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「日本製品」が海外で売れなくなった根本原因

7/13 8:05 配信

東洋経済オンライン

かつて「安くて高品質」と、世界中から人気を集めていた「メイド・イン・ジャパン」は今や見る影もない。昭和、平成、令和に進むにつれ日本製品の魅力が衰退していった理由を、高千穂大学准教授・永井竜之介氏の新刊『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」』より一部抜粋・再構成してお届けする。

 日本が誇る「メイド・イン・ジャパン」は、多くの分野において世界で通用しなくなっている。

■もはや海外で「日本の家電」の姿は見られない

 日本メーカーが一時代を築いた家電では、中国のハイアールやグリー、韓国のLGやサムスンが世界の主役の座を奪っている。スマートスピーカーに代表されるスマート家電の分野では、前述のメーカー群に加え、アメリカのGAFA、中国のBATやシャオミなどが攻勢をかけている。

 ひとりの消費者として、海外へ行ったときに周りを意識して見てみれば、愕然とするほどにメイド・イン・ジャパンの存在が薄れていることに気づくはずだ。ホテルの客室でも、知人宅でも、家電売り場でも、日本の家電メーカーの姿はもうほとんど見られない。

 シャンプーや洗剤といった一般消費財の分野では、アメリカのP&GやJ&J、イギリスとオランダのユニリーバがしのぎを削り合っている。街中で目にする自動車ではさすがに日本も一矢を報いていて、トヨタや日産、ホンダも見かけられる。とはいえ、それも燃費性能の良さからUber、Lyft、DiDiなどのライドシェア・サービスに採用されたであろう中古車が目立つ印象だ。

 「安くて高品質」という日本製品のかつての評価は、いまやそっくりそのまま中国や韓国、アメリカのものになっている。その代わりに「余計な機能が多くて割高」「過剰品質」と揶揄され、苦境に立たされているのが現状だ。

 主な敗因は、日本のものづくりが変わってしまったと言うよりも、「変われなかった」点にある。日本のものづくりは、昔から変わらず今でも完璧主義で、妥協がない。しかし、追い求める「完璧さ」が世界のトレンドとズレてしまっているのだ。

 日本では、あらゆるビジネスにおいて「最初から完璧」が目指される。ただし、ここで目指されるのは「減点型の完璧さ」である。尖ったビジネスアイデアの、新しくておもしろいが、リスクや穴のある要素は、早期に取り除かれやすい。魅力的に発展しうる要素を切り捨て、安全・無難で、これまでの延長線上の少し先にあるような、小さくまとまった新商品に仕上げられていく。

 開発・プロモーション・販売も前例に基づき、慎重に、長い時間と労力をかけて完璧なプランで新商品をリリースしようとする。緻密なプランがあるがゆえに、最初の市場の反応が良くても悪くても、それが予想と異なっていたときにすばやい軌道修正を行うことは難しくなる。

 このように、おもしろいが危うく伸びそうな「価値の枝葉」を早期に取り除き、じっくり時間をかけて、きれいで小さなプロダクトへ磨き上げるのが日本の得意とする「減点型の完璧主義」だ。ここでは、完璧に完成された1つのプロダクトをつくって、広めることがビジネスのゴールとなる。これはかつてのメイド・イン・ジャパンを支えた強みだが、近年における世界のトレンドからは逆行するものになってしまった。

■世界のトレンドは「加点型の完璧主義」

 いま世界で勝ち上がっているのは、「加点型の完璧主義」だ。こちらでは、おもしろいアイデアが出てきたら、できる限り早くMVP(Minimum Viable Product)に仕上げてリリースする。

 MVPとは、「最低限の価値を持った商品」を意味する。それを一度リリースしてみて、まずは市場の反応を見る。そして販売と並行して、市場の反応がよかった要素をさらに伸ばし、悪かった要素は優先的に改善してバージョンアップしていく。このサイクルをライバルよりも高速で実現できるか否かが、勝負を分ける。だからシリコンバレーでは、「最初のプロダクトが恥ずかしいものでないなら、それはリリースが遅すぎた証拠」とまで言われる。

 実際、1995年にリリースされたAmazonの初期ホームページも、2007年の初期iPhoneも、いずれも粗削りだった。だが、MVPを市場に出してニーズを検証し、急速に水準を向上させ、ともに破壊的なイノベーションになったことは周知のとおりだ。

 「加点型の完璧主義」では、尖ったアイデアを加点で評価し、その枝葉を活かしてプロダクトの価値を最大限に高めることを目指す。まず、尖った要素を完璧に仕上げる理想形の「加点型の長期目標」が設定される。この長期目標は、プロセスに応じて、修正・更新ができるものだ。

 それとは別に、短サイクルで回す短期目標も設けられ、これに基づき、いち早くMVPをリリースしていく。そうして、市場の反応に対して迅速・柔軟に軌道修正を行いつつ、バージョンアップを重ねる。あるいは、初期の反応が悪ければMVPの段階で撤退することもできる。この段階ならばダメージは比較的小さく、手を引きやすい。「最も効果的な市場調査とは、実際にリリースしてみること」というわけだ。

 そして短サイクルに合わせ、開発とプロモーション、流通、販売、リサーチなどが連動していく。このサイクルを重ねた先に、理想として思い描く「完璧なプロダクト」が実現される。

 つまり、日本も世界のトレンドも「完璧」を目指してはいるが、完璧さの種類が異なるのだ。下の図のように、日本は、1つのプロダクトに時間をかけ、器の中の「盆栽」のように、減点型のミニマムな完璧をつくって広めようとする。

 それに対して世界のトレンドは、完璧を目指すまでに、いくつものプロダクトをつくり、高速に発売・改良・バージョンアップを繰り返し、大地に根を張る「大木」のように加点型のマキシマムな完璧をつくって広めようとする。

■「ドローンシェアNo1」の企業は何をした? 

