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「白人声優の降板」歓迎するアメリカの特殊事情

7/4 15:01 配信

東洋経済オンライン

 人種平等を求める「Black Lives Matter」運動の余波が、アメリカ各地に広がっている。最近では、アニメの声優を誰が務めるのかに焦点が当たった。人気アニメ番組の製作者や声優が立て続けに、「白人声優が有色人種キャラクターの声を担うのは不適切だからやめる」と言い出したのだ。

 6月26日、放映開始から30年の長寿アニメ『ザ・シンプソンズ』のプロデューサーがその意向を発表。6月27日には、放映開始20年の『ファミリー・ガイ』で黒人キャラクターの声を担当してきた白人声優のマイク・ヘンリーが、ツイッターで降板を発表した。

 彼らのほかにも、女優のクリステン・ベルがAppleTV+の『セントラル・パーク』から、ジェニー・スレートがNetflixの『ビッグマウス』から、それぞれ有色人種のキャラクターの声を降板。アリソン・ブリーも、Netflixの『ボージャック・ホースマン』でベトナム人のキャラクターの声を担当してきたことに対して謝罪のメッセージを送っている。

 いくら人種平等が大事だからと言って、何もそこまで目くじら立てなくてもと思う人もいるかもしれない。だが、今回の騒動はさまざまな意味で当然のことであり、むしろ遅すぎた対応ともいえるのだ。

■なぜ「白人声優の降板」が当然なのか? 

 まず1つに、そもそもハリウッドには「有色人種のための役がとても少ない」という背景がある。有色人種のキャラクターを顔が見えないからといって白人に任せてしまうと、ただでさえ恵まれない有色人種の声優たちのチャンスがさらに奪われてしまう。

 2つ目は、もっと根本的な問題だ。有色人種のキャラクターが白人の声でしゃべることは不自然なのである。というのも、そもそも白人と黒人は声質が異なる。もし電話越しで顔の見えない状態で話したとしても、相手が白人か黒人かどうかはすぐわかる。

 なのに、これまで作り手はわざわざ白人声優を起用し、黒人の声真似をさせていたのだ。これはある意味、有色人種に対するステレオタイプを増長させる行為でもあり、つまり、2重、3重の侮辱でもある。

 有色人種のキャラクターの声を白人が担当する問題は、決して初めて認識されたものではない。実際、近年はそこを意識してキャスティングするケースも見られるようになった。

 2019年に公開された『ライオン・キング』では、主要キャラクターの多くが黒人キャストで固められている。ライオンに黒人も白人もないわけだが、舞台となるアフリカに敬意を捧げるのであれば、アフリカ系アメリカ人に声を任せるのは決して間違いではない。

 2008年の『カンフー・パンダ』で、「中国に愛を捧げる」と言いつつ、ジャック・ブラック、アンジェリーナ・ジョリー、ダスティン・ホフマンら白人俳優に最も重要な役を任せたのとは大違いだ。

 日本のアニメにも、多少の変化が見られてきた。2009年にアメリカ公開された『崖の上のポニョ』ではマット・デイモンやケイト・ブランシェットが声を務めたが、2018年に公開された『未来のミライ』では、父親役をジョン・チョー、祖父役をダニエル・デイ・キムなどアジア系俳優が演じたのだ。

 しかし、母親役はなぜか白人のレベッカ・ホールだったし、2019年の『天気の子』では、意識してアジア系を起用しようとする配慮が見られなかった。今後アメリカ公開される作品では、こうした配慮を無視することはおそらく許されないだろう。

■変化を求められる「アメリカのアニメ映画」

 さらに、今回の騒動を機に、「声優の選び方そのもの」を見直すことになるのではないかと思う。人種平等の潮流だけでなく、コロナによる景気後退もまた、後押ししそうだ。

 この20年ほど、ハリウッドのアニメの声優は、たびたび知名度や人気度で選ばれてきた。1999年の2Dアニメ『アイアン・ジャイアント』では、とくにふさわしいというわけでもないのに主人公の母親役を人気女優のジェニファー・アニストンが務めたが、CGアニメの競争が激化してからはますます大スターがキャラクターの声を当てる傾向が強まった。

 それを最も促進したのは、ジェフリー・カッツェンバーグ率いるドリームワークス・アニメーションだ。彼らはほぼ人気度や知名度だけを最大の基準に声優を決めてきたと言ってもいい。もちろん、気持ちはわかる。大スターが声をやるとあればそれだけで話題になるし、そのスターたちが公開時にレッドカーペットに立ったり、インタビューを受けたりしてくれることで、宣伝になるからだ。

 スターにとっても、これは非常においしい仕事。多くの場合、声の録音は数カ月に1回程度のものが何回かあるだけなのに、『シュレック』でキャメロン・ディアスは1000万ドル(およそ10億円)のギャラを手に入れた。

 リース・ウィザースプーンもパラマウントの『モンスターVSエイリアン』で同額を得たし、トム・ハンクスは『トイ・ストーリー3』で1500万ドルを手にしたと推測されている。

 しかし、2016年に大爆発した「#OscarsSoWhite」運動がハリウッドの白人偏重を、2018年が明けるとともに始まった「#TimesUp」運動が女性差別を指摘してから、業界には、映画やテレビにマイノリティや女性の優れたキャラクターをもっと出すようプレッシャーがかけられてきた。その結果、白人がすべての役を独占することは、過去に比べれば少し難しくなってきている。

 そんな中、CGアニメの競争激化でドリームワークスは経営破綻。コストを抑えつつヒット作を出すイルミネーションを抱えるユニバーサルの傘下に収まることになった。予算が豊富なこのジャンルで、予算を使わない人たちが勝者になったのである。

■「スターの声優起用」は要らない

 そして、今回のコロナだ。映画の公開も、制作もストップされ、すぐそこの未来も見えない状態で、スタジオはもはや、大スターに無意味な大金をはたくことはしない。

 そもそも、今はレッドカーペットも対面インタビューもないのだから、スターに期待されていた宣伝活動も限られている。第一、観客は本当に「そのスターの声だから」アニメ映画を見に行っていたのだろうか。そうではないと、ちょっと考えてみれば、誰でも気づくはずである。

 ハリウッドには、あらゆる年齢、あらゆる人種の、幅広い才能がそろっている。その人たちは、みんなハングリーに次のチャンスを狙っている。仕事の対価をはるかに超える高額なギャラを払わなくても、彼らはきっと素晴らしい仕事をしてくれるはずだ。

 だから、顔の見えないアニメの声に、わざわざ有名なスターを選ぶ必要はない。これからは、目をつぶり、声だけを基準にキャスティングをすればいいのだ。ただし、人種差別を増長するようなキャスティングがされないよう、そこだけは目を開いておかなければならない。

東洋経済オンライン

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最終更新:7/4(土) 15:01

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