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NHKのリモートドラマにポカンとした人の目線

5/24 5:35 配信

東洋経済オンライン

 NHKがゴールデンウィークの3夜に続いて、リモートドラマの放送を発表したことに、賛否の声が飛んでいます。

 発表されたのは、5月30日、6月6日に放送されるリモートドラマ「Living」。1話15分の計4本で、「Mother」(日本テレビ系)、「最高の離婚」(フジテレビ系)、「カルテット」(TBS系)などを手がけた坂元裕二さんが脚本を書き下ろすほか、広瀬アリスさん・広瀬すずさん姉妹、永山瑛太さん・永山絢斗さん兄弟、中尾明慶さん・仲里依紗さん夫妻、青木崇高さん・優香さん夫妻、さらに阿部サダヲさんと壇蜜さんも含めた豪華キャストがそろっています。

 また、NHK大阪放送局も関西地区限定で、「ホーム・ノット・アローン」を放送。5月18~22日まで1話2分×全5話で放送され(23日に一挙放送もあり)、前期の朝ドラ「スカーレット」で共演した桜庭ななみさんと松下洸平さんが出演しました。

 ゴールデンウィークの5月4日、5日、8日に放送された第1弾の「今だから、新作ドラマ作ってみました」も、向田邦子賞の受賞者である森下佳子さんや矢島弘一さんらが脚本を手がけ、柴咲コウさん、ムロツヨシさん、高橋一生さん、小日向文世さんら豪華キャストが出演していました。

 ところが、コロナ禍における意欲的な取り組みに「称賛一色」と思いきや、視聴者や業界内からは意外なほど否定的な声が上がっているのです。NHKのリモートドラマには、どんな問題点が潜んでいるのか?  各局のテレビマンから集めた声と、ネット上にアップされている視聴者の声をもとに掘り下げていきます。

■このクオリティで「最高のエンタメ」なのか

 NHKが手がけるリモートドラマのコンセプトは、「打ち合わせからリハーサル、本番収録まで、スタッフとキャストが会わずに作る」。人と人の接触を避けて感染を防ぐことを第一に考えている分、どうしても演出の幅が狭くなり、技術レベルが下がってしまう感は否めません。

 最初に目立っていたのは、このような質への不満。5月4日、5日、8日の放送後ネット上には、「小日向さんと竹下(景子)さんの演技がよかった」「猫の高橋一生に笑った」などと俳優の演技を称える声こそあったものの、「ほとんど何も起きずに終わった」などの物語に関する不満、「同じカメラワークが続いてつまらなかった」などの映像に関する不満、「声がこもっていて聞き取れなかった」という音声に関する不満が散見されたのです。

 各局のテレビマンたちに感想を聞いても、「『新しいことをやろう』という姿勢はいいと思いますが、映像の質が落ちてしまうのなら、もっと面白い物語にしたほうがいい」「俳優にこれほどの負担を強いてこのクオリティなら、やらないほうがいい」などの厳しい言葉が返ってきました。NHKはリモートドラマの制作理由に「コロナ禍の今だからこそ、最高のエンターテインメントをお届けしたい」と掲げていますが、現状では照明、美術、ヘアメイクなども含めて、質の面で疑問符をつけられているのです。

 さらにNHKは「“今だから”こそ作れる新たなドラマを!」「こんな状況だからこそ生まれた物語」というフレーズも掲げていますが、これに視聴者やテレビマンたちから「今さら遅い」というツッコミの声が上がっていました。

■NHKのリモートドラマは最後発

 第1弾は5月4日、5日、8日に放送されましたが、ネット上には4月からさまざまなリモートドラマ(演劇、映画)が公開されていました。

 以下に主なものを挙げていくと、すべての活動をオンライン上で行う「劇団テレワーク」が4月5日に「ZOOM婚活パーティー」をYouTubeに公開。放送作家の鈴木おさむさんが4月13日に「せーの」をYouTubeに公開。劇作家の根本宗子さんが4月17日に「あの子と旅行行きたくない。」をFilmuyで配信。一度も会わずに活動する「劇団ノーミーツ」が4月19日から月内だけで十数本のリモートドラマをYouTubeに公開。

 映画監督の行定勲さんは4月24日に「きょうのできごと a day in the home」をYouTubeで公開し、有村架純さん、柄本佑さん、高良健吾さん、永山絢斗さんら豪華キャストが出演して話題を集めました。2年前に大ブームを起こした映画「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督も、5月1日に「カメラを止めるな! リモート大作戦!」をYouTubeで公開。いずれもNHKのリモートドラマより、公開までのスピードが早く、本数も多く、長さでも上回るものが多かったのです。

 なかでもスピード感の違いを象徴していたのが、鈴木おさむさんのアクション。鈴木さんは4月7日の緊急事態宣言を見てリモートドラマを着想し、その日に脚本を書いて俳優に打診して、わずか5日間で完成させたそうです。この事実が示すのは、「テレビはスピードや量でネットに勝つのは難しい」「やはりドラマは質の高さで勝負したほうがいい」ということ。知人のある民放テレビマンは、「NHKのリモートドラマは質もスピード感も中途半端で、実力者をそろえたのにもったいない」と語っていました。

 また、民放のテレビマンたちに、「人気俳優や脚本家を起用したにもかかわらず、質の部分を疑問視されてしまったことをどう思うか」と尋ねると、そろって口にしていたのが「NHKさんだから、それでもいいのでしょう」という声。彼らはそれ以上語りませんでしたが、「民放よりも金、人、時間に余裕がある」「スポンサーや視聴率を考慮しなくていい」という恵まれた環境にグチをこぼしたい心境が推察されます。

