IDでもっと便利に新規取得

ログイン

新型コロナで「古典的詐欺」が増加、驚きの実態と予防策とは

7/14 6:01 配信

ダイヤモンド・オンライン

 新型コロナの影響で苦境に陥る企業が増えるなか、そうした企業を狙った詐欺が目立ち始めている。その驚きの実態、および、だまされないための対応について、東京商工リサーチが詳しく解説する。(東京商工リサーチ情報部 増田和史)

● 繰り返される M資金詐欺

 神奈川県警は6月11日、詐欺の疑いで男3人を逮捕した。容疑は旧日本軍の隠し財産を提供する、いわゆる「M資金」詐欺だ。

 県内の会社役員に融資話を持ち掛け、手数料として会社役員から現金1億3000万円をだまし取ったほか、余罪もあり被害は総額31億5000万円に及ぶとみられる。

 M資金詐欺は企業経営者を狙った古典的詐欺として有名だ。戦後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が占領下の日本から財宝や資産を接収し、その一部が今でもM資金として極秘に運用されているストーリーだ。

 数百~数千億円もの資金を「選ばれた企業や人物」だけが融資を受けられるという触れ込みでターゲットに近づき、仲介手数料として先に数%をいただく。

 もちろん、融資話は真っ赤なウソで、詐欺師たちは仲介手数料を手に入れると忽然(こつぜん)と姿を消す。

 冷静に考えると荒唐無稽な話だが、これまでも実際に名だたる大企業の幹部や芸能人などが、用意周到な仕掛けと巧妙な話術に嵌(は)められてきた。

 だまされたことが恥という心理も作用し、泣き寝入りも多い。表面化した被害は氷山の一角だ。虎の子の運転資金を突っ込み、会社存亡の危機に陥ったり、なかには自殺に追い込まれるケースも。こうした情景は、M資金専門の詐欺師たちを描き、のちに映画化された小説「人類資金」にも登場する。

● コロナで懸念される 「パクリ屋」の増加

 令和の時代に跋扈(ばっこ)するM資金詐欺にも驚かされるが、コロナ禍で資金繰りに窮する企業は多い。支援金が行き渡るのに時間がかかる状況こそ、渡りに船とばかりに経営者に甘言を弄(ろう)して詐欺師は近づく。

 リーマンショックや東日本大震災など、未曽有の経済危機を逆手にとって、詐欺話が蠢(うごめ)く。社会的な動揺が大きいほど、詐欺の導入に格好のフックになるからだ。社会不安や先行きの不透明感は、経営者の目を曇らせる舞台装置になる。

 今、企業の審査担当者が目を光らせるのは「取り込み詐欺」、いわゆるパクリ屋だ。

 パクリ屋は、M資金と双璧の古典的な手口で、企業を狙った王道ともいえる経済犯罪である。手形や商品の取り込み詐欺、計画倒産を画策した詐欺など、手口は幅広い。

 手形振出がピーク時の4%に激減した現在、手形詐欺は姿を消したが、代金を支払わず商品を取り込む詐欺は、今なお至るところで横行している。

 新規取引からスタートし、最初は小口の仕入れを重ねて期日通りに支払い、相手を信用させ、次第に取引量を増やす。やがて大量の商品を仕入れると、経営悪化を理由に債務を踏み倒す。

 手法としては至極単純だが、一向に減らないのは相応のうまみがあるからだ。あくまで一般企業を装い、大企業と見違えるほどの看板や名刺、ホームページを作る。信用調査の対策には、優良企業ばりのニセ決算書を準備する。すべて先手を打つ知恵者集団でもある。

 倒産する企業はどこにもある。「もともと払うつもりがなかった」のか「払いたくてもお金がない」のか。結果は同じ倒産でも、善意の倒産を犯罪に問うことは難しい。パクリ屋は、そこを突いてくる。

 よほどの証拠がそろわない限り、詐欺事件として立件することはできない。運よく犯人逮捕にこぎ着けても、すでに資金はどこかに還流させており、売掛金が返ることははかない望みだ。そもそもパクリ被害に遭っても、取引先が倒産して焦げ付いた程度の認識で、だまされたことに気づかないことも多い。

 昭和の時代は、ある日突然姿を消す「夜逃げ型」が大半だった。

 だが、最近は通常の倒産案件を装い、事業停止と同時に弁護士に債務整理を一任する「弁護士一任型」が増えてきた。弁護士が表に出て、当人は雲隠れする。そのうち、「債務者と連絡がつかない」「依頼者から弁護士費用が支払われない」などの理由で、弁護士が債務整理を辞任し、うやむやのまま終わる。

