IDでもっと便利に新規取得

ログイン

【緊急レポート】新型コロナウイルス感染拡大と同時に、中国・北京の長い長い旧正月が始まった

6/5 18:01 配信

ダイヤモンド・ザイ

邱永漢氏に師事し、2005年より、チャイニーズドリームを夢見て北京で製パン業を営む荒木尊史さんが、中国・武漢から発生した新型コロナウイルス感染拡大に直面。中国人にとっては一大イベントである旧正月が一変。そのとき、中国人は、そして中国で暮らす日本人は?  緊急レポートします。

 「武漢でSARSに似た新型肺炎が広がっている」というニュースが広がり始めた1月上旬、北京ではまだ旧正月に向けた明るい雰囲気が漂っていました。今から思えばこの旧正月という長期休暇のタイミングで新型コロナウイルスの感染拡大が起こったことは、良くも悪くも後に大きな影響を与えることになり、日本を含めた諸外国との対応の違いの大きな要因にもなりました。

 広く知られていることですが、旧正月は中国人にとって最も大切にしているイベントで、日本人の正月と欧米人のクリスマスを足し合わせた以上のものです。

 特に北京や上海などの大都市に出稼ぎに来ている外地人にとっては、故郷に帰省して親族や旧友と顔を合わすことのできる数少ない機会です。そんな皆が楽しみにしている一大イベントを根底から変えてしまったのが新型コロナウイルスでした。

旧正月休みの大規模移動に重なった、新型コロナウイルス感染拡大

 まず何が起こったかというと、旧正月休みが2日間延長になり、それに続き全国の省、市、村単位での移動が制限され、実質的に封鎖されました。これにより帰省していた多くの人々が北京や上海、広州など大都市の生活拠点に戻れなくなったのです。

 一般的な出稼ぎ労働者だけでなく、地方から出てきて大都市で就職し、結婚して家庭を築いたような人々も、帰省していた場合は同じく影響を受けました。ちなみに私が経営している製パン工場の河南省出身の工場長が北京に戻れたのは、なんと4月初旬にもなった頃でした。実に2カ月間以上もの間、故郷に缶詰めにされていたことになります。
 
 その間、私が拠点にしている北京では街から人の姿が消え、いつも慢性的に渋滞している幹線道路もガラガラという状態が続きました。3月に入り、中国国内での感染拡大が抑えられ、コントロールでき始めたことから、中国政府は武漢市のある湖北省などを除いて封鎖を解除し始めました。本格的に経済活動を再開させるため、地元政府が発行した隔離証明書があれば大都市に戻れるようにしたのです。
 
 しかしこれがそう簡単には戻って来られません。感染拡大防止のため、飛行機や鉄道、長距離バスなどの公共交通機関のチケットはこの隔離証明書がないと購入できない仕組みになっているのですが、地元政府がなかなか証明書を発行しないことが理由でした。
 
 実際、しびれをきらした当社社員の数名は、白タクを長距離でチャーターし、高速道路を夜通し飛ばして北京に戻ってきたくらいです。
 
 地元政府が隔離証明書を発行したがらない理由は2つ考えられました。ひとつは管轄の地域から感染者を大都市に流出させてしてしまう可能性を非常に恐れているということ。2つ目は地元政府にとって、消費力がある若者を大都市へ戻すことは得策でないこと。特に2つ目の若者を大都市に戻すことは、地元経済(すなわち地元政府の役人)にとっては収入減につながる大きな損失だと考えた可能性は意外と高いと思っています。
 
 実際、地方都市のスーパーや商業施設は平時より高い売上を上げていたようで、大都市から帰省していた若者の消費力は、地元政府や経済界にとって非常に魅力的であったはずです。
 
 こうしてたまたま新型コロナウイルスの感染拡大と都市封鎖が旧正月のタイミングと重なり、結果として長い長い旧正月となってしまいました。楽しみである旧正月も長すぎると弊害も多いようで、離婚届を役所に提出しても1カ月間は保留処置で受け付けないという一風変わった法律もタイミング良く出現しました。

 不幸中の幸いであったのは、旧正月に向けて多くの企業活動が抑えられていたので、ロックダウンの準備がすでにでき上がっていた点です。一部の観光地や繁華街を除きオフィスビルや工場、飲食店や商業施設も旧正月の間はクローズしています。欧米諸国のように日常から突然のロックダウンではなかったので、混乱も比較的少なく、人件費や仕掛け品、仕入れのロスなどは最小限に済んだケースが多かったのではないでしょうか。

中国に戻れない、日本に帰れない在留邦人

 このように旧正月休みからそのままロックダウンとなり、段階を経て徐々に日常を取り戻しつつある中国ではありますが、その陰でいまだに大きな影響を受けているのが私を含めた外国籍の人々、いわゆる“外国人”です。

 駐在員とその家族をはじめ、中国には自営業者、留学生など諸外国から渡航してきた数多くの“外国人”が日常生活を営んでいます。それがこの新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、台湾人、香港人も含め中国大陸外からの渡航及び入国が実質禁止になってしまいました。
 
