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「2時間ドラマ」が絶滅危機に陥った只1つの理由

7/11 14:46 配信

東洋経済オンライン

 「2時間ドラマ」と聞いて、具体的な作品が頭に浮かぶのは、おそらく40代から上の世代。若い人は耐性がないし、定番の展開や予定調和に対しても狭量だ。もっと刺激的かつ端的で手軽なコンテンツの在り処を知っているから。「なぜか崖の上で事件解説するやつ」くらいの印象ではなかろうか。いや、それすらも怪しい。

 そりゃそうだ、とも思う。

 昭和から連綿と続く「お決まりの展開」に新奇性はない。「観光地と交通機関のタイアップ」「型破りな主人公(警察や検察、弁護士、医師、その他公務員)が事件を解決」「素っ頓狂な主人公(旅行ライターやら温泉旅館の女将やら葬儀屋など)がうっかり事件に巻き込まれながらも事件を解決」。「おや? (斬新)、まあ! (驚愕)、へえ~(知新)」のない2時間はさぞや苦痛だろう。

 テレビ局も、時代と共に2時間ドラマ枠を着々と減らした。各局が軒並み2時間ドラマ枠をつぶし、謎の「なんでもアリ枠」にして、ドラマ限定から逃げた。他の特番や映画も入れこみ、時々ドラマを放り込む程度の作戦に出た。「ドラマで視聴率惨敗」よりも「視聴者は定着しないがリスク分散」を選んだわけだ。

■昔は良かった「2時間ドラマ」

 48歳としては、少しだけ思い出を語らせてほしい。古くは1970年代の天知茂の『江戸川乱歩』シリーズに始まり、市原悦子の『家政婦は見た!』や古谷一行の『金田一耕助』シリーズが好きだった。

 新しいところ(つっても90年代)で言えば、いかりや長介の『取調室』(いぶし銀で粘り腰の長さんが取調室で繰り広げる、動きのない心理戦)に、西村和彦の『警視庁鑑識班』(科捜研の本田博太郎が強烈)シリーズ、渡瀬恒彦の『タクシードライバーの推理日誌』(元一課の敏腕刑事で今は運転手が事件にやたらと巻き込まれる)、松下由樹の『おとり捜査官・北見志穂』(松下のおとりにやや無理があるところや、粗雑でタバコが似合う蟹江敬三とのコンビ愛が秀逸)、橋爪功の『赤かぶ検事』(尾張弁の愛おしさを知った)シリーズも好きだった。枠でいえば、日テレの『火曜サスペンス劇場』、テレ朝の『土曜ワイド劇場』(再放送は『傑作ワイド劇場』)が好物だったな。

 ただし、時代は令和。この昔ながらのフォーマットも絶滅しかけている。起死回生を狙ってか、テレ朝が2017年、日曜朝に2時間ドラマ枠「日曜ワイド」を設けた。安田顕主演『白い刑事』(元弁護士の刑事で白いスーツを着ている)とか、松重豊主演『内閣情報調査室 特命調査官・ハト』(町の電器屋のオヤジが実は内調)とか。私は好きだったが、視聴者から黙殺され、ひっそりこっそり終了してしまった。

 なぜ2時間ドラマが衰退の一途を辿ったのか。「若い人は耐性がない」と書いたが、そうとは限らない。2時間超えの映画は最後まで観るのだから、時間の問題ではない。「つまらない」からである。先が読める展開、どこかで観たような話だから、2時間もたないのだ。様式美と定番を愛でるほど、若い視聴者は寛容ではない。

 そして、「話題にならない」。盆暮れ正月のスペシャルならまだしも、2時間モノの宣伝に、テレビ局はそんなに力を入れていないフシもある。

 さらには1回こっきりの放送で、「DVD化もほとんどしない」。どれだけ元がとれるのかと考えると、やはり「予算が絶対的に足りない」としか思えず。

 「つまらない」「話題にならない」「DVD化しない」「金もない」って、逆に言えば、もうほとんど「やり逃げ」なのだから、もっと自由なテーマで作ればいいのに。

■なぜつまらないのか? 

