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「公共放送=番組の質が高い」と信じる人の盲点

7/14 7:55 配信

東洋経済オンライン

公共放送であるNHKの番組の質は、民放局のそれに比べて質が高い~~。少なくない数の日本人はこう考えていないでしょうか。確かにNHKの制作費は民放局に比べて大きいですし、予算は国の承認が必要なため番組の品質管理にも気を使っているでしょう。とはいえ、民放には高品質の番組が作れないわけありません。世界の事情はどうなっているのか。元財務官僚で嘉悦大学教授の高橋洋一氏著『「NHKと新聞」は嘘ばかり』から抜粋してお伝えします。

■公共放送でも広告収入を得ることはできる

 NHKにもやがてCMが流れる──日本人の多くは「CMを入れてしまうと、公共放送として成立しなくなる」という洗脳にだまされているので、違和感を覚える記述かもしれません。しかし、これが「嘘」なのです。

 公共放送がCMで広告収入を得るのは、ヨーロッパではごく普通のことです。NHKとBBCが例外的にやっていないだけで、フランスの公共放送「フランステレビジョン」、ドイツの公共放送「ZDF」「DLR」、イタリアの公共放送「RAI(イタリア放送協会)」など北欧を除くヨーロッパ各国の公共放送は、いずれもCMによる広告収入を得ています。

 もちろん広告収入を得ているからといって、放送の独立性や中立性を疑われるようなことはありません。

 ここで世界のテレビ放送の趨勢について記しておきましょう。1つは、イギリス、ドイツ、フランスの「公共放送&民間放送」というヨーロッパ型。もう1つは、基本的に「民間放送だけ」のアメリカ型です。

 まずヨーロッパの放送事業者についていえば、1980年代までは公共放送の事業者しかおらず、純粋な民間放送はありませんでした。だから歴史的に、ヨーロッパ型の放送改革は「公共放送は存在する」という前提で議論されています。

 インターネット同時配信についても、ネット広告との付き合い方はさておき、最終的には公共放送の大枠を温存する方向で決着するでしょう。日本のNHKも、基本的に同じ方向性を狙っていると思われます。

 しかしアメリカの放送事業者についていえば、アメリカにはそもそも「公共放送」という概念が希薄です。後述する公共放送サービスという、アメリカ政府などの補助金で運営している組織はありますが、一般にはマイナーな存在です。そのため、アメリカは世界で最も多様な放送サービスが展開される市場になっています。百花繚乱のケーブルテレビや衛星放送が全米に浸透した、世界一の多チャンネル社会といえるでしょう。

 きっかけは、連邦通信法を改正した「1996年電気通信法」の成立以降、放送と通信の垣根が事実上、撤廃されたことです。1990年代後半から始まるインターネットの普及とともに、放送業者は他社にないコンテンツを視聴者に届けようと競って価格、サービス、利便性の高い伝送技術を開発しました。番組制作と経営を民間に委ねた結果、アメリカはヨーロッパを凌ぐ世界最大の市場へと成長したのです。

■アメリカの例外的な公共放送は「教育」分野

 ただし例外として、自由競争市場のアメリカにも限定的な公共放送は存在します。「非商業教育局」として免許を付与された放送局のことです。その多くは、非営利団体であるPBS(Public Broadcasting Service)に加盟しています。主な財源は寄付、企業協賛金、政府交付金、自治体や大学などからの交付金、財団からの寄付によるものです。

 約350ある非商業教育局の各局はそれぞれ独立した編集権を持っており、PBS自体は番組制作を行わず、加盟局がつくった番組や外部から調達した番組を全米の加盟局に配信することに専念しています。

 PBSは必要最小限の放送網しか持たず、さらに放送するコンテンツは、公共性がきわめて高い「教育」の分野に限定されています。日本やヨーロッパで「公共性が高い」と思い込んでいるニュースや災害報道、スポーツのコンテンツ提供は、民間放送が担っています。

 NHKを擁護する人は、BBCなどヨーロッパ型の事例にしか言及せずに「公共放送は必要だ」というのですが、無知もしくはミスリードによるものです。アメリカの例を見れば「民間にできることは民間で」という当たり前の常識が、放送局のあいだに行き渡っていることに気づきます。

 そもそも日本の放送業界の発端は、民間主体のアメリカ型でした。1920年代からすでに民間の試験ラジオ放送が行われており、1950年代に複数の民間放送事業者が設立されています。1980年代まで公共放送しか存在しなかったヨーロッパと日本は事情が異なります。

 既得権益を維持しようとする人のポジショントークや「嘘」に翻弄されてはいけません。目の前にある「公共放送」の枠組みを絶対のものと考えず、ファクトと国民の利便に基づいて判断することが必要です。

東洋経済オンライン

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最終更新:7/14(火) 7:55

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