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1本100円で菊を売り…「瀕死状態」からのV回復、宇和島のスゴ腕社長

7/5 12:01 配信

マネー現代

(文 夏目 幸明) 日本中で作られている野菜の「苗の生産工場」と呼ぶべき事業を展開し、注目を集めている企業がある。愛媛県宇和島市の「ベルグアース」だ。年間約3700万本の苗を販売し、病気に強い「接ぎ木苗」では日本トップのシェアを誇る。農業高校を卒業後、事業を一代で上場させた社長・山口一彦氏(63歳)に話を聞いた。

強く育つ苗をつくる

 苗の育成は人間の子育てと同じ。昼も夜も水や栄養が足りてるか見続けないと、すぐ枯れてしまうんです。病気の予防にワクチンを接種する必要もあり、手間がかかる。そうした作物づくりの大変な部分を専門的に行っているのが当社です。

 まず「病気に強い」「収穫量が多い」「甘い」など、よい特徴を持った植物を繋ぎ合わせ、より優れた「接ぎ木苗」を作ります。

 さらに、枯れにくく強い苗にするために、あえて厳しい環境に置くなど、研究とテストを重ねたうえで、無限にある育て方から最適な方法を選び出します。すると、寒暖差や降水の多寡にかかわらず、強く育つ苗が出来上がるのです。

 私の親父は野菜農家でしたが、それだけでは食えず、豆腐屋を兼業していました。それを見ていた私は、「食べていける農業をやろう」と菊の栽培を始めたのですが……これが大失敗、ぜんぜん儲かりませんでした。

 たとえば、菊を1万本育て、一本100円で売れたとします。ならばと、2万本つくると、今度はなぜか一本の単価が50円程度に下がってしまう。「供給過多」という市場原理に気付いたのは、多額の借金を抱えたあとでした。

 失意のなか、親父が野菜の苗を売っているのを見て、見よう見真似で苗作りを始めました。苗作りは手間がかかるから商売にはなるのです。

 ただ、天候などの自然要因の影響を大きく受けやすく、油断するとすぐ出荷すべき苗が不足します。ならばと、最初から数を多めに育てれば、今度は利益が出なくなる。肥料や水はどの程度が適正かなど、文字通り寝る暇を惜しんで調べ続けました。

 その後、弊社の追い風になったのが、政府が進めた減反政策の「余波」でした。米農家が野菜作りに転換したものの、苗から作るのはとても大変で技術も必要だから、我々のような業者から買ったほうが早い、となったのです。

大成功のカギは「平準化」

 事業を拡大できたのは、必死で手探りした結果を自分だけの世界に留めずに平準化し、分業制を敷いたからです。苗は、朝には朝の顔をする。昼、夕、夜にも表情があって、真剣に向き合うと、いま何をすべきかわかります。しかし、それだけでは足りません。

 ある時、種の大手メーカーの方に私の頑張りを認めてもらえたことがありました。ところが、その方は「取引できない」と言うのです。理由は「あなたが死んだら同じものができなくなるから」。これを聞いて、自分の技術を誰でもできるように体系化、組織化していくことで初めて、農業が「継続的に食べられる仕事」に変わって行くのだと痛感しました。

 日本の農業に関し、言いたいことはいろいろあります。ひとつは時間の感覚の遅さ。たとえば、ファンドが大規模な農業法人を作ろうと動いてくれても、他業界では設備投資をしたらだいたい5年で回収できるらしいのですが、農業は10年、20年かかります。

 国の制度改善も急務です。ご存じの方は少ないと思いますが、この国では農地を持つ企業は上場できないのです。外国資本に買収されないようになどの理由はあるのでしょうが、短期では利益が出せない業種にもかかわらず、株の発行を通じて資金を手にできないというのはとても理不尽です。

「夢を語れる農業」

 病んでいる植物が見捨てられません。何とか生き返らせようとし、元気になった姿を見ると涙が出そうになります。経営も同じで、コンサルの方が「切ったほうがいい」と仰る会社は、むしろ助けたくなります。

 だから、私は農業も地方もこのままにできません。日本経済がここまで来たのは、地方で育った人間を都会の企業が労働力として使えたからです。なのに、地方と、その主産業である農業は注目されないまま、衰退し続けている。

 だから我々は今後も稼げる農業、夢を語れる農業の形を提示し、地方の経済が育つきっかけをつくっていきたいと考えています。

 植物は昔から大好きです。小学校5年生の時、親父のビニールハウスでパンジーを育てて学校に持って行きました。昔なので「男が花!?」と随分からかわれました。今も、趣味で家庭菜園をやっています。育つ植物を見ながら、仕事のヒントをいろいろもらってもいます。そう考えると、天職ですね。

 植物は、育てるのにたいそう手間がかかります。時には「何で人の言うこと聞かんのじゃ!」と怒りたくもなります。しかし育つ姿はことさらにかわいく、するとなおさら「こいつらは」と腹が立つ。言うことを聞いてくれず腹立たしいこともあるけれど、やっぱり、手がかかる子ほどたまらなくかわいい。そんなことを痛感する毎日です。(取材・文/夏目幸明)

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山口一彦(やまぐち・かずひこ)
'57年、愛媛県生まれ。愛媛大学附属農業高等学校を卒業し、'82年から野菜の苗作りを始め、'01年にベルグアースを設立、代表取締役社長に就任し、以来現職。'11年にJASDAQ市場へ株式上場、現在はアジアへの事業展開も始める。社員は約300名、技術開発部門を設置し、独自の商品開発も行う
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 『週刊現代』2020年6月27日号より

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最終更新:7/5(日) 12:01

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