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コロナショックはグローバル化に「とどめ」刺す

5/24 5:10 配信

東洋経済オンライン

筆者は先週の東洋経済オンラインのコラム『アフターコロナで待つのはインフレかデフレか』で、アフターコロナの世界においては「効率よりも安全」の価値観が国家の法規制や企業経営にまで影響を与える結果、脱グローバルや国内回帰が1つの潮流になるリスクを指摘した。

また、その前の『アフターコロナで注目したい世界の「日本化」』で確認したように、筆者はアフターコロナの世界では「民間部門の貯蓄過剰」が幅を利かせるため、どちらかといえばデフレ圧力のほうが大きくなる展開をメインシナリオとしている。

 しかし、リーマンショック後、金融機関に課された過剰な規制を思えば、危機前からは想像もつかないほど企業部門が行動変容を求められる可能性はある。今回はマスクのような医療物資を中国生産に依存していた結果、社会的混乱が起きた。そのような経験を踏まえ、多少、コストアップに目をつぶっても「国内でさまざまな財を賄えたほうが国家のリスクマネジメント上適切」という判断が広がるかもしれない。

 仮にアフターコロナの世界でインフレシナリオが現実になるとすれば、こうしてグローバリゼーションの巻き戻しが世界経済の非効率化を進め、「コスト高の世界」が到来するというコースではないかと筆者は考えている。

■反グローバルの動きは10年前から

 コロナショックの衝撃によって記憶が薄れがちだが、より以前からグローバリゼーションの巻き戻しの兆候はあった。おそらく多くの人々がそれを意識し始めたのは、英国が国民投票でEU(欧州連合)離脱を決め、アメリカでトランプ大統領が当選するという政治的大事件の続いた2016年だろう。特にトランプ大統領は、就任前から先鋭化した保護主義の姿勢を露わにして、就任後は主要貿易相手国に対して矢継ぎ早に関税・非関税障壁を展開するなど、反グローバルの象徴のような存在といって差し支えない。

 しかし、関連データに目をやれば、グローバリゼーションの巻き戻しは2016年以前から進んでいた。それがトランプ政権の政策運営で激化し、コロナショックによって「とどめ」を刺されようとしているという見方が適切なのかもしれない。

 ひとくちにグローバリゼーションといっても定義や説明は難しい。「国境を超えた消費・投資を活発化することで高い経済成長を実現しようとする動き」とでもいうべきだろうか。「国境を超える」がポイントであるため、モノやカネの移動だけではなくヒトの移動が自由になることもグローバリゼーションの一部になる。

 本来、グローバリゼーションの圧力から域内加盟国を「保護」する役割を持っていたEUがいつの間にかグローバリゼーションの象徴のように扱われ、忌み嫌われるようになったのは「ボーダーレスにヒト・モノ・カネ・サービスが行き来する」というコンセプトが、世界レベルでのグローバリゼーションをよく思わない人々から反感を買ったという背景もある。

■世界貿易の伸びと世界GDPの伸びを比較してみる

 以上のように考えた場合、グローバリゼーションの程度を推し量る最もシンプルな方法は貿易取引の動向を追うことだろう。関税・非関税障壁が下がり、技術進歩に応じたコスト低下で大量輸送も可能になった。だからこそ企業は母国以外にも多くの拠点を構えることになった。「貿易取引の活発化が経済成長を牽引する」のだとすれば、グローバリゼーションがうまく回っている局面では世界経済の伸び以上に貿易取引が伸びている可能性が高い。

 実際そうだった。図のようにリーマンショック(2008年)以前は前年比変化率に関し、「世界貿易>世界GDP」の状況が続いてきた。しかし、リーマンショックで落ち込んだ後は反動から再び「世界貿易>世界GDP」という構図に戻ったものの、その後は「世界貿易<世界GDP」という年も多く見られるようになっている。

