IDでもっと便利に新規取得

ログイン

地方創生は難しいと思う人に知ってほしい知識

7/9 8:01 配信

東洋経済オンライン

政府が旗を振れども、なかなか前に進まない「地方創生」。ところが、コンサルティング大手、アクセンチュアの江川昌史社長は、近著『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(藤井篤之氏との共著)のなかで、人口減少と高齢化に苦しんでいる地方部にいま「一筋の光明が差している」と指摘する。

ポスト・コロナの時代に、地方創生のあり方にどんな変化があり、地方はそのチャンスをどう生かしたらいいのか、「『東京で働く』しか頭にない人が気づかない視点」(2020年7月2日配信)に続いて、この本から抜粋・再編集し、お届けする。

 テクノロジーの活用は地方創生を考えるうえで、もはや必須要素だ。地方創生に本気で取り組む人は、強いパッションや、やり遂げる胆力、周りを巻き込みながらコラボレーションする力などに加えて、最低限のテクノロジー知識、あるいはテクノロジーに対する高い感度が求められる。

 本稿では主に、地方創生に関してヒントになりそうなテクノロジー要素をいくつかピックアップし、国内外における事例と合わせて解説していきたい。

 例えばAI(人工知能)がブームになって久しい。ガートナー社が発表した日本における各テクノロジーの成熟度、採用度、適用度などをまとめた『日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2019年』によると、AIはようやく「過度な期待のピーク」を脱し、地に足のついた実用化や採用のフェーズに向かうことが予想されている。

 重要なのは、AIの技術を活用して実際にどのようなことが実現できるようになっているかだ。事例を通じて見ていこう。

■人に代わってイチゴを収穫するロボット

 AIの専門家に話を聞くと、AIがここ数年飛躍的に進化した理由の1つが、センシング技術の発達である。これによってAIは、いわば目を持ち、これまで以上にさまざまな画像・映像データを、イメージセンサーなどを通じて取得し、処理できるようになった。こうした技術を活用して、例えば、アメリカで2013年に創業したハーベスト・CROO・ロボティクスでは、人に代わってイチゴを収穫するロボットを開発している。

 イチゴ狩りのイメージもあってか、イチゴというとハウス栽培を思い浮かべる人が多いが、アメリカで栽培されるイチゴの多くは路地栽培だ。柔らかくて小さなイチゴの実は採取が難しく、小さな子どもがイチゴをとろうとすると、強く握って潰してしまったり、まだ完全に赤くなっていないイチゴを採ってしまったりする。

 そのため、従来、採取作業を担ってきたのは大人の労働者だった。しかし近年アメリカでは、移民規制などの影響もあって季節労働者が減り、さらに労働コストも上昇している。

 また、イチゴ採取は過酷な労働としても知られている。広大なイチゴ畑の中で、地面近くまでしゃがみ、熟して赤くなった実だけを採取する作業を毎日繰り返すので、腰痛などの健康被害を訴える人も多いと聞く。

 そうした重労働を代替してくれるのが、同社のロボット「ベリー5」である。フロリダ州ウィッシュファームで行われた実証実験で、このロボットは人間同様、センサーによって熟した赤い実だけを識別し、潰すことなくそっと採取する。しかも、まだ成熟していない実や、葉や花を傷つけることなく採取できる。

 ハーベスト・CROO・ロボティクスのウェブサイトによると、このロボットを活用することで1日に8エーカー分の畑での収穫が可能で、人間にして30人分ほどの作業を代替できる。また、人間とは異なりロボットは1日20時間以上の稼働が可能で、暑くてイチゴが傷つきやすい日中を避け、早朝などの時間帯に収穫作業を行える。

 イチゴ収穫ロボットはアメリカでの事例だが、日本でもAIと農業を組み合わせる取り組みが始まっている。

■移住の相談相手はAI? 

 地方自治体の中にも、地方創生にAIを活用する実例が出始めている。自治体のAI活用で比較的ハードルの低いものの1つとしては、AIチャットボットの導入がある。

 チャットボットといっても、自治体職員向け、地元企業向け、市民サービス向けなどさまざまな用途が考えられるが、一例として、キャメルの提供するサービスと導入事例を見てみよう。同社は、移住・定住者の不安や疑問を解決するためのAIチャットボットの「移住・定住Edia(エディア)」を提供している。

 このチャットボットは、忙しい自治体職員に代わって24時間365日問い合わせに対応する。英語や中国語、韓国語など日本語以外にも対応しており、外国人からの移住相談にも応えることができる。また、問い合わせ内容のログを貯めて人々のニーズがどこにあるのかを分析し、より最適なコミュニケーションを設計することができる。

 このソリューションを実際に導入しているのが、岡山県和気町である。JR岡山駅から電車で30分の場所で、人口1万5000人弱、5000世帯超が暮らしている小さな町だ。和気町では、このEdiaを活用して、「わけまろくん」というAIチャットボットを開発し、運用している。和気町のホームページかLINEから、誰でもわけまろくんとチャットできるので、興味のある方は検索してみてほしい。

 筆者がウェブサイト上から、わけまろくんの部屋を訪問してみると、「和気町のことで知りたいことがあれば何でも聞いて下さい!」というセリフとともに、

1 和気町について
2 わけまろくんについて
3 移住定住について
 という3つの質問カテゴリーが表示された。訪問者はこのカテゴリーをたどって聞きたい問いに対する答えを得ることもできるし、AIならではの自然言語処理機能と対話機能によって、質問を直接テキストベースで入力して会話することもできる。試しに、「移住に関するパンフレットが欲しい」と入力してみた。

