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「コロナ後」の世界で、じつは「日本の製造業」が大復活しそうなワケ…!

7/4 9:01 配信

マネー現代

日本への「製造業回帰」が急速に進む…!

(文 大原 浩) 香港での反政府的な動きを取り締まる「香港国家安全維持法」が成立した。7月1日は香港の共産主義中国への返還・再譲渡から23年目の記念日となるが、同日からの施行をもくろんだ、民主主義への暴挙だと言える。

 この問題の本質については、6月23日の記事「香港問題の真の意味…世界が直面しているのは『反民主主義』の脅威だ」などの過去の一連の記事を参照いただきたいが、2008年の拙著「韓国企業はなぜ中国から夜逃げするのか」で懸念していたことがまさに現実のものとなりつつある。

 今や中国からの撤退は急務だ。日本政府による新型肺炎感染拡大に伴う緊急経済対策に「生産拠点の国内回帰や多元化支援」のための予算が2435億円盛り込まれたので、これを活用するという手もある。

 しかし、製造業の国内回帰は、単純に生産拠点のリスク回避のための分散という側面だけではなく、世界の製造業がテクノロジーの進化による抜本的構造転換を迫られている結果だとも言える。

 要するに、世界の製造業が高度化し、日本でしか製造できないハイクオリティな「日本品質」の製品(部品・製造装置・原材料)が世界市場を牛耳り始めているのである。

韓国と日本の製造技術、比べてみると…

 フッ化水素を始めとするたった3品目の「輸出管理強化」だけで、韓国で天地がひっくり返るほどの大騒ぎが起こったことは読者の記憶に新しいであろう。

 2019年7月24日の記事「対韓輸出規制でわかった『ニッポンの製造業』が世界最強であるワケ」で述べたように、日本は「最高品質」の製品においては、「月とすっぽん」くらいの差を韓国などの国々との間につけているのだ。

 また、2019年の世界半導体製造装置メーカートップ15の過半数である8社が日本勢だ。今やコモディティとなりつつある半導体そのもの製造では見劣りがする日本企業だが、実は半導体製造メーカ-の首根っこである製造装置分野をしっかり押さえているのだ。

 極端に言えば、世界中の半導体製造メーカーは、日本企業が中心となって製造する「製造装置」を設置してボタンを押しているに過ぎない。

 また、半導体製品の精度に直結する「検査装置」分野でも日本勢が活躍している。

鉄道や鉄鋼業で起こったことが繰り返される

 実のところ、コンピュータプログラムはデジタルだから誰がやっても同じ結果が出る。逆に同じ結果が出なければなり立たない仕組みだ。だから、インドや韓国など、それまで製造業はもちろん社会・経済の基盤が弱かった発展途上国であっても、大躍進できるわけである。

 また、GAFAも、インターネットなどの通信とコンピュ―タが融合する市場でいち早く地位を固め、市場を独占することによって超巨大企業となった。

 コンピュータの基礎は、少なくとも第2次世界大戦中のドイツの暗号(エニグマ)の解読で有名なアラン・チューリングまで遡るし、インターネットは技術的にはローテクを世界規模でつなぎ合わせたものにしか過ぎない。

 だから、最近のインタ―ネットや(モバイル)コンピュータの発展は、テクノロジーの発展というよりも、「テクノロジーを活用する社会の発展」というべきであろう。

 例えば、バフェットの師匠であるベンジャミン・グレアムの時代、鉄道や製鉄業などは「テクノロジーを活用する社会の発展」とともに成長し有望な投資先であった。しかし、市場の寡占が行き過ぎて独占禁止法によって分割され力を失っていったのだ。もちろん、先端技術がインフラとして定着すれば、「成長性」も当然低下する。

 今後、かつての製鉄・鉄道事業などと同じように、9月30日の記事「もう特別扱いはありえない GAFAの栄華は終わることになる」で述べたようなことが起こるであろう。

半導体、医学は分子・原子・量子レベルの世界へ

 半導体製造ではすでに分子レベルの精度が要求されるようになり、半導体の検査には電子顕微鏡(可視光の波長よりも小さいものを見るために、電子線を使う)が使われている。

 また、生物学においても「分子生物学」が活況で、iPS細胞で有名な山中教授に代表される最近の日本人のノーベル賞受賞もこの分子(遺伝子)レベルでの人体や生命の研究が中心である。

