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第2波来たのに緊急事態宣言に及び腰な3つの訳

7/15 15:31 配信

東洋経済オンライン

 東京を中心として全国に再び新型コロナウイルスの感染者数が増加傾向にあります。第1波を抑え込んだ日本ですが、この先をどう見たらいいでしょうか。

 まずはWHO(世界保健機関)が公表している「COVID-19ダッシュボード」の日本についてのグラフ(図1)をご覧ください。

 (外部配信先では図を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

 6月下旬から新型コロナの新規感染者数が増加を始め7月に入って急増しているのがわかります。グラフの中ほどに目をやるとちょうど政府が4月初めにわが国初の緊急事態宣言を発動するかどうか迷っていた時期と、直近の感染者数のグラフの形が同じであることがわかります。

■政府や自治体は情報操作をしている? 

 日本では4月7日に緊急事態宣言が発令されると翌日から公表される感染者数は500人を超える新しい水準へと移りました。これはまったくの邪推ではあるのですが、コロナの患者数が東京五輪の延期が決まった3月24日の直後に増え、緊急事態宣言の直後にも増え、そして今回、7月5日の都知事選挙の直後に東京都の感染者数が増え始めたことで、われわれ一般国民から見ると政府や自治体は何らかの情報操作をしているのではないかと勘繰りたくなります。

 それにしても政府はこの状況においても「直ちに緊急事態宣言を出すような状況ではない」という認識を表明しています。これはいったいなぜでしょう。その背景にある3つの理由について解説してみたいと思います。

理由1 前提が違う
 政府が「4月のときと違う」と言う背景には同じような数の新規感染者が出てきていても4月とは前提条件が違うという論理が存在しています。4月の緊急事態宣言発動時に最も危惧されていたのは医療崩壊でした。当時と比べると感染者には30代以下の人が多いことで重症化する人の割合が少なく、医療現場は逼迫していないと言います。

 別の前提として当時とは違いPCR検査数が激増しているという事実もあります。覚えていらっしゃる方も多いと思いますが3月頃まではとにかく各地の保健所は理由をつけてPCR検査を受けさせることに消極的でした。東京都では4月頭頃までは1日の検査数が500件に満たない状況がずっと続いていました。これが4月中頃には1日1000件程度、5月には1500件程度と増加し、その後カウントの仕方が途中で変わっているという事実はありますが、7月現在で1日3500件程度の検査が行われるようになりました。

 4月の頃は報道番組などで「検査を拡大すべきだ」という声が高まっていると同時に、専門家の推論として「全数検査ができたらおそらく感染者は公表数字よりも2~3倍多いのではないか」といった意見も表明されていました。その前提で考えると見た目のグラフの高さが同じなだけで、実際のグラフの山は4月と比べて現在はまだ低いととらえることもできるわけです。

 しかし新型コロナの感染者数は、緊急事態宣言が解除された5月25日以降、確実に増えてきているのは事実です。政府や都は「感染者がいちばん多いのは夜の街関連である」と繰り返し主張していますが、事実はそうでもありません。直近の東京都の感染者でいちばん多いのは経路不明の46%です。これは追跡できない感染経路が都内で急増していることを示しています。

 アジアで日本と同じような再流行を見せている国を探してみると、中国、韓国、台湾は比較的コロナの抑え込みがうまくいっていて再流行の兆しは見られません。グラフを見ていただきたいのですがいちばん日本とよく似ているのが香港です(図2)。そして香港ではディズニーランドを再び休園させるなどコロナ封じ込めに動き始めました。

 一方の日本では緊急事態宣言が解除されたことで通勤ラッシュがふたたび始まり、段階的な解除で飲食店や繁華街に人が戻り、スポーツイベントにも観客が入れるようになりました。季節は夏なので屋外でマスクを外す人も増えてきました。

■集団免疫などほとんどできていない

 6月に相次いで大規模な抗体検査が行われましたが、新型コロナの抗体を持っている人の割合は厚生労働省が発表した東京都の検査で0.10%、ソフトバンクグループ4万人の医療従事者データで0.43%と集団免疫などほとんどできてはいないことが判明しました。そもそも抗体を持っている人が少ない新しい伝染病なので感染しやすいという前提条件は変わっていません。

 その前提下で7月22日に前倒しで国民の旅行需要を増やす目的の「Go Toトラベルキャンペーン」が開始されるので、この夏の新型コロナ感染者数が減りにくい状況が作られています。国民から見れば4月の緊急事態宣言と、7月のGo Toキャンペーンは国の政策としては明らかに矛盾しているように見えるのですが、なぜそんな判断につながるのでしょうか。そこで2つめの理由を見てみたいと思います。

理由2 死者が少ない
 先ほど7月の感染者の内訳について重症者が少ないとお伝えしましたが、さらに少ないのが死者数です。グラフ(図3)を見ていただくとわかるように日本の新型コロナの感染者数は4月、5月に集中していて、緊急事態宣言が解除された5月25日以降は激減しています。

