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カップの穴も不要に…?コロナが変えた「ゴルフプレーの新常識」

5/30 12:00 配信

マネー現代

客単価大幅減の中で

(文 コヤマ カズヒロ) 5月25日に最後まで5都道県で継続されていた緊急事態宣言が解除された。新型コロナウイルスの影響は、ゴルフ場も例外ではなく、この間の経済的な被害は小さくない。

 春はゴルフにとってオンシーズンであり、社用コンペなどの需要が高まる時期だが、それらが大幅に減少し、来場者数、売上ともに大きく減少したゴルフ場がほとんどだ。首都圏のアクセスの良いコースには、連日多くのゴルファーが来場していたが、これは直前割引といって、空いているプレー枠を埋めるために、1週間前あたりからプレーフィーを安価にするサービスの影響が大きい。

 全国141コースを運営するゴルフ場最大手、PGMではグループ全体で4月の客単価が約18%下落したという。比較的条件の良いはずの関東近郊であっても3割以上客単価が下がったコースもある。来場者減の影響に加えて、コンペのパーティーはおろか、通常のレストラン営業も自粛しているところが多いので、客単価減のダメージが大きいのだ。

 ゴルフは「3密」になりにくいレジャーだ。広い敷地のなかで、ボールを追いかける特性上、換気の悪さや長時間の密集は回避できる。緊急事態宣言発令後も、ゴルフ場、ゴルフ練習場とも休業要請が出ることはなく、多くのゴルフ場は継続して営業を続けてきた(敷地面積の狭いインドアのゴルフ練習場を除く)。

 しかし、“金持ちのスポーツ”という悪いイメージもあってか、ゴルフはいわゆる「自粛警察」から標的にされがちなのだという。ゴルフ場が「なぜ営業しているのか?」と電話やネットでクレームを受けたり、コース周辺のコンビニで県外ナンバーの車にイタズラされる事例もあった。「不要不急の外出」と思われるところもあり、「子供が我慢しているのに、示しがつかない」といった家族からの反対もあって、プレー自体をやめる人も少なくない。

クラスター感染を防ぎきった

 新コロナウィルスの流行が大きな問題になった時期には、ゴルフ場従業員の不安も小さくなかったという。特に感染者が多かった東京から、近隣県のゴルフ場にいく人が多かったことが恐怖心を煽ったようで、折からのマスク不足もそれに拍車をかけた。

 結果的には公になっているかぎり、ゴルフ場従業員の感染はこの数ヵ月で数人。これらのケースでも、感染がゴルフ場で起きたかは定かでなく、ゴルフ場以外の日常生活で感染した可能性がある。

 前述のPGMでは、多いときで1日数百人が来場するにもかかわらず、この間、ゴルフ場従業員の感染例はゼロだった。来場者によるクラスター感染も起きておらず、ゴルフが「コロナに強いレジャー」であることを裏付けるかたちになったと言えそうだ。

 これは、各ゴルフ場の対策が徹底されていたことも大きな要因だろう。「3密」になりそうな風呂やレストランは閉鎖するか、限定的な営業としているところがほとんどだ。ビニールカーテンや非接触検温システムを導入するコースも多くあった。玄関先のアルコール消毒はもちろん、練習場のカゴや乗用カートをはじめ、施設の至るところが消毒された。

 あくまでも「推奨」というかたちだが、来場者へのお願いも少なくない。間隔はソーシャルディスタンスを守り、2m以上空ける。乗用カートでも出来るだけ密接を避ける。ピンフラッグは抜かず、触らず。そして、バンカーレーキは使わない。実際にレーキを撤去しているコースもあり、その場合、バンカーは足で均す。マスク着用を義務付ける練習場もあるようだ。

ルールの総本山からガイドラインが発表

 関連団体からもJGA(日本ゴルフ協会)から、新型コロナウィルスの予防対策として「ゴルフ規則」修正の指針が出たり、日本ゴルフ場経営者協会と日本パブリックゴルフ協会が連盟で、ゴルフ場業界としての「感染拡大防止ガイドライン」を発表したりと、業界内でコンセンサスが出来つつある。

 主なものを紹介すると、従業員向けには体温管理や手洗いマスク着用の励行、換気の実施など。コース内では、スタート間隔を拡大すること、クラブハウスでの人との接触を避け、受付では身体的距離の確保に必要な距離を明示すること、スコアカードホルダーや乗用カートの使用後の消毒、レンタルクラブの中止などがある。このあたりは政府が提言する「新生活様式」にも合致するだろう。

