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新型コロナ院内感染、そのとき何が起こったか

4/4 5:31 配信

東洋経済オンライン

 医療崩壊が現実味を増している。東京都では永寿総合病院(台東区)や慶応大学病院(新宿区)など有力な病院で新型コロナウイルスの院内感染が見つかり、外来診療を取りやめるなどの動きが広がっている。

 2月に4人の感染者が確認された杉並区の立正佼成会附属佼成病院もその一つだ。2月といえば、医療関係者の間でも新型コロナウイルスに対する知識が浸透していない時期だった。そんな中、手探りの苦闘を続けた医療現場は、どのようにして感染拡大を防いだのだろうか。

■入院から3日後に「普通の肺炎ではない」

 3月9日、外来診療を再開した佼成病院のホームページに、診療再開の知らせが公開された。そこには病院関係者の苦悩がつづられていた。

 「この3週間、病院を閉鎖した事による影響は予想以上に大きく、現状は民間病院である当院存続の危機であります」

 同病院の病床数は340床。内科から外科まで幅広く診療科をカバーし、杉並区や中野区の地域医療を支えている。

 1人目の感染患者が病院に来たのは2月13日のことだった。頭を打ったという80代の男性が脳神経外科を受診した。検査の結果、頭部に異常はなかったが、CT検査で肺炎が見つかり、入院することになった。発熱は37.6度。当初は「普通の肺炎」と考えられた。

 しかし、入院から3日後の2月16日、病状が急激に悪化した。その前日、院内では新型コロナウイルスによる肺炎についての勉強会が行われていた。「これはおかしい。普通の肺炎ではない」。そう判断した当直医は、顔を覆う医療用マスクなどを着け、気管挿管(気道の確保)を施した。4人部屋にいた男性は個室へ移された。

 【2020年4月4日8時35分追記】永寿総合病院の表記と病状悪化時期の日時に誤りがありました。お詫びして修正いたします。

 2人目の感染患者は男性の妻で、70代の女性だった。男性が病院を訪れた日、妻は風邪の症状が治まらず近隣のクリニックから紹介されていた。男性の異変が確認され、女性も相部屋から個室へ移されたという。感染者2人の来院から3日後、患者らは完全隔離されたことになる。

 病院の苦闘は、ここから始まった。

 1つは検査だ。同病院の高橋信一副院長は「当時、杉並区に頼んでも、東京都に相談しても、すぐにはPCR検査を受けさせてくれなかった」と話す。というのも、2月16日時点で新型コロナウイルスに関して検査を受けられるのは、中国からの帰国者やその接触者などに限定されていたからだ。

 それでも病院側は検査を強く求め、東京都による検査を受けられることになった。男性の陽性結果を受け、家族である女性の検査も可能になった。

■患者を運ぶ救急車がない! 

 男性の陽性結果が出たのは18日。翌19日、病院は閉鎖された。新規患者の外来や救急の受け入れは中止された。受診予約をしていた約500人の患者に電話し、すべての診療を断った。

 2つ目は、受け入れ病院への搬送だ。患者を感染症の指定病院へ移さなければならなかったが、どこへ搬送したらよいかわからない。杉並区の保健所に相談すると、候補となる病院を複数教えてくれたが、受け入れの交渉は病院がする必要があった。

 やっと決まった受け入れ先が、文京区にある都立駒込病院だった。しかし、患者を病院まで運ぶ手段がない。「感染患者を搬送するために救急車を出すことが認められなかった。わらにもすがる思いで近くにある消防署にかけ合ったが断られ、民間の救急サービスに電話してもだめだった」(高橋副院長)

 助け船を出したのは、病院長と親交があった民間病院の荻窪病院(杉並区)だった。同院から借りた救急車を総務課長が運転し、主治医と看護師が同乗して男性患者を駒込病院まで搬送した。女性患者も陽性が判明した後日、駒込病院へ搬送された。

 しかし、第3の苦闘が待ちかまえていた。

 閉鎖した院内にいる患者、スタッフの検査だ。誰を検査したらよいか、それすらわからなかったという。最も困ったのが、濃厚接触者をどのように特定するかだった。

 国立感染症研究所が作成する「新型コロナウイルス感染症に対する積極的疫学調査実施要領」(3月12日暫定版)によると、濃厚接触者の定義を「患者と同居あるいは長時間の接触があった者」や「 適切な感染防護なしに患者を診察、看護もしくは介護していた者」などと定めている。

■検査の対象者をどうやって決めるのか

 濃厚接触者の定義はあっても、それを調べる方法がない。「保健所に聞いても検査対象者を決める具体的な方法はわからなかった。どのような手順で濃厚接触者を割り出し、どこまで検査を受けされるかは病院で決める必要があった」(高橋副院長)と言う。