 ドラマに限らず、あらゆるビジネスシーンにおいて、「商品の質を高められない」ことは、「マネタイズの難しさ」に直結。実際、前述した大半のリモートドラマは無料公開されたものだけに、よほど再生回数が増えない限り、スタッフやキャストに妥当な対価が支払われることはないでしょう。それでも「エンターテインメントの火を消さない」という純粋な思いで制作された作品が多いだけに、国民の受信料で制作しているNHKのリモートドラマとは、まったく意味合いが異なるのです。

 質の面でNHKの不安を感じさせるのは、リモートドラマの放送時間。第1弾・第2弾ともに23時台の深夜帯であり、30分・15分の短い作品でした。もしNHKが質の意味で自信を持ってリモートドラマを放送できるのなら、多くの人が視聴する19~23時のプライムタイムで放送するでしょうし、ほかのドラマ枠と同様に45分のドラマを制作したのではないでしょうか。スポンサーや視聴率の縛りがないNHKですら、それらを避けているところに、テレビ局が制作・放送するリモートドラマの限界が見えます。

 深夜帯の短い作品である以上、見てもらうチャンスが少ないのは仕方ないのですが、世帯視聴率は5月4日が1.6%、5日が2.2%、8日が2.5%と断トツの最下位でした(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。あまり見られていないのに第2弾を放送するのですから民放のテレビマンたちが、「NHKさんだから、それでもいいのでしょう」とグチをこぼしたくなる気持ちも理解できるのではないでしょうか。

■テレビでリモート画面は見たくない

 NHKのリモートドラマがここまで思ったような支持を得られていない、もう1つの理由は「視聴者感情をつかみ切れていない」から。

 NHKにしてみれば、朝ドラや大河ドラマの撮影すらできない中、「こんなに努力して新しいものを提供している」という思いがあることは想像にかたくありません。しかし結果として、スピード感が遅く、質の低い作品を見て、「痛々しい」「つらい気持ちになる」という声を上げる視聴者が少なくなかったのは事実なのです。

 また、これはNHKのリモートドラマに限らず、民放各局のバラエティなども同様ですが、このところ日ごろ仕事でリモート会議をしている人々から「テレビでもそういう画面を見たくない」「仕事モードに引き戻される感じがして嫌」という声が目立つようになりました。「時事や流行の話題が多いバラエティがリモートを使うのは、ある程度仕方がない」としても、その「ほとんどがフィクションであるドラマにわざわざリモートを持ち込む必要性があるのか?」と疑問視しているのです。

 しかし、柴咲コウさん、ムロツヨシさん、高橋一生さんは、コロナ禍で外出自粛している本人の役で出演しましたし、松下洸平さんは休業中の居酒屋経営者、桜庭ななみさんは在宅勤務中のOLを演じました。「外出自宅や仕事ができないことに悩まされる人々と痛みを分かち合いたい」という制作サイドの意図は理解できますが、現在の視聴者がテレビに求めるものは、そこではないでしょう。

 ネット上の声を毎日見ていると多くの人々が、「リモートではなく自由に外出できて、ソーシャル・ディスタンスなどを気にしなくてもいい生活に戻りたい」と思っている様子が伝わってきます。ただでさえテレビは朝から深夜まで報道・情報番組で新型コロナウイルス関連の重苦しいニュースを扱い続けているのに、何にも考えずに楽しみたいドラマまで、それを感じたくないのでしょう。だからこそ、「リモートドラマしか撮影できない」という苦しい現状ではなく、「再放送でもいいから元気が出るようなドラマが見たい」という声が多くを占めているのです。

■「今、NHKが注力すべきは報道」の声

 ドラマだけでなくフリーで映画も手がける知人の演出家が、「NHKが今、頑張るべきところはリモートドラマではないと思う」と言っていました。「こういう時期だから、より一層、報道番組に力を入れてほしい」ということなのでしょう。

 実際、連日「NHKニュース7」は20%弱、「ニュースウォッチ9」は10%強もの世帯視聴率を記録していることからも、「視聴者がNHKに何を期待しているか」は一目瞭然。「視聴者を喜ばせるためにリモートドラマを作ろう」という姿勢は一見、献身的な印象を受けますが、肝心の視聴者は「ドラマは民放やネットに任せて、その意識の高さをもっと報道に生かしてほしい」と思っているのではないでしょうか。

 最後に話をリモートドラマに戻すと、制作サイドが幅広い表現ができないことに加えて、視聴者サイドに「プライベートで見るドラマの中まで制限された日常を見せられたくない」「ネットならこれくらいでいいけど、テレビでは質の高いものを見たい」という気持ちがある以上、各局で量産されることはないでしょう。

 また、苦しんだ人や亡くなった人が多いため、平時に戻ったあとも東日本大震災のときと同じように、ドラマでは新型コロナウイルスを彷彿させる表現に最大限の注意が払われるはずです。

 5月30日、6月6日に放送される第2弾が、坂元裕二さんの脚本と豪華キャストの熱演でどんなに素晴らしいものになったとしても、「深夜帯の短時間放送で見る人が少ない」こと。「むしろリモートではない彼らの作品をゴールデンタイムで見たい」と感じること。「けっきょくリモートドラマのニーズが高まるとは考えにくい」こと。どこをどう見ても、「NHKがリモートドラマにこだわる理由がわからない」ことが、放送前から否定的な声が飛ぶ、むなしいムードにつながっているのでしょう。

東洋経済オンライン

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最終更新:5/24(日) 5:35

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