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「巨大トンネル建設」を撮った写真家が見たもの

8/2 16:31 配信

東洋経済オンライン

トンネル貫通後、全面防水シートに覆われた黄金色のがらんどう。まばゆく反射するライトの光、静謐(せいひつ)さをたたえた巨大空間の神々しさに息をのむ。福島県川俣町・国道114号の泡吹地(あわふくじ)トンネル(203m)が完成するまでの1年半を記録した写真集『トンネル誕生』。撮影した写真家の山崎エリナ氏に話を聞いた。

■新たなトンネルが開通する光と陰

 ──起承転結を地で行くように、物語は静かにスタートします。

 ここからトンネルを掘っていく、と地図の施工起点を指さす写真を最初の1枚にしました。実はそれ以前に、事務所開きや電話線を引くところも撮っていました。後から地図を指さす光景に出くわしたとき、自分的にもここから完成まで立ち会うんだ、という気持ちが高まって即決しました。

 ──そして2枚目。さあ巨大重機登場、かと思いきや、あぜ道をとぼとぼ歩く作業着2人の後ろ姿。

 もうここからは本当に時系列で見せようと。工事開始は冬。雪を踏みしめポケットに手を突っ込んで、起工する山肌を見に行くところです。新しいトンネルが開通するという光の部分と同時に、横にたたずむ田んぼの風景は消滅するんだなという陰の部分が浮かんだ。その山あいの景色に対するいとおしさというか、撮り残したくないという思いがありました。

 ──本格的に工事が動き出すにつれ、登場する風景の色彩がコントラスト鮮やかになっていきます。

 巨大なトンネルの坑門に向かって、白い装束をまとった神主さんと白っぽい作業着の工事関係者たちによる安全祈願が行われます。貫通までは、固い地盤に多数の孔をあけて火薬を仕込み、爆破させながら掘り進めていくのですが、赤い塗装を施された掘削機のドリルジャンボなど重機も、神主さんによって全部お祓(はら)いされます。

 山の神様に掘ることのお許しを請い、工事の安全を願う儀式が行われることを、実はそれまで知りませんでした。山の神は女性で、人間の女性が入ると嫉妬して必ず事故が起きる。だから女性は入ってはいけないという時代が近年まであったそうです。

 トンネルに入るというのはすごく大変なこと。気を引き締めて、1枚1枚大事に撮らなきゃいけないって思いにさせられた。安全祈願の場面なしに、「トンネル掘削、いざ出陣!」で威勢よく始まるのは、ちょっと違うんじゃないかなと思いました。

■「貫通」は作業の前半に過ぎない

 ──つまり“当事者”になられた。

 そうです。本当に私が入ってもいいのかな、という戸惑いがすごくあったんです。安全祈願祭の日は雨がポツポツ降っていて、「さあ、皆さんで祈ります」というときに、パーッと光が差した。「これでやっと受け入れてもらった」と思いました。トンネルに入る際はいつも心の中で「今日も入らせていただきます」とつぶやいて入りました。事故でも起こしたら、皆さんに迷惑を掛けるので。

 ──単純に、トンネル=掘る、のイメージでしたが、この写真集の中で貫通までは前半にすぎない。

 コンクリートを吹き付けながら掘り進み、ついに岩盤の向こうから光が差し込む。貫通すると山の神様に感謝し、お清めをする。坑内に万歳の声がこだまします。そして次のステージが待っている。完成後の水漏れを防ぐため防水シートを張るのですが、その白いシートが照明のせいで黄金色に輝いて、幻想的な世界が出現します。

 ドリルや重機が作動してる工事中はまさに轟音なんですけど、皆さんが休憩に入って、私1人になる瞬間があるんです。明かりも半分消えて、シーンと張りつめた空間にポツンとたたずんでいると、安心感というか、まるでお母さんの中にいるような感覚にとらわれました。まだ未舗装なので地面の土はぬめっとしてて、そこにあるキャタピラーの跡から、まるで恐竜がペタッペタッと歩く世界に迷い込んだような感じも。たった1人取り残されたトンネル空間の心地よさを何度も味わいました。

 ──約1年半、計十数回、現場に足を運ばれたんですね。

 行くたびに工程が進んでて、この前覆ってた防水シートがもうなくなってる、次は鉄筋が組まれてる、今度はコンクリートポンプ車が入ってる、というように毎回違う光景なんです。この防水シートはもう一生撮れないんだと思って、絶対撮り残さないようにと、まるでわが子のような気持ちで撮っていました。

 そして何より皆さんの背中がかっこいいなと。本来なら、ガーッと作業してる顔を撮りたいんだけど、回り込めないし危ないからできない。それで、トンネルに懸ける皆さんの気迫というか、戦の鎧(よろい)を着て岩肌に挑んでる背中を懸命に追いかけました。

 時系列で、30代半ばの現場監督さんの写真を要所要所に入れてるんですけど、写真集で見た人は同一人物だと誰も気づいてくれない。最初あのぽっちゃりしてかわいかった彼が、2年余りでシュッとして、無精ひげを生やした別人になってるという(笑)。

■この先の世界を想像させられる写真で終わりたかった

 ──そして最後の写真。万歳三唱でも笑顔の記念写真でもない、予想外の1枚にジワッときました。

 トンネル本体の工事が終わって、最後の最後、トンネル名を刻んだ銘板を取り付けた後のシーンです。これが本当に最後の皆さんの後ろ姿。ここから道路を舗装する次のステージに進み、実際に車が行き交うようになるまで、まだつながっていくというのを1枚の写真に全部閉じ込めたいと思いました。この先の世界を想像させる写真で終わりたいなと。

 ──これほど七変化に彩られた世界だとは想像していませんでした。

 すべてトンネルの中に入って自分が体感したこと。撮影中は一記録者に徹しました。

 休憩中にカメラを向けると、あれほど厳しい顔で機械を操作していたおじさんが、エヘヘって表情を崩す、そのギャップもよかった。私たちが普段目にしない、陰で働いてくれてる人たちというんでしょうか。道路工事や除雪や自然災害が起こったときなど、私たちが寝ている間に地域の建設業者さんがかけがえのない仕事をされている。そんな皆さんの笑顔はすごくすてきです。でも今回はあえてそこじゃなく、トンネルができるまでという枠の中で、戦うストーリーを完成させようと決めて撮りました。

東洋経済オンライン

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最終更新:8/2(日) 16:31

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