 そして、現在最も微細なものといえば量子だ。量子とは、現在のところそれ以上に小さく分割はできないと考えられている極小の物質だ。

 量子コンピュータばかりがもてはやされるが、10月25日の記事「それでも量子コンピュータが本当に役に立つか疑わしいこれだけの理由」や12月15日の記事「“サザエさんを失った”東芝はどこまで大迷走するのか」で述べたように、

 1)コヒーレンス(量子の重ね合わせ)状態の維持
2)計算結果の検証

 の2つの根本的問題が解決されない限りから騒ぎに終わるはずだ。

 量子コンピュータに関しては、きちんと理解されずに混乱が多いようなので、改めて、できる限り簡略に説明してみる。

 まず、1は「デコヒーレンス」と呼ばれる、「量子の重ね合わせ状態の破棄」に至るまでの「コヒーレンス」の時間をどのように確保するのかがカギと言える。

奇妙奇天烈な状態

 なぜコヒーレンス(量子の重ね合わせ状態)を維持するのが難しいかということについては、例えば我々人間がいわゆる「量子状態」にはないことを考えればすぐにわかる。

 量子的振る舞いとは、例えば「大原浩が銀座にいる確率が50%、六本木にいる確率が50%」であり、誰か(例えば田中さん)が私に会いに来るまで、どちらにいるのか定まらないという奇妙奇天烈な状態だ。

 もちろん、私も細かく分解すれば量子でできているのだが、私の体の中の量子レベルの世界では、量子が動き回りお互いがぶつかって(「観測」されて)いる。

 よく、量子は「観測」するとその性質を失い普通の我々が日常見かける物質と同じようなると言うが、「観測」とは、要するに量子を量子にぶつけて計測することだ。

 したがって、エネルギーによって量子が動いている限り、量子同士がぶつかって「観測」されることを避けることができず、量子的振る舞いも消えてしまい、我々が体験する日常世界が出現する。

 唯一量子状態の維持が可能なのは、量子の活動が基本的に止まってしまう絶対零度(マイナス273度)を維持することであり、そのために写真でよく見るような、パイプが何重にも重なった巨大な冷却器が必要なのである。

 よく、量子コンピュータの写真として紹介される大型の黒い箱や巨大なパイプは、中の量子チップを冷やすための装置であり、量子チップそのものは指先に乗るほどの小さなものにしかすぎない。そもそも量子とは原子よりもはるかに小さいものであるから、そのチップが極小であるのも当然だ。

馬車メーカーは自動車メーカーにならなかった

 量子コンピュータの実用化のためには、まず

 1) 絶対零度を手軽に維持する技術を獲得する
2) 超低温でなくても「量子の重ね合わせ状態」を維持可能にする

 のどちらかを実現しなければならない。我々がイメージする電子コンピュータのソフトウェアの技術とはほとんど無縁な課題なのである。

 したがって、ハードも一応製造しているIBMはともかく、グーグルが量子コンピュータの開発をリードするのは、言ってみれば馬車メーカーが自動車を製造しようとするようなものだ。

 もちろん、どちらも同じ乗り物だが根本的に違う。自動車を見たことがない馬車時代の人々は、自動車を煙を吐く馬車だととらえていた……しかも、馬車より早い乗り物に乗ったことがなかったから、蒸気機関車の「高速走行」に人間の肉体が耐えられるかどうか(つまり現代のジェット戦闘機で、人間がどこまで「G=重力」に耐えられるかというような議論……)を真剣に行っていた。

 馬車的な発想で自動車を理解するのが難しいように、既存の電子コンピュータ的な発想で量子コンピュータを理解するのも難しいと言える。

 さらに、2で述べたように我々が現在使っている電子コンピュータには「エラー補正機能」が備わっていて、作動エラーがあっても修正される。例えば、3つの計算結果のうち2つが合致していればそれが正しいと判断するような形だ。

 ところが、量子の重ね合わせ状態を活用して「一発で解答」する量子コンピュータでは、「計算過程」というものが存在せず、その計算が正しいかどうか検証する方法が見つかっていない。