 医療機関で集団感染が発生した場合、検査の対象範囲などを一律に定めた基準はない。保健所の調査や助言のもと、医療機関が院内感染対策を実施する。感染者が接触した範囲を特定した後、濃厚接触者の範囲を具体化し、それに基づき、どこまで、誰を検査するべきかを決める。

 同病院では感染者の発覚後、病院長をトップとする対策本部をすぐに立ち上げた。まず取りかかったのは、感染患者の行動をすべてたどることだった。外来を担当した医師や検査技師など、接触者の名簿を作成した。

 もともと佼成病院には感染管理室があり、院内感染対策チームが活動していた。これに加えて杏林大学の教育関連施設として協力関係にあり、同大学出身者の感染管理認定看護師資格をもつ看護師が在籍していた。さらに、別の大学で感染制御部の責任者をしている医師が非常勤で勤務していた。

 そこで、医師と看護師の意見、さらにアメリカの疾病対策センター(CDC)の基準をもとに、接触者の感染リスクの高さを測る評価マニュアルを作成した。

 評価マニュアルでは「患者や患者の分泌物と直接接触したり、患者の部屋に入室した」という問いに始まり、さまざまな問いにイエス/ノーで答えていくと、感染リスクを「高」「中」「低」の3段階に分けられる。そのうち、高と中を濃厚接触者とみなして検査を行った。

 検査対象となったのは合計48人。そのうち陽性が出たのは、看護師1人のみだった。考えられる感染経路は2つあった。

 1つは80代の男性患者の入院時に尿の掃除や、抱きかかえてベッドに寝かせるなどの介助をしていたこと。もう1つは、マスクをしていたが70代の女性患者と長時間話していたことだ。看護師は男性患者が入院してから12日後、発熱などの症状が出ていた。

■退院患者の感染という「不意打ち」

 病院内の感染者は1人のみだったが、「不意打ちを食らったのは、すでに退院した患者の感染だった」と高橋副院長は振り返る。

 その男性患者は、初めに感染がわかった患者と同じ部屋に入院していた。期間は2日間だけだ。退院後は保健所の指導により自宅で過ごしていたが、同院で心臓カテーテル手術を受けていたことから、術後の経過確認のため2月26日に病院に来ていた。「息苦しい」という患者の訴えから、心電図や肺の検査をしたところ、肺炎が見つかった。すぐにPCR検査が行われ、結果は陽性。都内の指定感染症病院へ搬送された。

 病院は再び、その男性患者の診察や検査をした接触者の中から濃厚接触者を検査しなければならなかった。しかし、防御体制が強化されていたため濃厚接触者は少なく、新たな陽性者はいなかった。

 3月7日、感染が発覚した看護師を含む4人の濃厚接触者となる家族や入院患者、病院職員全員の陰性が確認された。

 外来診療をやめている間も、一部の患者の診療は続けていた。がんや人工透析、糖尿病は治療を中断できない。例えば、抗がん剤を注射しているがん患者には治療を続けなければならない。薬を希望する患者の診察は、1階のフロアだけで行った。玄関近くに間隔を空けて椅子を並べ、その場で患者から話を聞いて薬を出していた。

 病院は3月9日から外来診療を再開したものの、二度とウイルスを持ち込ませないように厳重態勢が続いている。

 外来患者は感染リスクがないかどうか、フローチャートに沿ってトリアージ(振り分け)を行う。病院入り口に置かれたサーモグラフィーを通り、発熱がなければ外来へ進める。発熱者は別室で症状を聞き取り、通常のインフルエンザの対応でよいと判断されれば2階の内科を受診する。それ以外の患者は、ウイルスが外に出るのを防ぐために特設された陰圧室へ進む。

■病院倒産が増える恐れも

 4月以降は救急受け入れも再開し、ほぼ通常通りの体制に戻ったが、3週間の病院閉鎖は痛手となった。通常時は1日約700人いる外来患者が、病院閉鎖期間中は100人まで減少。外来再開後は500人ほどまで戻っているが、元通りとはいかない。2月と3月の2カ月間の収入は通常の6割程度になった。

 経営が盤石な病院ならば感染者が発生しても持ちこたえられるが、一般の民間病院に感染が拡大すれば、感染者が1人出ただけで大打撃となる病院も出てくるだろう。民間病院でつくる日本医療法人協会の加納繁照会長は「民間病院は公立と違い、赤字が補填されず、病院倒産が増える可能性がある。緊急融資などの補助が必要だ」と危惧する。

 一方、全国の開業医が加盟する全国保険医団体連合会は、国に対して感染拡大や院内感染防止のための財政支援や休診時の休業補償を要請している。同連合会が3月中旬に行った調査では、約8割の医療機関でマスクや消毒液の在庫不足や購入の見通しが立たないという。同連合会のある理事は「病院やクリニックではマスク不足が深刻だ。このままでは院内感染の拡大を防げない」と言う。

 感染の爆発的流行前に病床確保が急がれるが、院内感染防止のための財政、物資の支援が急務となっている。

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最終更新:4/4(土) 8:35

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