を認めたという面が強かったと思います。

 日本医師会は、初診からのオンライン診療は、情報のない中での問診と視診だけの診療や処方となるため、大変危険であると、従来から主張してきました。

 そして、今回の措置が「時限措置」であることが強調されています。

 日本医師会の松本吉郎常任理事は、緊急事態宣言が延長されたとき、記者会見で、「初診からのオンライン診療は、情報がない中で診療をするため、大変危険だと指摘してきた。今回の政府方針は、非常事態のもとでの例外中の例外という認識だ」と述べています。 

 そして、実際、特例として導入はされたものの、元に戻りそうです。

 「オンライン診療だと、重大な疾患等を見逃した場合には、医師の責任を問われる」と言われます。

 確かにそうでしょう。それはわかります。しかし、少しでも疑いがある場合には来院することを求めればよいのではないでしょうか? 

 患者としても、あらゆる場合にオンライン診療だけで済ませるなどとは思っていません。

 実際に通院しているのは、定期健診的な場合が多いのです。とくに高齢者の場合にはそうです。「病院に行ったところで、血液検査をした後は、医師と話をするだけ」という場合が少なくありません。

 先に述べたように、近くの病院で血液検査だけをしてもらえるなら、後は定期診断をしている病院にその結果を伝え、それをもとにオンラインで診断をしてもらい、薬の量を調整する、といったことで十分な場合が多いのです。

 しかし、先に述べたように、私の経験では、それさえもままなりませんでした。 

 また、システムの導入費用が高いことや、個人情報の流出などという問題も指摘されています。

 それらは理解できます。だからといって「導入できない」と一概に結論づけることはできないと思います。もし本当に必要なものであれば、個人情報流出などに万全の備えをし、かつ必要な費用をかけても導入を進めるのが望ましいのではないでしょうか? 

■診療報酬が低いという問題があったとしても

 オンライン診療が導入できない本当の理由は、別のところにあると、考えざるをえません。

 「オンライン診療は診療報酬が低く設定されているため、経営面を考えると導入を控えざるをえない」といったことはないでしょうか? 

 私は、「病院は経営事情を考えるべきでない」と言っているのではありません。経営できなければ、医療サービスを安定的に供給することはできないからです。

 しかし、多くの患者がオンライン診療を望んでいるのであれば、病院がそれに対応できるように診療報酬の体系を見直していくことが必要でしょう。

 アメリカで保険適用対象を広げたためにオンライン診療が広がったという事実は参考になります。

 情報技術の進歩に合わせて医療制度を改革していくことは、コロナが収束したとしても求められることです。それは、ニューノーマルの社会における重要な構成要素となるでしょう。

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最終更新:8/2(日) 8:01

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