 結局、量子コンピュータが実現するにしても、そのカギは超低温を維持したり常温で量子的振る舞いを起こさせるという工業的・微細テクノロジーにあり、日本メーカーが本来得意とする分野なのだ。

「バイオミメティクス」が進化を加速する

 最新の研究では、植物の光合成の過程で量子コンピュータと同じように「重ね合わせ状態を利用して最短ルートの検索(いわゆるセールスマン巡回問題)が行われている」というかなり信憑性が高い驚くべき報告が行われている。

 もしかしたら、量子コンピュータは「バイオミメティクス」によって実現するかもしれない。

 バイオミメティクスという言葉は聞きなれないかもしれないがが「生物模倣」といえばある程度の意味がつかめると思う。

 新幹線がトンネルを出入りするときの空気抵抗(気流)の問題を解決するために、カワセミのくちばしの形状をヒントにしたのは有名な話だ。カワセミは空中から猛スピードで、空気と比較すれば1000倍も抵抗の大きな水に飛び込むが、水しぶきはほとんど上がらない。

 また、現代生活に欠かせないナイロン(ポリアミド系合成繊維)は、カイコがつくる絹糸の基本であるポリペプチド構造を模倣したものである。

 その他にも、蜘蛛が天井を自在に歩ける仕組みも研究が進んでいる。スパイダーマンのように動けたら楽しそうだが、脚先に鈎があるだけではなくその先端にミクロンサイズの毛が密集しているのが吸着力の秘密である。これは2000年にネイチャー誌に論文が掲載されたファンデルワールス力(研究はやもりで行われた)によるものだ。

 現在、この原理を逆用してミクロンサイズの凹凸を加工することによって、ファンデルワース力が働かない、つまり蜘蛛などが上ることができない壁の開発が進んでいる。スパイダーマンも困るかもしれない? 
 また「自己組織化」も忘れてはいけない。人間が製品などを「製造」するときにはエネルギーなどを大量に使用して外部から「加工」する。この手法は短時間で大量に製造できるというメリットがあるが、多くのエネルギーを消費するという欠点がある。

 それに対して、「自己組織化」は「分子や生物が集まって生物のような高度な分子組織体をつくりあげること」である。この「自己組織化」は、外部からの働きかけが不要でしかも省エネなのだ。

「日本のお家芸」の時代へ

 医療機器の国産化比率は低いが、これは欧米勢が医学界を牛耳ってきたためである。西洋医学そのものが欧米発祥であり、その地で発展してきたからある意味仕方がない。

 医療機器製造メーカーは、医学情報提供さらには治験協力やお墨付きを医学界から受けなければならない。3月2日の記事「新型コロナ、『マスク売り切れ』騒動だけじゃすまない『日本の大問題』」で述べた日本の医療機器の自給率の低さも前記のような事情が大きく絡んでいる。

 しかし、最近は前述のように日本人研究者のノーベル賞受賞も増えてきた。特に分子生物学のような微細な分野では、日本人研究者の能力が大きく開花するようである。

 我々になじみ深い検査で用いられるMRIは、強力な電磁気を活用して体内の水素原子核のスピンのエネルギー吸収・放出現象を「観測」する。PETは放射性物質が発する反物質(陽電子)が体内電子(負の電荷)とぶつかり対消滅する様子を観察する。

 つまり、この分野では、すでに「量子レベルの技術が実用化」されているのだ。実は、量子コンピュータよりも、すでに製品として実用化されているこの分野に注目すべきかもしれない。

 量子レベルまで達すれば、すべてのテクノロジー・科学が融合する。現在、重力に関しては難問を抱えているが、この世のほとんどのものは「量子」という原子よりもはるかに小さいものを扱う量子力学で説明可能になりそうだ。

 すべとのものが微細化すれば、江戸時代以来「コンパクト化」の最先端を走ってきた日本が世界に君臨する可能性が高い。

 日本の製造業は、馬車時代を飛び越えたステージが全く異なる「自動車時代」とでもいうべき新たな局面の微細技術で大躍進するのではないだろうか? 

マネー現代

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最終更新:7/4(土) 13:15

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