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トヨタが「サポキー」で臨む安全装置の新境地

7/1 13:40 配信

東洋経済オンライン

 交通死亡事故全体に占める高齢運転者(75歳以上)が、第一当事者となる交通死亡事故の割合が増えている。件数はこの10年間、400件台と横ばいで推移しているが、全体の事故件数が減り続けているため、割合として増えているのだ。

 2019年4月、東京・東池袋で当時87歳の高齢男性が運転する乗用車が赤信号を無視するなどして暴走し、母子を含む10人に次々に衝突して死傷させた。男性は事故直後に「アクセルペダルが戻らなくなった」と証言したが、警視庁はクルマに不具合はなく、男性のアクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違いが原因として、男性を過失運転致死傷罪で書類送検した。

 内閣府の「平成29年交通安全白書」によれば、高齢運転者がペダル踏み間違い事故を起こす確率は、75歳未満の運転者の約8倍に上る。

 ドライバーのペダル踏み間違い事故対策として、自動車メーカー各社は車両前後に障害物がある場合、ドライバーがアクセルペダルを踏んでも加速を抑制したりブレーキ制御したりして衝突回避を支援する機能を開発・実装してきた。国もペダル踏み間違い加速抑制システムなどが備わったクルマを「サポカーS(セーフティ・サポートカーS)」に認定し、普及を後押ししている。

■すでに約7割低減しているが……

 トヨタが2012年に製品化した「ICS(インテリジェントクリアランスソナー)」の装着率は、2019年時点で約85%に達している。また、2018年には「踏み間違い加速抑制システム」を製品化した。

 これは同社の12車種に後付けできる装置で、車両前後に障害物を検知した状態でドライバーがアクセルペダルを踏んでも、加速が抑制される。ただし、後付けなのでブレーキ制御までは備わらない。

 同社の調べでは、ICS装着によってペダル踏み間違いによる事故を約7割低減する効果があったという。ただし、ICSや踏み間違い加速抑制システムが作動するのは、車両前後に障害物がある場合に限られる。正確には、センサーが車両前後の障害物を検知した場合。障害物がない状態での踏み間違い事故を回避することはできない。

 そこでトヨタは、7月1日に新たなペダル踏み間違い事故対策として「プラスサポート用スマートキー(略称:サポキー)」を開発・発売した。現行型「プリウス」のディーラーオプションとして設定される。価格は税込み1万3200円だ。

 標準装備の通常キーではなく「サポキー」を使って開錠・始動すると、ドライバーが一定の条件を満たした状態で急アクセル操作をした場合、車両が踏み間違いであると判定し、加速を抑制する。センサーによる障害物の検知ではなく、ドライバーの操作の仕方と状況のみで踏み間違いかどうかを判定するのが、これまでのシステムとの違いだ。作動条件は以下のとおり。

・低速走行時(30km/h以下)であること
・アクセルペダルの操作速度が急であること

・アクセルペダルの操作量が大きいこと
・登り坂でないこと
・直前にウインカー操作がないこと
・直前にブレーキ操作がないこと
 これらすべてが当てはまる状況でドライバーが急なアクセル操作をすると、踏んだ分だけ加速せずに、抑制される。

 例えば、交差点で右折待ちをしていて、対向する直進車が途切れた瞬間に発進するため急なアクセル操作をした場合、直前にウインカー操作があるため、踏み間違いとは判定されず、加速は抑制されない。また、前方の交差点が赤信号のため停止すべく減速したものの、直前で青信号に変わり再度加速しようと急なアクセル操作をした場合には、直前にブレーキ操作があるため、踏み間違いとは判定されない。

 このようにドライバーが「加速したい」と思っているときに加速できない状況に陥らないよう、多くの作動条件を設定している。

 とはいえ、ドライバーの意思に100%合致した動きができるわけではなく、ドライバーが本当に急発進・急加速をしたいと思ってアクセルペダルを速く深く踏んだ場合に作動する可能性も、ゼロではない。そのため、ブレーキ制御までは入れないほか、アクセルペダルを踏み続けると緩やかな加速ができるよう設定されている。

