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「資本論」が「生き延びるための武器」になる事実

5/27 8:10 配信

東洋経済オンライン

世の中に『資本論』入門書は数多くあるが、その入門書を学生や社会人が読んで『資本論』そのものをはたして読みたくなるだろうか。
こうした問題意識をもとに書かれた『武器としての「資本論」』から一部を抜粋。「こんな世の中をどうやって生き延びていったらいいのか」、その考え方を著者の白井聡氏が論じる。

■「入門書」ではなく『資本論』を読みたくなる本

 マルクスについては、自分なりにいささかの勉強をしてきたつもりです。しかしマルクスに関するまとまった論文なり本なりを書いたことはまだありません。そこでこのあたりで1つ、私なりの『資本論』の読み方、「自分がマルクスから何を学んできたか」についてまとめてみたいという気持ちがあって、『武器としての「資本論」』にまとめることになりました。

 世の中に『資本論』入門という体裁をとった本、あるいはマルクス入門という体裁の本は、大変な数に上るでしょう。アマゾンの検索で、「資本論入門」「マルクス入門」といった語を入れて調べたら、おそらくうんざりするぐらいの、とてもではないが読み切れない数の本が挙げられてくるだろうと思います。

 にもかかわらず、なぜやるのか。

 私は以前から大学で「マルクス入門」的な講座を持ったり、あるいは学生に「資本主義社会とはどういうものなのか」を説明するために、マルクスの見方を紹介するといったことをやってきました。その際の不満として、適当な教科書がないということがあります。

 「『資本論』はこういうふうに書かれていて、こういう議論がされています」と懇切丁寧に、順番どおりに説明をしていく誠実な入門書ということであれば、もちろんいろいろあります。日本のマルクス研究は膨大な蓄積がありますから、それらは学術的水準が高いものが多いです。海外の優れた解説書の翻訳も多数あります。

 ただ「これを読んで、『資本論』を読む気がするかな?」という疑問があるのです。学生や社会人がそういった入門書を読んで、「ふうん。よし、では1つ頑張って『資本論』を読んでやろう」という気持ちになるかというと、残念ながらそういう方向へ誘導してくれそうな本があまり見当たらないように感じられるのです。

 そこに私がやるべきことがあるのではないか、と思い至ったのです。『武器としての「資本論」』で私が「ここが『資本論』のキモです」という話をして、それをきっかけに読者の皆さんにぜひ『資本論』を読んでいただきたい。もうすでに読んだよという方は、ぜひ再読していただきたいと思っています。そのためにはどういった方法があるか、いろいろ考えてみたのがこの本なのです。

■現実の見え方がガラッと変わる

 今や大学においても、「講義でマルクスをやります」と言うには、何かしら言い訳が必要な世の中になっています。

 1つは時代の問題があります。マルクスが生きたのは19世紀です。生まれたのが1818年で、少し前にマルクス生誕200周年があったわけです。

 そうなると、「今の世の中は19世紀当時と大きく変わっているではないか。いくらマルクスが天才的に頭がよかったといっても、200年も前の人が見聞きして書いたことと現在の状況には、だいぶギャップができているだろう」と思われるわけです。

 それはそのとおりなのです。当時と比べて世の中が変わっていることはたくさんあります。にもかかわらず、なぜマルクスがいまだに重要だと言われているのかといえば、それはマルクスの創造した概念の射程が非常に広いからです。何かしらの本質をつかんでいるからこそ、今日なお読まれるだけの価値があるのです。

 『武器としての「資本論」』では、マルクスにおいて特徴的ないくつかの概念を深掘りしました。マルクスが19世紀のイギリスという現実を見てそこから得た概念、それは現在にも十分通用するものです。

 なぜか。マルクスの概念には大きな拡張性があるからです。本質をつかんでいるからこそ、拡張性がある。マルクスが現代に至るまでの資本主義社会の変化のすべてを想定・予言していた、などと考える必要はありません。

 けれども、彼はキモとなる部分をつかんでいた。だからマルクスの目を通して見る、言い換えればマルクスが創造した概念を通じて見ると、今起こっている現象の本質が『資本論』の中に鮮やかに描かれていることがわかるし、逆に『資本論』から現在を見ると、現実の見え方がガラッと変わってきます。

 それをするのは単に、「そうしてみると頭の体操になって楽しいから」ではありません。何のためにそんなことをするのかといえば、「生き延びるために」です。

 すでにだいぶ前から、日本に限らず世界の労働者の置かれた状況は厳しさを増す一方となっています。格差の拡大も指摘されてきましたし、心の病も多発しています。

 私自身、「ロスジェネ」「氷河期世代」と言われる世代です。先日、私の中学・高校の同級生で、多くの同窓生と交流のある男と話したのですが、「あいつ、どうした?」と同窓生の様子を聞くと、驚くほどうつ病になっている者が多いのです。「あいつも一時大変な状態だったけど、最近はどうやらこうやら、立ち直ってきたらしい」と、そんな話が実に多いのです。

 「このまま行けば日本人は滅びるのではないか」というレベルまで、働く人の心の健康状態がおかしくなってきている。あるいは今の急速な少子化現象も、その病状の1つに数えられるのかもしれません。

 ここまで世の中がおかしくなってしまっているのに、いったいどうやったら立て直せるのか、見えない状態になっています。

■「資本主義リアリズム」を乗り越えて

 アメリカの文芸評論家で、『資本論』の優れた読み手でもあるフレドリック・ジェイムソンに、「資本主義の終わりを想像するよりも、世界の終わりを想像することのほうが容易だ」という有名な言葉があります。 

 環境破壊、経済危機、あるいは戦争など、原因はいろいろ考えられますが、「100年後に人類は存続しているのか」と考えると、相当不安が強い。ひょっとするともうダメかもしれない。少なくとも「間違いなく存続している」とは到底言えない状況です。

 「では、その原因は」と考えると、間違いなく資本主義なのです。なぜなら、現在の世界を覆っている社会システムは資本制であって、この資本制をどうにかしなければ現代社会の矛盾は乗り越えられない。

 イギリスの批評家、マーク・フィッシャーは「資本主義が唯一の存続可能な政治・経済制度であり、それに対する代替物を想像することすら不可能だという意識が蔓延した状態」を「資本主義リアリズム」と呼びました。

 どうやって資本制を乗り越えるのか。資本主義の終わりとはいったいどういうものなのか。私たちには想像すらできないというのです。そして想像できないうちに、人類のほうが終わりを迎えそうになっています。

 ですから、「こんな世の中をどうやって生き延びていったらいいのか」という知恵を『資本論』の中に探ってゆく。マルクスをきちんと読めば、そのヒントが得られるのだということを改めて世の中に訴えていきたい。そう思っています。

東洋経済オンライン

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最終更新:5/27(水) 8:10

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