 2時間モノの定番は「殺人事件」がメイン。スペシャルドラマにしても、「稀代の悪女」「歴史的な偉業の光と影」か「大スポンサーか大手事務所の肝煎り」が定番。なぜ同じようなモノしか作れないのか。企画書、コピペしてんのかな。ドラマで描く世界が狭すぎて、既視感しか覚えないのだ。

 人が死ななくてもドラマはある。事件も解決せず、丸く収まらない不条理な世界が現実だ。巨悪は逮捕されないし、事実の隠蔽と嘘の塗り重ねで日本国家は形成されているし、夫婦や家族が仲良しで幸せとは限らない。人と関わらない・関わりたくない人にも24時間365日のドラマがある。そのへんにドラマはあるし、どんな人でも主人公になりうるはずなのに。まあ、これは連ドラも同じだよね。

 愚痴と文句ばかりでは意味がない。もうちょっと建設的な話を。過去10年の間、2時間ドラマのすべてが駄作だったわけではない。面白かった作品も多々ある。

 熟年男性の恋を描いた『初秋』(2011・TBS系)、聖職と呼ばれる教師たちの逡巡と苦悩を描いた『ブラックボード~時代と戦った教師たち~』(2012・TBS)、東日本大震災後の異なる境遇の2家族を描いた『時は立ちどまらない』(2014・テレ朝)、誰もが加害者になりうる可能性を示唆する名作『乱反射』(2018・テレ朝系)、警察官になりたい人間のすべてが正義の人ではない『教場』(2020・フジ)。DVDになった作品や映画として上映された作品もあるので、ぜひ観てほしい。

 もちろん、NHKにも秀逸な2時間モノがあるのだが、定番ではないし、潤沢な資金と時間と人材が揃っているので、今回はあえて触れない。スポンサー減で青息吐息の民放局(中部日本放送やメ~テレなど地方局も)に頑張っていただきたく。

 これらの作品で共通項があるとしたら、いずれも「こうあるべき」「こうくるだろう」という先入観や思い込みを裏切るところだ。勧善懲悪ではないし、明快な答えがあるとは限らない。そしてどこか自分事に置き換えてとらえることができるようなテーマでもある。視点を変える、別の角度から見る。それを促してくれたのだ。

■新たな風を吹かせた『スイッチ』

 今回、2時間ドラマをお題に据えたのは、心の底から感嘆した2時間モノに遭遇したから。6月21日に放送した『スイッチ』(テレ朝)だ。弁護士と検事が主人公、事件解明に向かう展開という点ではさんざんくさしてきた設定なのだが、清く正しい人ではない。

 松たか子は弁護士、阿部サダヲは検事。元恋人のふたりがお互いを、そして新しい恋人までも貶め合う。節度ある大人の国家資格者が皮肉と嫌みと悪口を言い合うのだ。そんなもんだよ、大人は。

 見ず知らずの人の背中を押してケガをさせる「悪意」ある連続事件を軸に、容疑者の弁護についた松と、立件したい阿部が対立する構図に。対立すると思いきや、事件の真相には他の事件が絡んでいた。被害者と加害者の背景を追って、真相をつきとめていくふたり。対立ではなく、協調へ。

 さらには「スイッチ」のタイトルが何を意味するのか、ふたりの半生が明らかに。協調から共犯へ。いや、犯罪ではなく復讐であり、正義の鉄槌でもある。

 サスペンスだが、40近い男女のリアルな恋愛モノ(未遂だがラブシーンもあった)でもあり。人々の営みと感情の機微が余すところなく入っている。入れ子になった要素が開かれて、核心に迫っていく「マトリョーシカ」状態。重要なメッセージは「本当の悪人が捕まらない・裁かれない現実への憤り」だ。まったく飽きさせない2時間だったのだ。

 見せ方、描き方次第で2時間モノはこんなにも面白くなるのか。マニュアルやお約束を取っ払って、このレベルの2時間モノをどんどん作ってほしいと切に思った。

■「海外ドラマ」から学べるところ

 海外ドラマが面白いと感じるのは、批評性と多様性があるからだ。世の中の動きに常に敏感だし、ムーブメントや差別問題、政治思想もどんどん取り入れる。日本のドラマにはそれがない。流行はとりあえず追い、時事ネタとおぼしきものは入っても、主語がない。人物に語らせない。だからツルンとした善人ばかりになる。浅いところで「正義の味方」だけを描くので、推しの俳優やアイドルだけを愛でる「ファンのつどい」になりさがっている。作品は決して豊かにならない。

 まずは2時間モノ、スペシャルドラマから多種多様な人物とテーマを取り入れてみたらどうかと思う。年収は高くて家庭内地位は低いネトウヨのおっさんとか、左巻きと自然派志向が過激なおばちゃんとか、コンビニで働く生きるスキルの高い外国人留学生とか、清掃センターで人々のゴミから社会を憂う清掃員とか、真の自由を手に入れたホームレスとか、政治と広告代理店の癒着とか、男社会を虚言と詐称で翻弄して要職に成り上がった女帝とか、もうありとあらゆるネタがあるだろうに。

 ぜひ2時間ドラマの枠を既存の概念から解放して、「連ドラよりもコクがあるよね」「今までになかった設定だね」と思わせてほしい。

東洋経済オンライン

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最終更新:7/11(土) 14:46

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