 パクリ屋と思しき企業をデータベース化すると、興味深い事実が浮かび上がる。その一つは、債務整理に何度も同じ弁護士が登場することだ。そんな弁護士を「訳あり弁護士」として審査担当者や調査マンはチェックしている。

● 東日本大震災時は 「復興支援に利用」が常套句

 コロナ禍でパクリ屋の暗躍が懸念されている。パクリ屋のターゲットで圧倒的に多いのは、食料品とパソコンなどのOA機器。いずれも換金性が高いのが特徴だ。

 来客数が減少し、飲食店への販売が低迷する業者に購入を打診すると、のどから手が出るほど売り上げが欲しい営業マンが飛び付く。また、「テレワーク需要でPCの注文が殺到している」という、もっともらしい口実で大量発注するパクリ屋が現れても不自然ではない。

 東日本大震災後は「震災復興支援に利用する」という仕入れのフレーズがパクリ屋の常套句だった。このほか、「成長著しい介護業界への参入のため」「インバウンド需要が旺盛のため」と取引を持ち掛けるケースもあった。

 詐欺師は、当然だが詐欺と見破られないことが重要だ。新型コロナを端緒に、これまでの価値観やニーズは大きく変わった。これも彼らにはチャンスになっている。

 今年6月、東京の下町に営業所を置くA社について、大手OA機器メーカーの審査部から問い合わせがあった。話を聞くと関西の販売子会社へ新規取引の打診があったという。登記を調べると、会社設立は昭和60年代で、30年以上の業歴を持つ相応の企業だ。昨年、代表者が交代し、今年3月に現在地に移転している。表面上は何も不自然さはないが、会社のウェブサイトの開設はごく最近のようだ。

 周辺の取材を進めると、長い間稼働していなかった休眠会社を買い取り、経営者が交代し、本社を移転している。不自然さを払しょくし、あたかも普通の企業に仕立て上げたにおいがする。設立が古い休眠会社を利用するのは、常套手段だ。業歴が長ければ、それだけ信用をアピールできる。

 わざわざ遠方の営業所に注文したのは、営業マンの直接訪問を避けるため。情報インフラや物流の発達を逆手に取り、メールのやり取りだけで完結する顔の見えない取引が被害に拍車をかける。

 極めつけは代表者の名前と住所だ。長年蓄積したパクリ屋データで検索すると、件の代表者と住所が過去に何度も登場する。パクリ屋は常習性があり、いったん逃げても、ほとぼりが冷めるとまた別の場所で始める。役員名や詐欺の舞台となる住所が頻出するが、実は名前が多く出る人物ほど小物といわれる。本当の黒幕は、役員などで名前が表に出ることは少ない。だから、ややこしい。

● 見極めのポイントは 最初の「何かおかしい」

 パクリ屋被害から身を守るには「取引しないこと」につきる。相手からアプローチがあっても、水際ではねつけることができるか、経験則が生きてくる。

 A社を問い合わせてきたOA機器メーカーは、過去に何度もパクリ屋被害に遭い、煮え湯を飲まされてきた。このため、新規取引には念入りに相手をチェックし、情報収集を怠らない。データがなければ、最初に「おかしい」と六感が働くことがポイントになる。究極のアナログだが、過去にだまされた経験という免疫、そしてパクリ屋という詐欺が実在するという知識があれば防ぐことは可能だ。

 一方、長年普通に取引していた会社が、入れ知恵されたり、乗っ取られて突然、パクリ屋に変貌することもある。新型コロナの影響を受け、経営悪化に耐えきれず藁(わら)にもすがる思いで詐欺行為に手を染める可能性もある。新規取引だけでなく、得意先の定期的なチェックも欠かせない。

 最近は、「オレオレ詐欺」のように一般市民が被害者に巻き込まれるケースがクローズアップされるが、企業や経営者をターゲットにした詐欺も横行している。企業間取引では被害額もケタ違いだ。

 M資金詐欺やパクリ屋だけでなく、コロナ禍でウソの補助金話や不当な斡旋料を持ち掛ける「補助金詐欺」。また、海外取引が多い企業では「なりすましメール」にも注意が必要だ。

 詐欺師は、経営者の油断や慢心に乗じて近づく。業績悪化を挽回したい焦りや、スキを巧みに突いてくる。自分だけはだまされないという根拠のない自信ほど足元はもろい。新型コロナで先行きが見通せない今こそ、気を引き締め、細心の注意を払うべきだ。

ダイヤモンド・オンライン

関連ニュース

最終更新:7/14(火) 11:46

ダイヤモンド・オンライン

投資信託ランキング