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母に過重負担の日本で女性活躍なんてムリな訳

7/5 8:10 配信

東洋経済オンライン

 世界のリーダーたちが2015年に国際社会共通の17の目標を定めたSDGs(持続可能な開発目標)において、5番目のゴールは「ジェンダー平等を実現しよう」。このゴールについて「日本の達成は遠い」と世界から揶揄されつつも、政府は「女性活躍」「1億総活躍」に力を入れてきた……はず、と思っていたところ、こんなニュースが飛び込んできた。

 「政府が女性活躍の目玉として掲げてきた『指導的地位に占める女性の割合を30%程度』という目標の達成年限を2020年から2030年までの可能な限り早期に繰り延べする調整に入った」というのだ。厚生労働省が発表した「平成30年度雇用均等基本調査(確報)」によると、管理職に占める女性の割合は11.8%。そもそも女性管理職を有する企業が21.7%にすぎない。確かに目標は果てしなく遠い。

 この「2020年30%」は何も安倍政権が言い出したことではない。はるか昔、2003年6月、小泉内閣時代に決定した目標であった。2006年世界経済フォーラム(WEF)がジェンダーギャップ指数を発表し始めた当初、日本は115カ国中80位であった。

 そこから世界が大きく変化する中、2019年の調査では153カ国中121位。先進国の中でもアジアの中でも最下位。相対的に悪化の一途をたどる日本のジェンダーギャップ、この先どこまでこの順位を落とすのだろうか。

■コロナ禍の意識・行動変容は何をもたらした? 

 内閣府が行った「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、全国で正規・非正規問わず34.6%(東京23区に限っては55.5%)がテレワークを経験している。そのテレワーク経験者たちは、通常勤務の人々に比べワークライフバランスや仕事に対しての意識が各段に変化している。

 外部配信先では図表やグラフを全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

 つまり、否が応でも行動変化をせねばならなくなった人たちは、その行動の変化により意識に変化を生じたのである。

 さらに子育て世帯に限った調査で見てみると、30%強が「家事育児の役割分担を工夫するにようになった」と答え、そのうちの95.3%が「役割分担を工夫する」と答えている。

 家事・育児が工夫され、それが継続していくことと仮定すれば、女性の活躍や管理職登用だって進みそうなものである。ジェンダーギャップの改善にも期待がかかる。

 しかし、筆者が先日登壇したワーキングマザーのイベントでは、「もう仕事を続けられるかわからない」「職種をフルタイムから変更しようと思っている」という母たちからの悲鳴が実に多く寄せられた。

 なぜか。

■コロナ下で見えてきた、変わらない課題

 6月中旬、筆者が運営する一般社団法人アルバ・エデュでは休校期間中の過ごし方に関するアンケートを行い、全国の子育て世帯200世帯強から回答を得た。そこから見えてきたことは必ずしも「役割分担が工夫された」というものではなかった。

 「休校中の家庭学習は誰が見たか?」において、「母親が見た」という回答が実に74%に上り、「父親が見た」の11%を大幅に上回ったのである。

 平常時であれば、授業で習ったことに基づき、先生から解説がなされたうえで宿題が出される。しかし、長いところでは3カ月に及んだ休校期間中に、学校と家庭がオンラインでつながった自治体はほんの一握りにすぎず、多くの自治体では、宿題がプリントという形で手交され、家庭で解読して処理することになった。

 未学習分野を家庭でこなすことは、子どもにとっても保護者にとっても試行錯誤の連続で、誰かしらが学習の面倒をみなければ、完了させることは難しかったのではなかろうか。

 この宿題を見るというタスクを引き受けたのは、多くが母親であったのだ。祖父母も、感染を危惧して常時ほどは頼れなかったであろう。「その他」の多くは「本人がやっていたはず」「誰も見られなかった」「シッターさんに託した」というものであった。

 緊急事態宣言が長期化していた自治体の多くも、6月1日から学校が再開した。これで課題が解消されたか、というとそう簡単ではない。先述の団体調査では6月中旬時点で学校での滞在時間が通常より短い家庭が約4分の3、大半が3時間以内の滞在であった。朝、子どもを送り出し、さあ今のうちにアレもコレも……とやり始めたと思ったらすぐに「ただいま!」と帰ってくる状況なのである。

