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バフェットが「コロナ禍でも変えなかった遺言」

7/12 6:01 配信

東洋経済オンライン

「投資の神様が久しぶりに動いた」――。7月5日、ウォーレン・バフェットが率いるバークシャー・ハサウェイがドミニオン・エナジー社から天然ガスのパイプライン網を買収すると発表(97億ドル)、投資家に少なからぬ衝撃を与えた。8月30日で90歳を迎える大投資家は、今後の世界について考え方を変えたのだろうか。2014年以来、同社の株主総会に出席している独立系資産運用アドバイザーの尾藤峰男氏(今年はオンラインで参加)が、5月の総会でのバフェットの発言を引き合いに出しながら、バフェットの考え方を読み解く(文中敬称略)。

■新型コロナで大失敗した投資の神様

時計の針を、いったん約2カ月前に戻そう。今年もバフェット率いるバークシャー・ハサウェイの株主総会が、彼の本拠地である米ネブラスカ州オマハで5月2日に開催されたのは記憶に新しい。

 今年はとにかく異例づくめだった。ひな壇には、バフェットと非保険事業を統括する副会長のグレッグ・アベルの2人だけ。いつもバフェットと一緒に出席する60年来のパートナー、チャーリー・マンガーは、ロサンゼルス在住。空の旅を避けるため、今回は欠席(ちなみに至って健康だ)。1万8000人がぎっしり入るアリーナも空っぽ。ただひな壇に座る2人を映すカメラが前にあるだけだった。

 「あのバフェットが航空会社の株で大損をしたらしい」――。すでにそうした報道もあり、世界の投資家たちは「投資の神様」が新型コロナウイルスで世界の株式市場が大きく揺れた第1四半期(2020年1月~3月)にどういう投資行動をとったか、直接聞きたかったはずだ。

 そして明らかになったのは「ほとんど何も買っておらず、大量に保有していたエアライン株は全部損を出して、売ってしまった」という事実だった。「やっぱりそうだったのか――」。世界の投資コミュニティは驚いた。また、ニューヨークダウが、今年の高値から一時38%以上も下がったにもかかわらず、17億ドルの自己株買いを行っただけで、あとは特に買っていなかった。その背景には、何があったのだろうか。彼の発言も引用しつつ、今後を読み解いてみよう。

 まず、なぜアメリカの主要4社のエアライン株を、全部損切りして売ってしまったのか。

 バフェットはこう言った。「航空事業の展望は、コロナウイルスの感染拡大で大きく変わった。これから人々の行動様式は大きく変わる。家で仕事ができれば、違った方法でビジネスができることがわかる。ビジネスが70~80%戻っても、飛行機は余る。多すぎる。エアライン株には70~80億ドル投資し、魅力的な額を買えた」。

 だが、ひとことで言えば価値判断を間違ったのだ。「買ったときに判断をしたなかで、低い確率で見ていたことが起きてしまった。経営はよくなされており、経営陣の責任ではない」。バフェットは、このように株投資の失敗を率直に認めた。同時に、連邦政府が救済に乗り出し、巨額の資金提供を行うと同時に、ワラント(新株引受権)を安値で引き受けることになったことも嫌ったようだ。

■リーマンショック時よりもチャンスは少なかった

 では、自己株以外に、なぜ何も買わなかったのだろうか。まず一つの要因は、2008年のリーマンショック時との違いだ。今回のコロナショックでは、Fed(連邦準備制度、ただしバフェットは連邦準備理事会を指している)が機敏に対応した。

 つまり大胆な金融緩和や大量の資金供給を行い、企業は巨額の資金を容易に調達できた。バフェットは、「Fed(おそらくパウエル議長)に『よい仕事をしてくれた』と感謝レターを送った」と言っているほどだ。

 要は、バフェットが登場する出番がなかったのだ。リーマンショックの時は、クレジットクランチ(信用収縮)が起き、金融機関が資金の出し手にはなりえず、バークシャーは「救いの神」のような存在だった。競争がなく、大変有利な条件で優先株やワラントを引き受けられたが、今回はFedが大きな役割を果たしたわけだ。バフェットに言わせれば「現在は借りるのにはいい時期だが、貸すにはいい時期ではない」という。言うまでもなく、バークシャーは貸す立場である。

 同社は3月末現在で1370億ドルの現金同等物を持っていた。このうち1250億ドルは財務省短期証券だ。この巨額の資金で市場株式を買おうと思えば、いくらでも買えたのに、なぜ買わなかったのか。

 バフェットに言わせれば、こうだ。「私は、いま株を買うのがよい時期か、わからない。2年後、うまくいっているかわからない。2008年、2009年の時も、最初に全てが起きたわけではなかった。これからもっと悪いシナリオが続くと見る。