 こうした状況に至った要因は複数あるだろうが、日々報じられているように省力化技術(ロボット化など)の進展は、地理的に離れた場所に拠点を構えて低賃金労働に依存する必要性を薄めた可能性がある。低賃金労働に依存する体制は故意・過失を問わず知的財産の流出を懸念する種になりうる。中国に限れば、この点が対米摩擦の根幹にあることは周知の通りだ。

 また、グローバリゼーション局面を経て、「低賃金労働に依存できる海外拠点」も少しずつ変化してきていることは想像に難くない。中国に限らず、高成長を続けてきた東南アジアにおいて賃金上昇圧力が生じるのは当然である。

■直接投資もピークアウトの様相

 貿易取引以外にもグローバリゼーションが退潮にあった疑いを感じさせるデータはある。グローバリゼーションが隆盛を極めていれば、企業は「海外拠点を構える」という投資行動を積極化するはずである。貿易取引が活発化する局面では多国籍企業が生産や物流そして販売するための拠点を世界各地に構えるために投資を行う。

 そのような動きは統計上、対外直接投資(FDI)として現れるものだ。そのデータを見ると、2008年から2019年の12年間に関し、前年比で対外FDI残高が増えたのは2010年、2011年、2015年の3回しかない。12年間としたは2008年からの最新2019年までを観測したかったためだが、1996年から2007年の12年間で見ると前年比で「増えなかった」年が3回しかない。しかも、この3回は2001~2003年の3年間であり米国同時多発テロの後遺症などもあったと考えられる。

 前述の貿易取引の趨勢変化と併せ見れば、やはりグローバリゼーションの流れは前回の金融危機を境として巻き戻しとはいわずとも、歯止めがかかり始めたというのがマクロ的な理解になるように思われる。

 今回のコロナショックは金融危機(リーマンショック)、ブレグジット&トランプ大統領就任に次ぐ「グローバリゼーションに対する第3のショック」と見ることもでき、そのショックが全世界の人命に関わる危機であったことも相まって一段と企業部門の経営姿勢や政府部門の政策姿勢を変容させていく可能性があるのではないかと察する。

 その動きが極まって、「極力、国内で賄えるものは国内で」となってしまうとそれがインフレ圧力として顕現化する恐れはある。それ以前に今回の教訓を活かして医療関連の戦略物資になりそうなものは輸出管理が敷かれるかもしれない(実際、EUではそのような初動が見られている)。そうなると望む望まないにかかわらず、国内生産を強いられる財もこれからは出てくる可能性がある。こうした動きは、とりわけ製造業の現場における慢性的な人手不足が指摘される日本においては賃金上昇圧力が生じやすい話だが、一方で企業の経営体力を奪いかねない話になる。

■「過剰な貯蓄の使い道」は? 

 東洋経済オンラインの過去のコラムでも繰り返し強調してきたように、アフターコロナの経済・金融情勢を読み解く最大のキーワードは「民間部門の貯蓄過剰」ではないかと考えるが、それに加えグローバリゼーションの巻き戻しがもたらす国内回帰という論点も加味する必要があるかもしれない。

 とすれば、民間部門に滞留する「過剰な貯蓄の使い道」についてもいろいろな選択肢を想像する必要が出てくるだろう。この辺りは別途、機会を設けて論じたいが、例えば企業でいえば、国内外において収益機会が乏しくなることを踏まえれば、新規の設備投資や雇用を増やすよりも自社株買いや配当といった方向に資金が流れやすいのかもしれない。

 片や、投資家の視点に立てば、貯蓄過剰で金利が低位安定する以上、「定期的なインカムを生む株式」という目線で投資を買われやすい地合いになる可能性もある。昨今、実体経済の割に株価が高止まりしているのを見ると、アフターコロナにおいては(これまで以上に)実体経済と金融市場の挙動に乖離が見られる世の中になっていくのかもしれない。

 ※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です

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最終更新:5/24(日) 5:10

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