 それに先立って、ゴルフルールを司るR&Aでもコロナ禍でどのようにプレーするのが好ましいのか、ガイドラインを発表している。その内容は日本よりも過激で徹底したものが多いが、すでに6万人以上の死者が出ているイギリスだけに、その危機感の強さが伺えるものだ。

 例えば、クラブハウスとロッカーは閉鎖。ティータイムは10分間隔にする。コース内に遺棄されているボールに触れない。バンカーレーキは全て撤去し、ベンチやゴミ箱などは撤去するかカバーをかける。競技では、スコアをマーカーではなく自分がつけるか、スコアカード自体使わなくても良いのだという。

 面白いのは、カップ周りだ。球を拾い上げる行為を最小限にするために、カップから12インチ(約30cm)に入ったら、全てOKとする。カップは最後までボールが落ちないように、ホールライナーと呼ばれるプラスティックや発泡スチロールで出来た筒をセットする。これをグリーン面よりも上に上げて、それに当たったら全てカップインとみなすというローカルルールの採用も提案されていた。

 つまり、穴にボールを入れるという、ゴルフの一番基本的なルールでさえも、コロナ禍にあっては感染のリスクを負ってまで行わなくても良いということなのだ。

スループレーの大きなメリット

 これらのガイドラインを踏まえ、ゴルファーのプレースタイルに、これまでにない変化が起きている。その最も顕著なものが、スループレーの増加だ。レストランやお風呂の閉鎖など、クラブハウスの利用が制限される中、18ホールをスルーで回るプレースタイルを多くのゴルフ場が導入するようになった。

 PGMでは5月以降、グループ全てのコースでスループレーに対応し、80コースをスループレー専用に舵を切った。スループレーは、午前スルーと午後スルーがあり、前者は朝早い時間にスタートすれば、昼過ぎには終わることが出来る。後者なら、午前中は朝寝するのもいいし、みっちり練習してからスタートしても良い。食事がない分、時間を有効に使えるのだ。

 また、スポーツという観点から考えたとき、ハーフターンで飲酒やボリュームある食事をしたりするのは、無論好ましくない。集中力が弛緩するし、身体も回りにくくなる。午後のスタートから大叩きしたという経験をもつゴルファーは多いのではないだろうか。スループレーに慣れると、明らかにプレーのリズムは良くなるはずだ。

 またロッカーの使用を制限しているため、来場時のジャケット着用が任意になったゴルフ場も多い。ジャケットを来て来場、ロッカーで着替えてからプレーし、プレー後はお風呂に入って、再びジャケットを着て帰るという、旧来のスタイルではなく、最初からゴルフウェアで来場するのが好ましい。

 これらは接待などの社用ニーズを中心に発展してきた日本のゴルフが、大きく変わる契機になるかもしれない。そもそもコンペがコロナ対策と非常に相性が悪いのだ。スタートは大勢で集まって始球式を行い、終わってからは長時間のパーティーと「3密」が生まれやすい。

 朝は早いが、終わるのは遅いので、帰りに渋滞に巻き込まれたりすると、本当にクタクタになる。1日たっぷり使って、費用もそれなりにかかる。それが嫌でゴルフを敬遠する層も少なくない。

業界の構造が変わろうとしている

 先日、休場期間を経て再オープンした神奈川県の茅ヶ崎ゴルフクラブでは、これまでの電動を廃して手引きカートを導入し、バッグの積み下ろしまで全て自分で行うスタイルに変わった。

 過剰サービスに慣れたこれまでのスタイルとは異なり、自分のことはなるべく自分でする、本当の意味でのセルフプレーが生まれつつある。サービスは簡素になるが、煩わしいことも少なくなり、費用面の負担も減るので、若年層にとってはプレーしやすくなるのではないだろうか。コロナに強いレジャーとして、運動や気分転換のニーズにも対応できる。

 旧来スタイルからの移行が進むと、客単価減などによる市場規模の縮小は避けられない。しかし、これまでの主要顧客だった団塊世代が、まもなく本格的にゴルフからリタイヤすることを考えると、若い層にマッチする好ましい変化が期待できるのではないだろうか。誤解を恐れずにいえば、今まで変わらなかった旧来の構造が、コロナ禍によって背中を押されて、はじめて変わろうとしているのである。

 これからコロナ騒ぎは収束していくだろうが、スループレーなどの快適なスタイルを知ってしまったゴルファーが、後戻りをするのは難しいだろう。

 全てのゴルフ場が、こうした手軽なスタイルに変わることは現実的には難しいかもしれない。各コースは想定するユーザー層を見極め、実情にフィットしたブランディングが必要になる。一方、サービスが細分化されていくことは、ゴルファーにとって選択肢が増えるメリットにつながるだろう。

マネー現代

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最終更新:5/30(土) 18:20

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