 私が拠点としている北京でも旧正月休みでの一時帰国、また2月に外務省が通達した『中国在留邦人への帰国勧告』のタイミングで一時帰国した多くの日本人(邦人)が中国に戻れずにいます。

 2月の時点ではまだ中国湖北省の疫病という認識が強く、一時帰国している邦人の多くが長くても数週間で戻ってこられるだろうと考えていたはずです。冷蔵庫の中の食料品、夏物の衣料品、学用品など生活必需品の多くを中国の住居に残したままの状態であり、頭を抱えています。
 
 また学校も再開が進んでおり、北京日本人学校も6月1日から順次再開すると聞いています。しかし学校が始まるというのに北京に戻ることができないのです。
 
 今現在、中国に残っている邦人も日本に一時帰国や海外出張をしたら戻って来られません。私の周りにも本来であれば3月に帰任して、4月から後任者が赴任してくる予定だったのが、コロナの影響でいまだに帰任も赴任もできないという方が数名います。もうしばらくはこのような混乱が続きそうです。

北京にいて感じた新型コロナウイルスに対する中国と日本の違い

 私は2月からずっと北京にいるのですが、日本の状況もある程度はテレビやネットで知ることができます。日本と中国の違いを一番感じたのが政府への期待度です。日本では政府が国民に向けたメッセージを頻繁に出し、マスクの配布から始まり国民1人当たり10万円を支給するなど、なんとか国民の理解を得ようと必死になっている様子が伺えます。
 
 一方の中国では、国民へ対する一律的な支援は今のところ何一つありません。現金の支給もありませんし、マスクの配布もありません。個人商店や中小企業への補償もないに等しく、社会保険料負担の免除、国営企業が所有の物件に対する家賃の免除など、その程度の内容です。
 
 しかし政府に不満の声が上がることはなく、逆に中国は他国に比べてうまく対応できていると政府を評価する声が聞こえてきます。これは中国人が日頃の政府に対する期待値がそもそも高くないことと、自分の身は自分で守るものだと考えている国民性の違いかと理解しています。
 
 もうひとつ感じた日中の違いが、新型コロナウイルスに対する中国人の恐怖心が異常に高いことです。感染したくないのはいずれも同じですが、怖れ方が尋常ではないのです。頭にはヘルメットやゴーグル、マスクに手袋、人によってはカッパを防護服の代わりに着用して外出していました。
 
 2月、3月の感染拡大期のなかでも、私のマンションの近所では数件の飲食店が安全対策を施して営業しており、私も知人に誘われて数回飲食をしましたが、いずれも客の7割から9割は日本人をはじめとする外国人でした。
 
 もちろんそのような傾向が強いという話で、すべてがそうだとはいえませんが、感染した場合のリスクが日本よりもはるかに大きいからとも考えられます。医療水準などの問題ではなく、地域社会で細分化されたコミュニティ(小区)に属して暮らしていかなければならない中国人にとっては、「感染=コミュニティ(小区)にはいられない」という恐怖心が我々の想像以上に強いものがあるのかもしれません。

 日本の人からよく聞かれるのが「中国の感染者数は信用できるの? 」です。はっきりいって、私は中国政府の発表を信じています(とくに武漢以外)。武漢は初期の医療崩壊による混乱で、正確かどうかの議論以前の問題だと思います。

 なぜ私が中国政府の発表を信じるかというと、新たな感染者が発見されるたびに政府から感染者の住所、氏名(一文字だけ某にしてあります)、性別、年齢まで公表されるからです。さらに、感染者が乗っていた飛行機や高速鉄道の便名から座席番号まで公開して感染拡大を抑え込んでいます。

 ここまで情報が公開されていると、「近所で感染者が出たけど政府の発表には載っていない」ということがすぐにわかってしまいます。こうした噂はSNSですぐに拡散するので、数字をごまかすことは不可能な状況になっています。

 「Wechat」や「百度」のアプリでも、どこで感染者が出たかが地図で表示されます。北京では全市民が携帯の電波で行動を捕捉されていて、北京を離れるとアラームが表示され、解除申請を出さないといけません。まるでプライバシーもなにもないのですが……。

 6月に入り、北京も日常をとりもどしつつあります。私が経営する飲食店も5月の売上はようやく平常月の7割から8割ほどの水準まで戻ってきました。

 これから社会が大きく変わっていくことは間違いありません。海外旅行で爆買いをしてきた中国人の消費意欲は当面は中国国内に向かうでしょう。中国国内の飲食市場も高級業態は苦戦を強いられるでしょうが、“近場で消費”の傾向が強まるなか、思いのほか内需の回復は早いのではと考えています。
 
 私は引き続き北京に残り、消費動向の風を読みながらこの危機を乗り越え、ビジネスチャンスを探っていきたいと思います。

 以上、北京からのレポートでした。

  (文/写真:荒木尊史)

著者紹介:荒木尊史 2005年より、チャイニーズドリームを夢見て北京で製パン業を営む。邱公館(北京)食品有限公司。

ダイヤモンド・ザイ

関連ニュース

最終更新:6/10(水) 17:20

ダイヤモンド・ザイ

投資信託ランキング