 この加点型の完璧主義を実践することで飛躍を遂げた中国ベンチャーがいる。それが、ドローン市場で世界トップシェアを勝ち取っているDJI(大疆創新科技)だ。

 2006年に学生ベンチャーとして生まれたDJIは、2019年には世界のドローン市場のシェア70%以上を握るリーディングカンパニーへ飛躍を遂げた。同社の製造するドローンは、世界100カ国以上で販売され、総売り上げのうち、北米市場、欧州市場、中国国内を含むアジア市場からそれぞれ3割ずつ、残り1割を南米・アフリカ市場から得ている、真のグローバル企業だ。

 無人で遠隔操作・自動制御ができる航空ロボットのドローンは、撮影目的のほか、点検、農薬散布、セキュリティや救助など、用途の種類と需要を急拡大させている。民間だけでも市場規模は推定5500億円にのぼり、今後10年で3倍以上の拡大が見込まれる成長市場だ。

 その成長市場のグローバル・トップに立つDJIの創業者、汪滔(フランク・ワン)氏が掲げる社訓は、「激極尽志、求真品誠(極限まで志のために尽くし、真実を追求し、製品に嘘をつかない)」という完璧主義だ。

 フランク・ワン氏が大学院の同級生2名と創業したDJIが初めに製造・販売したのは、ドローンの中核となる飛行制御システムのフライトコントローラーだった。共同創業者と離別し、知人・恩師を招いてチームを再編し、資金調達を経て、2009年に初の自社製品となるフライトコントローラーシステム「XP3.1」をリリースした。その後は「ハードテックのシリコンバレー」と呼ばれる深圳に本拠地がある強みを活かし、ドローン全体の製造へ舵を切っていった。

■iPhoneの次に「革新的なアイデア」

 そうして2013年に発売されたのが、ドローン「ファントム」だ。リーズナブルな価格、組み立て済みで届き受け取ったらすぐに空撮できる、という3つの強みを誇る白いボディのドローンである。ファントムは、ドローンとして一般利用できる最低限の性能を備え、当時として破格の679ドル(約67000円)でリリースされた。

 これは、それまで専門的な知識を持った業者やマニア向けだったドローンを、一般向けに大きく広げるヒット商品となった。そのインパクトは、アメリカ『Forbes』誌で「AppleのiPhoneを除けば、ファントムはもっとも人を感動させるプロダクトかもしれない」と評されたほどだ。

 DJIは2013年のうちに、空中でのブレを防止し、空撮の精度を高めた「ファントム2」を即座にリリース。2015年には、飛行の安定性を向上させた「ファントム3」。2016年には、障害物の回避、対象の追尾などの機能を備えた「ファントム4」を次々にリリースしていった。

 初代機のリリースからわずか3年の間に、「空撮を体験できるロボット」という初期段階からバージョンアップを繰り返し、「ドローン自体が情報処理を行うスマート・ロボット」へ急速に進化させた。さらに2016年には、折り畳み式で携帯可能な小型ドローン「マビック・プロ」をリリースし、ドローンをより広く、より手軽に、より便利に利用できるよう、市場を押し広げていった。

 DJIは、「完璧なドローン」という自社プロダクトの完成形・理想形を遥か先に掲げながら、まずは駆け出しのベンチャーとして生きていくために、できることから徐々に完璧を目指した。フライトコントローラーにはじまり、ドローンの製造・改良・進化を短サイクルで回し続けている。

 新規アイデアが出れば、すぐにプロトタイプをつくり、可能性を信じてMVPに仕上げ、量産し、高速でリリースする。その積み重ねによって、世界トップシェアを獲得するまでに至った。DJIの思い描く加点型の長期目標は、更新され続け、さらに先の未来へ置かれている。

■世界で一度敗れたメイド・イン・ジャパン

 このように、「海外のものづくりは雑」「特に中国はいい加減」という認識は、短サイクルで回す加点型の短期目標の一部分を切り取った近視眼的な解釈にすぎない。大局で見れば、減点型では目指すことができない新しく大きな価値を、加点型は実現することができる。

 「中国は粗悪で速いだけだが、日本は緻密で慎重な完璧主義なんだ」と考え、それをよしとする認識は、もう改めなければならない。緻密で慎重な、減点型の完璧主義で、メイド・イン・ジャパンは世界で敗れているのだから。

 もちろん、製品ジャンルによってMVPとして求められる「最低限の価値」は異なるし、日本の得意とする減点型が強みとして有効な分野も存在している。しかし、家電も住宅もスマート化が急劇に進んでいる分野だ。

 自動車は、いずれ電気自動車が主流となり、同時にスマート化を進め、自動運転へ辿り着くだろう。そうしたなかで、日本のものづくりが世界で再び勝ち上がっていくためには、「加点型の完璧主義」を学び、取り入れ、組織とビジネスに大きな変革を起こす必要があるだろう。

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最終更新:7/15(水) 10:31

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