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「夏の甲子園中止」を嘆く大人たちに欠けた視点

5/24 8:10 配信

東洋経済オンライン

 日本高野連は5月20日、今夏の第102回全国高等学校野球選手権大会の中止を決定した。また、実質的な予選である各県の地方大会も中止した。

 八田英二日本高野連会長は、「緊急事態宣言が延長され、感染者数の少ない県でも休校や部活動停止の期間が長くなっており、地方大会、全国大会ともに影響が深刻になることが明らかになってきた。39県で緊急事態宣言は解除されたが、学校や部活動の再開の見通しに変わりはなく、このタイミングでの決断になった」と語った。

■夏の甲子園中止だけ判断が伸びたのはなぜ

 すでに全国高等学校体育連盟は、主催するインターハイ(全国高等学校総合体育大会)の中止を4月28日に決定している。なぜ男子硬式野球だけが3週間も決断が伸びたのか。

 4月7日に発出された国の「緊急事態宣言」は、当初、5月6日までだった。状況が好転して宣言が解除されれば、夏の甲子園が開催できる可能性があった。そんな思いもあって、関係者は決定を延期したのかもしれない。

 しかし、その後の事態の進展を考えれば、4月末時点で夏の甲子園が開催可能になる可能性はほとんどなかったはずだ。

 まだ学校の授業も再開しておらず、授業もできていない中で、部活だけを先行して再開するのは、社会の理解を得られない。しかも、全国一律で「コロナ明け」になることはない。東京や北海道など、感染が収まっていない地域では、学校の再開もままならないからだ。

 地方大会は、47都道府県すべてで行われなければならないことを考えれば、夏の甲子園は、かなり早くから不可能だったことは明らかだ。

 日本高野連は、各都道府県単位で代替的な試合を考えるように指示を出した。夏季は新型コロナ禍が一時的に収まることも考えられるので、他の競技でもそういう動きは起こるだろう。できることなら、代替イベントをすればよい。

 多くの高校球児は、中止が決まればいつまでも拘泥することなく「その先」を向いて歩き始めるだろう。

 甲子園に出場できるのは、全国4000校弱の高校野球部のうち、49校、1%強だ。14万人あまりの野球部員のうち、甲子園の土を踏むことができるのは最大で882人。0.6%ほどだ。

 多くの高校球児にとって、甲子園は無縁のものであり、地方大会が「引退」の花道だった。もちろん、それでも中止になれば残念だろうが、気分を切り替えて大学受験や就職を考えるだろう。

 世間では「何とかやらせてやりたかった」と言う声が高まっている。署名活動も行われており、中には秋季に甲子園をやってはどうかという声さえある。

 しかし一度中止が決まれば、多くの子どもたちは次のフェーズに進もうとする。遅ればせながら甲子園で野球ができても、その時には子どもたちの視線は既に「未来」を向いている。誤解を恐れずにいえば「甲子園でやらせてやりたい」は、高校野球を神聖視する「大人の感傷」にすぎないのだ。

■秋以降のほうが問題は深刻ではないか

 それよりも心配なのは「秋以降」のことだ。

 日本高野連の八田会長も「秋には都道府県で大会が予定されている。感染状況がつかめないので、その時に考えたい。それまでは情報収集に尽きると思う」

 と言及しているが、多くの感染症の専門家は、今秋に新型コロナウイルスの第二波がくると予想している。管見の限りでは「秋には感染は収束し、普通の生活ができる」と言っている専門家は一人もいない。

 そうなれば、秋季大会も厳しくなってくる。

 秋季大会は、全国の都道府県で9月中旬から11月の土曜、日曜に開催されている。この大会の上位校が全国9地区の地区大会に進出するが、秋季大会で優秀な成績を残した高校から翌春のセンバツ高校野球の出場校が選出される。実質的な「春の甲子園」の予選なのだ。

 つまり、秋季大会が開催できなければ、翌2021年のセンバツ高校野球の開催も不可能になるのだ。

 これを考えれば「甲子園に出られなかった球児のための代替試合」を夏季に組むのではなく、本来の秋季大会に相当する試合を、今から計画すべきではないだろうか。

 八田会長は「その時に考えたい」と言ったが、今年の春夏の甲子園のように、ぎりぎりまで事態を見極めていたら、今の2年生の高校球児も、来春の甲子園に挑戦する機会を失ってしまう。

 プロ野球は6月下旬以降に公式戦を「無観客試合」で始めようとしているが、仮にそれが可能な状況になるのなら、選抜の予選に相当する都道府県単位の大会を、それぞれの地方の実情に合わせて開催することが考えられる。無観客で十分な防疫体制を組むのが大前提だ。

 本来、秋季大会は3年生が引退し、2年生以下の新チームで行うが、特例的に3年生の出場も認めれば、代替試合の役割も果たすことができる。

 さらに、新型コロナウイルスの終息は、2022年になるとの観測も出ている。日本高野連は、それを見越した中長期的な計画を立てることが必要ではないだろうか。

 少なくとも来年夏の甲子園を開催したいのであれば、地方大会を比較的安全な時期に実施。最悪のシナリオで計画を立てて、事態が好転すれば、その都度、計画を組みなおせばよい。

 さらに新型コロナ禍の後には、かつてないような経済不況が到来すると考えられている。

 野球は今では「金がかかるスポーツ」になっている。用具や設備費、遠征費など大きな負担が親にのしかかる。親の経済環境が不安定になれば、野球を断念する子どもも増えてくる。

 今でも「野球離れ」は深刻だが、経済不況になり世の中が「野球どころではない」事態になれば、野球競技人口は、激減する。今の「夏の甲子園」は、47都道府県から代表校を出しているが、参加校数の減少で、単独では地方大会が開催できない県も出てきても不思議ではない。

 そういう事態を見越して「金がかからない野球」の可能性をいまのうちから探る必要がある。用具、ユニフォームなどの厳しい規制を緩和したり、学校のグラウンドでの公式戦の開催を認可したり、存立が厳しい地方の公立校に助成を行う、野球部へのスポンサードを認可するなど、高校野球を維持するスキームを、日本高野連が主導して策定すべきだろう。

 この際、行き過ぎた勝利至上主義や、球児の健康を軽視した練習、試合での酷使など、制度疲労を起こした高校野球の体質改善に取り組むべきだろう。こうした「昭和の体質」が野球離れにつながっているからだ。

■これを機に高校野球も生まれ変わるべきだ

 これらの課題は、高校野球だけのものではない。プロ、社会人、大学、独立リーグ、女子野球、ソフトボールなど各団体も交えて考えていく必要がある。

 すでに日本サッカー協会は(JFA)は財政難に陥ったクラブチームやスクールを対象に、JFAの自己財源から直接融資を行う「新型コロナウイルス対策 JFAサッカーファミリー支援事業」を立ち上げた。こうしたケアを野球界も全体で考える必要がある。

 多くの識者は、新型コロナ禍が終息した社会は「元の社会とは同じではない」と言っている。高校野球、日本野球も「前と同じ状況が戻ってくる」ことはないはずだ。

 であれば「新しい社会」に適合した、「新しい野球」を構築しなければならない。そのための「パラダイムシフト」を、高校野球自らが起こすべき時が来ている。

東洋経済オンライン

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最終更新:5/24(日) 8:10

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