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新型N700S、リニア暗雲吹き飛ばす颯爽デビュー

7/1 7:16 配信

東洋経済オンライン

 7月1日朝6時。東京駅を博多に向け出発した「のぞみ1号」の車両は通常と少し異なっていた。白い車体側面に大きく描かれているのは青地の「A」ではなく、金色に輝く「S」の文字。JR東海の新型新幹線「N700S」が営業列車としてこの日デビュー。のぞみ1号の出発に先立ち「N700S出発式」が東京駅で行われた。

 新型コロナウイルスがいまだ収束せず、新幹線の乗車率は激しく落ち込んでいる。しかし、のぞみ1号に限っては窓側の席は予約でほぼ埋まっている。現状を考えれば高い乗車率といってよい。

 のぞみ1号の出発後、JR東海の金子慎社長は報道陣に対し、「快適な乗り心地をご満足いただきたい」と述べた。こまめに清掃を行い、乗客にマスク着用を呼びかけるなどコロナ対策には万全を期しているという。

■N700S投入で何が変わる? 

 過去をさかのぼると、1992年に300系、1999年に700系、2007年にN700系、2013年にN700AがJR東海の新型新幹線の営業列車としてデビューしている。今回のN700SはN700Aから7年ぶりの新型新幹線ということになる。

 7月1日時点で4編成のN700Sが導入された。2022年度までに40編成を増備する計画だ。この数字はJR東海の保有する新幹線の3割に相当する。おそらくその後もN700Sの導入は続き、N700系からの置き換えを進めていくことになるはずだ。

 このペースで進めば、10年後くらいには全車両がN700Sに置き換わっていることになる。そのときの新幹線のダイヤはどのように変わっているか。N700Sの「生みの親」として開発を陣頭指揮し、現在は総合技術本部副本部長を務める上野雅之氏は、「輸送性能面においてN700SはN700Aタイプと同じ性能である」とした上で、「セキュリティ面などさまざまな面で最新の技術を備えているので、編成数が増えることで新幹線の輸送をどのように改革できるのかを検討していく」と話す。現在はのぞみを1時間12本運行可能な「のぞみ12本ダイヤ」の体制を構築しているが、本数をさらに増やすことができるか。あるいは、速度向上の可能性もあるのか。将来が楽しみだ。

 JR東海が製造した新幹線の車両形式番号を見ると、300系を除くすべての車両形式に700という数字が入っている。

 「JR東海は700という数字にこだわっているのか」。こんな質問に対して、上野氏は「700系を開発していた頃は、これから700を踏襲することになるとは思ってもみなかった」と振り返る。しかし、「先頭形状を含む開発コンセプトはN700系、N700A、N700Sと引き継がれてきた。N700Sという名前は700系から続く系列としてはふさわしいのではないか」(上野氏)。

■災害時にも強い新装備

 N700Sは名前こそ700を踏襲しているが、「N700系以来となる13年ぶりのフルモデルチェンジ」(JR東海)という位置づけ。床下機器の配置を最適化して、16両編成の基本設計をそのまま用いて12両、8両などさまざまな編成長にして東海道新幹線以外の線区にも適用できるという。「すでに引き合いは来ている」(金子社長)といい、長崎新幹線や台湾新幹線などへの導入が期待されている。

 小型・大容量のリチウムイオンバッテリーを標準装備していることで、架線停電時のバッテリー走行が可能になった。地震発生時にトンネル内や橋梁の上など、乗客の避難が困難な場所で緊急停止した際、架線から電力を得ることなく乗客の避難が容易な安全な場所まで自力で走行することができる。トイレの利用も可能だ。

 東海から四国にかけて広がる南海トラフ地震の発生が心配されている中、このバッテリー走行性能は、非常に重要な役割を果たすかもしれない。

 南海トラフ地震がひとたび発生すると、東海道新幹線にも計り知れない影響を及ぼすことになる。JR東海は新幹線の車両側だけでなく、インフラ部分については高架橋の柱を鋼板で巻く、盛り土の耐震補強を行う、脱線防止ガードの設置といった対策を講じている。