 実際、2008年9月リーマンショック時の買いは、タイミングがひどかった。結局、4,5か月待てば、もっといい条件でできたという結果になった。しかし条件は大変魅力的だった。タイミングはひどかったが、いい結果に終わった。コロナウイルスは、夏に収まっても、第2波もありうる。健康への未知は、経済への未知を作る。今は未知に向き合っている。6カ月先がどうなるか、わからない」。

 要は、まだこれから、もっと悪いことが起こりうるといっているのだ。逆に言えば、バフェットはそれを待っているともいえる(筆者注:バフェットは2008年9月当時、NYダウが約1万ドル前後の時、ゴールドマン・サックスに50億ドル投資、10%の利回りの優先株とワラントを取得。またGEにも30億ドル投資して、10%利回りの優先株とワラントを取得している。その後、ダウは2009年3月に7000ドルを割り込んだ)。

 また、バークシャーの株価が一時年初来高値から30%も下がったのに、第1四半期に17億ドルしか自己株買いをしなかったことについて、バフェットはこう言う。少し長くなるが引用しよう。

 「株価が30%下がったといっても、ほんのちょっとの間だ。第1四半期に高い価格で自己株買いをした時と今では、際立って現在価値に対して割安になっているとは思わない。(自己株買いは)いつも考えているが、3カ月前、6カ月前と違い、いまは、買いたい気持ちにならない」。

 しかし、こう続けた。「いつでも可能性はある。様子を見よう。その時の価値に対しての価格がある。あるものの価値が下がったということ。我々のエアライン買いは間違いだった。バークシャーは、エアラインを買ったから、現在の価値が下がった。前に買っていた時より、いまはそれほど自己株買いに向かう気分ではない。株価が自己株買いをするのに十分下がったように見えない」。

 要は、バフェットはもっと下がる余地があるとこのときは見ていたわけだ。

■アメリカの将来に揺るぎない自信

 一方で、バフェットは自己株買い枠を決めて、プログラム的に自己株買いを実施する企業を批判する。「これは外に出て、そのお金でどんな価値のものを買うのか考えないで、決められたお金を使うようなものだ。買う対象の価値に敏感であるべきだ。自己株買いが必要かどうかも、よく考えるべき。流行っているから、あるいはそのアイディアが好きだからやっている、という傾向がある。全く愚かな自己株買いもある。不道徳だとは思わないが、愚かだと思う」。株主からの質問にはこう答えていた。

 では、バフェットはアメリカの将来を悲観的に見ているのだろうか。決してそうではない。バフェットが不透明感を感じているは先行き、せいぜい2,3年先までのことだ。20年、30年先のアメリカについては、大変明るい未来が訪れることを確信しているのだ。

 これこそが今年の株主総会で、バフェットが最も強調していたことだ。「Never bet against America.」(「アメリカはこれからはだめだ」、のほうへは賭けるな)。

 バフェットは、アメリカが建国以来、たった230年余にすぎない大変若い国であることをいつも強調する。

 そして、これまで独立戦争、南北戦争、大恐慌、2つの大戦、1987年のブラックマンデー、「9.11」、2008年のリーマンショック、そして今回のパンデミックと幾多の困難に遭ったが、すべてに打ち勝ってきたという。

 「アメリカの追い風は止んでいない。この国への追い風は驚異的だ」。これだけバフェットが母国に強気なのには、アメリカの建国の精神、優れた経済システム、チャレンジ精神あふれる国民性、実力が正しく評価される仕組み、正義を重んじる法体系など、アメリカという国の根幹にかかわるところに根差しているように、筆者には感じられる。

■多くの人々は「S&P500」を買っておけば十分

 そしてバフェットは、こう続ける。「ビジネスに投資するという考え方が大事だ。クロスセクションで(業種をまたいで)。私の考えでは、多くの人にとって、最も良い方法は、S&P500インデックスファンドを買うことだ。私は、妻に遺産の90%をこのインデックスファンドにするという遺言を変えていない。違うアドバイスをして、たくさんの報酬をもらっている人から聞くよりもずっといいアドバイスだと思う。このインデックスファンドを勧めても、たくさん報酬はもらえないからね」。

 こうして、インデックスを上回れずに高い手数料を課すアクティブファンドや、高い報酬をもらうがためにインデックスファンドを勧めないアドバイザーをこき下ろす。

 バフェットは、今年の無人の株主総会でも、実に4時間半、いつもと同じように、株主からの質問に誠実に答えていた。

 いつも思うのだが、あの体力は一体どこから来るのだろうか。筆者が推察するに、まずは、好きな仕事をやっているということが、根底にある。次にあるのが、社会や株主のために自分ができることを果たそうという心構え、誠実さ。これを強く感じる。こういった取り組み方、考え方が、今のバフェットの体力、知力を保っている源泉ではないだろうか。

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最終更新:7/12(日) 6:01

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