 わけまろくんの答えは次のとおり。

 「和気町には、移住情報パンフレット『WAKEIKU(ワケイク)』があります。

 ワケイク移住支援策に加え、町の教育や子育て施策等の情報が紹介されています。

 詳しくはこちらをご覧ください。

 https://www.town.wake.lg.jp/wakesum/」

 次に、少々意地悪く、「移住者の失敗談を聞きたい」と質問すると、「すみません、勉強不足でその質問にはまだお答えできません」と返答があった。

 うまく答えられないこともあるようだが、今後、訪問者とのやり取りが増え、データが蓄積されていけば、わけまろくんもその分学習して、適切に回答できる割合が徐々に増えていくと予想される。

■バーチャルワールドで地方のエンタメ力強化

 エンターテインメントの世界も、デジタルテクノロジーによって大きく変化してきている。以前、地方での生活の魅力について議論していた際に、「自然との触れ合いなど地方ならではのすばらしい体験はあるものの、やはり最先端の文化的体験やエンターテインメント体験は、大都会に行かないと十分にエンジョイできないのではないか」というコメントをいただいたことがある。

 確かに、国内外の有名演奏家のコンサートや、サーカス、ミュージカル、プロ野球やサッカーの日本代表の試合観戦といったものは、大都市どころか、一部の洗練された施設でしか得ることのできない貴重な体験だ。

 しかし一方で、必ずしも大都市や人の集まるところに行かなくても、類似の体験を味わえる技術が出始めているのも事実だ。その一例として、ズイフト(Zwift)が提供しているサービスを紹介しよう。

 ズイフトは、リアル世界のフィットネスとバーチャル世界のゲームの要素を融合させたサイクリングゲームを提供しており、全世界で人気を集めている。自宅にいながら、ロンドン中心街のルート、2015年世界選手権コースとなったバージニア州リッチモンド、ワトピアと呼ばれるバーチャルワールドを、アバターを使って探検することができるのだ。

 ズイフトでは、自分が普段使っている自転車をローラー台にセットしてサイクリングを楽しむ。センサー機能を使って坂の勾配や空気抵抗など細かい環境が負荷として反映されるため、実際の走行にかなり近い体感が得られるという。

 こうしたリモートで行うエンターテインメント関連サービスも、5G技術の実用化やxR技術の進化に伴ってさらに多様な分野に展開され、臨場感あふれるハイクオリティーの体験へと進化を遂げていくだろう。

 テクノロジー活用は、エンターテインメントのみならず、教育でも大きな期待がかかる。

 というのも、大学進学のタイミングで地方から大都市に引っ越す人は多いからだ。文部科学省「学校基本統計」によると、大学進学者の約半数が他県に進学しており、2017年度の調査では、全47都道府県のうち37都道府県で流出超過の状況にある。

 流入超過となっているのは、東京都、京都府、大阪府、神奈川県など、有名大学のある大都市圏を中心とした10都府県のみだ。

 しかし、仮に、特定の場所にとらわれずに教育を受けられる環境が実現できたとしたらどうだろうか。しかも、最低限必要とされるレベルでの教育ではなく、むしろオンライン授業ならではの利点を生かし、生徒それぞれの学習状況に寄り添い、生徒の自発性を引き出すような一流の教育が受けられるとしたら。

 実は、すでに国内外において、リモートでありながら一流の教育を提供しようという取り組みが始まっている。

 例えば、アメリカで2014年9月に設立されたミネルヴァ大学の例を見てみよう。ミネルヴァ大学は「高等教育の再創造」を掲げて創立された4年制の総合私立大学である。同大学は、特定のキャンパスを持っていない。従来の座学授業による知識詰め込み型教育ではなく、講義はすべてオンライン形式のアクティブラーニングによって実施されている。

 学生は4年間で、サンフランシスコ、ソウル、ハイデラバード、ベルリン、ブエノスアイレス、ロンドンの7都市に移り住む。オンライン講義と合わせて各国の現場課題を検討することで、より深い学びを得られるのだ。

■リモートで超一流の大学教育を提供

 オンライン形式ならではのデータ活用によって、教育の質を上げる取り組みも行われている。講師の手元にあるモニターには、生徒個人の表情や作業状況が映し出されており、これによって、やる気や理解度を把握する。生徒の発言時間も自動的に計測され、グラフ化されるため、発言量のバランスを見ながら授業を進行することもできる。

 ミネルヴァ大学の授業料は年間1万ドルほど。マサチューセッツ工科大学やハーバード大学、スタンフォード大学など、アメリカの有名大学と比べると3分の1程度である。学費を下げながら、Thinking Critically(批判的に考える)、Thinking Creatively(創造豊かに考える)、Communicating Effectively(円滑なコミュニケーション)という3つのコアスキルをバランスよく使いこなす人材の育成に尽力しており、世界の名門大学の合格を辞退して、進学する学生がいることでも注目されている。毎年世界中から2万人以上が受験するが、合格率はわずか2%未満だ。

 これまで、エンターテインメントに関して都市部と地方部の間には大きな格差があったが、今後、良質な教育・娯楽コンテンツがリモートで提供されるようになれば、コンテンツの内容・質において都市部と地方部の差は縮まっていくと考えられる。デジタルによって、都市部と地方部の間には格差が縮まり、前回述べたように生活コストが安い分、移住や2拠点生活が現実味を帯びてくるようになるだろう。

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:7/9(木) 8:01

東洋経済オンライン

投資信託ランキング