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佐藤優「抑えきれない怒りに向き合う唯一の策」

5/30 5:45 配信

東洋経済オンライン

人間の喜怒哀楽の感情のうち、「喜」と「哀」と「楽」に関しては思う存分表現してよいと思います。下手に押さえつけるのではなく、表に出して発散する。しかし、「怒」だけは別です。怒りは、思う存分発散したら大変なことになります。怒りを抑えることができずに、職場にいづらくなったり、人間関係を損ねたり、いろんなものを失ってしまうリスクがあります。
アンガーマネジメント=怒りのコントロールがとくに最近、注目されています。どうやら世の中全体がカリカリしていて、怒りっぽくなっているようです。近年、あおり運転がこれだけ取り上げられるのも、ちょっとしたことでイライラしたり、カッとしてしまう人たちが増えていることの表れでしょう。また、ネット上での発言が大勢の非難を一気に浴びる「炎上」も、そんなイライラの表れだと考えられます。

不倫したり不祥事を起こしたりすると、メディアもネットも一斉に同じように徹底的に攻撃する空気があります。社会全体がシュリンクして、どんどん厳しく、窮屈になっていることが影響していると思います。世の中全体にフラストレーションがたまっているのです。
これからの時代、アンガーマネジメントは非常に重要なポイントです。では、具体的にどうやって怒りを抑えるべきでしょうか?  拙著『メンタルの強化書』をもとに解説していきます。

■怒りが増幅するのはどちら? 

 フロイトは、「怒りは抑圧されることで増す」と考え、「怒りのエネルギーを発散することで怒りが鎮まる」と考えました。しかしどうやらそれが誤りだとわかってきた。

 アメリカで行われた興味深い実験があります。学生たちに作文を書かせ、学生仲間がそれをひどくけなすのです。その後学生たちを2つのグループに分けました。1つはけなした学生の写真を見ながらサンドバックを相手と思って思い切り叩く。もう1つは2分間、別の部屋で静かに座っている。

 フロイトの理論が正しければ、サンドバックを叩いたほうはすっきりとして怒りが治まるはずです。ところが結果は逆でした。叩いたほうはますます興奮し、怒りが増加したのですが、静かに部屋に座っているグループは、叩くほうに比べ、はるかに気持ちが治まったのです。

 このことは、怒りだけではなく、人間は行動によって感情を作り出すという事実を示しています。つまり悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しくなる。面白いから笑うのではなく、笑うから面白くなる。

 一見信じがたい理論ですが、その後の心理学のさまざまな研究と実験によって、そのことが証明されているのです。つまり、怒りに任せた行動は、怒りを増幅させるのです。イライラしているときほど、静かに落ち着いた行動を取る。瞑想したり手を合わせて祈るというのが効果がある。ゆっくりとした音楽を聴いたり、美しい景色や絵画などを鑑賞するのもよいでしょう。

 立ち振る舞いもゆっくりと穏やかにする。できれば笑顔を作る。口角を上げるだけでも、感情の動きが変わることが実験で明らかにされています。怒りをコントロールすることが、心を整え、強くする1つの方法だと考えます。

■怒りの原因がわかれば怖くない

 怒りをコントロールするためには、相手がどういう状況で、どんな感情でこちらに向かっているかを知ることも大切です。これがわかれば、不安感や恐怖心はかなりの部分が軽減されます。

 私はかつて背任と偽計業務妨害で逮捕起訴され、512日間東京拘置所に勾留され、東京地検の取り調べを受けました。多くの人は突然の自分の環境の変化と、検事の威圧的な態度や脅しで精神的に混乱し、完全に検事の言いなりになるそうです。ありとあらゆる社会的なつながりを絶たれ、無力な存在に落とされるわけですから、むしろそれが当然でしょう。

 なぜ、私がそれでも自分の意思を貫くことができたか?  それは自分の置かれている状況を客観的に把握し、そこから相手が自分に何を求めているか。相手がどんな状況にあるかを冷静に分析できたことが大きいと考えています。

 私は国家の方向性が大きく変わった中で、その時代の転換を行うための国策として逮捕されたのだと理解しました。時代の転換の中で最も障害になるのが鈴木宗男さんであり、その鈴木さんを排除することが必要になります。鈴木さんの犯罪を立件すべく、私から都合のよい証言を引き出すことが、私を逮捕した最大の目的です。

 自分の置かれている状況を理解したうえで、次に私を担当する検事がどのような人物かを、少ない情報の中から浮かび上がらせるよう努めました。すると担当検事は人格円満で人望も厚いこと。ただし今回の捜査で私からしかるべき証言を得て、しかるべき調書を作成しなければならない立場であることが理解できました。

 1日のうちで彼が上司に成果を報告しなければならない時間帯がいつであり、1週間のうちで会議で成果を報告しなければならない日がいつかまでインプットしました。面と向かっている検事は鬼でも何でもない。彼もまた組織の中で自分の役割をこなさなければならず、追いつめられている立場なのです。

 それがわかると、ずいぶん心に余裕ができました。彼は私に黙秘され、調書を書けなくなるのがいちばん怖いことであり、避けたいことなのです。

 私は彼との間に1種のルールを作り上げることにしました。すなわち少しでも高圧的、暴力的に向かってきたら一切黙秘する。そうでなければ知っていることは知っている範囲で真実だけをしっかり供述する。自分の置かれている状況を分析し、相手が何を求め、何を避けようとしているかがわかれば、心乱すことなく対応ができます。

■上司も追いつめられている

 このことは、おそらく普通のビジネスの現場でも同じではないでしょうか。やたらとプレッシャーをかけてくる上司がいたとして、上司を恐れて避けているだけでは恐怖心が募るばかりです。

 なぜそのような行動に出るのか?  その上の部長や役員にきつく当たられているのかもしれません。もともとコンプレックスが強く、弱い自分を隠すために部下にきつく当たっているのかもしれません。

 理由と背景がわかれば、おそらくそれほど恐れることはなくなります。上からきつく言われているとしたらどんなことなのか?  それを一緒になって解決する方法がないのか上司に提案してみる。自分の味方になってくれると知ったら、上司の態度は急変するかもしれません。

 コンプレックスのある上司であれば、あえて上司の承認欲求や自己肯定感を高めるような言葉をかけてみる。「○○課長のいうことを実践したら、すごく成果が上がりましたよ」などと、上司を持ち上げてみるのです。おべっかを使うと考えるのではなく、相手の立場と状況に立って、俯瞰してものを見るということです。

 すると自分が上司に追いつめられているのではなく、相手も何者かから追いつめられていることがわかる。それを理解しているだけで、こちらの心に大きな余裕ができるはずです。

東洋経済オンライン

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最終更新:5/30(土) 5:45

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