■標準装備ではなくオプションとした理由

 自動車メーカーは長年、できるだけドライバーの意思どおりに動かすことができるクルマの開発を目指してきた。われわれユーザーもそれこそが安全であり、また高性能なクルマだと評価してきた。メーカーにとってドライバーの意思(急なアクセル操作)に反した挙動をする可能性がある機能を商品設定するのは、簡単ではなかったはずだ。

 これについてプリウスチーフエンジニアの田中義和氏は「社内で多くの議論を重ねましたが、(サポキーを作動させることで)ごくまれに加速したくてもできない可能性を受け入れてでも、踏み間違いによる事故を回避できるメリットを優先した装備が必要だと考えました」と話す。

 そうした商品特性を踏まえ、標準装備ではなくディーラーオプション設定としたという。オプション装備としてわざわざ選んだ時点で、商品特性に同意したことになるのだ。もちろん、サポキーを選んでも、標準装備のキーを使えば加速を抑制されないこれまでどおりのプリウスとして使用できる。

 通常キーとサポキーを使い分けることで、運転に不安があると自覚するドライバーが自らサポキーを選ぶケースとともに、高齢ドライバーが運転を続けることに不安を抱く家族が、免許返納などを提案する前段階として、サポキー(付きの車両)を渡すようなケースも想定しているのだ。

 前述の東池袋の事故で高齢男性が運転していたのは、プリウスだった。プリウスは保有台数が多いがゆえに事故件数も多く、報じられる機会も多いため、「事故発生率が高いクルマなのではないか」と誤解されがちだ。しかし、実際にプリウスの事故発生率が、ほかの車種よりも高いというデータはない。

 サポキーをプリウスから商品設定したことについて、トヨタは「代表的車種だから」と答えるにとどまるが、とくにフルモデルチェンジやマイナーチェンジのタイミングではないプリウスに最初に商品設定したのは、そういった誤解を解きたいという思惑もあるはずだ。

 また今回、サポキー発売とともに、後付けの踏み間違い加速抑制システムもバージョン2へと進化した。

 従来の「車速が10km/h以下で障害物を検知した場合に急なアクセル操作をしても加速が抑制される」「後退時に車速が5km/h以上に達した場合に加速が抑制される」という機能に、新たに「30km/h以下で走行中に急なアクセル操作をすると加速が抑制される(障害物の有無関係なし)」が加わった。

 また、従来の「車速が10km/h以下で障害物を検知した場合に急なアクセル操作をしても加速が抑制される」機能は、バージョン2では障害物の有無に関係なく作動するようになっている。この変更に伴いリアのセンサーが廃止され、バージョン2の価格は3万8500円とバージョン1の5万6100円から値下げされた。

■リーディングカンパニーとしての姿勢

 トヨタは「RAV4」「ヤリス」「ハリアー」と立て続けにヒットを飛ばすほか、「GRスープラ」「GRヤリス」と華やかなスポーツカーも発売して話題を集めているが、一方で高齢者の踏み間違い事故という地味だが喫緊の対策にも余念がない。また同社は、災害時の電源確保の選択肢を広げるべく、これまでオプションだったプリウスの給電機能を標準装備とした。

 専門メディア、経済メディアに取り上げられやすい走りの楽しさ、凝ったデザイン、効率の高さも、安全性が確保されてこその話。さらに新型コロナウイルス感染症の影響と先行きが不透明なため、2021年3月期の業績見通しを避ける自動車メーカーが多い中、先般同期の営業利益が5000億円となりそうだと発表し、財務体質の強さも明らかにしたばかり。

 販売台数増を追い求めるだけではなく、リーディングカンパニーとして全方位的なスキのなさを感じさせるとともに、「だからこそ売れているのだ」と、販売台数の多さも納得させる。

東洋経済オンライン

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最終更新:7/1(水) 14:01

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