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トヨタが「電気自動車」に消極的にみえるワケ

7/13 7:50 配信

東洋経済オンライン

 「日本でブランニューの新車導入は10年ぶり。このクルマで、電動化と自動運転技術をリードする」

 日産自動車の星野朝子副社長は6月24日、オンラインで開催したコンパクトSUV新型「キックス」の記者発表で、日産の再起にかける思いを示した。同モデルは「ノート」や「セレナ」と同じく、“1.2リッターガソリンエンジンを発電機として使うEV”という触れ込みのe-Powerを搭載する。またアメリカ時間の同日、北米市場の統括会社である北米日産は、7月に発表する新型EV「アリア」のティザー画像を公開した。正式発表は7月15日に横浜の日産グローバル本社で行う。

 日産は5月末、自社の決算発表および4カ年中期経営計画と、ルノー・日産・三菱アライアンスにおける新戦略の発表の中で、電動化と自動運転技術の社会実装について、日産が日本市場を最優先して進めると明言している。

 一方、トヨタのEVに関する動きは最近、あまり目立たない。

 ニュースリリースのバックナンバーで振り返ると、今年(2020年)では、4月2日に中国地場のBYDとEV研究開発合弁会社を設立するという発表のみ。量産型EVついては、2019年11月22日にレクサス初のEV「UX300e」を中国広州モーターショー公開というニュースがあるだけ。日本市場向けでは、2019年10月17日に、1回の充電で約100㎞走行可能な2人乗り超小型EVを「2020年冬を目途に導入する」と発表するにとどまる。

 「アリア」のような、本格的EVの日本導入については、噂レベルも含めて今のところトヨタ周辺から話が聞こえてこない。なぜだろうか。

■Wait & See=じっくり構える

 現在のトヨタと日産のEVへの対応は、 2000年代後半と似ている印象がある。日産が「リーフ」の量産に向けて、EV関連で積極的に投資する姿をトヨタは俯瞰していた。

 こうした状況について、トヨタのアメリカ法人幹部は筆者との意見交換した際、トヨタ戦略のモットーを「Wait & See(じっくり構える)」と表現した。

 ここでいう「Wait (待つ)」とは、何もしないで待つのではなく、中長期の経営戦略と、それに伴う基礎技術の研究開発を着々と進めながら、「See(状況観察)」して「時を待つ」という意味だ。そして「時」とは、量産車市場からの需要が明確になることを指す。

 具体的に言えば、ディーラー側から「ぜひ、売りたい」という声が出てくるタイミングである。つまり、現時点で日本のトヨタディーラーから「EVを売りたい」という積極的な声が上がってきていないのだ。

 また、政治に絡む事案における、経営判断を行う「時」もある。代表的なのは、国や地域におけるCO2削減や燃費改善に対する法案への対応だ。

 具体的には、アメリカ・カリフォルニア州が主導し、他の一部の州でも採用するゼロエミッションヴィークル(ZEV)規制や、企業間平均燃費のCAFE。同様に、中国でのNEV(新エネルギー)対応や中国CAFE。さらに、足元での規制値としては世界で最も厳しい欧州CO2規制がある。

 こうした規制対応について、さまざまな機会でトヨタ経営幹部や技術系幹部に話を聞くと、「基本計画のうえで、状況に応じて考える」と言う。さらに踏み込んで聞くと「法規制で必要な分(規制台数やクレジット)だけこなす」とも表現する。

 中国でいえば、「UX300e」と、その原型であるトヨタ「C-HR EV」の量産車投入。加えて、EVでは地場中堅のBYDと、燃料電池車では第一汽車や広州汽車などの大手と連携することで、トヨタから中国側への「Give(ギブ)」を行う。一方で、トヨタが得意とするハイブリッド車に対する税制優遇などを中国政府と定常的に交渉するなどの“民間外交”を通じて「Take(テイク)」を探る。

 アメリカでは、トランプ政権になり旧オバマ政権でのCAFE大幅見直しや、事実上のZEV撤廃でのアメリカ環境局(EPA)による全米統一規制への動きがある。だが、新型コロナウイルス感染の第二波到来の危険性が高まりながら、11月の大統領選挙を迎えることになりそうな情勢であり、トヨタはアメリカでのEVなど環境車導入に対して「Wait & See」しているように見える。

■我慢の「Wait & See」もあったテスラとのあのとき

 一方で、過去には社会情勢を見て、トヨタがEV関連事案を経営判断で一気に動かした事例もある。

 2010年5月、テスラに対してトヨタとGMが合弁事業として立ち上げたカリフォルニア州内のNUMMI(通称ヌーミー)売却を電撃的に発表した。同時に、テスラへの5000万ドル(現在の約53億8,000万円)の投資と、テスラ株3.15%の所有(2016年に売却)を発表している。

 当時、オバマ政権によるグリーンニューディール政策で、アメリカエネルギー省の長期低利子融資枠を確保したテスラは、工場予定地が二転三転していた。そうした中、アーノルド・シュワルツェネッガー州知事(当時)がトヨタとテスラの仲を取り持つという、政治的な演出が話題となった。

 その後、トヨタはZEV法対応で「RAV4 EV」の共同開発を行う際、テスラの“EV技術の実態”を目の当たりにするのだが、そこはじっと我慢の「Wait & See」だった。

 話を2020年6月時点に戻そう。トヨタのEV戦略の基本は、2015年10月に公開し、その後に一部改訂された「環境チャレンジ2050」だ。量産型の電動車について、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、EV、燃料電池車という順で2050年に向けて市場が徐々に拡大するという将来図を描く。

 EV普及率は、2050年時点でもトヨタ電動車全体の1割程度とかなり慎重に予測するが、そうした低い見積りの背景には、当面はディーラーから「EVを売りたい」という声が一気に高まることがなく、「規制ありき」の市場の成長には限度があるとの見方がある。そのうえで、「車両電動化技術の特許実施権の無料提供」(2019年4月)を発表し、企業間(B2B)ビジネスとしてEVにもつながる手持ち技術の換金化と、電動化技術に関する世界的なコンソーシアムの構築を着々と進めている。

 他方、自動車業界全体を俯瞰すると、ホンダは中型以上のEVで、GMが主導権を握るかたちでEV技術「アルティウム」を共同開発するとしている。また、そのGMは自社ブランドとしてGMC「ハマー」、キャデラック「リリック」などの高級EV量産を決定。フォードは「マスタング マッハE」の2020年夏導入など、アメリカではテスラ包囲網が具体的に動き出している。

 欧州では、ジャーマン3(ダイムラー、BMW、フォルクスワーゲン)は、フォルクスワーゲンが2016年に打ち出したEVシフト戦略のもと、大手サプライヤーを巻き込み、来るべきEV時代の主権を狙う。

■「EV C.A.スピリット」が握る? 

 果たしてトヨタが「Wait & See」を踏まえて、日米欧で一気にEV量産化に動くときが来るのだろうか。それとも、日産「アリア」が、そのきっかけを作るのか。また、マツダやデンソーと連携してEV開発進める「EV C.A.スピリット」の実働体制は今後どうなっていくのか。

 2019年11月、トヨタの東富士研究所で「UX300e」を体験試乗した際、担当エンジニアは「これは既存のUXをEV化したもので、EV開発としてはここまでの話。これから先のトヨタ全体のEVプラットフォーム(基盤)はEV C.A.スピリットが受け持つ」と説明していたのだが……。

 コロナ禍での生産調整からの回復基調が見えてきそうな夏以降、改めてトヨタ各方面への取材を進めていきたい。

東洋経済オンライン

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最終更新:7/27(月) 15:40

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