 しかし、これで万全というわけではない。巨大地震によって東海道新幹線が長期間不通になる可能性もある。そこで、東海道新幹線が担っている東京ー名古屋ー大阪という都市間大動脈輸送を2重系化してリスクに備えることを目的に建設が進んでいるのが、リニア中央新幹線である。

 品川―名古屋間2027年開業というリニアの工事実施計画は2014年10月に国から認可を受けている。しかし、それから5年以上たった今も静岡工区に限ってはいまだに工事が始まらない。静岡県が「南アルプスのトンネル工事は水資源や自然環境への深刻な影響を与えるおそれがある」として、県内における工事に合意していないのだ。

■JR社長と静岡県知事のトップ会談

 トンネル工事が水資源や環境に与える影響について国の有識者委員会が議論を重ねており、その結論が出るまでJR東海はトンネル工事を行わない。しかし、JR東海は「トンネル工事の前段階に当たるヤード整備などの準備作業だけでも6月中に開始しないと2027年の開業が難しくなる」として、金子社長が静岡県の川勝平太知事に6月26日に面会して、工事開始について理解を求めた。

 県はヤード整備はトンネル工事と一体であるという見方を取っており、これを踏まえれば工事は認められないことになるが、JR東海はトンネル掘削工事とは明らかに区分けできる作業があると考えていた。約1時間20分に及んだトップ会談ではこの点について突っ込んだ議論は行われなかったが、川勝知事が金子社長に「自然環境保全条例に従って県と協定を結べばヤード整備は可能」と、手続きについて発言したことで、JR東海側はすみやかに協定を結べばヤード整備に着手できると受け止めた。

 しかし、会談後の記者団への取材に対して、知事の態度は一変した。ヤード整備はトンネル本体工事と一体であり認められないという従来の発言を繰り返したのだ。JR東海は知事の会談の発言と記者団への発言が一致しないとして困惑。同社は県の考えを確認する文書を6月29日付で県に送った。現在は、県からの回答待ちの状態で、7月1日のN700S出発式後の取材でも、金子社長は「新しく申し上げることはない」と述べている。

 ヤード整備はタイミング的に瀬戸際の段階にあるが、そもそも有識者会議の議論が長期戦の様相を帯びつつある。肝心なトンネル工事自体の着工時期が見通せない。この点も2027年開業への不安材料だ。

 会談の席上で、川勝知事は品川―甲府間の先行開業を金子社長に提案した。「リニアなら東京から20分で甲府に着く。甲府からは世界最速とは真逆の身延線特急で富士山をぐるりと回って静岡から新幹線で帰る。このパッケージは観光になる」(川勝知事)。リニアとローカル線と新幹線の合体というユニークな構想に対し、金子社長は、「リニアの妙味は東京から大阪まで直結することだ」として、苦笑するしかなかった。

 一方で、金子社長は、リニア開業後は東海道新幹線が「ひかり」や「こだま」中心のダイヤになることから、「東海道新幹線の17駅中6駅が静岡県内にある。ひかりをどう停めようか議論をしており、静岡県にも必ずメリットがある」として川勝知事に理解を求めた。

■リニア開業まではN700Sが主役か

 金子社長の発言のとおり、リニアが開業すると東海道新幹線の役割が変わる。速達性を求める客はリニアに流れ、東海道新幹線の乗客は減る。前述のとおり、東海道新幹線にはほぼ7年おきに新型の新幹線が登場している。気の早い話だが、N700Sの次の新幹線が登場するとしたら2027年ということになる。くしくもリニア開業目標と同じタイミングである。

 現在の東海道新幹線の車両は大量の客に座席を提供し、快適に移動してもらうことを最大の目標としているが、リニア開業後の東海道新幹線の車両はコンセプトが変わり、スペースに余裕を持たせるなど多目的な性格を持つものになるかもしれない。

 しかし、リニアが開業するまではN700Sが東京ー名古屋ー大阪を結ぶ大動脈の主役として走り続ける。N700Sの「S」とは「最高」を意味する「Supreme」の頭文字である。「最高の安全対策」が本領を発揮する異常事態にはめぐり合いたくないが、この車両が提供する「最高の乗り心地」をこれから存分に堪能したい。

東洋経済オンライン

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最終更新:7/1(水) 7:22

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