 さらにこの間、ほとんどの学校で休校期間にも勝るとも劣らない量の宿題が出された。「学習の遅れを取り戻せ!」と号令がかかるのに、授業時間が短縮では、先生方もそうせざるをえないのだろう。しかし同時期、テレワークから出勤へと仕事スタイルが戻る親も増える中で対策に追われた家庭も多く、これが前述イベントでのワーキングマザーの悲鳴につながるわけである。

 今年の夏休みは、どこの自治体も夏休みの短縮を発表している。情報が集まった23区の状況を地図にしてみると、長短あるも一様に短縮の方向だ。東京23区で最も短い16日と発表している大田区と足立区は昨年の43日に対して、3分の1ほどしかない日数となっている。調べられた中で最短であった滋賀県草津市と大阪府東大阪市は13日と2週間弱だ。

 これらの短縮は、いずれも学習の遅れをキャッチアップするため、である。

 自由研究、読書感想文、日記、ドリルというように、例年と同じ量がこの短い夏に課されるのではないかと戦々恐々になっている保護者も少なくないであろう。

■どれだけ夏休みを削っても時間捻出にはほど遠い

 問題は、どこまで夏休みを削ったとしても、長い休校期間で失われた時間を捻出するには程遠いということである。

 そのため、先月頭には文部科学省が「小学校6年生と中学校3年生で最大2割程度を家庭で」、というガイドラインを出した。子どもが何年生であろうがコロナ禍の影響を受け、一層に「家庭学習」が要される可能性が高まった。換言すれば、夏休みの短縮でも埋められない穴は、家庭教育に「仕分け」られるのだ。

 このニュースに、私の周囲、とくに共働き家庭は震撼させられた。家に帰ってからの時間は、「夕飯の支度」「お風呂」「(低学年であれば)寝かしつけ」をこなさなければならない中で、どう子どもと一緒に宿題をする時間をねじ込んだらいいのか。子どもの小学校入学と同時に仕事を制限する人が増える「小1の壁」問題が解消されない中、事態はさらに悪化する可能性がある。

 明るい話題もある。

 全国に先駆けてオンライン授業に踏み切った熊本市教育委員会が「夏季休業日について(お知らせ)」と題して、夏休みの6日のみ短縮する根拠を示している。

 この計算式で注目したい点は中央の2行目「家庭学習やオンライン授業等」の授業である。オンライン授業を導入したことで、家庭学習へのしわ寄せはこれまでより小さくできたのである。同じくオンライン授業に歩を進めた首都圏の私立の広尾学園中学校・高等学校同校では、自宅で定期テストを受けることを前提に、熟慮を要するテストとし、量を詰め込む暗記型教育を廃止したという。

 ここ数日、都内では教員のコロナ感染が相次いでいる。第2波到来により学校が再度休校という可能性も否めない。学校が再開しているうちに、せめてスマホを使ってでもできる学校と家庭をつなぐオンラインホームルームなど、最低限のパイプを開けておくという施策は考えられないであろうか。

■持続可能な社会のために

 今年度は小学校、来年度は中学校、再来年度は高等学校と、新・学習指導要領が施行される。

 メインテーマとなるのは「主体的で対話的で深い学び」の導入である。家庭における「特定の誰か」が見るのではなく、子どもが主体的に学ぶことがうたわれている。ただ詰め込むのではない、「対話的」で「深い」学びが必要とされている。さらに、これまでの学習指導要領では20カ所程しか出てこなかったにもかかわらず、新・学習指導要領において90カ所近く出現する単語がある。「持続可能」という語だ。

 このままの詰め込み教育の一方で、「家庭学習は母親の役割」という固定観念のままに家庭学習の負担が増えれば、女性にとって仕事との両立は持続可能ではない。子どもの宿題を見る負担が今まで以上に増える以上、長時間の仕事には及び腰になる。会社もそんな女性を「管理職に登用を」と強くは押せなくなる。この結果、日本の女性管理職が減るという負のスパイラルが起きてしまう。

 失速する経済において、女性の能力を生かすことは喫緊の課題だ。しかしながら、女性の管理職登用と表裏一体となる教育のアップデートなしには、これ以上労働力として社会に駆り出すことは不可能である。学校での授業を前提とした長時間を要する学習内容を見直し、家庭の負担を軽減することこそが持続可能な社会への第1歩である。

東洋経済オンライン

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最終更新:7/5(日) 8:10

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