IDでもっと便利に新規取得

ログイン

【コロナと働き方】拡大するテレワーク格差、中小企業の働き方改革に立ちはだかる壁

5/23 18:01 配信

ダイヤモンド・オンライン

 新型コロナウイルス感染拡大により、大企業を中心に多くの企業が在宅勤務に切り替えた。一方で業務の都合上、あるいは会社の制度、ICT(情報通信技術)環境の問題などでやむを得ず出勤する人もいる。在宅勤務の急速な普及の裏で見えてきた課題とは何か。また、しばらくは3密を避けようという「嫌密」の傾向が続くと考えられる中、企業や組織は在宅勤務を続けることができるのか。現状と課題を追った。(ダイヤモンド編集部 笠原里穂)

● 感染リスクと戦い 出勤する人の胸の内

 「人と人との接触を最低7割、極力8割減らす」――。4月7日、7都府県を対象にした緊急事態宣言の発令に伴い、政府はこう呼びかけた。

 新型コロナウイルス感染拡大のリスクを低下させるため、多くの企業が在宅勤務導入に踏み切った。

 その一方で、外出自粛期間中も出勤を続けなければならない人たちがいる。

 愛知県の介護施設で派遣看護師として仕事をしている木村容子さん(仮名)は、愛知県が緊急事態宣言の対象地域となった4月中旬も、電車とバスで片道1時間ほどかけて勤務先の有料老人ホームに通った。

 入居者である高齢者の体調を管理したり、日常生活のケアを行ったりするのが木村さんの仕事だ。高熱があるなど、体調を崩した高齢者の看護にあたることもあり、日々感染リスクにさらされていると感じている。
 
 自分が濃厚接触者になる可能性もあると考え、これまで義父の介護の手伝いで頻繁に訪れていた義実家にも、2カ月以上行っていない。不安はぬぐえないが、収入のためにもできる限り働きたい。また、慢性的に人手不足の現場を見ると、「自分やほかの看護師が出勤できない事態になってしまったら、職場が回らなくなるのではないか」(木村さん)という心配もある。

 多くの企業で在宅勤務の活用が進む中、木村さんのように、日々感染リスクと戦いながら出勤を続けている人がいる。医療、交通機関、食品や生活必需品の販売、流通などの社会インフラを支える仕事に従事する、エッセンシャルワーカーと呼ばれる人たちがその最たる例だ。

 一方で、在宅ワークが可能と思われる業務内容であっても、会社の制度や方針、システムの壁に阻まれ、「出勤やむなし」の状況に置かれている人も多数いた。また、非正規雇用者を中心に、「出勤しないと欠勤扱いになる」ため、生活のために出勤せざるを得ないという人も少なくない。

 コールセンターに勤める契約社員の中野明子さん(仮名)は、緊急事態宣言下の4月も通常通り、1日7時間、週5日出勤した。隣席とは数十センチという「密接」空間での業務だった。電話の内容は、健康食品の売り込み営業。緊急事態宣言発令中なので当然在宅率も高く、会社の上層部は「今が稼ぎ時」と息巻いていたようだが、「この緊急事態には不要不急と思えてならなかった」(中野さん)と話す。

 個人情報を取り扱うため在宅勤務はできない。同僚と「有給休暇をとって休もうかな」と話すことはあったが、口ではそう言っていても、同僚たちも皆通常通り出勤している。「自分だけ休めるような雰囲気ではなかった」(中野さん)

● テレワーク急速拡大も 中小企業には厚い壁

 パーソル総合研究所が、7都府県に緊急事態宣言が発令された直後の4月10~12日に、全国2万人超を対象に実施したテレワークに関する緊急調査によれば、正社員におけるテレワーク実施率は27.9%だった。3月に同社が同様の規模で実施した調査では実施率13.2%だったことから、テレワークは急速に普及しているといえる。

 一方で、その「普及度合い」には濃淡が見て取れる。

 同社の調査(4月10~12日実施)によると、企業規模別にテレワーク実施率を見た場合、従業員数1万人以上の企業では実施率43.0%なのに対し、100~1000人未満では25.5%、10~100人未満では16.6%と差が開いた。

 テレワーク非実施者に聞いたテレワークができない理由については、最も多かった「テレワークで行える業務ではない」(47.3%)に続いて、「テレワーク制度が整備されていない」(38.9%)、「テレワークのためのICT環境が整備されていない」(19.9%)が挙げられている。中小企業におけるデジタル化の壁はコロナ禍以前にも指摘されていたが、今回のテレワークへの切り替えの動きにおいても、その差は如実に表れているようだ。

● テレワーク普及 一番の壁は「危機感の差」にあり?