 実はこの傾向は世界最大の新型コロナ感染国となったアメリカでも似た形で見られます。アメリカでは6月に入り、新型コロナが全州で拡散して感染者が増加の一途をたどっているのですが、その一方でWHOのグラフを見る限り、死者数のピークは4月から5月の頭にかけての時期であって、6月以降は日本と違って一定数の死者は出ているもののその数は落ち着いています。

 そもそも日本では4月に緊急事態宣言が出された頃までは新型コロナの抑え込みに失敗すると国内に最悪で42万人規模の死者が出るという予測が念頭にあって大規模な自粛が行われました。その後コロナについての理解が深まり、医学的なリスクについての認識も修正されてきています。一方で日本経済は中小事業者を中心に経済的に壊滅的な被害が出始めています。

■政府は経済優先で動かざるをえない? 

 当時は「人命と経済を天秤にかけることはできない」といった正論がまかりとおりましたが、その人命リスクの規模感が下方修正されたことで、政府としては経済優先で動かざるをえない状況が起きているようです。

 前回の大不況であるリーマンショックの時には所得弾力性が大きい自動車業界や旅行業界が大きな打撃を受けました。このうち大企業が中心の自動車業界は銀行がクレジットラインを維持すれば乗り越えられる。その一方で中小や零細企業が多い旅行産業では需要喚起がなければ倒産が相次ぐことは間違いありません。

 政治家や官僚がこういった理由を安易に口にすることはないでしょうけれども、実際のところは政府がGo Toトラベルキャンペーンに踏み切る背景には、このような経済学の裏付けが存在するのです。とはいえそれにしても国民感情を考えるとバラマキであり、丸投げ中抜きが問題になっているGo Toトラベルキャンペーンをなぜ感染者が急増している時期に前倒しで急ぐのか不思議に思えるかもしれません。そこに第3の理由が存在します。

理由3 冬になれば緊急事態宣言を出さざるをえない
 ここで先ほどご覧いただいたWHO発表の新型コロナの死者数グラフについて別の切り口で比較してみたいと思います。図4は死者数を日本、アメリカ、ブラジル、南アフリカで比較したものです。ブラジルは今やアメリカに次ぐ世界2位の感染国で、南アフリカはWHOが新型コロナの拡大を懸念するアフリカ大陸の代表として挙げました。

 グラフの形を見ていただいて直感的にわかることは、南半球の2カ国では主に6月に入ってから死者数が増え始め、7月もその勢いは衰えていないことです。

 そして知識としてわかることは南半球の6月、7月は、北半球の12月、1月にあたることです。あくまで新型コロナは未知の病気である部分が多く医学的には断言しにくいことが多いのですが、少なくとも統計学的に推論すれば日本もアメリカも12月や1月に感染した場合には今よりも重症化リスクが高くなることが十分に推論できます。科学的にはこれからちゃんと解明されてくるでしょう。

 つまり現時点でまとめると日本では7月の段階で経路不明の感染者数が増加しているため、すでにクラスター対策で封じ込めが難しい状況になっている。抗体を持っている国民は0.5%以下と非常に少なく、接触すれば感染リスクが高い状況は変わっていない。この前提のままで日本が冬を迎えざるをえない状況が政府にはわかっているということです。

 スペイン風邪のときも第2波のパンデミックの被害が大きかった。おそらく新型コロナもそうなるリスクを政府は強く感じているのでしょう。そしてそれまではできるだけ経済を回復させる必要がある。だからこの夏の間、政府は経済を極力止めたくない。

 これは生活者としての国民にとっては不安なことですが、労働者としての立場の国民感情としてはなんとしてもそうしてほしいという話です。3月、4月、5月と働く機会が減っただけでこれだけ大変だったのですから、少なくとも7月、8月、9月はしっかりと働かせてほしいと多くの国民が考えているのは当然です。

■奇妙なニューノーマルが始まっている

 ただ、状況は悩ましい。政府は「安心して外出してお金を使ってほしい」とアピールする一方で、50代以上の国民は「そうはいってもコロナは怖い」と自主的に消費にブレーキをかけるからです。

 政府は夜の街をあたかもコロナの悪者であるかのようにアピールしますが、風俗、キャバクラ、ホストクラブに行かなければ新型コロナにかからないわけでは決してない。直近では夜の街関連の感染者の割合が減って、それ以外の感染経路が都内では4分の3を超えてきたのですから。

 こうして政府は極力、第2波を認めず、緊急事態宣言を検討せず、経済優先を掲げる一方で、国民は自衛目的での自主自粛に入るという奇妙なニューノーマルが今こうして始まっているのです。

東洋経済オンライン

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最終更新:7/15(水) 15:31

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