 パーソル総合研究所主任研究員の小林祐児氏は、今回の緊急調査結果を踏まえ、テレワーク導入にはセキュリティーや制度面のハードルはあるものの、「一番の差は『危機感の違い』にあったのではないか」と指摘する。

 小林氏によると、4月の調査当時における都道府県別のテレワーク実施率と、それぞれの地域の新型コロナウイルス感染者数には強い相関関係が見られたという。つまり、新型コロナウイルスの感染拡大が急速に進んでいた地域では、テレワーク実施率が高かった。実際、47都道府県をテレワーク実施率が高かった順に並べると、上位8つのうち7つが4月8日に緊急事態宣言が発令された7都府県となった。一方で、感染者数が比較的少ない地域においては、テレワーク実施率が低い傾向が見られた。

 中小企業でテレワーク実施が進まない理由についても、制度やICT環境の問題のほかに、この危機感の差が指摘できる。

 「2月ごろから国内で感染者が増え始め、大企業での感染者が発生したことはニュースなどで報道されるようになりました。『従業員に感染者が出る』『自社でクラスターが起こる』といったときに生じるリスクは、中小企業より大企業のほうが大きい。こうした事情も背景にあったと思います」(小林氏)

● ウィズコロナの働き方 テレワークは定着するか

 これからさまざまな地域で感染リスクと向き合いつつ、新しい働き方を模索する日々が始まる。

 小林氏は、緊急事態宣言が解除された後も、しばらく3密を避けようという「嫌密」の傾向は続くだろうと見る。「完全在宅勤務」を終えても、時差出勤や勤務先でのソーシャルディスタンスを保つ工夫は不可欠となりそうだ。

 では、外出自粛期間が終わってからも、テレワークは新しい働き方の選択肢の一つとして残り続けるのだろうか。それには、日本企業や組織が「同調圧力」に打ち勝てるかどうかがカギになりそうだ。

 「もともと日本企業でテレワーク拡大を妨げてきた要因の一つが、『一部が在宅勤務できないのなら、できない人に合わせよう』という過剰配慮だったといえます」(小林氏)

 「できない人がいるなら、在宅勤務できる環境にあるけどうちの部署も出社しよう」「在宅勤務したいけど、同僚が出勤するから行かざるを得ない」といった同調圧力が、テレワーク活用の維持、さらなる拡大の足かせになる。

 こうした同調圧力を解消するには、大企業が率先して「うちの会社はテレワークを続ける」「テレワーク対応推奨」といったメッセージを打ち出していくことも有意義だと、小林氏は指摘する。大企業を顧客とする中小企業などは、どうしても弱い立場にある。大企業が範を示すことで、自然とテレワークを選びやすい環境を作ることができる。

 ただ、冒頭に出てきた看護師などのエッセンシャルワーカーは、ロボット導入など社会に本当の意味での「革新」が起きないと、テレワークをすることはできない。しかし、テレワークが働き方の選択肢として当たり前のものになるように、大企業から価値観を変えていくことが、誰もが働きやすい社会への布石となるのではないか。

 コロナ禍でかつてないほどに普及したテレワーク。働き方の常識になるのか、それとも非常事態用の手段に終わるのか。分岐点が訪れている。

<話を聞いた専門家>
小林祐児(こばやし・ゆうじ)/株式会社パーソル総合研究所主任研究員
上智大学大学院・総合人間科学研究科 博士前期課程 社会学専攻修了。世論調査機関、総合マーケティングリサーチファームを経て現職。主な研究領域は理論社会学・情報社会論・アルバイト・パート領域のマネジメント・長時間労働問題など。主な著作に『残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』(中原淳との共著・光文社)『会社人生を後悔しない 40代からの仕事術』(石山恒貴との共著・ダイヤモンド社)など。
 ◇連載:コロナと働き方
この記事はダイヤモンド・オンラインとYahoo!ニュースによる共同企画記事です。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの企業が在宅勤務を導入しました。また勤務先の業績悪化などで、収入が減少したり、失業したりする人が出てきています。今後しばらくは新型コロナウイルスの影響が続くと考えられる中、私たちの働き方はどう変化していくのでしょうか。実情と課題を経済メディアの目線から伝えます。

ダイヤモンド・オンライン

関連ニュース

最終更新:5/23(土) 18:01

ダイヤモンド・オンライン

投資信託ランキング

ジャパンネット銀行で投資信託

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング